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  [No.2647] 雨の中で 投稿者:神風紀成   投稿日:2012/09/24(Mon) 20:55:10   71clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

雨は、あまり好きではない。あの日のことを思い出すから。
灰色の石は降り注ぐ雫で黒へと変わり、あの人の面影を消していく。
目を閉じれば、今でもそこにいるような気がする。
何も言わない骨となった貴方は、石の底で永遠の安らぎを手に入れたのだろう。痛みも苦しみも感じない、ただの骨。意味ある物は貴方に降り注ぐ雨の雫のみ。
それは、貴方を清めてくれるのだろうか。

『ねえ、何で君は泣かないの』

答えは簡単。失う物が無いからだ。

――――――――――――――――――――
傘の先から溜まった雫が落ちた音で、カズオミは目を開けた。足元を支えるアスファルトは既に黒く濡れ、その天気独特の匂いを醸し出している。太陽の光を浴びて熱していた鉄が、冷やされて冷めていく匂い。
そういえば昔嗅いだ物は別の臭いも混じっていたことを思い出す。土の匂いは幼い頃嗅いだ。まだ故郷が開発されていなかった時代。今となっては、はるか昔のことのように思える。実際そうなのだが。
ブルーシートを被せられていても漂う、その臭い。不謹慎かもしれないが、特に雨の日はより濃くなる。その臭いが叫んでいるように思えたのは、気のせいだったのだろうか。
雨に濡れた髪を揺らして、頭を下げる。目を瞑り、両手を合わせる。それは一種の条件反射に近かった。だが自分の心には、懺悔の気持ちがいつもあった。
それが誰に対してなのかは―― 分からない。
周りに人はいない。あのざわめきは、ここにはない。誰かの泣き声と、苦しげに顔を歪める後輩。彼はまだ刑事だった。両親共々美術系の仕事だったのに、何故か彼だけはこの職についた。

『いや、何ででしょうね。俺にも分からないんすよ』

一緒に飲んでいる時、決まってその話題になった。最後に見た時よりかなり痩せている体を反らして、彼はグラスを煽った。

『死んだ親父が最期まで良く言ってたんす。何でお前はわざわざ死に行くような仕事についたのかって。酷くないっすか?全国の現場を走り回ってる人達に失礼っすよ』
『その中には、お前も含まれているのか』
『当たり前じゃないっすか!俺はこの仕事に誇りを持ってますから。そりゃ、理想と現実のギャップに悩むことはありますけど……』

大分酔っているらしい。彼はカウンターに突っ伏した。

『それでも……。俺はこの仕事について良かったと思ってます。生と死を一番近くで見ることができるって、この仕事くらいじゃないっすか。消防士や病院に勤めている人もそうだけど、仏さんの無念の声を聞いて、自分達に出来る事をする。
この時代に、大切なポジションでいたいんすよ。刑事として』

今でも彼は、そこに所属している。ただし、もう刑事ではない。警部だ。当時の私と同じように刑事である一人の部下を引っ張り、指導しているらしい。
理想と現実のギャップに幻滅しても、なお自分のできることをしている彼を、私は羨ましいと思う。
私は――

「逃げた、のか……」

雨音は途切れることなく、傘を打ち付ける。あの日を思い出す。何故か人生の転機を迎える時は決まって雨が降る。雨男なのだろうか。それにしたって、嫌な運の持ち主だ。
例えば、彼女にカフェを預けたいということを告白した日。
彼の面会に行く日も、必ず雨が降っている。
警部という職業を辞めた日は、台風が近付いていて家に帰れないほどの大雨が降っていた。
そして、

「父さん」

父が、死んだ日。そして、彼の葬式の日も。

父は弁護士だった。母は私が幼い時に事故で亡くなり、以来男手一つで育てられた。
私が異常な雨男なのに対し、父は異常な晴れ男だった。母が死んだ日は、秋なのに二十五度を超えるほどの暑さだったらしい。
父は自分のその運を嫌っていた。よく酒に酔うと、私に話した。

『お前は、母さんの運を受け継いだのかもなあ』

母は雨女だったそうだ。幼い頃から特別な行事の度に雨が降り、クラスメイトから疎まれた。遠足、運動会、文化祭、修学旅行。
母もその運を嫌い、あまり外に出なくなった。すごいのは、母がその場からいなくなれば、そこがどんなに激しく雨が降っていても、十分も経たないうちに雲が晴れ、青空が見えてくる。
大学に進み、父と出会い、やっと晴れ間を見る日の方が多くなったという。

母が死んでからは、自分が雨を降らす役になった。
だが父もいなくなった今、この運はいらない物でしかない。

ポテポテという足音がして、カズオミは我に返った。道路の色がいくらか薄くなったように見える。傘に打ち付ける雫の音が、合唱から独唱へと変わっていた。
視界の隅に入る、緑色と朱色の影。背丈は腰くらい。自分の体が濡れるのも構わず、しきりに手を天に向かって伸ばしている。
それと同調するように、光が差し込んでくる。

