ポケモンストーリーコンテストSP -鳥居の向こう-
企画概要
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募集要項
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サンプル作品
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小説部門
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記事部門
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05 鳥居の向こう
リング(
HP
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PDFバージョン
紙に2ページ分ずつ印刷して折りたたむと本になります
今日、昔よく遊んでいた友人から電話が来た。何でも、俺達が昔体験した出来事が、『実際にあった怖い話』と言うテレビ番組で紹介されるとのことで、『録画してでも見ろよ』とのこと。友人は俺に対して『お前はもう忘れているかもしれないけれどさ』などと前置きをしたが、あの時の体験を忘れてなんていない。
今も覚えているどころか、今もまだ終わっていないのだ。
◇
『私が小学校低学年の頃、ホウエン地方に住んでいた私に、不思議な出来事が降りかかりました。時期は十一月の終わりごろ。秋もとうに終わり、季節が本格的な冬へと移り変わってゆく時期です。
あの頃、元気一杯だった私は、あの日もまた夕暮れまで遊び続けていました』
そんなナレーションと共に始まった怖いお話。撮影に使われている神社は別の神社であったが、なるほど雰囲気はよく似ている場所である。
「タカシ見っけ!」
テレビの中で少年が元気に宣言して缶をふむ。
「あっちゃー……捕まっちまったか……あと一人……頼むぜ……」
子供たちは缶蹴りの真っ最中であった。基本は物陰に隠れて息を潜めつつ、隠れる側は隙を見て缶を蹴り飛ばせば勝ち。探す側となる鬼は、全員を見つけて蹴られる前に缶を踏めば勝ち。一番最初に見つかった者が鬼となる。
色んなローカルルールがあり、缶を用いないタイプのものもあるが、その基本ルールはほぼ一貫している。そんな缶蹴りも、太陽の傾き具合を見る限り、もうお開きといったところだ。
日が落ち風も出てきたので、最初の方に見つかってしまうとずっと待機している羽目になり、非常に寒くなってしまうのだ。この季節でじっとしているのは非常に辛く、特に女子には堪えるようである。
「私、そろそろ帰るね」
最後の一人も捕まって鬼も交代というところで、一人の女の子がそう言った。
「私も」
「僕も」
一人が言い出すと、雪崩れ込むように皆が帰ろうと言う。
『私達はまだ遊んでいたかったが、無理強いはせず、もう一人の友人と二人で残って、鬼ごっこをしていました』
ナレーションと共に、物語は続く。
テレビ画面では、ざわざわと揺れる木々が光の効果で非常に不気味に移っているものの、実際はそんなものじゃない。まだ少しだが日差しが残っていて、遊んでいたくなるような、名残惜しい時間帯である。
テレビのように不気味だったら、きっとその時の自分達も真っ直ぐ家に帰っていたはずだ。テレビの演出というのは罪なものである。
鬼ごっこで遊んでいるうちに、二人は境内の出口に立てられた鳥居の周りをぐるぐると回り始めた。『∞』の字を描くようにして、鳥居の入り口から神社に入って、また回りこんで鳥居の入り口から神社に入る。
「タイヨウ、ちょこまかと動くなよ!」
「へへ、タカシは小回りが利かないからな」
その当時、単純な駆けっこならばタカヤ……の役に当たるタカシのほうが速かったのだが、そこは鬼ごっこである。小回りを利かせてカーブをすることで、タイヨウこと俺の方が優位に立てた。タイヨウやタカシというのは俺達の本名とは違うのだが、そこはプライバシーの観点から仕方が無いのだろう。
