マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ
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  [No.2179] ゆうびんドラゴン 投稿者:巳佑   投稿日:2012/01/06(Fri) 23:31:06   191clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

『お元気にしてますか。アナタがいきなり働き始めたいと言ってからもう早くも一年が経とうとしています。お仕事はしっかりこなしていますか? 職場の方には迷惑をかけていませんか? お仕事の方が落ち着いてからでいいので久しぶりに会える日を楽しみにしてます。兄より』

 手の平に乗っている一枚の手紙を読み終えると、白と赤色を身に染めた一匹のポケモン――ラティアスはワラが敷き詰められているベッドから身を起こします。近くにある木製の小窓を開けると、太陽の光がさんさんと部屋の中に入り込んできます。そこで一つ伸びをすると眠気たっぷりな顔からとびっきりの笑顔に変わりました。
「よっしー! 今日も頑張るですよー!」

 ここはポケモンだけが住んでいる、一つの村。
 そして、その村の近くにある、海がよく見える岬には一つの建物が建っていました。入り口には『カイリューの郵便屋さん』と書かれてある立て札があります。
「おっはようございますー! カイリュー局長♪」
「あぁ、おはよう、ラティアスさん。今日も一日よろしくね」
「はーい、じゃんじゃんバリバリ働きまーす! あ、今日のポケ新聞ってありますー?」
「あぁ、あるよ。はい、これ。僕はもう読んだから」
「ありがとうございますー! お、救助隊チーム『テラーズ』が大活躍。きゃー! プテラ様かっこいいですー! 流し目なんて最高すぎますー!」
 建物の中に歓喜が響き渡ります。その様子を見たカイリューと呼ばれた山吹色の龍はやれやれといった顔で仕事の準備を始めました。
 ここはカイリューの郵便屋さん。お手紙などを色々な所に運ぶのが主な仕事です。この郵便屋さんがある村は旅をしているポケモンが多く出入りすることもあり、故郷やお得意先に手紙を送ることも珍しくありませんでした。
「……おはよ」
「あぁ、おはよう、フライゴンさん」
 カイリューの郵便屋さんの出入り口から一匹の黄緑色に染まった赤いレンズをはめた龍――フライゴンが眠たそうな目をしながら入ってきました。すると、ラティアスはポケ新聞のプテラが載っているページをフライゴンの顔につけます。
「あ、ライゴちゃーん! 見てくださいですー! このプテラ様すごいかっこよすぎますー! 素敵過ぎますー!」
「……うるさい……耳元で騒ぐな……それより青三角……アンタこの前、色違いゾロアーク様とか言ってなかった?」
「今、時代はプテラ様なのですよー! きゃー! プテラ様素敵なのですー!」
「……局長、カゴティー一杯作るけど、どうする?」
「え、あ、じゃあ、僕にも一杯お願いしようかな」
「プテラ様最っ高ですー!」
 プテラに惚れているラティアス、無口っぽいフライゴン、そして局長のカイリュー。
 少ないながらも、この三匹が『カイリューの郵便屋さん』を切り盛りしてました。



『最近、ちょっとずつ暖かくなってきましたよね。そちらも春が近づいている頃でしょうか? あまりの春うららに、兄のブームは日向ぼっこになってます。あまりにも気持ちよすぎて寝てしまうことも……いけないけない、寝てばっかりいては。最近、救助隊の仲間にもボーっとしすぎていると怒られたので気をつけなければ。ラティアスも勤務中には寝ないように気をつけてくださいね。兄より』

「ふわぁ……なんか最近お日様が気持ちいいですー。は、居眠り運転しないようにしなければですー」 
 カイリューの郵便屋さんがある村から少し離れた空の上、ラティアスが眠たそうに目をゴシゴシとかいています。ちなみに首からは手紙をたくさん入れた黒色のカバンをかけており、頭にはツバ付きの黒い帽子をかぶっています。
 さて、口では寝ないように寝ないようにと唱え続け、ひたすら眠気と戦っていたラティアスでしたが、その努力むなしく、徐々に地面へと体は向かってしまいます。
 そのときでした。
「はっ、誰かそこに倒れてますー!?」 
 ラティアスの目に飛び込んできたのは、一匹のワラをかぶった小さなポケモンでした。倒れたまま動く気配もないので心配になったラティアスは眠気を吹っ飛ばして、そのポケモンに近づきます。もう少しばかりお仕事が残っていたのですが、このまま放っておくわけにもいけません。 
「あのー。ここで寝てると風邪引きますよー?」
 ラティアスが揺さぶってみるものの、その小さなポケモンは起きることはありませんでした。ラティアスは辺りを見回していますが、ポケモン一匹もいません。近くに置いてあるのは一本の棒と、その先端にくくりつけられている風呂敷一枚だけでした。どうやら旅をしているポケモンのようです。
 しかし、それが分かったところで問題が解決されたわけではありません。さて、どうしようかとラティアスが悩み続けること数分。妙案を思いついたのでしょうか、ラティアスの顔がパッと明るくなって――。

