ポケモンストーリーコンテストSP -鳥居の向こう-

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42 雨乞い婚 砂糖水(HP


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 雨乞いの儀式というのは、世界各地で広く行われてきた。農作物を育てるには大量の水が必要であるし、人が生きていくのにももちろん必要である。よって、雨量は生死に直結した。雨乞いは大別すると、山野で火を焚く、神仏に芸能を奉納して懇請する、神社に参籠するなどがある。これらは多少の地域差はあるものの、おおむね共通している。一般に竜神が雨の神とされ、多くの場合ハクリュウがそうだとされる。ハクリュウは天候を操る力を持つという伝承があり、それゆえ雨の神とされてきたようだ。
 ここでは雨乞いの中でも特に珍しいケースとして、雨乞い婚と呼ばれるニョロトノとの婚姻について述べる。
 ニョロトノはニョロゾが進化したポケモンである。ニョロゾとは違い体は緑色になっていたり、進化前は特徴的だった腹部の渦巻きは名残として残っている程度であったりと大きく変化している。ニョロゾからニョロトノへの進化方法は、特殊な条件が必要なためか、野生のニョロトノは非常に数が少ない。
 雨の少ないとある地域では、ニョロトノを見つけると、雌雄を問わず連れ帰り、集落の人間との婚礼を行っていた。
 この婚儀は大事な儀式と考えられており、婚礼を上げることは非常に名誉なこととされた。そのため、未婚の若者はこぞってニョロトノとの婚姻を望んだ。婚儀に用いられる衣装は、雨を意識してか青く染められたものが使用された。この婚儀は祭りの側面も持ち合わせており、婚礼の宴は集落全体をあげて行われた。祝言を上げたのちしばらくは人間の親元で暮らすが、速やかに夫婦の住む家が用意され新居に移った。また、夫婦仲がいいほどよく雨が降るとされ、ニョロトノは非常に大切に扱われた。ニョロトノが死亡した場合は人と同じように墓が用意され葬られた。
 しかし何故、雨乞いにニョロトノが選ばれたのだろうか。たしかにニョロトノと雨を結び付ける伝承や昔話はいくつか存在する。またそれらをもとにしたと思われる「あめふらし」という童謡は有名である。

 雨降りガエル 旅をする
 雨雲連れて 旅をする
 ひでりの田畑に 雨降らせ
 恵みの雨と 拝まれる

 雨降りガエル 旅をする
 雨雲連れて 旅をする
 燃える野原に 雨降らせ
 神の使いと 祀られる

 このようにニョロトノはほかのポケモンを差し置いて、雨を呼ぶポケモンとして扱われてきた。
 以前までは、ニョロトノが選ばれたのは、ニョロトノが持つイメージからだとされてきた。水タイプであるからとか、技の「あまごい」を使う様子から雨のイメージと結び付けられたから、といった理由だ。また、ニョロトノの特性は「しめりけ」と「ちょすい」であり、水に関連するこれらの特性も雨をイメージする要因と考えられてきた。ただこれだけでは、ニョロトノでなくてはいけないという理由に乏しい。
 その理由が最近の研究により説明できるかもしれない。通常、ポケモンの持つ特性は最大二種類であることが知られており、一個体はそのどちらかの特性を持つ。しかし極少数の個体は、既知のものとは全く異なる特殊な特性を持つことが明らかになった。ニョロトノであれば「あめふらし」という特性を持つ特殊な個体が存在するのだ。「あめふらし」という特性はその名の通り周囲に雨を降らせるものだ。そう、ニョロトノが雨を呼ぶのは事実だったのである。
 もしかしたら昔の人々はこれを知っていて、婚姻相手に選んだのかもしれない。