マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  [No.485] バーストゴースト☆森ガール 投稿者:リナ   投稿日:2011/06/01(Wed) 23:37:29   101clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「ねぇ、やっぱり戻ろうよ? ナッちゃんってば」

「相変わらず臆病なんだからミフユは。怖いなら一人で帰れば?」

 森林清掃のボランティアからこっそりと抜け出し、小さな子供ならばかろうじて通り抜けられる柵の隙間を見つけ、ナツコとミフユは「森の洋館」の敷地内へ足を踏み込んだ。伸び放題の雑草を踏み踏み、二人はきょろきょろしながら広い庭を進んでいった。

「別に怖いわけじゃ――ここはナタネちゃんの家だったんだし……。でも、みんな心配してると思うし――」

 冷たい空気が森を漂い、さっきまでは気にもならなかった僅かな霧が、今は気味悪く二人を包み込んでいた。ミフユはケムッソやナゾノクサが物音を立てるのにいちいち「ヒャッ」っと身体をこわばらせた。でもナッちゃんが行くって言うのなら後には引けないし、臆病だなんて思われたまんまでいるのも嫌――彼女はそう思っていた。

「ねえミフユ。なんかすごいもの見つけてさ、みんなをびっくりさせようよ? そしたら私たちヒーローだよ?」

 どんどん奥へと進んでいくナツコと、不安げな表情を浮かべながら遅れないようについていくミフユ。彼女たちは洋館の正門の前までたどり着いた。細やかな模様が全体に彫られたマホガニーに剥がれかけた塗料がみずほらしいその扉は、無表情で二人を見下ろしている。
 ナツコがひんやりとした取っ手に手をかける――

「――あれ? 開かないや」

「鍵かかってるんだよ。ねぇ帰ろ?」

「こんなおっきい洋館なんだから他に入口あると思わない?」

「思わない」

「思うよね? 探すよ!」

「ナッちゃん……」

 ナツコがミフユの手を引っ張り、洋館の裏へ回ろうとしたその時――

「――お客様かな?」

 不意に男の声で問いかけられた。二人は飛び上がって、声のした方を振り向いた。




『バーストゴースト☆森ガール page4』




 まず間違いなく、あの洋館だ。
 ゴミ拾いの途中でナツコちゃんとミフユちゃんが単独行動に出たことは、他の子供たちも全員知っていたようだった。ただ、リーダー格のナツコちゃんが「オトナにはチクらないでよ」と言うものだから、誰も言いださなかった。てか何で気付かなかった私!

「厄介な勢力図ですね、ガキのくせに。ミフユちゃんは腰巾着ってところですか」

 洋館まで引き返す道を走りながら、サキは無表情で言った。ゴミの処理やボランティアメンバーの取りまとめは他の後輩に任せ、私とサキはハクタイの森を駆け抜けていた。

「館内に入ってないといいんだけど――ゴーストやゲンガーに遭遇したらアウトじゃない。あいつら何するか分かんないし」

「そうですね。二人の手足がちゃんとついてることを祈ります」

「ちょっと止めてよ」

 さっきまで和気藹々とゴミ拾いをしていたこの森は、今はなんだか不気味に見えた。この感じ、記憶にある。森の木々一本たりとも私に味方してくれないような不安。あの時は立場が逆だったけど――


 もういーかい? まーだだよ。
 もういーかい? まーだだよ。
 もういーかい? 

