マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ
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  [No.3684] ギフトパス(三) 投稿者:メルボウヤ   投稿日:2015/04/06(Mon) 21:12:59   115clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:BW】 【サンヨウ】 【送/贈】 【捏造】 【俺設定】 【批評はご勘弁を…



 コロモリが一匹また一匹と、帰路を辿る私と小猿たちの頭上を飛び去って行く。
 もうじき日暮れの時刻。行きとは段違いに軽くなったリュックを背負う私の前を、三匹が横一列になって行進している。
「なっぷぷ♪」
「おーぷぷ♪」
「やぷぷぅ♪」
 朝からたっぷり遊びしっかり食べてまたまたどっさり遊んだというのに、なおも軽いこの子たちの足取りが信じられない。いつの間にか鬼ごっこやら隠れん坊やらに巻き込まれちゃった私は完全なるグロッキーなのに!
 そんなようなことを心中でぼやきつつ、橙色の陽射しを背に受けて朝来た道を戻る。その途中、道路を挟んだ向こう側の通りにある建物から、馴染み深い男の人が現われるのを目撃した。
「あ。デントさんだ」
 店外なのにウエーター姿のデントさんが出て来た建物の名は、トレーナーズスクール。ポケモントレーナーを志す子供たちが義務教育の学校とは別に通う塾のような施設、そのサンヨウ分校だ。
 デントさんはここの講習会に、月に何度か特別講師として招かれている(当初は残りの二人も交代でやってたのに、いつの間にかデントさんに一任になっていた。私の推理では、あの二人は自分が先生に向いてないと自己判断した結果、だ)。
 ちなみにデントさんが教えるのは、ポケモン勝負の基礎と言われるタイプ相性。今日は地面と飛行、毒と鋼の二種類の相性がテーマだったみたいで、校舎から続々と出て来る子供たちの大半が、辺りに憚らず大きな声で復唱していた。
「メイちゃん!」
 ぼんやりのほほんとしているようで存外鋭いデントさんが、私を目敏く見つけ、呼びかけてきた。すぐさま横断歩道を渡って駆け寄って来るので、私も小猿たちを呼び止めて(遊んで大分落ち着いたのか素直に従ってくれた)、そちらへ歩み寄る。
 なんだか久しぶりだねと笑顔で言われ、そうですねーと私も笑う。実際はほんの二日ぶりなのだけど、これまでは毎日長時間顔を合わせていたから、実数よりも長く感じた。
 それから小猿たちへ視線をやり、元気そうだねと、やっぱり笑顔で言うデントさん。腹部にトリプルキックを食らったにも関わらず。いい人過ぎやしませんか。
 通行の邪魔にならないよう歩道の隅に寄りながら、更に雑談を交わす。疲れた顔してるよと突っ込まれた折りには、公園で遊んで来た帰りなんです、と苦笑混じりに答えた。
「そっか〜。メイちゃんと遊べて良かったねー」
 小猿たちはデントさんに対して少しも悪怯れた様子を見せず、コクコクコクと相槌を打った。腹部にトリプルキックを噛ましたにも関わらず。さてはデントさんのリゾートデザート並の度量の広さに甘えてるわね…。
「そうだ、デントさん。お店で何かあったんですか?」
「ん? どうして?」
「ポッドさんの様子がなんか変だったので」
 ふと昨日の出来事を思い出したので、訊ねてみる。デントさんは数秒思案したのち、
 「ああ! ポッド、結局言えなかったんだ」
 と、顔を閃かせた。
 やっぱり。思った通りだ。
「実はねメイちゃん。今だから言えるけど、夢の跡地に君を行かせようって提案したの、ポッドなんだ」
 ほうらね! 由々しき事態予想、不発じゃなかったじゃない。ポッドさんてば、なんでそんな重大な事をすぐに言ってくれなか……って
「エエエーーー!?」
 なななな、なんですってーっ!!?
「えっなっちょっマジですか!」
「うん。残念ながら」
 それじゃあ昨日、聞くも涙語るも涙の私の話に気持ちの籠ってない返事ばっかりだったのは、そういう訳だったの? もおお! 私がどれだけ苦心したと思ってるのよ、あの赤鬼わーーっっ!!

