マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  [No.419] とおりみち 投稿者:てこ   投稿日:2011/05/10(Tue) 02:35:02   56clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 街に大きなビルが建った。中にはたくさんの施設があった。ポケモンバトルの出来るところ、買い物が出来るところ、大人の遊び場もある。街の真ん中に建った大きなビルを見て多くの人たちはすっごい喜んでた。
「ふー」
「今日も平和だねぇ、ゴースト」
「お前もゴーストだろ」
 
 結果、街の上空を吹き抜ける風は止まってしまった。張り巡らされた電線に紐がひっかかる、腕がひっかかる。
「ひっかかっちゃったよあはは」
「ひゃあ、絡まったーげほんげほん」
「ごめん胞子出たぁ」

 風に飛ばされるゴースやゴースト達は風の止まったそこにたまった。一キロもない身体だけれど、よどみから抜け出す力すらないわけでもない。でも、別に彼らは困りはしない。出たいとも思わない。風に飛ばされることが好きでも嫌いでもない。飛ばされているだけ。存在している場所がそこだと言うだけ。自分の好きな場所なんてないし、嫌いな場所もない。日の当たる場所は身体には悪いけど、別に消えるのなら消えても別に構いやしない。だって、もう死んでるみたいなものだし。
 風に乗るフワンテやワタッコ達は風に乗り切れず、建物に衝突したり電線に絡まったり。彼らには目的があった。フワンテは魂を運ばなきゃだし、ワタッコは胞子を世界中に撒き散らさなきゃいけない。だから、電線に絡まってる暇なんかないから必死にもがいて逃げようとする。街のあちこちで電線が切れた。

 やがて、ゴースやゴーストのたまってた場所はよく見ると紫色に見えるようになった。ガスだし。あと、ビルの外側のガラスに手の跡がついたりするようになった。類は友を呼ぶかな。ビルでは怪奇現象が増えた。カメラに映る影、誰もいないのに聞こえるあしおと。ビルには様々な噂が飛び交った。昔、ここは墓場だったとか病院だったとか。結局、ビルを使う人は少なくなってしまった。
 街ではアレルギーの子供が増えた。よどみにたまるゴースやゴーストはもともとガスそのものだし、ワタッコはもがいて胞子を撒き散らす。季節外れの花粉症の人も増えた。

 この頃から、街の住民たちはある運動を始めだした。ビルを取り壊す運動。あんだけ自分たちが使ってたビルを悪影響だから壊せと言い出した。ビルを建てた人は「ビルの影響かまだはっきり分からないのでなんとも言えない」と言い続けた。

 相変わらず、ビルはなくならない。僕達の仲間もだんだんだんだん増えてきて、逆に街の人々はこの街を離れていった。言っても何も変わらないなら出て行ったがましだ。そんなことをぶつぶつ呟いて、街の人たちは出て行った。

 切れた電線を直す人はいないから電線は切れっぱなし。うん。それはそれでいいよ。だって、フワンテやワタッコ達はここでとどまることはなくなったわけだし。

 街に人はいなくなった。残ったのは大きな廃墟とガス達。

 ふぅ。
 僕はため息をついた。光に当たり続けると僕達の身体はやがて消えてしまう。一日に消えるガスと一日に新しくここに辿り着くガスの量は同じくらい。結果、僕達は増えもせず、減りもせず、よどみにたまり続ける。
 
 大きな廃墟。中にはいろんなものが溜まっているんだろう。ゴーストタイプの僕ですら入りたくないくらいだ。割られた強化ガラス、引き裂かれたカーテン、綿の引っ張り出されたソファ、誰もいないバトルフィールド、静かな大人の遊び場。やがて、全体に蔦が纏わりついて、雨に風に酸素に、全部やられて消えてくんだろう。

 でも、僕は知ってる。かつて、このたてものは人々の笑顔に満ちていたことに。そして、この建物がその人々の笑顔を消していったことに。

 皮肉だなー。もし、風を止めるということを先に知っていたら?建物がもう少し低かったら?この場所に建たなかったら?きっと、この街はとても大きな街になっていただろう。誰もが住みたいと答えるような街に。ポケモンセンターが出来て、ポケモンジムもできただろう。素敵な街になっていただろう。

「でも、結果ここはこうなったんだ」

 誰もいない。廃墟と化した街。ゴーストタウン。あ、別にゴーストとかけてるわけじゃないんだよ?

「まぁ、別に僕はいいんだけど」

 この街にいるのも疲れてきたし、つまんない。日陰で暮らしてきたけれど、やっぱりつまんない。僕は自らの意思で太陽の光をさけ、日陰で暮らしてきた。だから、僕は自らの意思で今日この街を旅立つことにした。かすかな風の流れに乗れば、またどこかにいけるだろう。
 僕の仲間は僕を「変わり者」と呼ぶ。まぁ、変わってるし反論しないし。

 僕はゴースト。ガス状ポケモンゴースト。世界を見たいという意思を持つ、ゴースト。


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