英雄、レシラム、王、ゼクロム、プラズマ団、N、解放、ポケモン、理想、真実。
自分と同じ名前を冠した塔で、街の広場で、博物館で、観覧車で、電気石の洞穴で、緑の髪をした青年は、黒い竜と飛び去った。
ラセン、という名前を知った時、ひどくあの青年は目を見開いて、閉じた。螺旋の塔の存在は、雪花の町に着くまでは知らなかった。
母親にライブキャスターで尋ねた。この名前には、あの塔と何か関係があるのだろうかと。
画面の向こうで母は一瞬顔を曇らせて、一息ついて話してくれた。
生まれた時に、双子の兄がいたこと。父親は雪花の出身で、塔について調べていたこと。二人の名前を塔にちなんでつけようとしたこと。
そして、兄は産声を上げることなく死んだこと。
難産だったらしい。片方が助かっただけでも奇跡だと、当時は医者が言っていたと、母は苦笑した。
やっぱり感づいた?その顔は、娘の表情を見て気付いたらしい。無口な娘を持つと、何も言わなくても分かるものね、と呟いて、通信を切った。
双竜の町へ向かう途中の橋で、ゲーチスは言った。
王に選ばれた、止めたくば王の言葉の通りに対となる伝説の竜を従えろ。そして戦え。
その気がないなら、私達は王の号令のもとに人とポケモンを切り離す。
抑揚を付けた口調で、どこかわざとらしくそう告げて。何も言わない私に対して、黒いトリニティを従え去っていった。
主張しないから、誰も何も言わないのかもしれないけれど。
鞄の中のライトストーンを手渡された時、チャンピオンはとても真剣な顔をしていたけれど。
仮に、私が皆が言う選ばれた英雄であるとすれば。
それは何かの間違いだろうと、断言してしまおう。
レシラムが目の前に現れたとしても、私は静かに竜の意思を拒むだろう。
対となる竜がそろうことで、Nと戦うという事が決めつけられるのであれば、私はあえてそれに逆らってしまえば良い。
英雄なんかじゃない。ただの、トレーナー。それが私なのだから。
チェレンと勝負した。ベルが精いっぱいの励ましをくれた。彼も彼女も旅で何かを掴んだらしい。
私はどうかと言われれば、まだ何も分からない。
季節がぐるりと一周めぐっても、まだ見たことのない世界があると知ってるから。
ボールの中で呑気なジャローダが欠伸をした。何も変わらないこの子たちと別れるなんて、考えたこともないけれど。
ただ、英雄という称号にすべてを預けて、なにもかもをかけて戦えるほど、私は大きくなっていないから。
四天王の部屋へ続く道。退路は断たれた
「さぁ、行こうか」
独り言を漏らして、足を向けた。
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余談 N戦でレシラム抜きでバトルしたのはガチ。あくまで英雄なんかじゃないよ、という主張の元でバトルしてくれていたらうれしいなぁ。
【うちの主人公はこう思ってた】