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  [No.58] 第一話 人間からポケモンに!?探検隊アドバンズ誕生! 前編 投稿者:火車   投稿日:2010/09/24(Fri) 20:30:59   37clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「う〜ん・・・。どうしよう・・・」

「いざ行くとなると、なんだか怖いなあ・・・」
とある建物の前で、キモリとミズゴロウが悩んでいた。
建物に入りたいのだが、どうやら入る勇気が出ないらしい。

「いや・・・。迷っててもしょうがない! こうなったら、覚悟を決めて・・・」
二人は自分を奮い立たせ、中に入ろうと格子の上を通過した。
すると・・・。

「ポケモン発見!! ポケモン発見!! だれのあしがた? だれのあしがた? あしがたはキモリとミズゴロウ! あしがたはキモリとミズゴロウ!」
突然声が響き渡り、二人はびっくりして後ずさりした。

「うう・・・。やっぱりだめだ・・・。今日こそは大丈夫だと思ったのに・・・」
ミズゴロウはすっかりしょげ返っていた。

「この宝物も一緒に持ってきたのにな・・・」
キモリは手に握られた何かのかけらを見つめてつぶやいた。
見たことのない不思議な模様が描かれており、どことなく神秘的である。

「仕方ない・・・、今日のところはいったん帰ろう・・・」
キモリはミズゴロウを促し、二人はとぼとぼと階段を降り始めた。
すぐ近くの木で、誰かがじっと観察していたとも知らずに・・・。

二人はすぐ家には帰ろうとせず、海岸によることにした。
ちょうどこの時間は、クラブがあわを吹いているころだからだ。
そして今日も、夕方の海岸には美しい光景が映し出されていた。

「うわ〜! きれいだな〜・・・」
空に浮かぶ透明の球が、夕日の赤に染まった海に重なり、実にきれいな色合いをかもし出している。
二人はしばらくその光景を眺め、沈んだ心を癒していた。

「ん? なんだろう、あれ・・・」
ミズゴロウは遠くのほうで何かを見つけた。
キモリに声をかけ、二人はその何かに近づいてみることに。
そして、それが気を失ったポケモンであることが分かった。

「た、大変だ! ねえ、起きて! 起きてよ!」

「しっかり! しっかりして!」
二人はあわててそのポケモンを起こしににかかる。
程なくして、その二人は気がついた。
ところが・・・。

「おわあああ!!」

「ぽ、ポケモンがしゃべってる!!」
倒れていた二人は飛び上がった。

「どうしたの? 何でそんなにびっくりしてるの?」
不思議そうに聞くミズゴロウ。
人間の言葉など話せないはずのポケモンが、今こうしてしゃべっているのだ。
驚かないはずがない。
二人がそのことを伝えると、キモリとミズゴロウは顔を見合わせ笑い出した。

「な、何がおかしいんだよ!」
左側のポケモンは二人をにらみつけた。
まじめな話をしているのに笑われているのが我慢ならなかったのだ。

「何言ってるのさ! 君たちだってポケモンじゃない」
キモリは笑いながら言った。
二人は何をばかげたことをと思い、海を鏡代わりにして自分の姿を映してみる。
だが、そんな考えはいとも簡単に吹き飛んでしまった。
なんと、左側のポケモンはヒノアラシ、右側のポケモンはピカチュウだったのだ。

「ええええええ!? ぽ、ポケモンになってる〜!?」
どうしてそこまで驚くのだろうか。
理由は明白、二人とも目が覚める前までは人間だったからだ。
ところが、目を覚ます前の記憶が一切ない。きれいさっぱり抜け落ちているのだ。
二人は頭を抱えたが、そんなことはお構いないしに、ミズゴロウが話しかけてきた。

「ねえ、そういえば君たちの名前、まだ聞いてなかったよね。なんて言うの?」
正直自己紹介などしている場合ではないのだが、名乗らないのも失礼だ。
二人はしぶしぶながら、自分達の名前を教えることに。