「……それで、ここに連れてきたと」
 カイリューの郵便屋さんにある休憩室、そこではフライゴンが困ったような顔を浮べていました。件の小さなポケモンはワラのベッドの上に横たわっています。
「ちゃんとお仕事を終わらせてから来ましたですー! うぅ、ライゴちゃーん、そんな顔しないでくださいですよー!」
「もういい……青三角、とりあえずこの子だけど……ただ単に……お腹が減って倒れたって感じ」
「へ、そうなんですか!? はぁ、良かったですー! 大事かと思いましたですよー!」
「……とりあえず……何か、食べさせるか……しょうがないな、もう…………その間に受付とかは青三角がやって」
「了解ですー!」
 その後、ラティアスが受付の仕事をやっていると、やがてフライゴンから呼びかけがありました。あの小さなポケモンが目を覚ましたとのことで、事情を話したらラティアスとお話をしたいというのです。ラティアスはそれを聞くと、すぐに休憩室に向かいました。すると、そこには元気そうな小さなポケモンが待っていました。
「あ、ラ、ラティアスさんですねっ!? じ、自分、ユキワラシって言いまするっ。こ、この度は腹がへっているところをお、お助けいただき、あ、ありがとうございまっす」 
「いえいえー。ご無事のようでなによりですー! 大事に至らなくて良かったですよー」
 ラティアスがニコニコと笑顔を浮べながら話しているのに対し、小さなポケモン――ユキワラシは両手をもじもじとさせていました。ラティアスが可愛いかったというのもありましたが、他にも恥ずかしいところを見られたという気持ちもあったのでしょう。ユキワラシの背中からは冷や汗がたらたらと垂れていました。
「あ、良かったら、お茶のお代わりなんていかがでしょうかー?」
「え、そ、そんな、だ、大丈夫でする。じ、自分のことはき、気にしないでいいですからっ」
「まぁまぁ、そう言わずに、そう言わずにですよー」
「い、いや。本当にだ、大丈夫、でするー!」
 顔を真っ赤にさせながら、ユキワラシが休憩室から飛び出ていきました。あまりの速さに驚いたラティアスがユキワラシを見失ったのは言うまでもない話です。ぽかーんと口を開けながらラティアスはただただユキワラシが去った方を見やるばかりでした。



『春の香りがますます鼻につくようになりました。もうそろそろあの花も咲く頃ではないでしょうか? ラティアスが住んでいる村にもありますかね? ちなみに兄さんは救助隊仲間と一緒に花見をする予定です。ラティアスの方も職場仲間と花見をするのでしょうか。くれぐれもラム酒とかを飲みすぎないようにして下さいね。兄より』 