 そのうち声は聴こえなくなり、私は森の奥で一人佇んだ。
 当時小学生の私にとって、あの恐怖は言葉にできたものではない。


 ようやく私とサキは、先程の柵のところまでたどり着いた。てっぺんの尖った鉄の柵は、無機質な檻のようにも見えた。

「はぁ――壊すしかないか。タネキチ」

 ボールから飛び出したタネキチは、葉っぱカッターで柵を切り落とした。がしゃんと音を立てて、切り出された鉄の棒が地面に落ちる。

「先輩のお屋敷――鍵はかかってるんですよね?」

「もちろん。お父さんとお母さんがこの屋敷を売りに出して最後に出た時私もいたし、それから手は着いてないはずだから」

 柵の隙間を潜りながら、私は答えた。私がまだ中学生の頃、父の仕事の関係で移り住むことになった私たち一家はこの屋敷を売却し、ヨスガの郊外へと移り住んだ。強がって泣きはしなかったけど、幼い頃の思い出が詰まったこの屋敷を手放す寂しさに、胸が熱くなった記憶がある。
 それは、おじいちゃんにポケモンを教わった思い出。おばあちゃんにタネキチをもらった思い出。そして、まだお兄ちゃんと仲良く遊んでいた思い出。
 その思い出が、今は埃を被り、悲しげな表情で目の前に突っ立っている。

 鳥ポケモンのさえずりと葉のすれる音の中を、私とサキは早歩きで進んだ。伸び放題の雑草についた露でブーツのつま先が濡れる。タネキチは背の高い芝生をかき分けるようにして付いてきた。厚手のマウンテンパーカがシャカシャカと音を立てる。そして、冷たい扉の取っ手に手をかけた。

「――開いてるし」正面玄関の扉はいとも簡単に開いた。

「あの子たちが開けたんですかね」

「嫌な予感」

 エントランスは薄暗く、埃っぽかった。中に入り扉を閉めると、まるで外界と遮断されたみたいに空気が一変した。さっきまでの鳥ポケモンの鳴き声や葉のすれる音は、全く聞こえなくなった。
 天井につるされたシャンデリアや階段、銅像、手すりや絨毯――その配置は当り前だが当時と全く変わらず、時々頭の中で再生するだけだった懐かしい記憶が一気に鮮明になった。両側にカーブを描いている階段はよく友達と追いかけっこして遊んだ時転んだし、引っ越した時に片方だけになった銅像は何度もよじ登っては飛び降りた。
 ただその全てが今や埃だらけで、エントランス全体に漂っている空気はどんよりと重たく、雰囲気は当時と似ても似つかない。

「長時間いると病気になりそうですね、この空気」

「ゴースの纏ってるガスのせいね。結構な数、住み着いてる――マリー出しといた方がいい」

 サキがボールを軽く放ると、マリーが身のこなし鮮やかに絨毯に降りた。クリーム色の身体に、その尻尾や耳の先端が葉のように変化しているイーブイの進化系の一つ、リーフィアだ。
 マリーはこの洋館の雰囲気を感じ取ったのか、一度ブルブルと身体を震わせた。となりにいたタネキチはというと、相変わらずのんびりとしたもので、絨毯に着いた埃を前足でいじっている。

「帰ったらシャンプーだね、マリー」サキが渋い顔で言った。

 私たちはとりあえず階段を上り、二階の廊下を洗った。人影どころか「幽霊影」も見当たらない。薄暗くてどんよりした細長い廊下は、無機質に続いているだけだった。
 部屋も調べた。おじいちゃんの書斎も、お兄ちゃんの部屋も、私の部屋も。エントランスと打って変わって、こちらは懐かしさのかけらも感じなかった。家具が取り払われているだけでなく、時々感じるゴーストポケモンの視線で、当時の空気とまるで違うからだろう。廊下に入ってからずっと、壁や天井に見られているような感覚があった。正体が分かっているだけ、恐怖もないが、気色悪い。

「出て来さえすれば二人の居場所吐かせてやるのに」私は頭を掻いた。

「こいつら多分見てるだけで出てきませんよ? 所詮野生の群れで、私らに敵わないことくらい分かってます。ただずる賢いんで、勝てない相手には手出しません」

「分かってる。でもあの子たち二人相手ならこいつら喜んで手出すじゃない」

「そうですね、手遅れの可能性もあります」

「だからさらっと最悪の状況に言及するの止めてよ――」

 その時だ。女の子の悲鳴が館内に響いたのは。私たちは顔を見合わせた。壁や天井の気配がぞろぞろと移動するのを感じた。

「一階です」

「位置的に、多分会食場! 走るよ!」

 私たちは廊下を引き返し、階段のあるエントランスの二階へと駆けた。
 移動する気配は私たちよりも素早く一階の会食場へ向かって行く。その無数の気配は狂喜していた。
 マズい。一気に背筋が凍る。霊が大喜びするなんて、不吉も良いところだ。