「オレはソウイチだ」
とヒノアラシが答える。

「僕はソウヤ」
とピカチュウも同じく名乗る。
すると、突然二人はお互いの顔を見合わせた。
その直後、二人の叫び声が響き渡る。

「お、お前ソウヤなのか!?」

「そう言うそっちこそ、本当にソウイチなの!?」
どうやら二人は知り合いらしい。
記憶はないが、お互いの存在だけは覚えているようだ。

「何でおまえもポケモンになってるんだ?」
ソウイチはソウヤに尋ねた。

「わかんないよ・・・。気がついたらここにいて・・・。そっちは?」
ソウヤは首を振り、逆にソウイチに聞いた。

「オレに聞かれてもわかるわけねえだろ。記憶ねえんだから」
ソウイチはため息をついた。
どうやらお互いに事情が分からないようだ。

「あの、ちょっと聞いてもいい? 君たちってどういう関係なの?」
突然、ミズゴロウが遠慮がちに口を挟んだ。
見るからに会話についていけなかった様子。

「関係? オレ達は兄弟だけど、それがどうかしたのか?」
ソウイチはめんどくさそうに答えた。
今はそんなことどうでもいいのだ。

「ええっ!? ヒノアラシとピカチュウが兄弟だって!?」
キモリとミズゴロウは目を見開いた。
違う種類のポケモンが兄弟になるなど、あり得ないと思ったからだ。

「どうしてそんなに驚くの? もともとが人間なら、兄弟でもおかしくないでしょ?」
ソウヤは不快そうな顔でキモリとミズゴロウに言った。
どうも二人の言動がバカにしているように見えるのだ。

「に、人間!?」
二人はさらにびっくりした。
すると、キモリがミズゴロウを引っ張り、ソウイチとソウヤから離れた場所に移動。
そこでなにやらひそひそと内緒話をしている。

「あいつら何こそこそ話してるんだ?」
ソウイチは眉をひそめてソウヤにささやく。

「さあ・・・」
ソウヤも首をかしげた。
そしてしばらくすると、二人は戻ってきた。
だがその顔は、明らかに不信感に満ちていた。

「君たちさあ、もしかして僕たちのことだまそうとかしてない?」

「どうも見るからに怪しいんだよな〜・・・」
キモリとミズゴロウは二人に詰め寄った。

「な、なんだと!? 何で初対面のやつをだます必要があるんだよ!!」
ソウイチは顔を真っ赤にして怒鳴った。
見ず知らずの相手にいわれのない罪を着せられ腹が立ったのだ。

「そうだよ!!僕たちは初対面の人をだますほど落ちぶれちゃいないよ!!」
ソウヤも激怒していた。
ここまで言われて怒らない人はいない。

「ご、ごめん・・・。そんなつもりじゃなかったんだ・・・。最近この辺物騒だから、つい警戒しちゃって・・・」
二人はソウイチとソウヤの剣幕に気おされ、すっかり縮み上がってしまった。
どうやら二人が善人か悪人か見極めようとしていただけで、悪意があったわけではないらしい。
その証拠に、二人は頭を下げて丁寧に謝った。

「分かってくれたならいいけどよ・・・」
ソウイチは若干不満そうだったが、これ以上怒ってもしょうがないので、二人を許すことに。

「だけど、僕たちはだますなんて卑怯なことだけはしないからね」
ソウヤは一言付け加えた。
それを聞いて、モリゾーとゴロスケは恥ずかしそうにうつむく。

「そういや、お前らの名前聞いてなかったよな。なんて言うんだ?」
ソウイチはふと思い出し、二人に聞いた。

「オイラはモリゾー」
キモリが言った。

「僕はゴロスケ、二人ともよろしくね」
ミズゴロウもあいさつする。

「そう言えば、さっき物騒だって言ってたけど、そんなに危ないの・・・? まさか不審者とか出るんじゃ・・・」
ソウヤは不安げだ。
そういう危険なことにかかわるのだけはごめんなのだ。

「んなもんぶっ飛ばせばすむことだろ?」
ソウイチはあきれた表情でソウヤを見た。
普通は不審者に関わろうなどという考えは起きないのだが。

「いや、そうじゃなくて、なんていうのかなあ・・・」
モリゾーは言葉に詰まった。
いい例えが思いつかないのだろうか。
すると、突然何者かがモリゾーを思いっきり突き飛ばした。

