マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
このフォームからは投稿できません。
name
e-mail
url
subject
comment

[新規順タイトル表示] [ツリー表示] [新着順記事] [留意事項] [ワード検索] [過去ログ] [管理用]

  [No.611] 01 トウヤとリュウヤ 投稿者:夏夜   投稿日:2011/07/30(Sat) 14:51:57   41clap [■この記事に拍手する] [Tweet]




 イッシュ地方、カノコタウン。
 桃色の、花の花弁が舞い散る、春の午前9時。カノコタウンのほぼ中央に位置する自分の家で、トウヤは、幼なじみのチェレンと共に、トウヤは1つの箱を、神妙な顔つきで眺めていた。
 その箱は長いリボンで丁寧に包装されたもので、今朝アララギ博士によって直接届けられたものだ。
「この中に、僕たちのパートナーとなるポケモンがいるんだよね。」
「・・・・・・うん。」
「こんな大事な日だっていうのに、ベルは・・・・・・また? 」
「あはは・・・・・・。」
 トウヤはあきれたように笑う。彼女の遅刻癖は今に始まったことではない。トウヤは5歳の時に、カノコタウンに引っ越してきたのだが、その時にはもう、ベルはウルトラマイペースな世間知らずの箱入り娘だった。遠足に行く時は、彼女のおかげで、出発時間は延びに延びたし、帰る時もまた同じだった。おそらく今回もそうなのだろう。
 トウヤとチェレンは、毎度の事ながらベルの遅刻癖に呆れてから、プレゼントボックスに再び目をやり、期待に胸を膨らますのだ。






「ここが、カノコタウン・・・・・・。」
 カノコタウンの入り口、1番道路の前で、リュウヤはつぶやいた。
 茶色い髪の毛の、童顔な少年だが、精悍な顔つきをしている。黒く、薄汚れたシャツと、あちこちがズタズタに切れたジーンズを着ている。
(一目、一目だけでいい。母さんとトウヤの姿がみれれば・・・・・・。)
 そう思いながら、かすかに青い匂いを放つ柔らかい草を踏みしめる。
 そして、自分の足元の草の感触や、どこか田舎なカノコタウンの風景を見て、リュウヤはふふっと笑いを漏らす。
「マサラタウンを思い出すなぁ・・・・・・。」
 ポツリとなつかしそうにつぶやいて、そして自身の言葉で、今、自分がおかれている立場を思い出す。
(早く行って、早く帰ろう。トウヤや母さんに迷惑がかかる。)
 そう思い、リュウヤは歩き出す。
 リュウヤは、カントー地方から来たトレーナーだ。
 カントーリーグを制した後、ジョウト、ホウエン、シンオウと、ジム戦を制してきた彼が、どうしてジムもチャンピオンロードもないこんな街に来たのか、それにはちゃんと彼なりの理由がある。
 彼は焦っていた。彼の立ち位置が、かなり危うい所にあるということもある。しかし、それ以上に、彼はとても寂しくなったのだ。
 ある出来事をきっかけに、自分ではどうしようもないくらいに、寂しくなってしまったのだ。
 しかし、リュウヤは気づいてはいなかった。
 彼は長居すると迷惑がかかる、と思っていたのだが、実際はそうじゃなかった。
 彼がこの街に訪れたのが、いや、イッシュ地方に足を踏み入れたのが、そもそもの間違いだったのだ。
「きゃあっ!!? 」
 トウヤの家はどこかと、さまよい歩いていると、ある家の前で中から飛び出してきた女の子とぶつかった。
 金髪で、緑色の帽子を被っている。けっこう可愛い。
 女の子は、長いスカートをゆらゆらと揺らしながら、リュウヤから体を離す。
「ごっごめんなさいっ・・・・・・ってアレ? トウヤ? 」
「え? 」
 突然、自分の名前ではない名前で呼ばれ、リュウヤは驚く。
「ごっめーん!! わざわざ迎えに来てくれたんだー!! ありがとっ。」
「え? あ、ちょ・・・・・・。」
「ささ、早くトウヤの家に行って、ポケモンもらいに行こ。」
「うわっ!? 」
 およそ少女とは思えない程の力で引っぱられ、リュウヤは危うくこけそうになる。しかし、少女はそんなことおかまいなしに、リュウヤを引っぱり、速度を落とさぬまま、トウヤの家に突入する。