 ◇ ◇ ◇



「誰か、来たみたいだ」

 男は、独り言のようにそう呟いた。
「分かるの?」玄関の方へ視線を向けた男に、ミフユは訊いた。男はにっこりと笑い、頷いた。




 ナツコとミフユの二人に声をかけたのは、二十代半ばくらいの男だった。動きやすそうなジーンズに、紺のジャケットを羽織っている。少しいたずらっぽい雰囲気が残る目をしていたが、その背丈とファッションのせいでとても大人っぽく見えた。
 突然背後に現れたその男性は、昔この洋館に住んでいたという。ナツコが震える声で「嘘! この家はナタネちゃんのうちだったんだから! あんた泥棒でしょ?!」と言うと、彼はちょっと驚いた顔をしたが、すぐに笑顔になり「お譲ちゃん、ナタネと友達かい? それは偶然だ。僕もナタネとは長い付き合いなんだ」と言った。
 彼はフーディンという、まるで腰の曲がったおじいちゃんみたいなポケモンを連れていた。突然この場所に現れたのも、そのポケモンの「テレポート」という技を使ったかららしい。
 彼は警戒する二人に「中に入りたいなら、鍵を開けてあげるよ。僕もちょっと用事があるからね。ただゴーストポケモンが多いから、僕の近くから絶対に離れないことが条件だ」と提案した。ミフユは「ゴースト」と聞いて今すぐにでも引き返したい気分になったが、ナツコは「ゴースト」という言葉に息を吹き返したかのように「言いつけは守ります! 中に入れてください!」と答えた。ミフユはうなだれた。

 洋館の中はまるで違う世界みたいな雰囲気だった。あの厳めしい扉が「ゲート」になっていて、くぐり抜けたその場所から現実とは違う平行世界。ミフユはそんな世界設定の映画があったことを思い出した。
 二階の廊下まで歩いてくると、じろじろと何かに見られているような居心地の悪い気分になった。それはナツコも同じようで、「なんかそわそわする」と言うと、男の人が、ゴーストポケモンがこっちの様子をうかがっているんだと教えてくれた。「襲いかかって来ないの?」と訊くと、フーディンがいるからね、と答えてくれた。
 その言葉通り、ゴーストポケモンは襲いかかってきたりしなかった。そのうち壁や天井の視線に慣れてくると、もともとなんにもいないんじゃないかと思うほど、館内は静寂を保った。
 一階に下りて、小さな書斎を調べている時に、彼は誰かの気配を感じたようだった。




「フーディンの力のおかげだよ――うん、人間が二人。多分、お譲ちゃんたちを探しに来たんじゃないかな」

「ナタネちゃんかな? どうしよう、怒られちゃうよ? ナツコちゃん」

「もう、ミフユはホントにビビリ。怒られずにこんなことできると思ってんの?」

 ナツコのその言葉を聞いて、男は笑った。

「大丈夫だよ、僕が何か理由を付けて、二人が怒られないようにしてあげよう」

 一階の大きなテーブルがある部屋に来た時には、最初の平行世界に入り込んだような感覚はほとんどなくなっていた。ナツコも「なーんだ、なんにもないじゃん」と、退屈そうにテーブルに寄りかかった。でも、本当に違う世界に来たと思ってしまったのは、その時だった。