「わあああ!!」
モリゾーはソウイチのいるほうへ吹っ飛び、ソウイチはよけるまもなく衝突。
ソウイチはさらに吹っ飛び、砂の中へ頭から埋まってしまった。
口の中にはざらざらと砂が流れ込む。

(も、もごああああ!!!)
何とか脱出を試みるも、足が浮いているのでちっとも抜け出ることができない。
一方モリゾーは、何とか体勢を立て直し無事着地。

「ちょっと、いきなり何するのさ! 危ないじゃないか!!」
モリゾーは突き飛ばしたやつを思いっきりにらみつける。
すると、突き飛ばした張本人、ドガースはニヤニヤしながら言った。
このドガースと横にいるズバットこそが、さっき二人を観察していたやつらなのだ。

「ケッ、わからねえのか? おまえに絡みたくてちょっかい出してんだよ」

「ええっ!?」
モリゾーはまったくわけが分からない。
絡まれる覚えもないのにこんなことを言われるのだ、動揺するのも無理はない。

「お! いいもんみっけ」
ズバットは地面に目を向け、何かを拾ったようだ。

「あ! そ、それは・・・!」
モリゾーの目線の先には、さっき持っていたかけらが映っていた。
どうやらぶつかってこられたときに手放してしまったようだ。
しかし、モリゾーはすっかりすくみ上がって動けない。

「ありゃ? 取り返さないのか?」
ドガースは意地悪そうに言った。
モリゾーは憎悪の目でにらみ返すものの、一歩も前へ進むことができない。

「じゃあこれはもらっていくぜ。あばよ!弱虫君!」
ズバットはモリゾーに暴言を吐き、二人はそのまま去って行った。

「ああ・・・、オイラの宝物が・・・」
モリゾーは力なくその場に座り込んだ。

「あれがないとオイラは、オイラは・・・」
モリゾーの目が徐々に潤み始める。
臆病な自分自身に対するいらだちと、宝物を持って行かれた悲しさからだ。

「モリゾー・・・」
ゴロスケはなんと声をかければいいのか分からず、ただただモリゾーの後姿を見つめている。
すると、モリゾーは急に立ち上がりソウヤの手をとった。

「お願い! オイラと一緒に、宝物を取り返すの手伝って!」
モリゾーは必死な様子でソウヤに頼んだ。
よほど大切なものなのだろう。

「僕からもお願い! 手伝ってあげて!」
ゴロスケも真剣なまなざしでソウヤを見つめた。
だが、二人に見つめられてソウヤは困惑するばかり。
ただでさえ自分に起こったことが理解できないのに、他人の手助けをする余裕などなかったのだ。

「うがああああ!!」
突然あたり一面にうなり声が響いた。
三人がびくっとしてそのほうを見ると、ソウイチが地面から抜け出したようだ。
かわいそうに、すっかり存在を忘れられていた。

「ちょっと! ソウイチ何やってんのさ!」
ソウヤはあきれた顔でソウイチを見た。

「何してんのじゃねえよ!! いつまでもほったらかしにしやがって!!」 
ソウイチは早速怒りをぶちまけた。
放置されていた分、その勢いはすさまじいものだった。

「ってそんなことはどうでもいい!! あいつら、絶対許さねえ! よくも人をぶっ飛ばして謝らずに行きやがったな!!」
そう言うと、ソウイチは全速力でドガース達の去っていったほうへ走り出した。
突き飛ばされたのはモリゾーのほうで、自分は巻き沿いを食っただけなのだが、この際そんなことはどうでもいいらしい。

「ああ! 待ってよ〜!」
最初は唖然としていた三人だったが、はっと我に返りソウイチの後を追いかけ始める。
全力で走っても、向こうのスピードはすさまじくなかなか追いつけない。

「くっそお、あいつらどこ行きやがった!?」
血眼になってあの二人を探すソウイチ。
しかし、空中に浮かんでいるせいで足跡がつかないため、どこへ行ったかを特定するのは難しかった。
残っているものといえば、ドガース特有のにおいぐらいだ。
すると、そこへようやくソウヤ達が追いついてきた。
全力で走ったためか、すでに息が荒くなっている。

