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  [No.2640] ファントムガール 投稿者:神風紀成   投稿日:2012/09/22(Sat) 21:59:28   99clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


ふと、何かを思い出した時は必ずそれに関する何かが近付いて来ているのだという。
まだ幼さを残した顔と、他人に接する口調が脳裏に蘇る。
彼女は―― まだレディではなく、ガールだった。


――――――――――――――――――――
魂。正確には霊魂。辞書で引けば『肉体とは別に精神的実体として存在すると考えられているもの』とある。その存在は宗教的価値観からも違っており、古代ギリシャ、キリスト教、果ては日本の仏道に至るまで様々な見解が成されている。
そのどれに当てはまるのかは分からないが、自分の知る限り、魂とは生きとし生ける者全てが持つ命の源である。何故なら、肉体が死んでも魂はそのままさ迷っていることがあるからだ。
本体が成仏しなければ、その人間は輪廻転生のルートに乗ったことにはならない。――と、この仕事に就く時に言われた。

『後乗せサクサクのような気がするのは気のせいだろうか……』

睡眠不足と疲労で、死神である自分が死者になりそうな上司の顔を思い浮かべ、モルテはため息をついた。
黄昏が終わった時間。生きる者は皆家の中に入り、愛する者達と共に過ごす。外は灯りで照らされているものの、光の届かない場所には異形の物が住まう。それらは時に、無垢な彼らに襲い掛かり、恐怖と混乱に陥れる。
彼らは、その異形の物を悪霊と呼んだ。そして、モルテも彼らから見ればその一つに過ぎない。
だが少しだけ違うこと。それは、彼が俗世間で言う所の『死神』であることだった。簡単に説明すると、モルテはサラリーマンでいう『営業部』所属で、その上司はオフィスで書類に追われている……そんな感じだ。
ただし仕事内容はそこらのサラリーマンよりずっと厳しい。身の危険に晒されることもあるため、どちらかといえばヤの付く自由業に近いかもしれない。
例えば――

『グルルルルル……』
『まずいな。死んでから相当時間が経っている。自分が何であったかすら分からない状態だ』

薄暗い路地。時折ホームレスが新聞紙を敷いて眠っている。そこでモルテは一つの悪霊と遭遇していた。元々は魂だったのが、ある出来事により自分が何故死んだのか分からず、そのままこの世界をさ迷い、ついには悪霊と化してしまった。
一番ありがちなパターンだが、一番危険なパターンでもある。

『落ち着け。お前はここにいてはならない。私が連れて行ってやるから、送りの泉に……』
『ダマレ、ダマレ!オレハコンナトコロデクタバルニンゲンジャナイ……』

最後の方は獣のような唸り声に掻き消され、意味が分からなかった。どうやら何か恨みを持って死んだらしい。しかしそんな人間がこんな所でさ迷っているものおかしな話だが。
いつもなら説得して同意の上で連れて行く所だが、この状態になるまで放っておかれてはまともな会話はまず不可能だ。
すまない、と心の中で詫びて持っていた鎌を振り上げる。

『ギャアアアアッ!』

シュウウ……と音を立てて禍々しいオーラが消える。白に変わった魂をそっと小瓶の中に仕舞い込む。これで一先ずは安心だ。緊張感が少し解けて、フッと肩の力が抜ける。

『……』

この仕事を始めてから、どれくらいの月日が経ったのだろう。もう数え切れないくらいの時間が流れ、数え切れないくらいの魂を送ってきた。何匹ものポケモンと知り合い、何匹ものポケモンを看取ってきた。
いつもそうだ。自分は死ぬことができない。相手が先に死んでいく――

(疲れた……)

路地の壁に背を預ける。一つの大きな目が、空を映す。星は見えない。
ふと気配を感じて路地の出口を見れば、不思議な光景が映った。
まず最初に目に映ったのは五匹のカゲボウズ。それぞれ違った表情をしているが、楽しそうだ。ケタケタと笑いながら誰かの後を付いて行く。
続いて現れたのはムウマ。友達なのか、ジュペッタと楽しそうにおしゃべりをしている。一方のジュペッタも幸せそうな顔をしていた。
その後にも数え切れないくらいのゴーストポケモンがぞろぞろと列を成していく。まるでパレードのようだ。