さて、そのカーブを利用する方法と言うのが、例えばこの再現VTRにあるような、鳥居の前で『∞』の字を描きながら走ることである。その攻略法はそれ以前から使っていて、時には狛犬、灯篭など、カーブを利用できるものなら何でも使用できるのだ。鬼ごっことなれば最高速では勝っているタカヤをこうして突き放したものである。
そうしてぐるぐる回っていると、もう寒い時間帯だというのに二人は汗だくになる。
「やっべ……流石にそろそろ帰らないと母さんに怒られるね……」
肩で息をしながらタカシが言った。
「そうだな……いい加減帰ろう」
タイヨウも息切れをしながらそう言って、二人は家路につく。このあたりは、一〇〇メートル前後の小高い山がぽつぽつと点在していて、神社はその頂上にあり、住宅街はもっぱら下のほうにあった。
家に帰るには、木々が生い茂る舗装のされていない道を下る必要があるのだけれど、この道の雰囲気がまた怖いのである。丸太と杭で補強され階段状になっている坂道には、お地蔵様があったり、なんだかよく分からないお墓のようなものがあったり。その上街灯もなく、木々が生い茂っているおかげで、夜になれば真っ暗である。
要するに、肝試しにはもってこいな場所なのだが、当時の二人にとっては慣れた道、まだ太陽の光もかすかに残っているので、怖がる要素も特になく、ずんずんと下ってゆく。そして、住宅街に――たどり着かなかった。
「ここ……どこ?」
森を抜けるとまずは小さな住宅街があって、そこにあるアパートの横を抜けると歯医者やクリーニング屋、旅行代理店やコンビニエンスストアなどのお店が並ぶ道路に出るのだが、アパート……のはずの場所には、入り口がなかった。それらしき建物はあるのだが、紋が開かれているはずの場所が、塀に囲まれているのだ。
その横を抜けると、車が通れるような道路はなく、代わりにコンクリートブロックを積み上げて作られた塀がずっと続いている。電柱もあるが、そこに電線はなく、本当にただの柱としてそこにあるだけだ。
「どうしよう……訳の分からないところに来ちゃった……」
タカシは恐怖心と好奇心がせめぎあい、何度か今来た道を振り返ったが、しかしそのまま突き進んだ。突き進んでいるうちに、電柱の陰にソーナノが隠れていたり、アンノーンが塀に張り付いているのを見ながら、駆ける、駆ける、駆ける。地平線すら見えないような平坦な道、背後の山はどんどん小さくなっていく。
人の姿も車も、いつもはその辺を歩いているエネコも、あらゆる日常がどこにも見つけられない。塀はたまに途切れて十字路になっているが、曲がってみても相変わらず門も何もなく。格子状に区画が分かれているだけである。
「塀の中……どうなっているんだろ?」
ジャンプして塀の上に飛び乗ってみても、家の明かりはついておらず。
「ごめんくださーい」
家には誰もおらず、家のドアは堅く閉ざされ、叩いても大声を出してもまったく反応が無い。
「誰もいないなら……ばれないよな。それ!!」
と、タカシは石を投げてみるが、窓は石を投げてもヒビすら入らない。
「……なんだよ。なんなんだよ」
流石に好奇心と恐怖心も逆転してきて、タカシは塀を飛び越え、元来た道を戻ろうとしたが、空には更なる異変が合った。すっかり暗くなった空には、ちらほらとヨマワルが現れ始めたのだ。それらヨマワルはまるで、赤く光る瞳で何かを探しているような様子であたりをきょろきょろと見回している。
「うそ……」
呟いて、タカシは走り出す。まだヨマワルは遠くにいるから、すぐにこの場を離れればきっと大丈夫だろうと。
『あのヨマワルはきっと、自分を探しているのかと思い、私は今来た道を駆け抜けました。まだあちらはこっちに気付いていないので、遠くまで離れれば見つからないと思ったのです』
そのナレーションの目論見どおりというべきか。遠く離れたところに浮かんでいたヨマワルたちは、タカシには気付かず、別の方向に消えてしまった。だけれど、ほっとしてもいられず、息の続く限りタカシは走った。走って、山を登る。