 カイリューの郵便屋さんがある村での夜のこと。
 その村の広場には『大樽(おおだる)』と呼ばれる一軒のお店がありまして、大ワニポケモンのオーダイルとワルビアル夫妻が経営している居酒屋です。夜には旅の途中であるポケモンやら、村で一日働き終えたポケモンやらがやってきては一杯くみ交わしていたりしてました。もちろん、この二匹も漏れなく常連客です。
「ぷっはぁー! お仕事の後のラム酒はおいしいですよねー! ライゴちゃん!」
「……青三角、飲み過ぎないように」
「そういう、ライゴちゃんこそ飲みすぎないようにですよー!」
「……言われなくても分かってる」
 居酒屋『大樽』にある一席ではラティアスとフライゴンがいました。木製のコップを片手に意気揚々と飲んでいます。二匹はこのように、仕事が終わった後、女子会みたいな感じで飲むことがあったのです。
「いやぁ、やっぱり今はマメパト様ですよねー! あの知的な感じ♪ もうたまらないですー!」
「……朝刊と夕刊で、もうこんなに変わってる……朝はプテラ推しだったのに」
「え、もちろんプテラ様も捨てがたいですけどー。でも、あの知的な雰囲気、それと魅力的な鳩胸っ! やっぱり素敵なのですー!」
「……青三角、超ミーハーすぎ」
「ミーハーじゃないですよー! 好きなものが多いだけなんですー! そういうライゴちゃんは今、何推しなんですかー?」
「…………わたしは別に」
「あー! 今、目線を逃がしましたですよねー!? 私には見逃せませんですよー!?」
「……うるさい、少し黙――あっ」
「ん、どうしたんですかー?」
 フライゴンが指差す方へラティアスが顔を向けてみると、そこにはあの小さなワラを被ったポケモンのユキワラシがいました。ラティアスは早速、席を立って、手を振りますと、ユキワラシがそれに気がつきます。
「折角ですし、ご一緒にどうですかー!?」
 一瞬戸惑ったユキワラシでしたが、ここは断ったらいけないかなと思ったのかラティアスとフライゴンの席に向かい、フライゴンが用意してくれた小さなポケモン用の木製イスに座りました。 
「姐さーん! このお方にラム酒一杯お願いしますですー!」
「はいよー!」
 カウンターから気の強そうな女性の声が響いた後、ユキワラシが困ったような顔を浮かべます。もしかしたら、これはおごりなのではないかと。案の定、ラティアスが「私がおごりますですー」と言ってきたのでユキワラシは更に困ったような顔になります。
「え、え、わ、悪いでするっ。そ、そんな」
「いいんですよー。昼のとき、お茶をご馳走できなかったので、その分だと思ってくださいですー」
「…………いいから、お言葉に甘えたら?」
「そうですそうです。じゃないと怒りますですよー?」
「……怒らないくせに」
「あ、ライゴちゃん。それは言っちゃ駄目なんですー! 私だって怒るときは怒るんですよー?」
「……いや…………今まで青三角が怒ったところ見たことないし」
「で、でも、お兄ちゃんには怒ったことありますですー!」
「……青三角の昔話なんて知らん」
「あ、ヒドイですー!」
 最初は戸惑いばかりであったユキワラシでしたが、ラティアスとフライゴンのやり取りを見ていると、そんな悩みもばかばかしくなってきたのか、しまいには小さくでしたが、笑い声をあげていました。そんなユキワラシにラティアスが「あ、ユイワラシさんまで!」と悲鳴を上げたのは言うまでもありません。
 やがて、ユキワラシにラム酒が運ばれますと、三匹はお酒に喉を動かしながら話を続けます。
「そういえば、ユキワラシさんって、旅をなされてここまで来たんですかー?」
「あ、は、はい。そうでするっ。前に旅立った村からここまで距離が意外とありましてっ。なにぶん、自分、足とかが小さいものですからっ。そ、そりゃもう、た、大変でしたでするっ
「なるほどですー。それで途中でお腹が減って」
「ほ、ほっんとうに、お恥ずかしい話でするっ」
 恥ずかしさをかき消すかのようにユキワラシはラム酒を飲み干すと、カウンターに向かって次の注文を投げかけます。それはモモンの実とオレンの実からつくられた甘酸っぱくてさわやかな味のモモオレサワーで、飲みやすい種類のお酒でした。注文を投げかけ終えた後、ユキワラシは「あ、こ、ここからは、自分で払いまするんでっ」と一言付け足しておきました。
「……それで、どこに向かう予定?」
 フライゴンがそう尋ねますと、ユキワラシが逆に問いかけました。
「あ、あの、この近くに桜ってありまするか?」
「桜の木ですかー?」
「は、はいでする。実はじ、自分は――」 
 ここでユキワラシが自らの生い立ちを話し始めました。
 ユキワラシはこの村よりもずっと北の方に住んでいるポケモンで、立派なポケモンになる為に旅に出たそうです。とりあえず南に下っていくと、ある日、桜の木の存在のことをユキワラシは耳にしました。いつも雪で覆われている自分の故郷にはないその花にユキワラシはせめて花びらだけでも、故郷の者たちに見せたいという気持ちが芽生え、そして今に至るというわけです。
 ユキワラシの話が終わったときには、その話に感動したらしいラティアスの両目から涙がポロポロこぼれていました。
「……なるほどですー。実にいい話ですねー」
「…………青三角、本当に飲みすぎ」 
 涙をふきながら、ラティアスは答えました。
「それで、桜でしたら、確かにこの村の近くにありますよー。この村の近くに桜がよく咲く場所がありまして、そこでは毎年、花見とかしているポケモンがいるんですよー。私たちも近い内にやろうという話なんですが……あ、良かったら、ユキワラシさんもご一緒にどうですかー?」
「え、い、いいんでするかっ?」
「……まぁ、仕事終わった後だから……夜桜になるけど」
「いいじゃないですかー! 夜の桜も風流ですよー!」
 ラティアスとフライゴンの話を聞いている内に、桜のことで色々と楽しみが増えたのでしょう。ユキワラシの顔がぱぁっと明るくなっていきます。桜というものを初めて見られる上に、これで故郷にも報告ができるとユキワラシの胸が踊りだしていきます。ラティアス達の誘いにはもう答えは出ていました。
「あ、あの、よ、よろしく、お願いしてもよろしいでするかっ?」
「もちろんですよー! 人数はいっぱいの方が盛り上がりますですー」
「…………あまり飲みすぎないようにね」
 こうして、花見を約束した三匹はその記念にもう一杯、乾杯することにしたのでありました。



『桜咲く季節、元気に過ごしてますか? こちらは花見モード全開で賑わっています。この時期、救助隊は花見のパトロールで大忙しです。酔っ払いが多いこと多いこと。ケンカを止めることだって珍しくありません。世間の平和を守るためとはいえ、酔っ払いの相手は疲れるというのが正直な感想です。あ、ここだけの話にしてくださいね? ラティアスも節度を持って花見を楽しんでくださいね。 兄より』

