冷暖房無完備。風呂無しトイレ付。家具一部備え付け持ち込みオーケー。なんか中途半端な条件だけど家賃タダで大量ゴーストポケモン付き、いや憑き。
ダイニングキッチンありで食堂もあるけども賄いさんはなし。あ、賄いさんってのはご飯作ってくれる人ね。いわゆる専属コックさんてきな。
夢のような条件(主に家賃無料の部分)に魅かれてマイナス部分(その他もろもろ)に目をつぶってゴ―スを洗ってゴーストとデートしてしばらくしたら。
こんどはパテシェール希望者が現れた。
ゴーストと筆談会話をしたことをきっかけにこいつらと明確な意思疎通を図ろうとあれこれ試してみた。その一つがあっちこっちに五十音表を張ってみる作戦。
それが功を成したのか、それともはじめっから文字を読むことができたのか、とにかくポケモン共とコミュニケーションが(一応)取れる様になった。
つっても主にゴーストばっかりなんだが。理由は・・察してくれい。あいつまだしつこく次のデートに誘ってきやがるんだよ。しつこいと嫌われるぞー。
なお、手の無いゴ―スどもは筆談なんてできないので五十音表の周りで身振り手振り(いや、手はないけど)、でどことなく会話が成立している。うーん、すごいな。
大体ゴ―スを洗濯し終えたと思ったら、何匹かは洗濯機の味をしめたらしく、洗濯してくれと自分から洗濯機に飛び込んでくるので、洗ってやっていたら、今度はゲンガ―がやってきた。
お前も洗濯されに来たのか―、と言ってやると真面目な顔で首を横に振っていた。まさかお前もデートじゃないよな?え?違う?ならよろしい。
はいはい、その手に持ってる紙はなんですかなー。見せなさい。見せに来たんでしょーが。
うん、ゴーストよりはましだな。汚いのは変わりないけど・・。それともゴーストとの筆談でこっちの解読スキルが上がっただけか?
んで、えーっと・・『だいドこロかしテクレ』・・台所かしてくれ?
・・・は?いや、なんで。なんか作るの?・・あ、そう。
しかし何作るの。・・なにその古雑誌・・。情報源またそれか?雑誌好きだなお前ら。
えーと・・『おいしいケーキの作り方』『シュークリーム必勝法』『ポフィンでお茶しましょ』・・これ女性向けじゃないか?・・あ、女の子なのね、これは失礼。
・・つーか、お前ら普段何食ってんのよ。
基本的に自分の食べる分は自炊しているが館に住み着いているこいつらに餌をやったことは皆無なので、普段何食ってるのかさっぱり分からない。洗濯はするけどね。
やっぱ怨念とか?ゴーストだしなぁ、こいつら。分からん。同居人、いや同居ポケはミステリアス。
ポケモンフーズなんて買ったことないし、ましてや餌付けなんて考えたこと無かったし。つーかこいつらの世話をしようと思ったら餌代だけですさまじいことになるだろうし。まだ破産なんてしたくない。
そんな感じで実際のところこいつらがどうやって生きているのか全く謎なまま共同生活送ってるわけなんだけれども。ていうか、ここの館の主は私なんだからお前ら本当は出ていかなきゃならないんじゃね?
で、そんな奴等の内の一匹が台所を貸せという。
別にいいけどさ。台所くらい。・・もしや材料はこっちもちなのか?
・・・その目はなんだよ。冗談だ。ケーキの材料くらい買ってくるってば。
そういやもうすぐバレンタインデーじゃね?だからか。だからなのか。それで急にチョコケーキ作るとか。それ以前にポケモンが菓子屋の陰謀に踊らされてどうするねん。
塾の採点(アルバイト)してビルの窓清掃(アルバイト)してチョロネコヤマトで宅配やって(アルバイト)ゲンガ―に頼まれた材料買い終わった時点で気づいても遅いか。
ま、いくらポケモンといえども一応レシピどおりに作るみたいだし、上手くできたら味見させてもらうか。・・それ以前に人間が食って大丈夫かどうか分かんないけどさ。
・・うーん、まぁ、いいや。
とりあえずご希望の物は揃えたんだし、あとはパティシエゲンガ―の腕前を拝見しますかな。
家帰って材料渡すと嬉しそうにスキップしながら台所へ行ってた。ゲンガ―のスキップ・・レアだな。
興味津津のゴ―スどもに邪魔するなーと一応声をかける。無駄かもしんないけど、ま、仲間内で争いはしないだろ。多分。
・・いや、案外、ゲンガ― がだれに渡すかで揉めるかもしれない。バレンタインに乗っ取るんならの話だけど。
ん?どうした、水気たっぷりだなお前。・・あぁ、洗濯して乾かしてなかったか。おいで、ドライヤーかけてやるからよ。
二時間後。
そろそろ終わっただろーと思って台所をのぞいたら、あら大変。
ぐっちゃぐちゃのねっちゃねちゃのぽわぐちょなごちゃごちゃでちゅどーんだった。トリトドンがチョコ吐きながら暴れまわったみたいになってんぞ。
早い話が台所中、チョコレートスプラッタ。なぜ壁といい床といいチョコまみれ。おまけに料理人もチョコまみれ。おい、ゴ―スどもまでチョコまみれ。お前らガスだろうが!
なにをどうしたらこんなことになるんだ、えぇ?仕事増やしやがって。掃除しなきゃならないじゃないか。くそ。
おい、体についたチョコ舐めてる場合じゃないよ。なんでこうなったか説明しなさい。こんなことになった責任者を誰だ。
以下、その場にいたポケモン達による再現VTR。
『 材料をもらったゲンガ―は早速雑誌を広げてレシピどおりにケーキを作ろうとしたらしい。何匹か親切なゴースト等(おそらく見返りチョコを狙って)が手伝ってくれて作業は順調に進んだ。
が、チョコを湯煎する作業でガスを使わずになんと鬼火で直接溶かそうとしたらしい。そこんとこ、面倒くさがり屋というべきか、ポケモンの特権というべきか。
とにかく鬼火をつかったら予想以上に火力が強く、おまけにいたずらしようと待ち構えていた別のゴ―スどもが乱入。ナイトヘッドなどでチョコを攻撃。防戦しようとして大混戦。
結果、スポンジは死守したがチョコレートは大破。部屋中に飛び散り回収不可能となった 』
VTR終了。
何やってんのお前ら。あーもーチョコまみれでにこにこしてごまかすな。とりあえずここの掃除するぞ。お前ら手伝えよ、元凶なんだから!
・・床についたチョコを舐めるな!ばっちぃぞ。壁も駄目!おなか壊すだろうが!ふきんで拭きとるんだよ、もったいないけど。誰が稼いだバイト代だと思ってんだお前ら。
よーし、あらかた終ったな。次はお前たちだ。洗濯機?馬鹿、間に合うわけ無いだろ。ついてこい。
おばちゃーん、ポケモンの湯借りていい?うん、ピカピカにするからさ、こいつらついでに洗っていい?
ありがとうございます!よし、お前らとっとと中に入れ、入らんかっ!
一匹一匹手洗いなんかしてやらないからな。お前らまとめてデッキブラシで洗ってやる!洗剤?文句言うなー!
しばらくして、ゴ― スどもの邪魔が入らなように監視しながら件のゲンガ―と一緒にケーキを作ってみた。
味?おいしかったよ。
とってもな。
ホワイトデーが近づいてきたら、また雑誌を抱えてゲンガ―がやってきた。
「・・しばらく台所禁止。」
(ゴ―スがいない時に作ろうな)