「……!」

思わず傘を閉じる。ぽつん、と頭に雫が落ちたが、それ以外の打ち付けるような感触は無かった。空を見上げて、その理由を知る。
買ったばかりの青の絵の具を、思い切りぶちまけたような――
葉に付いた雫が太陽の光を浴びて、宝石のように輝いている。水溜りに空が映し出されていた。風が吹いて、波紋が出来る。雲が移動していくのが見えた。
隣を見て、その相手と、その原因を知る。

「ドレディア……」

緑のドレスを纏い、巨大な花飾りを頭に付けたような姿。普通に見れば場違いな女性だと眉を顰めるところだが、今はその理由は思い当たらない。何故なら、その姿が彼女の素の姿だからだ。
ドレディア。その外観から、世間でセレブと呼ばれる人間達のポケモンになっていることが多い。頭の花は大きいほど育て方が良いとされているが、上手く育てるのはプロでも難しい。
ドレディアが野生で出るという話は、カズオミの経験では聞いたことがなかった。おそらく誰かに飼われていた物が野生化したのだろう。その証拠に、今使った技は決して野生では使うことがない。

「『にほんばれ』、か」

少しの間、日差しを強くして炎タイプの技の威力を上げる。ソーラービームを放つまでの時間を短くする。バトルをする立場でなくとも、常識として学校で必ず習う知識だ。
ドレディアがこちらを見た。どうやら、この雨で困っているように見えていたらしい。少しもじもじとした仕草で下を向く。
傘を左手に持ち替え、そっと右手を差し出す。目がこちらを映す。

「ありがとう」

少し経ってから、ドレディアの手の部分である葉がそっと差し出された。雨に打たれたのだろう。濡れている。ポケットからハンカチを出し、渡す。

「良かったら使ってくれ」

ギンガムチェックの刺繍が施されたそのハンカチは、男が持つにはあまり相応しくない色をしていた。白地に赤と青と緑の三色。普通なら自ら選んで買うことはない。
それを送ってくれた『彼女』の顔を思い出し、カズオミは目を閉じた。
あの日、告げた瞬間彼女がどんな顔をしていたか思い出せない。覚えておくべきことのはずなのに、思い出そうとすると靄がかかったように、そこだけボウッとかすんでしまうのだ。
忘れたいことにインプットされ、そのまま知らず知らずのうちに消去されてしまったのかもしれない。随分都合の良い海馬を持ってしまったものだと、自嘲の笑みを零す。
その割りに、あの雨の記憶は忘れることがない。あれから四十年近くが経過しているというのに――

(忘れるな、ということか)

また意味合いは違えど、それと同様に強く焼きついてしまっているのかもしれない。もしくは、忘れてはならないということか。
疑う、ということをその仕事についてから強いられてきた。相手の隠していることを見抜く。自殺か他殺か見抜く。事件関係者を心の底から信じてはならない。そうしないと、裏切られた時のダメージが深くなってしまうから――
かつて尊敬していた父とは全く正反対のポリシーが、いつの間にか心の中に刷り込まれていた。

『相手を信じる。何があっても。判決が下るまで、相手を信じぬく』

差し出されたハンカチを仕舞い、カズオミは立ち上がった。傘はもう開くことは無い。そしてそこで何故こんな場所にいるのかを思い出す。散歩の途中だったのだ。雲行きが怪しくなってきたので傘を持参し、ここらまで来た所で急激に降り出した。それは風も伴う激しいもので、このまま進んでは傘が御猪口になってしまうと判断し、しばらくの間傘を差したまま立ち尽くす羽目になったのだ。
雨は上がり、空気はカラリとはしていないものの、先ほどの湿り気は引いている。自宅であるアパルトマンがある街目指して、カズオミはゆっくりと歩き出した。

それから三百メートルほど歩いたところで、後ろで何か鈍い音がし、振り向けば先ほどのドレディアが転んでいたのは、また別の話である。
その縁でそのまま『彼女』を手持ちポケモンの一匹にすることになるとは―― 今の彼が予想することはなかった。

――――――――――――――――――――
『クロダ カズオミ』

誕生日:不明
身長:179センチ
体重:70キロ
在住:不明
主な使用ポケモン:ドレディア
性格:しんちょう
特記事項:『マスター』と呼ばれていることが多い。本名を出すのは多分これが初。個人情報が不明な欄が多い。

カフェ 『diamante』の マスター。 いまは ユエに ゆずり かいがいに いる。
もと けいぶで ある じけんで ユエと しりあう。
ちちおやは べんごし だが 12さいの ときに しぼう している。
ユエの がくせい じだいの ほごしゃ ポジション だった。

ストイックな ふんいきと ときおり みせる やさしさに ほれる じょせいが おおい。
いまだに みこん だが べつに そのけが あるわけでは ない。

―――――――――――――――
リメイクその4。数少ない男性キャラ、マスター。
双子の存在を知っている人はどのくらいいるのかしら……。


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