イッシュ地方にあるはライモンシティ。
ヒウンシティやソウリュウシティに負けないほどの都会を築いており、更には街の一角に遊園地があったりする。そこで有名なアトラクションの観覧車。ゴンドラから見える景色は中々のもんだ。今は夕日が水平線の向こうに落ちようとしていて、紫から群青色への美しいグラデーションが空に描かれていた。間もなく夜がやってくるからか、眼前に広がる地上ではビルの明かりなどがつき始めてきた。
この観覧車に乗ると思い出す。
「ボクは観覧車が好きなんだ」
あれは半年以上前ぐらいかな。
いきなり緑色の髪の毛をした男――Nと名乗る男に観覧車を誘われた。
実はこの男、それ以前にも会ったことが会って……確か、カラクサタウンだったかな? プラズマ団っていう謎の組織野郎の演説が終わったときに、向こうから話しかけてきたよな。第一印象が根暗でなんか電波っぽい感じ。それと、早口で何を言っているのかギリギリでなんとか聞き取れるけど、なんというか若干、自分の世界に入っているのではないかと思う。うん、なんか勝手にこっちが聞きもしてないことしゃべり出していたりするし、うん。私ね、いういうタイプがめっちゃ苦手だ。
観覧車はどうやら二人乗りじゃないといけないらしく、一人でゆっくり乗させやがれこの野郎と、スタッフの首ねっこを掴んでやりたいところだったが仕方ない。ここで断って変な因縁つけられてもウザいし。私はその誘いに乗ることにした。
二人でゴンドラに乗るとき、スタッフの顔が赤くなったのを見えた。勘違いしてんじゃねぇぞ、この野郎。
私とNを乗せたゴンドラが上へと昇っていく。
「……最初に言っておくよ。ボクがプラズマ団の王様だ」
エイプリルフールはまだだぞ。
そんな感じでシラネっていう顔したけど、Nは勝手に話を進める。
プラズマ団の王様としてどうとかこうとか、自分はこうしたいとか。
なんというか、ねぇ、本当にウザかった。なんだ、コイツは。何を勝手に語ってやがるんだ。
私だって女の子だぜ?
胸のトキメキなんか鼻から期待してなかったけど、ここまでムードフラグをぶっ壊してくるとなると、呆れを通り越してイライラを覚える。
そして長かったような観覧車がようやく終わり、私とNがゴンドラから出ると、入り口にプラズマ団の二人が「N様」と言ったときに私の目は丸くなった、と思う。本当だったのか、それ。
そして、Nは自分の理想を語り、こう言った。
「ボクはチャンピオンを超える」
うん、この辺で私のイライラ度は臨界点を突破したわ。
Nの胸ぐらを掴んで、顔をグイとこちらに近づけさせ、こう言い放ったのを覚えてる。
「てめぇだけがチャンピオンを目指してるわけじゃねぇぞ、この野郎」
最初はNの言葉なんてよく分からなかった。
いきなりポケモンの解放とか、なんちゃらかんちゃら。
おまけに自分の正体を明かしてくるときた、もう訳ワカメである。
他人のことを理解してやれという言葉もあるかもしれないが、こんな奴のことを考えているだけでイラつく。
最初は本当にNに対しては見下していたというか、そんな風に見ていた。
「…………」
「お前さ、本当は怖いんだろ? な、怖いんだろ?」
「こ、怖いわけけけななないぞ、ここここのエリートトレーナーで、ああああろうもの、全っ然、こわくなど」
「めっちゃ、足震えてんですけどー」
そして今、時刻は間もなく夜のライモンシティ遊園地。
私は一人のエリートトレーナーであるナツキという男と一緒に観覧車に乗っていた。
こいつ、本当は高いところが苦手なくせに、無理に隠そうとしている。
バレバレなんだよ。
まぁ、そこはあえて言わずに、ナツキのテンパり具合を見て楽しむのが私の最近起こったプチマイブーム。
ほんと、コイツおもしれぇな。
その後、観覧車から降りたときのナツキの顔色悪さがどこまでひどかったかは言うまでもない。
「ま、サンキューな。おかげでめっちゃ楽しめたわ」
「ききき、きみは絶対、色々な意味で楽しんでいただろうっ!?」