「もう、勝手に一人で行かないでよ!」
ソウヤは早速ソウイチに不満をぶつけた。

「そっちが遅いだけだろ! もっと速く走れねえのかよ!?」
ソウイチはカチンと来て言い返した。
さっきのことで気が立っている分、冷静さは欠けている。

「なにを! 元はといえばソウイチが自分勝手なことするから悪いんじゃないか!」
ソウヤも負けじと言い返す。

「なんだと!? そもそも、そっちがさっさと掘り起こしてりゃあの場でやっつけてやったんだよ!!」
話だけは聞こえていたようで、ソウイチはさらに怒りを増大させて怒鳴った。

「よけられなかったのがいけないんでしょ!! こののろま!!」

「てめえ!!」
売り言葉に買い言葉で、二人のけんかはどんどんエスカレートして行った。
このままではいつ殴り合いにならないとも限らない。 

「けんかしてる場合じゃないでしょ!? 早くしないと取り返せなくなっちゃうよ!」
とうとうモリゾーがしびれを切らして二人に怒鳴った。

「チッ・・・、わかったよ・・・。行けばいいんだろ行けば!」
ソウイチは八つ当たり気味にモリゾーに言うと、足を踏み鳴らして先へ進み始めた。
ソウヤもソウヤで、全身からいらいらがあふれ出している。
そして、海岸の端のほうまで来ると、大きなどうくつのようなものを見つけた。
ドガースの匂いも残っており、間違いなく二人はこの中に入って行ったようだ。

「ここみたいだな。さっさと追いかけてぐうの音もでねえようにしてやる!」
ソウイチはとても息巻いている。

「今度は勝手に一人で行かないでよ?何があるか分からないんだから」
ソウヤが忠告した。

「わかってるよ・・・」
ソウイチはぶっきらぼうに答えると、また歩き始めた。
そして、しばらく歩くと突然ソウヤに言った。

「さっきは悪かったよ・・・。ごめん・・・」
突然謝られたので、ソウヤはちょっとびっくりしたものの、すぐに普通の表情に戻った。

「もういいよ。こっちも言い過ぎたんだし」
その言葉を聞いて、ソウイチは小さく笑った。
モリゾーとゴロスケも、二人のやり取りを見て安心したようだ。

「よっしゃあ! 絶対あいつらぶっ飛ばすぞ!」

「おお〜!!」
ソウイチが腕を高く突き上げたのにあわせ、他のみんなもソウイチの腕に重なるように自分の腕を突き上げる。
気合を入れ、みんなはいよいよ、最初の冒険へと足を踏み入れるのだった。
どうくつの中は暗く、あまり見通しがよくない。
岩の壁にあるヒカリゴケらしきものが、わずかに光を放っているだけだった。

「いったいあいつらどこまで行ったんだよ・・・。もう結構歩いたぞ?」
ソウイチはぼやいた。
実際入ってから15分もたっていないのだが。

「まだまだ先だよ。とにかく急がなくっちゃ」
モリゾーはソウイチの不満を受け流し、ひたすら先へと歩みを進める。
ソウイチがまた何か言おうとしたそのとき、突然横から何かがぶつかってきた。

「うおっ! いってえなあ・・・」
ソウイチはぶつけられたところをさすった。どうやら敵のお出ましのようだ。
よく見ると、なんだか全体的にうねうねとしているようなポケモンだった。

「な、なんだあれ・・・?」

「何かの軟体動物みたいだけど・・・」
ソウイチとソウヤは、こんなポケモンは見たことがなかった。
どことなくアメフラシのようにも見える。

「あれはカラナクシ。みずタイプのポケモンだよ」
ゴロスケが二人に教えた。
からがないというのは、やどかりみたいに巻貝を背負っていないからだろうか。

「なんかすっげえうねうねしてるな〜・・・。ここは見なかったことにしてスルーしようぜ・・・」
なんだか面倒なことになりそうなので、ソウイチはそのまま素通りしようとした。
しかしそうは問屋がおろすはずもなく、カラナクシはまたたいあたりを仕掛けてきた。