 ここはカイリューの郵便屋さんがある村からちょっと外れの方にある一つの広場。
 そこには木々が所々に立っており、そして、その木々にはたくさんの桃色が身につけられていました。その桃色は桜と呼ばれる花で、月に照らされているその姿はなんだか艶がありまして、惚れ惚れしそうなものでした。更には風に乗って羽ばたく桜の花びらの姿も優雅で素敵なものでした。
 この春の香りが漂う広場はまるで別世界のようで、そこにはその香りに招かれるかのように、色々なポケモンたちが集まっていました。もちろん、花見を約束していたユキワラシとラティアスとフライゴン、それと今回はカイリュー局長もそこにはいました。カイリュー局長は荷物運びを引き受けたのか、花見用のお酒に、団子といった食べ物に、他にも色々と風呂敷に詰めて背中にしょっています。
「すいませんですー、カイリュー局長。荷物運びをさせてもらいましてー」
「いや、これぐらい、大丈夫だよ。今日は折角の花見だし、明るくやっていこう、ね?」
 一方、広場の入り口で初めて見た桜の花びらたちにユキワラシはただただ目を奪われていました。
「…………ユキワラシ、感動するのは分かるけど……ボーッとしていると置いてかれる」
「……」
 なおもボーッとしているユキワラシにフライゴンがツメの先でちょんちょんとつついてあげますと、ようやく夢から覚めたような顔をユキワラシは見せ、一言謝りました。それから一向は広場の中に入り、ちょうど座れるスペースを見つけますと、カイリューは風呂敷を広げ始め、残りの三匹も花見の準備を手伝いました。
 やがて、各自、木製のコップに一般的なラム酒や、辛さがウリのマトマ酒などを入れますと、カイリュー局長が一つ咳払いをしました。
「えーと。皆さん、今宵は楽しんでいきましょう。ユキワラシさんも遠慮しないで、たっぷり楽しんでいってくださいね……これからのカイリューの郵便屋の発展とユキワラシさんの旅が順調でありますようにと桜に願いながら……乾杯!」
 カイリュー局長に続いて、三匹も乾杯と声を上げます。
 最初は皆、ゴクゴクと酒を喉に落としながら、用意してあった団子をもぎゅもぎゅと食べていきます。普段のときと比べて、桜の木の下で食べるのはまた違ったおいしさがあると、各々の舌が幸せで埋まっていきます。それから食べることや飲むことに一段落しますと、夜桜をのんびりと眺め始めます。月夜に照らされている桜の木々。お酒でほてった顔に春の風と桜の香りがくすぐってくるのもまた気持ちいい。ユキワラシもお酒を片手に夜桜をのんびりと眺めていました。そのユキワラシにカイリュー局長が話しかけます。
「ユキワラシさん。そういえば、桜の花びらを故郷の方々に見せたい、と言ってましたよね?」
「あ、は、はいでするっ。ここで桜の花びらを何枚か拾って、一回、故郷に持って帰りたいでするがっ」
 しかし、ここからユキワラシの故郷まではまた距離があり、ユキワラシの足では時間がかかってしまうことでしょう。それにその間に折角採った桜の花びらも色あせてしまうかもしれません。そう考えたラティアスはそうだと閃きました。
「こういうときこそ、私たちがいるじゃないですかー! ユキワラシさん、ここで故郷に向けて手紙を書くのはいかがでしょうかー?」
「て、手紙でするかっ?」
「あら、もしかして初めてですかー?」
「え、えぇ」
 戸惑い気味のユキワラシに今度はラティアスに代わってカイリュー局長が話します。
「僕たちは手紙を送るお仕事をしてますので、ユキワラシさんがどこに住んでいるのかを教えていただければ、そこに必ず手紙と、桜の花びらをお届けしますよ」
「……桜の花びらは押し花にすればいいと思う…………そうすれば、色あせる心配もないかも」
 手紙という言葉を聞いたことはありましたが、書いたことのないユキワラシはどうすればいいのか、ちょっと分からなくなって、両手をもじもじさせ始めます。そんな心に不安をよぎらせたユキワラシにラティアスは優しく、その小さな手を優しく握りました。
「大丈夫ですよー。ユキワラシさんが今まで旅をして来たことで知ったこととか、学んだこととかを書けばいいと思いますよー。ユキワラシさんの故郷の方々はユキワラシさんの旅を気にしていると思いますしー。それにユキワラシさん自身もまだ旅を続けるんですよねー?」
 こくりとうなずくユキワラシにラティアスはニコっと笑みを浮かべました。
「なら、手紙を送るのが一番ですー♪」 
「は、はいでするっ、じ、自分、書いてみまするっ」
 夜桜舞う中、ユキワラシの意志がそこに確かにありました。

 その後、カイリューの郵便屋さん一同と別れ、自分が世話になっている宿の部屋にたどり着いたユキワラシはラティアスからもらった手紙用の紙と、ドーブル印のペンを出すと、言葉をつづり始めます。
 これまで旅してきたこと――南に下って、今まで住んでいたところとは気候が違うことに驚いたことや、道中に出逢ったポケモンたちのことや、そして今の自分のことなどを――最初はなかなか書き出せなかったものですが一旦、ペンを手紙に乗せますと、あら不思議、次から次へと言葉が浮かんでいきます。
 それはユキワラシがここまでちゃんと旅をしてきた証拠でもありました。
 これまでのことに想いを馳せながら、ユキワラシは書き続けていき、そして最後にはこう書いておきました。
『また、自分の旅を手紙にして送りまするっ』



『春真っ盛りな日々、調子はいかがでしょうか? かすかに冬の名残があったりしますが、そちらはどうでしょうか? 最近、救助隊の仲間が風邪をこじらせてしまいました。ラティアスも暖かくなってきたけど、体調管理は油断せずしっかりね。兄より』