『暗闇のため足元すらよく見えないので、ゆっくりと山道を登っていて気付いたが、よく見ればいつもあるはずのお地蔵様も、よく分からない墓石もなかった。すでにこの時点で異変があったと気付けない自分は、今になってみれば注意力が無いと思う』
山を登る映像の最中にナレーションが流れ、とにもかくにも、タカシは元来た神社にたどり着いた。街を見下ろしてみれば、なるほどやはり地平線すら見えないような広大な平地が広がっており、そこに建つ家には一切の明かりが灯っていない。神社だけが、まだ明かりが灯っていた。
神社の物陰にはソーナノがいた。彼らは臆病で、無害のようだがそれでもヨマワルの事を思い出すと恐怖心が湧き上がってくる。
疲れていて、正直このまま冷たい風を浴びて休みたかったが、それより先にタカシは神社の建物へと足を踏み入れる。
「和尚さん、街の様子がおかしいんだ」
神社なので、中にいるのは和尚さんではなく神主なのだが、そんなことはさておき。神社の灯りは障子越しに漏れており、その中には確かに人影が――いたはずだが、障子を開けてみれば中にいたのは人間ではない。
一つ目、灰色、包帯を巻いたような風体のそのポケモンは、手招きポケモンのサマヨール。ホウエンに暮らしているものならば、『悪い事をしたらサマヨールに連れて行かれちゃうよ?』などと親に脅される子供も少なくなく、当然タカシもその一人であった。
そのサマヨールが、目の前に、しかも一人のときに。これは、怖い。
「うわぁぁぁぁぁぁ!!」
一気に恐怖心が膨れ上がりタカシは叫び声を上げて逃げ出した。子供の演技が非常に残念だが、サマヨールの演技はやけに秀逸で、赤い目が漆黒に染まり、逃げようとすれば心臓が握りつぶされたような苦しみを覚えて蹲るしかない。
サマヨールは、ゆったりと歩んでタカシの元に近付くが、タカシに触れた手に殺意は篭っていなかった。自分の手をサマヨールに拾われたのを感じて、恐る恐るタカシが目をあけサマヨールを見ると、サマヨールはすでに黒い眼差しを解いていて、目を開けた彼をそっと鳥居を指差した。
殺気や敵意は感じられない穏やかな振る舞いに、タカシは半信半疑ながら手招きに従う。そして、サマヨールのそばに立つと、サマヨールは鳥居に向かって鬼火を放った。ゆらゆらと揺れる炎は、神社から『出る』方向に鳥居を通ってゆく。
見れば、サマヨールの手つきは手招きではなく、『アレについて行け』、『さっさと行け』そう言っているように見えた。
「アレについてゆけばいいの?」
『サマヨールは言葉を一切発しなかったが、不思議と意思は伝わって、私が尋ねればサマヨールは頷く。実は騙されていたとか、そんな事を疑う余裕はなかった。ただ、無我夢中で鬼火についていくと、その道のりは夕方の時とは逆で、『∞』の字を描きながら鳥居から出て、鳥居の後ろに回りこんでまた鳥居から出て行く。そんな軌道を描いていた。
走り疲れた頃にサマヨールの放った鬼火は消えていて、気が付くと街には明かりが灯っている。サマヨールもいなくなっているし、確認のために先程サマヨールがいた場所に乗り込んでみれば。
「良かった……人間だ」
ほっとしてみると、今まで溜め込んだ恐怖が一気にあふれ出して、泣き崩れる。画面の上にさりげなく映った時計を見る限りでは、時間はもう午後八時を回っている。
『そのあと、私がこっぴどくしかられたのは言うまでもない。私は、今でもたまに神社の鳥居をぐるぐると回ってみるのだが、異世界に迷うことは二度となかった。
そして、友達も同じく怖い目にあったようで、あちらはヨノワールに追いかけられて、こちらの世界に帰ってきたときは、日付をまたいでいたらしい。どちらも怖い体験をしたものである。
「鳥居の向こうは違う世界に繋がっているといわれています。だから、鳥居をくぐったら、必ず鳥居から出なくてはならない」。後日、お礼を言いに来た私に、神主さんはそう言いました。
あの時私を助けてくれたサマヨールは、死者を異界に連れて行くだけではなく、異界へ迷い込んだ生者を元の世界に返してくれる、異界の番人なのかもしれません』