「やるしかねえのかよ! でも今度はあたらねえぜ!!」
ソウイチはさっと攻撃をかわし、今度は自分のたいあたりでカラナクシを吹っ飛ばした。
カラナクシはそのまま岩壁に激突し、ずるずると地面に座り込んだ。

「へへ〜ん! どんなもんだい!」
ソウイチは調子に乗っていたが、もちろんカラナクシはその隙を逃さず、目いっぱいの力でどろばくだんをお見舞いした。
もちろんよけられるはずもなく、ソウイチの顔面にクリーンヒット。

「うへえ! なんだよこれ!?」
ソウイチは顔面の泥をぬぐおうとしたが、突然足の力が抜けてその場に座り込んでしまった。
ほのおタイプにじめん技は効果抜群、かなり体力を削られてしまったのだ。
カラナクシはソウイチが動けないことを確認すると、すぐさま他のみんなに攻撃の的を絞る。
モリゾーとゴロスケは攻撃に備えたが、見た目以上のすばやさに対応できず、その場にひざをついた。
勢いを増したカラナクシはソウヤに狙いを定め、どろばくだんをチャージしながら突っ込んでいく。

「ソウヤ、逃げて!!」
ゴロスケがさけんだが、ソウヤはカラナクシから目線をそらさず、ちっとも動こうとしない。

「バカ! 何じっとしてんだ!! 早く逃げろ!!」
それでもソウヤはカラナクシをじっと見据えている。
すると、ソウヤのほっぺから電気がバチバチと流れ始めた。
カラナクシをぎりぎりまでひきつけ、衝突まで後数メートルというところで、ソウヤはものすごい電気を放出。
でんきショックの上を行く、十万ボルトだった。もちろんよけられるはずもなく、カラナクシはあっという間に戦闘不能となった。

(すげえ・・・。いきなり十万ボルトが使えるなんて・・・)
ソウイチは内心舌を巻いていたが、それと同時にうらやましかった。
何せ、いまだたいあたりしか使えていないのだから。

「二人とも大丈夫?」
モリゾーとゴロスケは二人の元に駆け寄り、安否を確認した。

「ああ、あれぐらい何ともねえよ」
ソウイチは強がって答えたものの、実際はまだ足に力が入らなかった。

「でもすごいよ。いきなり十万ボルトが使えるなんて」
ゴロスケはソウヤをほめた。
十万ボルトはある程度までレベルが上がらないと覚えないはずだが、ソウヤは最初からそれが使える。
やはり人間だったから、普通のポケモンとは違う部分があるのだろうか。

「いやあ・・・、偶然だよあんなの」
ソウヤは照れて赤くなった。

「くそ、何でソウヤだけ・・・」
ソウイチは面白くなかった。
弟であるソウヤに先を越されたような気がしたのだ。

「大丈夫。ソウイチにも、他に使える技がきっとあるよ」
モリゾーはソウイチを慰めた。
確証はないが、その心遣いは嬉しいもの。
ソウイチはこくっとうなずいてみせた。

「よし、じゃあ先を急ごう!」
モリゾーは再び駆け出した。
一刻も早く、あの宝物を取り戻さねばならない。
次々出てくる敵を倒しながら進んでいると、不意にぽっかりと空いた空間に出た。

「だいぶ奥まで来たみたいだね。でも、あいつらはいったいどこに・・・、ん?」
ゴロスケはあたりを見回し、水たまりの近くでドガースたちが立ち往生しているのを見つけた。
どうやらここで行き止まりらしい。