「え、と。あ、後はこれとこれを入れて……っ」 
 カイリューの郵便屋さんの受付にて、ユキワラシが故郷に手紙を送る為の最終段階に入っていました。長方形の白い封筒の表に宛名、裏には差し出しポケモンであるユキワラシの名前を書きます。それから一枚の白い手紙と、桜の花びらの押し花を飾った一枚の紙を入れ、しっかり封を閉じました。最後には封筒の表に切手を貼りまして完成です。ユキワラシはドキドキしながらその手紙を差し出しますと、受付役のフライゴンはしっかりとそれを受け取り、カイリュー印のスタンプをポンっと押しました。
「…………確かに受け取った。後は任せて」
「あ、ありがとう、ございまするっ」
 配達準備完了したユキワラシの手紙をラティアスがフライゴンから受け取りますと、それを首からかけてある黒いカバンに大事そうに入れました。どうやら届けるのはラティアスが引き受けたそうです。ちゃんと届けるとやる気満々な様子を見せるラティアスに対し、隣にいたカイリュー局長は少し心配そうな顔をしていました。
「大丈夫? やっぱり僕が行こうか? 今回はかなりの北国だよ?」
「全然平気ですよー! 雪なんてへっちゃらですからー! 任してくださいですー! カイリュー局長は郵便連盟の方に行かないとですー」
 今回、ラティアスが手紙を届ける先は地図でもかなりの北の方にあり、中々、寒さも厳しそうなところが地図からでも想像できました。しかし、ちょうど今日、カイリュー局長は郵便連盟というこの世界の郵便屋の代表者達が集まって、それぞれの郵便屋の状況などを報告したりする会議みたいなものに出張しなければなりませんでした。フライゴンも元々は受付役専門ですから持ち場から離れるわけにはいかず、結局、ラティアスが行くことになったのです。
「す、すいませんでするっ。た、大変なことを」
「大丈夫ですよー。体の丈夫さが私の自慢ですからー! それに早くこの手紙を届けてあげた方がいいですー!」
 そろそろ出発しようとするラティアスに、カイリュー局長が一言待ったを入れますと、一旦、休憩室に消えました。程なく、また現れるとカイリュー局長はラティアスの首元に黒いマフラーを巻いてあげました。
「それでも、これをつけていった方がいいよ。これだけでも全然違ってくるからね」 
「ありがとうございますですー! それじゃ……行ってきますですー!」 
 暖かい感触を感じながら、ラティアスが笑顔で返しますと、勢いよくカイリューの郵便屋さんを後にし、そして、空高く、ユキワラシの故郷目指して羽ばたきました。

 ユキワラシの手紙を持ってラティアスは北へ北へと飛行していきます。
 体にぶつかってくる風は徐々に冷たさを帯びてきていました。
 空の色も青から灰色に衣替えしていっており、ラティアスから吐く息が白く浮かびあがり始めていました。
 更に北へ北へと進んで行きますと、雪がちらほら降ってきました。
 ここまで寒いものだったとは……と、流石のラティアスも戸惑い始めましたが、しかし、ここで戻るわけにはいきません。
 また寒さが重なってきて、手も凍えてくると、ラティアスは思わずカイリュー局長から借りたマフラーをぎゅっと握りました。
 不思議と暖かい感触がラティアスの手に広がります。
「……カイリュー局長のマフラーってやっぱり大きいんですねー。ぐるぐるいっぱい巻いてありますですー」
 その優しい温もりに心も温かくなったラティアスが更に進んでいきますと、雪は更に強くなり、吹雪となっていました。
 最初の方は大丈夫だったラティアスでしたが、強風に、冷たさと寒さで体力が確実に奪われていきます。おまけに雪によって視界も悪くなっていました。
 このままでは死んでしまってもおかしくありません。
 しかし、ぼろぼろになりながらもラティアスは気合で突き進みます。
 なんとしてでもこの手紙を送りたい。
 今はその気持ちだけで飛べているような感じでした。



『追伸:そういえば、カイリュー局長はお元気にしてますか? この季節になると、時々、あの日のことを思い浮かべます……。兄からよろしく伝えておいてくれるようお願いしますね。』

 そこは水路がたくさん通う、水の街とも呼ばれていたところ。
「ふぅ……今日の分はこれで終わりっと。まさかここまで来るとは思わなかったなぁ」
 その街の一角にある広場には一匹の山吹色に染まった龍ポケモン――カイリューが額(ひたい)をぬぐいながら、一息ついていました。その太い首からは大きなカバンがぶら下がっていて、頭にはツバ付きの黒い帽子を被っています。どうやらお仕事が一段落したようで、休憩しているようです。そんな、休憩中のカイリューに一匹のポケモンが物珍しそうに近づいてきました。紅白を身に染めた体に、お腹には青い三角形の模様が一つあります。可愛い子だなぁ、迷子だったりしてとかカイリューが思っていますと、その子が口を開きました。
「こ、こんにちはですー、おじさん」
「ん? あぁ、こんにちは」
「このあたりだと、みかけないポケモンですねー。ま、まさかおたずねものさんだったりしますかー!?」
「い、いや。決してそんなに怪しいものじゃないよ?」
 いきなり話しかけてきたそのポケモンはしばらくジィーっと、カイリューを覗いていましたが、やがて彼女の中で疑いが晴れたのでしょうか、ぱぁっと笑顔になるとカイリューの隣に座りました。
「わたし、ラティアスっていいますー。おじさんはなんてポケモンなんですかー?」
「カイリューっていうんだ。よろしくね、ラティアスさん」
「はいですー、よろしくですー」
「ラティアスさんはこの街に住んでいる子なのかい?」
「そうですよー。うまれもそだちも、このまちなのですー!」
 腰辺りに両手を当てながら、えっへん顔で答えるラティアスにカイリューは「そうなんだー」と答えていますと、今度はラティアスがカイリューさんの体に登ってきて、バックに手を当てました。
「カイリューさん。これはなんですかー?」
「ん? これかい? これはね、大事なお仕事の道具だよ」
「おしごと?」
 首を傾げているラティアスにカイリューが答えてあげました。
「うん、郵便屋さんっていう手紙を送る仕事をしているんだ」
 手紙という言葉を初めて聞いたのか、ラティアスの首はまた傾げています。
「手紙っていうのはね、誰かに言葉を届けるものなんだ。例えば遠くにいる相手に元気な姿を見せたりすることができたりとか、伝えたいことを届けられるものなんだ」
「へぇー! そうなんですかー!」
 手紙に興味を抱いたラティアスの目がキラキラと輝いています。すると、ラティアスはこんな質問をしました。
「ねぇ、カイリューさん。わたしもてがみをおくれますかー?」
「もちろん。送りたい方の名前と、その方が住んでいるところさえ教えてもらえば」
「えっとですねー。わたしのおかあさんとおとうさんにてがみをおくりたいんですー……えっと、住んでいる場所は『とおいところ』ですー!」
『とおいところ』という単語に、今度はカイリューが首を傾げます。もう少しだけ具体的な場所を教えてもらわないと、流石に届けることができません。カイリューが『とおいところ』はどんなところと尋ねてみましたが、ラティアスは『とおいところ』は『とおいところ』という一点ばかりです。さて困ったとカイリューが頭を抱えるときのことでした。目の前に新しい一匹のポケモンがやってきました。灰色と青色に染まった体、そしてお腹には赤い三角形の模様が一つありました。
「こんなところにいたのか、ラティアス」
「あ、ラティオスおにいちゃんですー!」
 ラティオスおにいちゃんと呼ばれた、そのポケモンにラティアスが近づきます。その背中は楽しげでありました。一方、ラティオスがカイリューの方を見やると、カイリューは帽子を軽く取って挨拶します。
「あのですね、あのカイリューさん、ゆうびんやさんなんですよー!」
「あ、お、お仕事、お疲れ様です」
 怪しいポケモンかと思っていたラティオスは、自分の勘違いに恥ずかしくなりながらも、声をあげました。その姿にカイリューは「いえいえ」と微笑んでいました。この街にはあまり来たことがないから怪しまれてもおかしくないかな、とカイリューさんは思っていたので、さほど気にしてはいませんでした。
「それですねー! いま、カイリューさんに、おかあさんとおとうさんにてがみをおくってもらおうとたのんでいるんですー! おにいちゃんももちろんかきますよねー? いっしょにおくりましょうですー!」
 ラティアスが意気揚々とそう話したときでした。ラティオスの顔色が少しだけ暗くなったような気が、カイリューからは見えました。ラティアスがなおも明るく手紙を送ろうと言っていると、それに比例していくかのようにラティオスの顔色も暗さが増していきます。すると苦虫をつぶしたかのような顔を浮べながらラティオスが言いました。
「っだから、お母さんとお父さんは『とおくのところ』に行ったって言ってるだろっ? そんなところに手紙なんか届くことなんかできないよっ」
 今にも泣きそうな顔をしているラティオスに、ラティアスはどうしたのと戸惑いの顔を浮べ始めました。一方、ラティアスとラティオスのやり取りを見ていたカイリューは気付きました。