『これは……』

体に力が戻る。鎌を握り締めて体を起こす。胸が高鳴る。指先に血が巡り出す。
その行列は住宅街や店が立ち並ぶ大通りには行かずに、ただひたすら広場の方へと進んでいく。昼間はベンチに腰掛けて談笑するカップルや夫婦で穏やかな雰囲気が保たれているが、今は夜。灯りに囲まれた丸い円状の広場は、どことなく不気味な印象を与えてくる。
一緒にいるゴーストポケモンに邪魔されて、一番前の人物が見えない。ただ、柔らかい風に乗ってほんのり甘い香りが漂ってくることに気付いた。
不意に、彼らが止まった。ぶつかりそうになって慌ててこちらも立ち止まる。
何十もの目がこちらを見ていた。一瞬怯んだが、敵意を持っている様子はない。風に押し出され、一つの人影が前に出た。
目を疑う。

「……何の用?」

セミロングの髪が夜風に揺れる。香りはあそこから漂っているらしい。少し物鬱げな表情は、とても少女と呼ばれる歳の子供とは思えない。とある花魁を思い出す。二百年近く前の話だが、ジョウト地方で知り合った花街一番の花魁。その美しさだけでなく、全身から漂う色香は多くの男性を魅了し、骨抜きにした。
そして彼女は『視える者』であった。だから知り合うことができた。
美しい着物と簪に身を包み、夜でもそこだけ光があるように見えた。モルテも、魅入られた一匹であった。

『獣に見初められたのは初めてだよ』

気だるそうに足を伸ばして煙管を吹かす姿は、情事の後を思わせた。当時から死神として仕事をしていたモルテは、時折仕事の合間に彼女に会いに行くようになった。お金の代わりに、自分の仕事の話を持って。
その彼女も、とある男に付き纏われて精神を病み、最期は自ら命を絶った。
――あの時のことを、今でも忘れない。忘れるはずがない。
彼女の魂を回収したのは、自分なのだから。
手首を切って変わり果てた姿になった肉体の側に浮いていた、ちっぽけな魂。男の存在に震えながらも、まだ美しさは保っていた。
自分が行くと、運命を分かっているかのように擦り寄ってきた。そのまま汚される前に回収し、転生させた。
まさか……。
少しの期待と、幾許かの不安が入り混じった声で、その名を呼ぶ。

『コウ……?』
「?」

首を傾げて、そのまま立ち止まっている。秋の風が、一人と一匹の間を吹きぬけていく。口を開いたのは、彼女の側にいたカゲボウズだった。

『おいカオリ、キャンディーくれ』
「ほら」

空気を読むどころか、読もうとも思わない相手にモルテは少しカチンと来た。だが彼女は別に気にしていないらしい。その振る舞いに、自分がその瞳に映されていないことを痛感する。
何故こんなにも気になるのか。彼女に雰囲気が似ているから?それもあるけど、もっと別の明確な理由がある気がする。
数個のキャンディーを口の中に押し込んだところで、再びその瞳が自分を映す。

「見えてるんだろ」
『ああ……』
「驚かないんだね。まあ当たり前っちゃあそうだけど」

ゴーストタイプがゴーストポケモンにビビるとか興ざめだよね、と独り言のように呟く。月明かりに照らされて、白い肌が輝いていた。まるで蛍石のようで思わず見とれる。
コウではなかった。だがその名前の中に、しっかりとその文字は刻まれている。

『カオリ』
「そうだよ。私はカオリ。香るに織物の織で、カオリ」


カオリも『視える者』だという。ただし少し違うのは、視えるだけでなく、その視える相手に懐かれるということだった。ボールには入れないし、ましてゲットするつもりもない。だが彼らは自ら彼女の後に付いて行く。月明かりに照らされた彼らの影は、奇妙な形をしていた。実体があるのは一つだけ。だがその影にくっついて、何か別の物達の影が揺らいでいる。
よほど月明かりや街灯がきつくないと気付かないが、人間よりもそういうことに敏感なポケモン―― 特に獣系のポケモンにはよく吠えられるという。
直感的に怯えているのだろう。そう。自分を見てはぐれ魂が喚くように。

「中には襲ってくる奴もいるけど、そういうのは皆彼らが何とかしてくれるんだ」

彼らにとってはよほど居心地のいい場所らしく、しきりに喋っている。時折彼女に話しかける者もいる。驚いたことに、彼女も彼らの言葉が理解できるらしい。
テレパシーのような物だと、彼女は説明した。頭の中に声が直接響いてくるのだと言う。