いつも神社の境内で遊んでいた子供がこんな時間に訳の分からない事を言って泣きじゃくっているので、神主がタカシの対応に追われていたところで画面が暗転し、最後のナレーションが入って再現VTRは終了した。
◇
結論から言えば、俺も再現VTRとほとんど同じような体験をしている。ただ、タカヤはヨマワルに見つからなかったが、俺はあの時ヨマワルに見つかってしまい、おまけにヨノワールまで呼ばれて恐怖に駆られて逃げ回っていた。
もちろんヨノワールは黒い眼差しを使っていたのだが、それが効かなかったのは、多分お守り代わりに持っていた綺麗な抜け殻のおかげだろう。不幸な事に、それのせいで俺は長い時間逃げ回る事が出来、息も絶え絶えのまま物陰で休んでいる時に、壁から伸びてきたヨノワールの手の平に手掴みにされて、連れて行かれたのだ。
当時、俺はタカヤと違って『悪い事をするとサマヨールが来る』だなんて事を親から言われていなかった。だから、俺が交番で保護された時、追いかけて来た者がヨノワールなのだとは知らず、『ボロ布を巻いた足のない巨大な人間に掴まれて連れてこられた』と表現していた。
ヨノワールというポケモンの名称も、その時に知った。ついでに言うと、子供を入れられるようなヨノワールなので、人間で言えば二メートルを越えるような巨大な個体だとも聞かされた。恐らく、文字通り特別な個体だったのだろう。
今でも、あの時の酷い運び方を思い出す。首根っこを掴み、暴れる俺を強引に抱き上げ、ヨノワールは自らの口の中に俺を入れた。『自分は喰われて死ぬのか』と思ってしまったが、そのまま暴れている間に意識を失う(暴れた事もあって酸欠だったのだろう)と、気付けば俺はこちら側の世界の交番に投げ込まれていたのだ。おまわりさんに保護されると、俺はすっ飛んできた親母親に泣きながら怒られた。
『心配かけて、もう……』などと、親に涙声で語られたのは、後にも先にもあの時だけだったと思う。
「おう、タカヤ。実際にあった怖い話……見たよ、タカヤ。懐かしいな、あの時怖かったのを思い出したよ。俺の出番が少ないのが残念だよ」
他の体験VTRなども含め、番組の行程が全て終わってから、俺はタカヤに電話をかける。
「だろう? 子供の演技がところどころ残念だったけれど、よく出来ているって言うか、サマヨールの演技がよく出来すぎているよな? お前の方もヨノワールで実写化して欲しいくらいだったぜ。手持ちにがんばってもらったらどうだ?」
きっと怖いだろうなぁ、とタカヤは笑った。
「やめてやれよ……俺は無茶苦茶怖かったんだぞ? 腹の口に入れられる子役がかわいそうだ」
番組を見たその日は、会話が弾む。あの時の恐怖を語り合い、そのあと喰らった大目玉についても、今ではいい笑い話であった。話を聞く限りでは、タカヤはもう、ああいった恐怖現象を体験していないそうだ。その事に安堵して、俺は満足して電話を終える。
「良かった……あいつは無事なんだな……今でも」
「俺はまだ、終わっていないんだけれどな……あの日の出来事が」
最初に気づいたのは翌日のこと。朝、顔を洗おうと洗面台に立ち、ふと鏡を覗いてみると背後の家には暗闇が続いていた。まるで、無限に続いているかのような回廊は、薄く霧が立ち込めていて、終点が霧に紛れて見えなかった。振り返ってみるとそこはいつもの家である。
その日から、やたら頻繁に明晰夢を見るようになって、全身に冷や汗をかくような怖い思いをした出来事から、二度と目覚めたくなるような楽しい出来事、とても口に出来ない淫らな出来事まで、夢の中で一通り体験したと思う。
その他にも、バスや電車に乗れば、窓の外はまるであの日のような地平線すら見えない街並みだったり、荒れた野原だったり。乗客は不思議と何も言わず、怖くなって目的地につく前に下りてみると、そこはいつもどおりの街並みだったり。
家族旅行でキナギタウン近郊の海域でホエルオーウォッチングを行えば、自分一人だけが大きな島を見つけて大騒ぎをした事があったり。見える人にはたまに遠くから見えるそうなのだが、目の前に見えると言っていた俺は非常に奇異な目で見られたものだ。