『とおいところ』がどんなところかを。

 何も言えない状態のラティオスに、ラティアスが困っているとカイリューが二匹のそばに歩み寄りました。
「任して下さい。僕が必ず『とおいところ』に手紙を送ります」
 その言葉にラティアスの顔は明るく、ラティオスの顔は驚きでいっぱいになりました。
「……で、でもカイリューさん」
「大丈夫。どんなところにでも届けに行く。それが僕の一族が引き継いできた郵便屋のモットーだから」
 カイリューはラティオスに向かって安心させるかのようにそう言いますと、今度はラティアスの方に顔を向けて言いました。
「いいかい? 明日、またここで会おう。そのとき、お母さんとお父さんに書いた手紙を忘れずに持ってきてね?」
「はーい♪」
 その日の夜、ラティアスはカイリューからもらった紙に言葉をつづりました。
 まだ文字を覚えて間もないですから、文字の形は崩れているものが多かったですが、伝えたい気持ちは、そこにたくさん詰まっていました。
 お母さんとお父さんが『とおいところ』に行ってしまってからの日々。
 兄との日々であったり。
 友達との日々であったり。
 そして郵便屋さんに会ったときのことであったり。
 色々なことを書いていきました。
 そして最後に『はやくかえってきてね』と付け加えて、筆を置きました。

 翌日、約束した場所で手紙を受け取ったカイリューは「ちゃんと届けますから、安心してくださいね」と頼りになる声を二匹に残してから飛び立ちました。
 それから、一週間が経った頃でしょうか、再びラティアスとラティオスの前にカイリューが現れました。
「お久しぶり。手紙はちゃんと届けたよ。それでね、これ、君達のお母さんとお父さんから手紙だよ」
 カイリューは首からかかっているカバンから二枚の白い封筒を取り出すと、ラティアスとラティオスに渡しました。ラティアスが手紙を受け取って、るんるんと小躍りしている一方、ラティオスは信じられないものを見ているかのような顔を浮かべます。これは本物なのだろうか、そう封を切って中を読んでみたラティオスの瞳からポロポロと涙がこぼれていきます。
「この、文字、言葉……確かに、お母さんと、お父さんのだ……」
「えぇ、もちろん。本物だよ」
「あ、お兄ちゃん、もう読んでいるのですかー!? 私も読むですー!」
 そう言いながらラティアスは封筒をバリっと開けて、手紙を読んでいきます。最初は明るい顔だったラティアスでしたが、突然、目を丸くさせ、それからわなわなと体を小刻みに震えさせていきます。ラティアスの様子がおかしいことに気がついたカイリューがどうしたのだろうかと心配そうな顔を向けますと、ラティアスが叫びました。

「ウソつきなのですーーー!!!」

 手紙を地面にたたきつけると、ラティアスはどこかへと去っていってしまいました。
 あまりのできごとに、ラティオスもカイリューも止めることができませんでした。
 それからカイリューが地面に落とされた手紙を拾い、悪いと思いながらも「失礼」と断ってから読んでいくと、どうしてラティアスがそう叫んで去っていったのか分かりました。続けてラティオスもその手紙を読むと、ラティアスの身に何が起きたのかを理解しました。
 
