マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ
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  [No.2643] あるカフェの片隅で 投稿者:神風紀成   投稿日:2012/09/23(Sun) 14:34:36   85clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

ゼクロム。レシラム。キュレム。ついでにイーブイ。
前者はトレーナーが死ぬまでに会いたいポケモンとして、アンケートで毎回上位にランクインする。
後者は『もふりたいポケモン』として、どの世代にも人気である。中には宗教的な意味合いでの信者もいる。
ちなみに、バトルで使えるかどうかというのは、また別の話らしい。

このカフェでは、彼らはそういうポジションを貰っていない。
商品の名前として、訪れる客をもてなすためだけに存在している。

――――――――――――――――
キュレムはお冷を指す。運ぶことはできるが、自分はあまり好きではない。何故なら、自分はマグマラシというポケモンで、なおかつ炎タイプだからだ。
天気は晴れ。風はやや強め。空を見上げれば誰の手持ちなのか、それとも野生なのか。モンメンが一列に並んでふわふわ漂っていた。下を歩く人間がくしゃみをする。中にはハンカチで目元を拭っている奴もいる。
……花粉症は辛い。
春の次は秋に来る花粉。春は杉がその代表だが、秋はブタクサなどが挙げられる。だが草ポケモンが散らす胞子や綿もそれに入るらしい。特に車が多いライモンシティ、ヒウンシティは花粉症患者が多く、病院を訪れる患者が後を絶たないという。
元々、花粉だけではアレルギー反応は起きない。そこに排気ガスが加わり、花粉症を引き起こす。一度天然の杉が沢山生えている林に行った花粉症患者は、友人に連れられて嫌々車から降りたところ、全くくしゃみも涙も出ずに驚いた、という話を聞いたことがある。
さて、自分は未だに縁が無いが、花粉症にかかるのは人間だけではない。ポケモンだって、花粉症にかかることがある。
ふわあ、と欠伸をしてマグマラシは店内に戻った。ライモンシティはギアステーション前にある、個人経営のカフェ『GEK1994』。このマグマラシの仕事は、主人であるユエに頼まれて看板になること。
いわゆる『看板息子』である。
子供連れはあまり来ないが、例えばOLなどがこちらを見つければ、後はこっちの物。見つけた!というような反応で一気に駆け寄り、相手の顔を見上げる。ここですぐさま足に擦り寄ってはいけない。相手の反応を見て、笑顔を見せれば最初に二本足で立つ。そこで頭を撫でてくれれば、後は足に擦り寄る。
何事も出しゃばらないことが肝心なのだ。それに、中にはポケモンが苦手な人間もいる。まあそういう人間は目が合った瞬間に分かるが。
こちらにあまり良い印象を抱かない相手は、目が合った瞬間の表情で判断できるのだ。
そんなわけで、今日もマグマラシはカフェにお客を呼び込むのに一役買っている。


それは、一日中降り続いた雨が、残暑をすっかり吹き飛ばしてくれた、ある日のこと。午後になってから一人の女性が風のように現れた。
雑誌のモデルにいそうな、背の高い女性だった。年齢は二十代というところ。マグマラシから見れば、シルエットだけで判断すればユエの方がボディラインは良いと言える。ちなみにこれは♂ポケモンとしての価値観も微妙に入っている。
ツンとすまし顔だが、ここに入るのが楽しみで仕方なかった、というのが雰囲気で分かる。どんなにごまかしても、分かる人には分かるんだろう。現にマスターであるユエは心からの笑顔で『いらっしゃいませ』と言った。ちなみに彼女は表情を作るのが上手だ。ただぎこちなさは、無い。
メニューを開いた後、お客はモンスターボールからエンペルトを出した。毛並みがいい。頭にあるのは王者の風格を放つ金色の角。王冠に見えるのは気のせいではないだろう。
睫が長いことから、♀だと思われる。
ソファ席に座って、少し退屈そうに店内を見渡していた。