「ん? なんだよ、アンタはつまんなかったのか? あぁ、そうか、そうだよな観覧車はやっぱり怖――」
「断じてちがーーーう!!!」
ナツキとそんなやり取りを交わしてから、私は「本当にサンキューな」と一言残しながら、ナツキにサイコソーダを一本投げると、遊園地を後にした。
もあんとした夏独特の気だるくなりそうな空気を感じながら、私は夜空を仰ぐ。都会の夜空は高層ビルとかがチカチカと騒いでるもんだから、星が黙ってしまって、全く見えない。ちぇ、流れ星がこの間に流れてきたりとかしたらどうしてくれんだ、という割とどうでもいい悪態をつきながら歩き続ける。
あれからまた旅を続けていく中で、何度も何度もNに会った。
もうコイツ、ストーカー罪ということでジュンサーさんに通報しようかなって思ったときもあった。だって、こんなに偶然なのっておかしすぎるでしょ、流石に。これがストーンをもらったもの同士の運命なんて言ったら……まぁ、ちょっと響きは悪くないかもだけど。
しかし、なんだろうな、Nと会っていくとな、これだけは分かったんだよ。
アイツも何かと戦っているんだろうなぁって。
自分のやりたいことを見つけたいっていうベルや、バトルマニアの域を越したいらしいチェレンや、もちろん強くなりたいっていう私と同じでさ。
アイツも何かと戦っているんだよな、きっと。
ポケモンに対して、自分には何ができるとか。
ポケモンにとって一番の幸せってなんだろうかって模索してんだよな。
お前も私達と一緒ってやつだよ。きっと、そう。
なぁ、N。
アンタも幼馴染みだったら、また違っていたのかな。
強めの風が一つ、私に吹き付けてくる。
まぁ、変えられないもんに今更、小言を言っても仕方ねぇよな。
とりあえず、身も心も準備万端になったし、そろそろ暴れますか。
なんかゲーチスっていうおっさんに手の平で踊れ的なことを言われたけど、まぁ、いいや。
自分でも言うのはなんだけど、私、暴れたら、他の奴らには手がつけられないほど、ヒドイらしいから。
あのおっさんの言う通りになるのがシャクだが、今から私が目指すべき相手はNだ。
本当に胸倉を掴んだのにふさわしい相手だって、今、思える。
待ってろよ、N。
今度はアンタからチャンピオンを掴んでいってやるからな。
そして決着をつけようぜ。
どちらかが英雄にふさわしいのか、じゃなくて――。
どっちがチャンピオンになれるかをさ。
ぶっちゃけ、英雄の称号やら世界平和とやらはその副賞でいいや。
【ギャグ的なおまけ】
「ぼ、僕はプラズマ団の王さ――」
「カット。噛んでるし」
「く、僕としたことが」
「早くしないと、アナタが言っていた女の子、来ちゃうんじゃない?」
「な、なんとかしてみせるよ」
観覧車内、ライモンシテイのジムリーダーであるカミツレ相手に練習するN。
カミツレ曰く、面白そうだったから手伝ってあげたとか、それからこのことは黙秘にしといたとか、しなかったとか。
【書いてみました】
前置き:こんなゴーイングゴーマイウェイな女主人公でもいいですか(
皆さんの物語を読んだ後、私も書いてみようと思い、観覧車のシーンを思い浮かべたら、このような物語になっていきま(以下略)
なんというか主人公は徐々にNのことを認めていったというのもアリかなと思いまして、あのような展開になっていきま(以下略)
それと、ライバル(?)と認めたお前と真正面からバトれて嬉しいぜ! みたいなものもあるかなぁとも思いまして、最後はあのような感じになりました。(汗)
【書いてみた】に続いてみましたが、ずれていたらスイマセン(汗)
追伸:物語では半年とか書いていましたが、実際、10月31日に始めたBWはNの「サヨナラ」を聞くまで実に四ヶ月以上、3月16日までかかりました。半年はかからなかったけど、時間(多分、インターバルが多いのと、回り道をしたかったから)をかけすぎた……? と振り返ってみる今日この頃です。
ありがとうございました。
【何をしてもいいですよ】