 一方、頭がぐちゃぐちゃになって訳が分からなくなっていたラティアスは適当に街の路地裏に入り込み、そこでようやく止まると、声を上げて泣きました。ただただ声を上げて鳴きました。
 どうして、なんで、どうして、なんで。
 そんな言葉が繰り返し繰り返し、ラティアスの頭の中をぐるんぐるんと回し続けていきます。あまりにも頭だけに限らず、心もぐるんぐるんと回され続けたラティアスは思わず吐いてしまいます。
 息が苦しい。
 心が苦しい。
 こんなになるぐらいだったら、いっそ手紙なんて――。
「……はぁ、はぁ。ここにいたか、ラティアス。探したぞ」
「ラティアスさん……」
 その声に振り返ると、そこにはラティオスとカイリューがいました。
 二匹ともここまで走って駆けつけてくれたのでしょう、肩で息をしています。
「ラティアス、今まで、言わなくて、ごめん。『とおくのところ』なんてごまかして悪かったよ。本当のことを言ったら、きっと傷つくと思って……だから言わなかった、ごめん」
「おにぃ……ちゃ、ん……」
 今でも信じられないという顔のラティアスにカイリューが静かに歩み寄ります。その手に持っていたのは真実が書かれてある手紙が入っている封筒でした。
「ほん、とう、に、おかあさん、と、おとうさん、はいなくなって、しまったんです、かー? もう、あえないん、ですかー?」 
 途切れ途切れの言葉にカイリューがコクンとうなずきますと、ラティアスの瞳からまたぶわっと涙があふれていきます。
「きっと、伝えたかったんだよ。隠してたら駄目だって思ったから、これを書いたんだよ、きっと。」
 カイリューはラティアスの目の前でかがむと、手紙を差し出します。
 しかし、ラティアスには受け取る気がしませんでした。こんな気持ちにさせたものなんていらないと思っていたのです。全く受け取る気配を見せないラテォアスでしたが、カイリューはそのまま差し出し続けます。
「必ず届ける、そう約束したからね、ラティアスさんのお母さんとお父さんに。だから受け取って欲しいんだ。ラティアスさんのお母さんとお父さんが届けたかったのは、ただラティアスさんを悲しくさせたいわけではないし、泣かせたいわけでもないよ。」
 そう言いながらカイリューは封筒を再び開け、手紙を広げると、ラティアスに示しました。
 すると、ラティアスの目が丸くなります。
 そこにはもう一枚、手紙があったのです。
 実は先程、ラティアスが読んでいたのは一枚目の手紙だったのです。
 ラティアスが恐る恐るとその二枚目の手紙を受け取ると、読んでいきます。 
 それは、真実の先に書かれてあるもの。
 
 これからのラティアスに対しての送る言葉でした。

 読み進めていく度にラティアスの瞳から涙が次々とこぼれていきます。
 もう会うことはできない、だけど、伝えることができたもの。
 その奇跡をしっかりと握りながら、ラティアスは再び泣きました。 
 けれど、今度は悲しみばかりの涙ではありません。
 言葉を送ってくれたラティアスのお母さんとお父さん、そして、届けてくれたカイリューに対しての『ありがとう』の涙でした。

 翌日、例の広場で、ラティアスが一枚の手紙をカイリューに差し出しました。
「きのうはありがとうございましたですー。あの、これをもういちどだけおとうさんとおかあさんにとどけてくれませんですかー?」 
 カイリューがその手紙を受け取りますと、ラティアスは飛びっきりの笑顔で付け加えました。
「この『えがお』といっしょに!」
 
 伝えるという力を持った手紙、それを届けてくれる郵便屋、そして――。
 
 ラティアスが今、郵便屋を勤めるに至る、第一歩がそこにありました。 



『追伸、その二:そういえば、救助仲間で田舎からいっぱい木の実をもらったようで、こっちもたくさんおすそわけさせてもらいました。流石に一匹だけじゃ食いきれないので、近い内にラティアスにも送りますね。職場の方にも分けてあげてください。 兄より』

 どこからか、声がする。
 自分を呼んでいる声がする。
 そう感じたラティアスさんがゆっくりと目を覚ましますと、そこにはカイリュー局長がいました。
 吹雪の中、ラティアスさんを力強く抱きかかえ、懸命にカイリュー局長は羽ばたいています。
「良かった! ようやく目を覚ましてくれた!」
「え……カイリュー局長が、どうして、ここに、ですー?」
「やっぱり心配だったから追ってきたんだよ! もう、こんな吹雪の中で無茶しちゃって! 今まで意識が飛んでたんだからね!?」
「へ……そ、そう、だったんですかー?」
「まったく! 意識がないまま飛んでいたのが奇跡的だよ、本当に!」
 そこまで言うと、カイリュー局長はギュッとラティアスを絶対離さないように更に強く抱きしめると、全身に力を込めました。直に伝わってくるカイリュー局長の体温がラティアスの冷え切った体を暖めていきます。
「一気に、この吹雪を抜けるからね! いっくよー!!!」
 思いっきり一つ羽ばたいたかと思うと、カイリュー局長の体が一気に前進します。
 吹雪にも負けない力強い羽ばたきが空を切っていきます。
 こんなところに長時間いるわけにはいかない、一気に勝負をたたみかけるというカイリュー局長の懸命な羽ばたきのおかげで、なんとか吹雪を抜けることに成功しました。
 はぁはぁと息を切らせながら、カイリュー局長はラティアスを抱いたままユキワラシの故郷を目指していきます。
「え、あの、カイリュー局長、私ならもう大丈夫ですよー!?」
「駄目、さっきまで意識が飛んでいたんだから。このままユキワラシさんの故郷までそのままでいて」
 一向に解いてくれないカイリュー局長に、ラティアスの胸が高鳴っていきます。
「べ、別の意味で意識が飛びそうですー……」