<油断大敵ですぞ、お譲ちゃん。親玉のお出ましです>

 おかしな抑揚をつけた、しわがれた声がミフユの頭に響いたのだ。ナツコもその声を聴いたようで、テーブルから飛び降りて辺りを見回した。

「フーディンのテレパシーだよ。それにしてもどうしてずっと黙ってたんだ? ルーカス」

 彼はそう言いながら、視線はその会食場の天井に取り付けられた大きなシャンデリアに向けられていた。

<いやいや、たいみんぐというものはなかなか掴めないものでしてな>

 唖然とするミフユとナツコをよそに、フーディンのルーカスもシャンデリアを見上げ、両手に握られたスプーンを構えた。

「二人とも、離れちゃだめだよ」

 黒い塊が、シャンデリアをすり抜けて姿を現した。

 二人は絶叫した。



 ◇ ◇ ◇



 私とサキは会食場の扉の前までたどり着いた。扉越しでも、この洋館中の気配がこの部屋に集まっていることが分かる。
 私はその重い扉を開け放った。

「なにやら――凄まじいことになってますね」サキが苦笑いした。

 部屋中ゴースとゴースト。どいつもこいつもケラケラ笑って、その声が反響し、気が狂いそう。ゴースの纏っているガスが天井付近にたまっていて、紫のもやがかかっていた。シャンデリアを中心に、幽霊たちは旋回し、まるで宴でも開かんかとしているように歓喜している。

 そのシャンデリアの直下に、いなくなっていた二人がいた。一緒にフーディンを従えた男がいるのが目に入った――私は目を疑った。

「おうナタネ、久しぶり」彼は振り返り、気さくに声をかけてきた。

「ちょ、久しぶりって……なんで? なんでいるの?」

「ちょっと仕事でな。それより、今取り込んでるんだ――ルーカス!」

 彼のフーディン、ルーカスは右手を突然突き出し、サイケ光線を放った。そこへ狙いすましたかのように大きな黒い塊が現れ、光線が直撃する。砂埃が爆音とともに舞った。ナツコちゃんたちが悲鳴を上げる。

「こいつらにとってはまるでプロレスでも楽しんでる気分なんだ。こっちは真面目に調査に来てるってのに、呑気なもんだ、オバケの皆さんは」

 ルーカスが相手にしているのは、まぎれもなくこのゴーストの群れの親玉、ゲンガーだ。サイケ光線をくらってもほとんどひるみもせず、少し距離をとってその真っ赤な目をこちらに向けている。この会食場をリングに見立て、遊んでいるのだ。

「サキ! 二人連れてこの洋館を出て!」

「――了解」

 私はタネキチを戻し、ロズレイドのブーケを出した。かん高い笑い声と紫のもやの中、サキが二人を連れて部屋を出ていくのを確認し、私はその男の下へ駆け寄った。

「どういうつもりなの? 子供連れてこんなところまで」

 私はできるだけイライラを声に乗せて、彼に言い放った。

「だから仕事だって。あの子たちは、玄関で入りたそうにしてたからさ」

「正気なの?! こんな危ないところに――」

<お二人さん、今はそんな口喧嘩に時間を浪費している場合ではありませんぞ?>

 ルーカスのテレパシーが頭に響いてきた。昔は無口なケーシィで、テレパシーもほとんど使おうとしなかったルーカスは、彼の一番のパートナーだ。今もそうなのかは、私に知る余地はないが。

「随分達者に話すようになったじゃない? ルー、久しぶりね」

<ナタネ殿こそ、立派になられましたな――おっと>

 ルーカス目がけてシャドーボールがいくつか降り注いだ。ルーカスは瞬時に壁を作り、その攻撃をけん制した。

「よーし、この試合、勝たなきゃな。可愛い妹が見てる」

 その言い草、変わらない。

「ふん。どっちにしろ、負ければお陀仏でしょ。まあ、兄貴が死ぬところも見たくないわけじゃないけどねー」

「冗談キツイな……ゲンガーは俺がやる。周りのザコ頼む」

「ジムリーダーに掃除役頼むなんて、偉くなったもんね! あとで泣きついても助けないから!」

 古い記憶の中にあった会食場とは変わり果てたこの空間に、ゴングが鳴り響いた。

 ―――――――――――――



 ゴーストバスターズの曲が好きです。その曲を頭の中でかけながら書いた今回のバーストゴースト。
 とりあえずここを乗り切ったあとの展開は、未定。ナタネちゃんに彼氏でもできれば話も膨らむけど。

 彼氏作る役目、自分だったw


 森ガ「イケメンよろしく。てか物語の中でくらいリア充でいいじゃん」


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