「よう」

自分の数倍上にある顔を見ながら話すのは、すごく疲れる。特にオレは普通体勢が四つん這いだから、仁王立ちに鳴れていない。進化すればこの悩みも解消されると思うけど、主人はバトルをあまりさせてくれない(というか機会が無い)からレベルアップすることもない。
エンペルトがソファから降りた。主人である女性は何も言ってこない。

「何用かしら」
「お前は注文しないのか?」
「お小遣いもらってないのよ」
「んなもん、オレだって貰ってねえよ」

お小遣いを貰うポケモンなんて聞いたことがない。俺が食べる物は、ここのアルバイトや店員に休憩時間にもらう賄い食の残りだ。
はっきり言って食べ飽きてるけど、ユエは期間限定商品はなかなか食べさせてくれない。
理由は『贅沢』だかららしい。

「ゼクロム飲むか?」
「ゼクロム?ポケモン飲むの?」
「違う。ここではブレンドコーヒーのことを言うんだ。ちなみにミルクコーヒーはレシラムゼクロム、な」

一先ずキュレムが運ばれてきた。喉が渇いていたのだろう。すぐに飲み干して――その表情が『!?』に変わるのをオレは見逃さなかった。
ガラスコップの底に印刷された文字。
『ひゅららら』

「……どういうことなの」
「いや、こういうデザインだから」

付き合いたて、熱々カップルで来るのはお勧めしない。以前オレは、これを見てしまって水を噴出した男が彼女に振られたシーンをその場で目撃したことがある。
熱しやすく、冷めやすい。この場合はキュレムがそれを冷やしてくれたということだろう。いささか冷やしすぎな気もしたが。
ユエはその時は無表情でマスターとしての対応をしていたが、その日店を閉めた後、耐え切れなくなってカウンターをバンバンと叩いていた。『くそwww腹筋崩壊しかけたww』『リア充ざまあww』と言っていたことは、従業員には内緒だ。

「名前長くない?」
「オレも最初はそう思ったんだけど、ユエがどうしてもって言うから」
「変な人ね」

ゼクロムが運ばれてきた。カップにはこのカフェのマークがプリントされている。『1994』を真ん中に、トライアングル式に『GEK』の文字が並んでいる。色は緑かチョコレート色。この時は緑色だった。
一口啜って、ほう……とため息をつく。
そんな主人を羨ましそうに見つめるエンペルトに、オレは持ちかける。

「お前も飲むか?」
「だからお金持ってないのよ」
「奢る」
「……」

考え込むエンペルト。ゼクロムを飲みたいという気持ちと、プライドが天秤にかけられている。一分、二分、三分経過した。カップ麺が作れる時間だ。もっとも、自分は一分立たずに開けてそのまま食べる派だが――
話が逸れた。約五分経ったところで(生麺タイプが作れる時間だ)、エンペルトが目を開けた。

「飲む」

カウンター裏へ行って、コーヒー豆をブレンドする。キリマンジャロにモカ、ブルーマウンテン。うちのゼクロムはザラザラしてなくて少し甘みが強い。モカを多く使っているからだ。
流石に企業秘密ということでそこは見せない。
主人がいつもしているやり方で入れる。そこで忘れてはいけないのは、必ず手袋とマスクとゴーグルをすること。ユエはしていないけど、オレはしないといけない。毛が入ったら大変だ。
せっかくなのでとっておきのカップに注ぐ。黒い陶器。取っ手が独特の形をしている。底の文字を見て、思わず笑う。
小物に隠されたネタを、ゼクロムと一緒に堪能してもらおうか。

「できたぞ」

お盆に乗せたカップを見て、エンペルトは目を丸くした。実はこれ、ゼクロムをモチーフにしたカップ。レシラムもあるけど、そちらは主にミルクを使ったドリンクに使うことが多い。
ジグザグの取っ手。ただし持ちやすいようにきちんと改良してある。

「何これ」
「ゼクロムカップ。レシラムカップもあるぞ。ちなみにお冷を入れるのはキュレムタンブラー」
「すごいアイデア心ね」
「アイツに直接言ってやってくれ。このカフェのメインはゼクロムとその小物なんだ」