ダートに強い自転車に乗っていたら、いつの間にか水の上で自転車を漕いでいて陸上で波乗りしていた事があったり。驚いて転んでしまうと、一瞬だけ足が沈んでズボンの裾が濡れてしまった事がある。
シンオウの大学への講演のついでに訪れたシンオウリーグ会場では、試合場の入り口あたりに暗い湖が揺れており、そこから鳥肌が立ちそうなくらいにどこまでもどこまでも黒い謎の場所が広がっていたり。
それらのほとんどは、当事者の俺にしてみれば恐怖体験だけれど、プラスの出来事もあったりする。その日以来、セレビィやらミュウなど、一生に一度見かけられれば幸運なポケモンも普通に見かけてしまうため、たまに遊んだりしてあげると非常に喜ぶのだ。
健康食品の原料生産ルートの開拓のために外国へ訪れれば、その土地で神格化されたポケモンと仲良くなり『現地住民を説得するために一瞬でいいから姿を現してくれ』と頼んだ事もある。そういったポケモンと仲良くなれば、面白いように幸運が舞い込んでくるため、その点でも助かっている。
逆に、邪神と呼ばれるような性質の悪いポケモンと目を合わせてしまったことで魅入られてしまい、周りで他人にも見えるレベルで怪奇現象が起こって、どうしようもない事態に陥った事もある。そんなときは、自分で棍棒や鉈を振るって何とかする事もあれば、仲良くなった伝説のポケモンと呼ばれるようなポケモンに助けを求めたり、ポケモンの輸入規制がかけられていない地域へ出かけた時は育てたヨノワールに撃退を頼んでやり過ごしたりもした。
こうしてみると、プラスとマイナスが合わせてゼロともいえるような日々……なのかもしれない。
俺は、あの日の事をこう考えている。
あの日は、十一月の終わり頃。旧暦で言う十月。神無月であった。旧暦で言うところの神無月は、ホウエンやカントーなどに住む神達が、ジョウトの北西にある一つの神社へと集まる週が存在する。新暦で十一月の後半であったあの日はきっと、神が元いた場所へ……つまりあの神社へと帰る日だったのだ。
多分、一回鳥居をくぐったくらいじゃ、異世界に迷い込むようなことはないのだろうが、あの時俺は何度も何度も同じ方向から鳥居をくぐり、そして戻る事をしなかった。それ以外にも、いくつか原因はあるのだろう……あの時と同じ日付、同じ時間帯に、友人がそうしたように逆側からぐるぐる回ってみても、俺の身の回りの怪奇現象は改善しないのだ。
きっと俺がこちら側の世界に帰ってくるとき、すでに日付が回ってしまったから、あの神社の鳥居に在った異世界への門が消えてしまったのだろう。だから、俺の体はこちら側の世界とあちら側の世界の中途半端な位置をさまよっているのだろう。
あの日あの時あの場所で、一体どんな条件が揃ったのか? そもそも、元に戻る手段はあるのか? 国内外で出会った伝説のポケモン達にそれを尋ねても、良い答えは返ってこない。けれど、唯一つ言える事は、あの神主の言葉である『鳥居をくぐったら、必ず鳥居から出なくてはならない』というのは本当だということだけであった。
そして異世界への入り口は鳥居だけではない事にも注意しなければならない。何気ない衣装タンス、何気ない森、何気ない霧、何気ない鏡、何気ない睡眠。それらが、ただでさえ薄い俺の『こちら側の世界とあちら側の世界の境界』を薄くしてしまうのだ。
写真が無い時代に心霊写真などありえないように、異界への扉もまた、形を変えて自分の周りに表れるかもしれない。それは例えば電話だったり、例えばパソコンだったり、最近だとワープ装置や物質転送装置の怪談も(ほぼ全てがデマだろうが)聞くようになって来た。
いつ引き込まれるかも分からないから、注意しなければな……。
「ありゃ……?」
友人との電話を終えて、『とびだせ ポケモンの森』をプレイしようとニンテンドー3DSを開いたところ、ゲームを始める前のメニュー画面の中に、見慣れないゲームがダウンロードされていた。
「『ポケモンなりきりダンジョン、マグナゲート体験版』……なんだこりゃ?」
俺はこんなゲームを購入した覚えはないのだが――
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