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  [No.2682] バトルとはちょっと違うかもですが 投稿者:No.017   投稿日:2012/11/06(Tue) 20:33:28   68clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

単行本「霊鳥の左目、霊鳥の右目」より引用します。


 このあたりでいいだろうかと、あたりをつけて青年はキャモメ絵馬の一番上に新たな一枚を重ねる。この神社の御利益は勝負事――彼は願掛けの相手を想った。神など信じてはいなかったが、誰かの為に足を運び、願を掛けるのは悪くないかもしれない。こんな事を考えるのも追いつめられて、ヤキが回ったからかもしれなかった。
 御利益か。運べるものなら運んでみせろよ。
 青年は内心で呟くと、白い翼を広げた鳥ポケモンを軽く撫でる。来た道を戻り始めた。尤も「彼女」なら、こんな事をしなくても叶えるだろう。そんな事を思いながら。
 湿った落ち葉を踏みしめながら青年は戻っていく。用を済ますと関心が薄れたのか振り返るような事はしなかった。
 ただし、からん、と乾いた音がするまでは、であった。
「?」
 絵馬と絵馬とがぶつかりあって鳴らす音。青年は振り返った。
 見れば先ほど絵馬を奉納した掛所に、小さな鳥ポケモンが一羽、ちょこんととまっていた。
 緑玉。そのように青年は思った。緑の玉に赤いアンテナと黄色の嘴がついている。向けられる目線は鳥というより人に近い。なんというか目に力がある。
 ネイティ、小鳥ポケモン。遺跡や神社に現れる彼らは、鳥ポケモンという側面の他にエスパーの顔を併せ持つ。
「………………」
「……、……」
 両者は一定の距離を保ったまま、しばし互いを見つめていたが、先に緑玉が動き出した。屋根に足を引っかけ、ぐぐっと小さな身体を伸ばす。青年が先ほど掛けた絵馬の紐をくわえると、ひょいっと掛所から降り立った。同時に絵馬が落ちた。先ほど願を掛けた絵馬が。
「……え」
 緑玉の思わぬ行動に青年の反応は遅れた。地面に降り立ったネイティは、今度は絵馬の板そのものをくわえ、しっかりと持つ。まるで邪魔なものを除けるのだと言わんばかりに、ぴょんぴょんと移動を始めた。
「おい、ちょっと待てよ!」
 状況を察した青年が踵を返した。が、ちらりとネイティが振り返って目が合ったかと思うと、次の瞬間にぱっと姿が消えてしまった。
「テレポートか!」
 青年は叫んだ。訳が分からなかった。今掛けたばかりの絵馬が持ち去られた。何の為に? まったくもって意味が分からなかった。
 待て、落ち着くのだ。青年は自身に言い聞かせた。確かこの前ガイドで読んだ。ネイティのテレポートはそう遠くには移動できないらしい、と。
「……出ておいで」
 落ち着いた声になって青年は言った。足元から伸びる影がざわざわと蠢いて、無数の影が飛び出した。
「行け」
 青年は言った。この林にいるポケモンを炙り出せ、と。角付きてるてるぼうずが足元から次々と湧き出して、無数の影が林の中を飛んでいく。緑玉の探索が始まった。
 そうして、すぐに場所は特定された。キキッと斜め上のほうでカゲボウズの声がしたからだ。
 捕らえたか。そう思ってその方向をむいた瞬間、パシイッとハリセンで叩くような炸裂音がしてカゲボウズが落下してきた。
「!?」
 青年は落ちてくるカゲボウズを受け止める。見れば目を回して、気絶していた。後頭部に強い力で思い切り叩いたような痕がついている。がさっと音がして少し離れた場所に何かが降り立った。ネイティだった。絵馬を嘴にくわえたままのそれはちらりと青年を見、消えた。
「……逃がすな」
 その一言で動きを止めていた影達が再び動き出す。だが、また数メートル先でパシイッとハリセンで叩くような音が響き、またカゲボウズが一匹、落ちた。
 ネイティが別の掛所の上に姿を現す。行け、と青年が叫び、影達が向かっていく。が、また消えた。と、思うとカゲボウズのすぐ後ろにふっと姿を現して角の生えた頭に小さな翼を勢いよく叩きつけた。
 スパンッ。林に音が響く。カゲボウズがまた一匹、地面に落ちて目を回した。
「……!」
 青年は目を丸くした。まさかこの小さな鳥ポケモンがそこまでやるとは予想していなかった。
 青年の動揺はそのままカゲボウズ達に伝わった。スパンッ、パシイッと連続して炸裂音が響く。近くの動けずにいるカゲボウズ達が緑玉に落とされていった。周りに邪魔者がいなくなると、ジャンプとテレポートを繰り返し、緑玉は逃げていった。結局、青年と影達はその姿を見失ってしまった。
「…………嘘だろ」
 青年は唖然として、そうとしか言う事が出来なかった。誰が予想するのだろうか、神社でポケモンに絵馬を盗られるなどと。不意を突かれたとはいえ、多数対一羽で負けを喫するなどと。
「………………」
 ポケモンというものを甘く見ていた。青年はある種の概念を打ち破られた気がした。
 だが、いや、と彼は思い直した。そういえば昔あったではないか。たった一匹に痛い目に遭わされた事が。ここのところ痛んでいなかったからな、と青年は胸を撫でた。だがそれにしたって、相手は一匹の小さなポケモンだ。こう鮮やかにしてやられた事自体は驚きであった。
「的が小さいからな……人間と違って」
 そう青年は小さく呟いた。不意を突かれて逃がしてしまったが、今度は逃がしはしまいと思った。御利益を信じていないとはいっても、邪魔をされるのは気に食わない。一度、灸を据えてやらなければなるまい。
 林が風でざわざわと鳴った。再び静けさを取り戻した林は先ほどより暗く、湿っているように思われた。


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