「今がチャンスだ。気付かれないうちに早く・・・」
ところが、ソウイチの言葉を聞く前に、モリゾーは一人で飛び出し、ドガース達のところへ向かった。

「待て! はやまるなって!!」
ソウイチは呼び戻そうとしたが、もう手遅れだった。
モリゾーはすでに、あの二人に声をかけてしまっていたのだ。

「おや?誰かと思えばさっきの弱虫君じゃないか」
これまた意地悪そうな口調で返事をするドガース。
モリゾーの目は怒りでぴくぴく震えている。

「ぬ、盗んだ物を返してよ!! あれはオイラにとって、大切な宝物なんだ!!」
モリゾーは勇気をふりしぼってドガース達に言った。

「何だ、やっぱりあれはお宝なんだな? じゃあますます返すわけにはいかなくなったな。ヘヘッ」
ズバットはニヤニヤしながら言った。
はなから返す気はないらしい。

「ええっ!? そんな・・・」
そのやり取りを見ていて、とうとうソウイチも我慢が限界に来た。

「おいお前ら! 人の物とるのは犯罪だろうが! やっていいことと悪いことの区別もつかねえのか!?」
モリゾーを押しのけ前に出ると、ソウイチは大声で怒鳴った。
すると、向こうは得意の嫌みで返事をする。

「ん? 今度は砂の中に埋まってたやつじゃねえか」
ドガースは笑いながら言った。

「あれは傑作だったなあ。あんな不恰好でダサイやつ見たこと無かったぜ」
ズバットもつられて笑う。
その二人の言葉で、ソウイチの額に青筋が浮いた。
完全に切れてしまったようだ。

「んだとお!? もうあったまきた!! てめえらなんぞ立ち直れねえぐらいにボコボコにしてやる!!」
ソウイチは猛ダッシュで二人に殴りかかった。
素手でのけんかはソウイチの得意とするところであり、めったに負けたことがない。
しかし、人間だったら素手でも勝てるかもしれないが、相手はポケモン。
案の定、二人は平然とかわし、ソウイチの攻撃は空振りに終わり地面に激突した。

「ぬがああああああ!!!」
ソウイチは痛みのあまりその場をのた打ち回った。
他のみんなは呆然とその様子を見ている。

「オレ達に勝つなんて100年早いんだよ!!」
そう言ってソウイチにどくガスを吐きかけるドガース。
やられる! そう思った瞬間、ソウイチは何かに突き飛ばされていた。
なんと、ソウヤが身代わりとなり、自らどくガスの餌食となったのだ。

「そ、ソウヤ!!」
あわててソウイチはソウヤを抱き起こしたが、どくガスの勢いがすさまじかったのか、完全に気を失っていた。

「ヘッ。たいしたことねえ野郎だ。あれぐらいで倒れるなんてよ」
ズバットがせせら笑った。

「ホント、どうしようもないぐらい弱いよな」
ドガースも調子を合わせる。
その言葉を聞き、ソウイチの両手はぶるぶると震えた。

「取り消せ・・・」

「なんだと?」

「今言ったことを取り消せって言ってんだよ!!」
ソウイチは怒り心頭に発した。
先ほどのような感情ではなく、大事な弟を傷つけられ、けなされたことに対する真の怒りだ。

「何だ、やる気か?」

「返り討ちにしてやるぜ!」
二人は戦闘態勢に入り、いつでも攻撃ができるようにした。

「上等だコラアアア!!!」
ソウイチはドガースに突進し、目にもとまらぬ速さでたいあたりをぶちかました。
それが戦闘開始の合図となり、モリゾーとゴロスケもあわてて加わる。
まずはモリゾーとソウイチでドガースに集中攻撃。
二人に被害を加えた張本人なので、どうしても先に倒しておきたかったのだ。
ドガースのたいあたりやどくガスに気をつけながら、二人は交互にたいあたりとはたくでダメージを与える。
それでもどくガスを全てかわせるわけではなく、徐々にだがダメージは蓄積していく。
一方ゴロスケは、すばやさの高いズバットを相手に苦戦していた。
たいあたりやみずでっぽうでいくら攻撃しても、向こうがいとも簡単にかわすのでなかなか倒せないでいる。
ズバットのほうは余裕を見せており、挑発的な言葉でゴロスケをからかっていた。

