世間は今日を聖キリストの誕生日前夜だと謳う。救世主の誕生の日には眩いばかりの星が馬小屋の天井で輝き、学者を、羊飼いを導いたとされる。
そして、その聖なる日に、かのレディはこの世に生を受けた。
「偶然でしょうねぇ」
知る人が言えばそれは必然だと言うかもしれないが、所詮運命の悪戯。かの火宮の家で気にした者などいないだろう。
・・火宮の家では、だろうが。
めぇら。
生まれて半年以上たつものの、腕に収まるサイズのメラルバは外の寒さに小さく鳴いた。生まれた当初より一回り大きくなったと言えど、まだまだ幼い炎タイプは本格的な冬に弱いらしい。
太陽の子を抱いた黒服の紳士は、ショーウィンドウを眺めて何かを思案していたらしいが、小さな生き物の声に現実に戻ってきたらしい。コートの内側にその子を入れる。
「さて、どうしましょうかねぇ」
いかに美しく着飾るものだろうとも、あの炎の血を引く淑女にはどれも見劣りするだろう。
何度目かの言葉を口にして、分家の血筋は未だにふさわしい物を見つけられていなかった。
やはり花束などの方がよろしいか。しかし生花は放浪する彼女には似合うまい。
口にする物は近くにいる死神殿が難色を示しそうだ。もとより、彼は私が彼女に接触すること自体を嫌うものだが。
日付が変わらぬうちに、急ぎましょうか。
そう一人ごちて、彼はくるりと硝子に背を向けた。
太陽と呼ばれるポケモンに乗り、イッシュを離れて海を渡る。
エンジュと呼ばれる都市の片隅の洋館に、ゲンガー達が仕事をしにいっているらしい。
縁のない人間には全く気のつかない事だろうが、霊の動きを見ている者にとってはこれほど分かりやすいものはないだろう。
「失礼しますよ、レディ」
彼の言葉に、弾かれるようにくるりとファントムは振り返った。
鮮やかな向日葵、隣の死神はじろりと冷たい視線をこちらに向けた。きっと結ばれた口元が、おそらく私の前で解かれることは有りはしないのだろう。
それで良いのです、レディ。
「お誕生日おめでとう御座います」
コートの内側から差し出した包みを、彼女は少々訝しい眼をしながらも受け取った。その視線が、内ポケットから顔を出すメラルバに注がれる。
無邪気なそれを見て、ほんの少し冷静さが緩んだ表情が映る。メラルバはレディを見て数回瞬きをし、また寒さに潜った。
それでは、失礼します。礼をして去ろうとすれば、
「これはなんだい?」
彼女が中身を問うた。
「開けてみれば、分かりますよ」
するりと包みをほどいて、ファントムは目を細めた。浅葱色のショールは、色とは別の温もりを感じさせる。
「この時期はとても寒いですからね。お体に気を付けてください、レディ」
炎の御加護を。
ウルガモスの背に乗って、その場を去って空へ逃げる。
あぁ、願わくばこのまま、天に融ける事をお望み申し上げましょう。
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余談 レディが御誕生日と聞いてカクライにプレゼント渡しにいかせた結果がこれだよ!
【メリークリスマスイブ&ハッピーバースデー!レディ・ファントム】
【残念クオリティでごめんなさい】