ふと店内を見渡せば、そこかしこにポケモンをモチーフにしたグッズがある。
たとえばタンブラーを乗せているコースターはディアルガの胸部をデフォルメした物だし、カウンター隅の籠に置いてあるキャンディーは、色合いがクリムガンとアーケオスの二色だ。

「美味しい……」
「火傷には気をつけろよ」
「分かってるわよ……  ?」

カップの底が見えるまで飲んだところで、何かが薄っすら書いてあるのに気付く。もしやタンブラーと同じネタかと思い、一度口を離して深呼吸する。
そして一気に飲み干し、底を見る。

『ばりばりだー』と書かれていた。

「……ナイス」

「このカフェ、元々はユエのじゃなかったんだ。『diamate』って名前で、主人はそこで働いてた。看板娘みたいな感じで。お客の出入りはあんまりよくなかったけど、当時のマスターが元・警部だったことで部下がよく休憩しに来てて、それで成り立ってた。
だけど三年位前に、そこのマスターがユエに店を預けるって言い出した。理由は分からないけど、とにかく店を受け渡した後フラリと何処かへ行っちまった。その後の消息は未だ掴めてない」
「何故かしら」
「ユエは多分知ってる。だからユエはマスターが戻って来る時まで、ここを守ろうと努力してるんだ。最初はなかなか大変だったけど、今ではリピーターも増えた。特に女子高生が多くてさ。あの年代のクチコミ効果は馬鹿に出来ないぜ」

最初、二人だったのが次の日には三人か四人に増えている。ついでに『課題セット』(そのまんま。課題をして良い代わりに特定の飲み物と軽食を付けたセット)を学生限定で始めたところ、女子高生の使用率が三倍になった。
若いがそこまで騒がしいタイプではないユエを慕い、大人しいタイプも集まってくる。中には相談事をしてくる人もいる。そんな彼女らの話を、ユエはゼクロムを淹れながら聞く。その間、従業員達は忙しくなる。
ユエが話を聞くことに集中しているからだ。
こんなのアリか、と思う人もいるかもしれないが、未だに苦情が来たことは一度もない。

「皆、ユエに話を聞いてもらいたいんだ」
「……」
「話を聞いてもらうだけで大分スッキリした顔で帰っていくからな」

女と男の違い。それを知ることが、付き合いを円滑に進める第一歩だという。
女はただ話を聞いてもらいたい生き物。男は何か意見を言いたがる生き物。
女が相談事、と言って話し始めた時は、男は黙って相槌を打っていればいい。そして、『どう思う?』と聞かれたら決して自分の意見を言ってはいけない。『君が正しいと思うよ』『大変だったね』と言わなくてはならない。
たとえどんなにその女に非があったとしても――というかそんな女とは別れた方が身のためだが――相手を否定してはいけない。


少し店を周りに任せ、一日一本のお楽しみに火を付ける。いつから吸い出したのかは分からないが、健康の害にならない程度に楽しむようにしている。
左手で持ち、煙を吐き出す。先から白い線が揺らいで空に上がっていく。
今のところ、順調に来ている。マスターが戻って来るのが何時になるかは分からないが、それでも何かあったら連絡をくれるはずだ。
そう信じたい。

「……」

流石にもう、半袖で外に出れる季節ではなくなってきたなと、ユエは二の腕を押えて思った。


―――――――――――――――――
『ミナゴシ ユエ』

誕生日:9月16日 乙女座
身長:165センチ
体重:64キロ
在住:イッシュ地方 ライモンシティ
主な使用ポケモン:バクフーン
性格:ずぶとい
特記事項:体重が重いのは胸のため。子供が大の苦手。高校時代に剣道部を全国優勝に導いた経験あり。

じつは このはなしでは なまえは まだ でていなかった。
あとに なって やっと なまえが あかされた。
べんきょうは あまり できないが ざつがくは たくさん しっている。
とくぎは コーヒーを いれることと りょうり。

ひょうじょうが よく かおに でるため つきあいやすい。
タバコを すうという せっていは さいきんに なって つくられた もの。

――――――――――――――
リメイクその3。面倒なのでユエも登場させた。


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