「学校では一人だよ。あ、これでも私高一。実年齢よりも上に見られることが多いけど」
「カゲボウズが五匹もいるのには理由があってさ。彼らは負の感情を好んで食べるから、私の生活は絶好の餌場みたいだ」
「別に最初から視えていたわけでも、ましてや話ができたわけでもない」

左手親指の付け根。目を凝らして見ないと分からないが、確かに一本の線が入っている。

「小学生の時に、彫刻刀でザクッとやっちゃったんだ。血がボタボタ落ちて、もう少しで手術するところだったよ。
今思えば、あれがきっかけだったんだ」

その『血』を流したことで、彼らが見えるようになった。嘘のような本当の話。家の頭領である祖父にそっと話を聞いたところ、他言無用を前提にこんな話をしてくれた。
それは、火宮という家の血が出来た時の話。

昔々、とある村に忌み子が生まれた。その子は同じ村で大火傷を負って蔑まされていた女と一緒に、村から出された。
その女は子供を捨てることなく、むしろ同情を感じて大切に育てた。村から少し離れた川近くの水車小屋で。
子供はすくすくと育ち、美しい少女へと成長した。
ある時、少女は川の近くに大怪我を負った若い男が倒れているのを見つける。体には矢が刺さり、あちこちから出血していた。
親である女を呼び、水車小屋に連れて行き、山から薬草を持って来て看病した。やがて男は意識を取り戻し、多少の会話が出来るくらいまで回復した。
男はここから遠く離れた街の方から来たらしい。この怪我は戦争で出来たものだと説明した。この家と近くの川、そして山にしか行ったことのない二人は、男の話を面白いと思った。
もっと話をしたいということで、男はしばらくそこで生活することとなった。
ところがある日、川の方へ水浴びをしに行った少女が夜になっても帰ってこない。女と共に探しに行った男は、川原で裸で震えている少女を見つける。
見れば彼女の肌には殴られた跡があった。それだけで全てを察した男は、震える彼女を小屋に送り届けた後、近くの村へと向かった。
そして―― そこにいた男を皆殺しにした。
その男は人間ではなかった。生まれながらにして霊獣の血を引く人間だった。普通の人間には無い能力を一国の王に利用され、兵器にされていたのだ。
男は水車小屋から出て行こうとするが、少女がそれを止めた。その夜二人は交わり、月が満ちて一人の子供が生まれた。
その子供が作ったのが、火宮家の原型となった一族。

「私はその末裔なんだって。だから何って思うけど」

そう言って冷たく笑う彼女の横顔は、香によく似ていた。
もしかしたら、香もその一族の子孫だったのかもしれない。
ということは、この少女も香の子孫に当たるのか。

「寒いなあ」
『家に帰らないのか』
「帰ってもね」

酷い面構えの叔母の顔が浮かぶ。今夜は何をしてくることやら。首を絞めるか、毒を盛るか、ならず者をけしかけてくるか……。
それでも屈しない、あざ笑う顔を見て、ますます彼女は怒り狂うだろう。
それでいいのだ。

『このまま朝までいるつもりか』
「うん」
『風邪を引くぞ』
「シャンデラがいるから」

独特の炎が差し出される。それは不思議なくらい温かく、寒さを遮断していた。

「……ねえ」
『何だ』
「ハグしていい?」

驚いたのはモルテだけではなかった。カゲボウズが喚いている。不満げな顔でカオリはモルテを見た。

「うん、大体予想はしてた」
『いや…… 構わないが』

両腕が体に回る。心臓の音が聞こえてくる。生きている人間の証拠だ。しばらく振りに感じるその温もりに、モルテはしばし硬直していた。


――――――――――――――――――
『カミヤ カオリ』

誕生日:12月24日 山羊座
身長:157センチ(高一) 164センチ(レディ・ファントム時)
体重:54キロ        60キロ
在住:不明
主な使用ポケモン:特になし(手持ちとしてはいない)
性格:いじっぱり
特記事項:上の名前で呼ばれると激高する。下の名前もあまり良い反応を返さない。ミドリは後輩。

いつのまにか レギュラーに なっていた。
18さいで レディ・ファントムと なる。 つうしょう レディ。
ちなみに なづけおやは ねいろさん。 ファントム・レディと よぶあんも あったが ぜんしゃが きれいなので そうなった。
しらなくて いいことを しっていたり する。

ひにくやで あつかいづらい。 でも かのじょの はなしが いちばん かきやすい。
ついでに マダムと くませると なんでも アリになる。 カクライさん とは けんえんの なか。

―――――――――――――――――
リメイクその2。カオリのデビュー作。多分。


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