「遊びはこれで終わりだ!!」
ドガースは最大パワーでどくガスをあたり一面に撒き散らす。
直撃は免れたものの、モリゾーは少し吸ってしまい地面に倒れてしまった。

「威勢だけじゃ勝てねえんだよ!」
ドガースは倒れたモリゾーを見てフンと鼻を鳴らした。
しかし、肝心なことを忘れていた。相手はモリゾーだけではないということを。

「てめえの相手は一人じゃねえんだよ!!」
ソウイチは近くにあった岩を使ってジャンプし、どくガスを全て回避していたのだ。
そしてドガースに狙いを定め一気に落下、強烈なたいあたりをお見舞いする。
ドガースはそのまま後ろにひっくり返り、目を回してしまった。
残るズバットを倒すため、ソウイチはゴロスケに合流。
だが、ゴロスケはすでにPPをかなり消費しており、体力の残りも少なかい。
案の定、ズバットのつばさでうつを受けて壁に叩きつけられてしまい、これ以上戦うのは無理だった。

「ヘヘッ。さあどうするんだ? たいあたりだけじゃオレは倒せねえぜ。」
ズバットは余裕の表情を浮かべている。
ソウイチの体力も残りわずか、何か手を打たなければ勝てる見込みはない。

(くそお・・・、オレも何か強力な技が使えれば・・・)
ソウイチは悔しそうに歯軋りした。

「お前もあのザコどもと同じようにくたばれ!!」
ズバットはでんこうせっかと組み合わせてつばさでうつを仕掛けてきた。

(くそお! こうなったら一か八か・・・!)
ソウイチは思いっきり息を吸い込み、ひのこを吐き出した。
すると、それはだんだんと炎の塊になり、ズバットを包み込んで燃やした。

「ぎゃあああああ!! あぢぢぢぢぢ!!!」
ズバットは身もだえしながら火を消そうとしたが、そうそう簡単に消えるはずもない。
やがて炎が体力を吸い尽くし、ズバットは黒焦げになってその場に倒れた。

「はあ・・・、はあ・・・。どっちが雑魚か思い知ったか・・・!」
ソウイチは息も絶え絶えにズバットに吐き捨てると、すぐさまモリゾーとゴロスケの元へ駆け寄った。

「おまえら、大丈夫か?」
ソウイチはかわるがわる二人を見た。

「なんとかね・・・。いたた、体中傷だらけだよ」
モリゾーは痛そうに体をさすった。
あちこちに擦り傷や打ち身がある。

「あれ? ソウイチ、いつの間にあいつらをやっつけたの?」
倒れた二人を見てゴロスケが不思議そうにたずねた。

「なんかよくわかんねえけど、ひのこを出したつもりが、オレの口から大きな炎が出て・・・。で、気がついたらコウモリのやつが黒こげに・・・」

「それってもしかして、かえんほうしゃじゃないの?」
モリゾーが言った。

「あれがそうなのか?」
自分でも信じられなかった。
まさかひのこからかえんほうしゃにグレードアップするとは思ってもみなかったのだ。

「でもソウイチもすごいね。いきなりかえんほうしゃが使えるなんて」
ゴロスケはソウイチをほめた。

「そりゃあ、ソウヤに置いてけぼり食うわけにはいかね・・・、ああっ!!」
ソウイチは自慢げに鼻を鳴らしたが、突然大声を出した。

「ど、どうしたの?」
突然ソウイチが叫んだので、二人ともびっくり。
叫んだ原因は何かといえば・・・。

「ソウヤのことすっかり忘れてた〜!!」

「だああああ!!」
二人は思いっきりずっこけ、ソウイチは早速ソウヤのところへ駆け寄る。
しばらく介抱すると、ソウヤはようやく息を吹き返した。

「ソウヤ、大丈夫か?」

「うん・・・。まだちょっとくらくらするけどね・・・」
ソウヤは目を半分だけ開けて言った。
まだ完全には回復しきっていないようだ。

「なあ、何でオレをかばったんだよ?」
ソウイチは気になってソウヤに尋ねた。

「わかんない・・・。体が勝手に動いたっていうか・・・」
ソウヤ自身にも理由は分からない。
だが、これがお互い心と心がつながっているといえる証拠でもある。

「いてて・・・。くそお、こんなはずじゃ・・・」
目を覚ましたズバットは悔しそうにうめいた。

「まだやるか? とことん相手になってやるぜ?」
ソウイチは二人を真っ向からにらみつけた。
多少は効果があったのか、二人とも戦う意思はもうないようだ。

「くそっ、こんなモン返してやるよ!」
ドガースは宝物を放り出すと、ズバットとともにそそくさと退散していった。
すぐさまモリゾーはそれを手に取り、傷や欠けているところがないか確認する。
どこも壊れていないことが分かり、思わずため息が漏れた。