 …………あ。でも待って。

「ということは、ポッドさんがなんだかぐずぐずしてたのは、そのことを謝ろうと」
「いや、そうじゃないよ」
 なにィィーッ! 違うのっ?! 思わせ振りも甚だしいわよ、なんなのよマッタクあの赤鬼わアーーっっ!!
「メ、メイちゃん落ち着いて。そうなったのには歴とした理由があるんだよ」
 衝撃の事実発覚で思わずエキサイトしちゃった私の顔面がナゲキのような色になっているのだろうか、デントさんにしては珍しく慌てた様子で続ける。
 曰く――林への食材調達は、私が担当になる以前はデントさんやコーンさん、他の従業員が請け負う日もあったけれど、敏速に定評のあるポッドさんが赴くことが大半だったらしい。
 ポッドさんは私とは違い、林に踏み込む前からチョロネコの習性を知っていたから、安易に騙されたりはしなかった。だけど頻繁にちょっかいを出されたので、内心苛立たしさを感じながらも、パートナーのバオップと協力してあしらっていたのだそうだ。
 しかしある日。ついにポッドさんのイライラメーターがマックスに達する、どころか、臨界点を突破する出来事が起きた。チョロネコ軍団が総出でポッドさんに襲いかかり、食糧をバスケットごと奪って行ったのだ。おまけに去り際、集団あっかんべーを噛まされたとか噛まされなかったとか。
 髪も服もぐしゃぐしゃで戻って来たポッドさんは、一頻りチョロネコへの悪態を吐き散らかすと「もうオレ絶対やだかんな!!」と叫び、それ以降、二度と跡地へ食材調達に出向くことは無かったという。
 ……言われてみれば、怒り心頭って感じのポッドさんがぐしゃぐしゃな格好で、裏口でなく正面玄関から店に帰還したのを、ちらっと見かけたことがあった。あれはちょうどその時だったのね。
「あいつすぐカッとなるから、チョロネコたちからしたら、からかい甲斐があって楽しい相手だったのかもね」
 デントさんは高らかにあははははと笑った。そんなに愉快げに笑っていい所なんですか、そこって。
「で、それが、私が交代要員にされたのとどんな関係があるんですか? 八つ当たりな気がしてならないんですけど」
 頬を膨らませて物申す私へ、デントさんはぱちりと右目でウインクを寄越す。
「メイちゃんを見込んでの考えさ。メイちゃんならチョロネコとも上手くやれるんじゃないかって、ポッドは考えたんだよ」
 そうは言われましても……意味が解らない。ポッドさんは私の一体何を見込んだと言うのか。
「君には才能があるんじゃないか、って。前兆はいくつかあったからね。メイちゃんにはそういう才能がある、っていう兆しは。偶然かとも疑ったけど、チョロネコの件と今回のこのヤナップたちの件とで、確信したよ」
 建物と建物の間にあるちょっとした空間で立ち話をする私たちの足下を、ちょこちょこと行き交う小猿たち。彼らに微笑みを投げかけて、デントさんは話を進めていく。
「君には、ポケモンとの付き合い方を即座に把握して適当な距離感を掴む、というような才能があるんだ。それも、食べ物を使って。個々のポケモンの好物を理解したり、その時そのポケモンに必要な食べ物を判断し提供したりして、どんなポケモンとでも仲良くなれる。そんな才能をね」
「………………」
 驚いた。私にそんな能力があったなんて、全然知らなかった…………訳じゃない。
 実は私自身なんとなく、どんなポケモンとでも仲良くなれるような気は、少ししていた。でも結局は『なんとなく』というだけの漠然としたもので。
 自分自身で確信を持てていなかった力を、ポッドさんはしっかり見抜いていた――そのことに、私は驚いていた。
 気抜けした私に微笑ましげな表情を向け、デントさんはなおも話を続ける。
「君はハーブや果物の選択もとても上手。同じ料理でもさ、他の人が調達して来たものと、メイちゃんが調達して来たものとじゃ、風味が全く異なるんだ。メイちゃんは自分で気づいてないみたいだけど」
「……はあ……」
 こっちは、本当に気づいていなかったことだった。あからさまな返事に、デントさんはふふふと小さく笑う。
 自分のことは、自分が一番よく解っている。殆どの人間はそのように考えているけれど、周りにいる人間の方がその人のことをようく解っている時もある――そう、デントさんは話した。
「……と、こんな感じのことをポッドは伝えたかったんだろうって、僕は思うな」
 そして腰に手を当て一つ頷き、にっこり頬笑んだのだった。

「あ、そうそう」
 不意に何か思い出したという風に、デントさんは肩に掛けているバッグを覗く。それからガサゴソと中をあさり始めることは無く、ぱっと目的の物らしい何かを取り出した。それは大きくて薄い、一冊の本。……言わずと知れた『ポケモンのきもち』だ。
 あの時のコーンさんよろしく私の口の端が引き攣る。それに気づいているのかいないのか(いないんだろうな)、デントさんは、ポケモン語の翻訳は直前にこの本を読まないと出来ないことを教えてくれた。
 別に知りたくなかったのにまたこの奇っ怪な本の謎を一つ知ってしまった。一体どんな魔力が籠められているのだろうか、この本には……怖いからもう何も突っ込まないけど……。
 うんざりした顔をしてるんだろう私とは対照的に、私たちの周囲をちょこまかしていた三匹が一斉にデントさんの手元、電波本に注目した。自分たちの言葉を訳してもらったことが嬉しかったみたいで、みんな(ヒヤップはちょっと違うか)、目を輝かせている。
「一昨日のこの子たちの話の中で、訳しそびれてたことがあったんだよ。それを伝えたくてね」
「訳しそびれてたこと?」
 デントさんとは違って『不得手』な私たちからすれば、ポケモンたちが何を言っているのかは非常に気になる所だ。先日の件で、かなり細かい部分まで翻訳を可能にしてみせたデントさんだ。彼らが他にどんなことを言ったのか、私はとても興味が湧いたので、デントさんに話してもらうよう促した。
「彼ら、これからもイッシュの色んな所へ旅をしたいって思ってるんだ。でもね本当は……人間と、一緒がいいんだって」
 その台詞を耳にした瞬間、何故か胸がドキッと高鳴って、私は戸惑った。