 吹雪を抜けてもう少しばかりカイリュー局長が飛んでいますと、やがて村らしきところが見えてきます。
 その村の入り口付近でカイリュー局長は降り立ち、ラティアスを降ろしますと、彼女の顔は若干赤めいていました。
「大丈夫? 風邪でも引いちゃったかい?」
「い、いえ大丈夫ですー」
 それから二匹がユキワラシの実家を探す為に聞き込みなどをしていますと、程なく、見つかりました。
 屋根がワラで敷き詰められている、木製の小さな家に、ユキワラシの両親は住んでいました。カイリュー局長とラティアスはあいさつした後、事情を説明し、それからユキワラシからの手紙を渡しました。ユキワラシの両親はその手紙を読んで、息子の無事に喜んだり、その手紙から少しずつ大人になっているユキワラシが伝わってきたのか、涙ぐむところもありました。そして桜の花びらの押し花には感動していました。
 手紙を読み終えた後、ユキワラシの両親に感謝されたカイリュー局長とラティアスはこの村での温泉宿を紹介してもらい、著しく体力を消耗(しょうもう)させた二匹はそこで休んでいくことにしました。

「はぁー。気持ちいいですー。これぞ天国気分ってやつですー」
「うん、とっても暖まるね。このまま疲れもとんでいきそうだ」
 その温泉宿にある、混浴の温泉でカイリュー局長とラティアスはくつろいでいました。露天式となっている、その温泉からは夜空の星や月がよく覗けます。
「もう、夜になっていたんですねー。あっという間ですー」
「うん、本当にあっという間だったね。ところでラティアスさん」
「なんですかー?」
「体の方は本当に大丈夫?」
「はいですー。心配おかけさせてすいませんですー」
「もう……吹雪の中をどうして突っ込んでいくの……僕、すごいヒヤヒヤしたんだよ?」
「すいませんですー。どうしても届けたくてですー」
 なんとしてもユキワラシの両親に送りたかったというのもありましたし、必ず届けるとユキワラシと約束したというのもありましたが……しかし、カイリュー局長から「死んだら元も子もないでしょう」と言われたラティアスは口を閉じてしまいます。
 確かに危ないことをしたと反省するラティアスの首に、カイリュー局長の手がポンっと乗ります。
「でもまぁ、よく頑張ったね。ラティアスさんももう充分、『カイリューの郵便屋』が板についてきたよ、本当」
「カイリュー局長……」
 手紙を届けることの大切さや素敵なこと。
 それをラティアスに全て教えてくれたのは、他ならぬカイリュー局長でした。
 あの日から手紙も、カイリュー局長も――。
「でも、まだまだなところもあるからね? これからもちゃんと郵便屋としてしっかり」
「カイリュー局長」
「ん?」
 湯煙でカイリュー局長には見えないかもしれないけど、ラティアスはカイリュー局長に向かって、頬を赤らめながら笑顔で言いました。

「カイリュー局長、素敵なのですー!」  

 あの日、カイリュー局長がくれた手紙は今もラティアスの心を熱くさせています。




【おまけ】

「……それで、青三角と局長で温泉に泊まってきたと」
「はいですー! 温泉最高ですー! もうお肌がスベスベになりましたですー! 時代はやっぱり温泉ですねー!」
「…………」
「あれ、ライゴちゃん?」
「もしかして、怒ってるとか?」
「あわわ! あ、あのライゴちゃん、温泉まんじゅうとかお土産はちゃんと――」
「ええと、今度はフライゴンさんも一緒に――」
「青三角、局長」
「はいですー」
「はい」 
「…………覚えといて」

 この後、ラティアスとカイリュー局長はしばらく、居酒屋『大樽』でフライゴンにおごったとか、おごらなかったとか。


【書いてみました】

 昨日のチャットにて、とある成り行きで、きとらさんからお題がドラゴンタイプだし、ミーハーラティアスで何かというリクエストを受けまして、今回、書かせていただきました。一応、ミーハーなラティアスを書いたつもりですが、いかがだったでしょうか。それと世界観はポケダンみたいな感じで書いていきましたが、ちょっと人間くさすぎましたかね……? その辺がちょっと心配したりしますが(汗)
 
 さて、今日で冬休みも終了……その前に書き切ることができて良かったです。書き始めからまさかここまで長くなるとは予想にもしなか(以下略)
 楽しんでいただけたら幸いです。

 改めて、リクエストを下さった、きとらさん、ありがとうございました。 

ちなみに『ライゴちゃん』や『青三角』はお互いが勝手につけたニックネームです。なので地の文では通常通り『ラティアス』や『フライゴン』で書かせてもらいました。それとそれぞれの区切りとしてラティオスさんの手紙を書かせていただきましたです。

 ここまで読んで下さった皆様、ありがとうございました。

 それでは失礼しました。

【何をしてもいいですよ】 


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