「じゃあ、あいつらもやっつけたし、そろそろ帰ろうぜ」
ソウイチはみんなを促した。

「うん!」
みんなはうなずいた。
特に、宝物を取り戻したモリゾーは、一番うれしそうだ。
そしてみんなは海岸に戻り、モリゾーとゴロスケはソウイチとソウヤに丁寧に礼を述べた。

「ソウイチ、ソウヤ、本当にありがとう。おかげで宝物を取り返すことができたよ」

「二人とも強いんだね。最初からあんな強力な技が使えるなんてすごいよ」
二人とも心からソウイチとソウヤに感心していた。

「んなことねえよ。お前らの技だって結構威力あったぜ?」

「そうそう。僕らと同じくらい強かったよ。」
ソウイチとソウヤは逆にモリゾー達をほめた。
二人はそんなことを言われるとは思ってなかったので、照れて赤くなった。

「そういや、さっきのかけらみたいな物は何なんだ?宝物とか言ってたけど」
ソウイチはモリゾーに聞いた。

「ああ、これのこと?」
モリゾーはかけらを取り出し、地面に置いた。

「見たこと無い模様だね・・・」
ソウヤが言った。
確かに珍しい模様が描かれている。

「でしょ?これは、オイラが父さんからもらったものなんだ。父さんは有名な探検家だったけど、このかけらのなぞだけは解けなくて、オイラに託したんだ」
モリゾーは二人に説明した。

「オイラ、昔からいろいろな場所を探検するのが好きでさ。いつかは立派な探険家になりたいって、ずっと思ってたんだ」
モリゾーは目を輝かせて自分の思いを語る。

「僕もそうなんだ。だってそう思わない? いつも新しい発見が待っている、そう考えるたびにわくわくするんだ。いつか立派な探検隊になれたらなあ・・・」
ゴロスケもうれしそうに話して聞かせた。

「へえ〜。そんなに楽しいもんなのかなあ」
ソウイチにはいまいちぴんと来なかったようだ。
だが、二人の目の輝きは本物だということは分かった。

「それでお願いがあるんだ。ソウイチ、ソウヤ。オイラ達と一緒に探検隊をやってくれない?」

「二人と一緒ならできそうな気がするんだ。だからお願い」
モリゾーとゴロスケは急に真剣な表情になり、頭を下げて二人に頼んだ。
もちろん二人は大慌て。

「そ、そんなこといきなり言われてもなあ・・・。どうする? ソウイチ」
ソウヤは困りきった顔でソウイチに助けを求めた。
ソウイチ自身もどうするか迷っていたが、断ったところで行く当てもないし、ここの社会の仕組みも分からない。
今はこの二人と一緒にいる方が良いだろう、そう判断した。

「わかったよ。どうしてもっていうなら別にいいぜ」
ソウイチは二人に言った。

「ほ、ほんと!? ありがとうソウイチ!」
二人は手を取り合って喜んだ。
こんなにうれしそうな姿は二人とも初めて見た。

「ちょっとソウイチ! 勝手に決めちゃ・・・」

「いいじゃねえか。行く当てだってねえんだから別にいいだろ?」
ソウヤの言葉を途中で遮りソウイチは言った。
いまさら言ったことを取り消せるはずもない。

「もう・・・、わかったよ」
ソウヤも最初はあきれていたが、最後は快く承諾した。

「決まりだね! これからもよろしく!」
そう言うと、モリゾーは手を差し出してきた。

「ああ、がんばろうぜ!」
ソウイチもしっかりその手を握り返した。

「ソウヤ、がんばろうね!」
ゴロスケもソウヤに握手を求める。

「うん・・・、よろしく!」
ちょっと戸惑うソウヤであったが、すぐに笑顔で握手を交わす。
この瞬間から、ソウイチ達の冒険のはぐるまは回り始めた。
だが、この先どんな冒険が待っているのかは、まだ誰も知らない・・・。


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