 三匹がまだ旅に出る以前、故郷の森へ人間が一人、迷い込んで来たことがあった。
 隣接する娯楽都市ライモンが辺りの土地を占めているためか、森は小規模。しかし、複雑に入り組んでいる訳でもないのに何故か迷ってしまう……と人間たちの間で噂される不可思議な場所で、『迷いの森』と呼ばれているそうだ。
 例の人間はポケモントレーナーであったようで、まだ見ぬポケモンを探しにやって来て、案の定迷ってしまったらしかった。
 森に棲む野生ポケモンたちとしては、ずっと棲処をウロウロされて荒らされては困る。襲いかかる振りで出口へ誘導しようかと相談していたら、その人間はどうして迷ったのか合点がいっていたようで、適当な場所にテントを張ると仲間ポケモンたちをボールから解放し、のんびりし始めたんだって。
 なんだなんだと遠巻きに様子を見ていたポケモンたちに、人間は言った。
 自分には空を飛べる仲間がいるから、いざとなれば一瞬でこの森を抜け出せる。でも折角こうして迷い込んだのだから、もう少しこのまま迷っていてもいいだろうか。
 人間は迷ってしまったという焦燥するべき状況を、むしろ楽しんでいる風だった。
 人間はそれから五日間ほど森に逗留した。初めは人間も森のポケモンたちも警戒し合っていたけれど、人間が連れていた仲間ポケモンたちの媒介により、日を追って慣れ親しんでいった。

「別れの朝、前日まで鬱蒼としていた木々が跡形も無く消えていたから、人間は森を真っ直ぐ抜けて行った。仲良くしてくれてありがとう、という言葉と……この子たちの心に、一つの願望を投じてね」
「願望?」
「トレーナーの仲間ポケモンが、今よりも幼かった三匹に、これまでの旅の話を聞かせてくれてさ」

 旅は面白い。
 様々な景色を、様々なポケモンを、様々な人間を見ることが出来る。
 楽しいと思えるのは、きっと人間と一緒に旅をしているからだ。
 人間は我々を様々な場所へ連れて行ってくれるし、様々なことを我々に教えてくれる。
 人間と共にする旅ほど、面白いものは無い――。

「その話を聞いてから、三匹は旅をすること、人間と一緒に旅をすることに憧れ始めた。そして数ヶ月後、それぞれの親の反対を押し切って、三匹きりで故郷の森を出たんだ」
 本を閉じ、合ってる? と言いたげにデントさんは小猿たちに目配せする。勿論三匹は、同時にコクン! と頷いた。

「へぇぇ…」
 この子たちが旅しているのには、そんな理由があったんだ…。
 人間と一緒に旅をすること。それこそが彼らの夢。願い。望み…。
「チョロネコともいい関係を築けたメイちゃんに跡地へ行って貰って、僕たちみんな本当に助かってた。調達自体も上手だったから、君がいなくなってしまうのは本音を言えば、とっても名残惜しいよ」
 寂しげに言うデントさん。思わず謝りそうになっちゃったけど、いやいやいや…。私が店を辞めることが決まってるみたいな物言いじゃないですか? それは。
「私、そんなつもり無いですよ?」
 そう返した所で、デントさんは微笑むだけで何も言わない。こういうソフトな対応がデントさんの良い所であり、やりづらい所でもある。他の二人みたいに何かしら言い返してくれた方が安心するというか腑に落ちるというか、なんというか。
 優しい笑顔に不安を感じるのはなんでだろう。私の言い分を全部聞き入れてくれているようで、根っこでは全く受け容れてくれていない、とでもいうのか…。

「大分暗くなっちゃったね」
 気づけば西の空は見事な朱色に染まり、黄昏時の風情を醸していた。私たち二人と三匹の影は限界まで引き伸ばされ、背後の地面に張り付いている。
 デントさんは私たちを引き留めたことを謝ってきた。いえ、と私は首を振る。
「家まで送るよ」
 それじゃ私たちはこれで…と挨拶してお暇しようとした矢先のご厚意。本当は一人で考え事をしながら帰りたい気分だったんだけど、折角申し出て頂いたことを無下に断る訳にもいかず。お言葉に甘えて、私が住むアパートの前まで付き添ってもらった。
 こういうの、一般的な女子が言うところのドキドキシチュエーションなんだろうけど、贅沢で損している私にはよく分からなかった。

 その時の私は、デントさんに言われた件を反芻することで、頭の中がいっぱいだった。


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