「ごめーん、遅れちゃったぁっ。」
「遅いよベル、君がマイペースなのは10年も前から知っているけど、今日は僕らの記念すべき日となるのだから・・・・・・。」
「だからごめんって、もう! トウヤは優しいのに、チェレンってば嫌味!! 」
「・・・・・・僕が、どうかしたの? 」
 ひょこっとトウヤがチェレンの背中から顔をだす。
「何言ってるの、わざわざ私の家まで迎えに来てくれたくせに・・・・・・って、アレ? 」
「ん? 」
 そこで3人はやっとこの場の異常さに気がついた。
 ベルはトウヤが迎えに来てくれたという。しかし、トウヤとチェレンはずっとここに居た。けれど、ベルは自分の家からここまで、トウヤを引っぱってきたのだ。3人しかいないはずのこの部屋に、4人目の人間がいるのだ。
 それも3人が良く知る顔をした人物。
「・・・・・・よぅ。」
 もう1人のトウヤがそこにいた。

「「うっぎゃぁぁぁぁっ!! 」」
 ベルとチェレンが悲鳴を上げる。
「ド、ドッペルゲンガー!? たいへんっ、トウヤが死んじゃう!! 」
「い、いや、そんな非科学的なもの、存在するわけがない。きっと、ゴーストタイプのポケモンが、いたずらしてるに違いない。」
「カノコタウンにそんなのいるの!? 」
「いない・・・・・・けど。」
 2人が騒ぐ中、トウヤは至極冷静な様子で、言葉を紡いだ。
「・・・・・・兄さん。」
「「兄さん!? 」」
 2人が驚きの声をあげる。リュウヤはきまずそうに「・・・・・・おう。」と頬を掻く。その時、パタパタと足音が聞こえ、トウヤの、いや、トウヤとリュウヤのお母さんが、部屋に入ってきた。
「いま、すごい声聞こえたけど、だいじょう・・・・・・。」
「母さん。」
「・・・・・・リュウ・・・・・・ヤ? 」
 お母さんは驚いた表情をして、リュウヤの肩に触れる。そして、
「久しぶりねー、元気してた? 」
「軽いね、軽すぎるよ母さん。10年ぶりに息子に会ったっていうのに・・・・・・。」
「だってあんまりにもトウヤとそっくりなんだもの、久しぶりって気もしないわー。」
「俺もだよ、相変わらず過ぎて、なつかしい気分の感動とか、どっかいっちゃったよ。」
 そして、トウヤの方を向き、
「久しぶり。」
 と言う。
「ヒサシブリ。」
 無愛想に、トウヤも返す。
 お母さんはトウヤを1階に連れて行こうと背中を押しながら、トウヤ達に言う。
「ちょっとリュウヤを着替えさせてくるから、ポケモン選んじゃなさいよ!! 」
 ご機嫌な様子でそう言い、リュウヤと一緒に消えて行った。その背中を見ながら、トウヤはどうしたらいいのかわからない、得体の知れない感情がお腹の辺りをぐるぐるしているのを感じる。
 兄が嫌い・・・・・・というわけではない。
 ただ、うらめしい。
 ただ、許せない。
 しかし、リュウヤが現れた時、驚きながらも喜んでいる自分を、トウヤは感じ取ってしまっていた。自分の感情の正体を知っているからこそ、トウヤはどうしたらいいのかわからなくなった。
「トウヤ、君に双子の兄がいるなんて知らなかったな。」
「・・・・・・うん。話してないもの。」
 チェレンにそう答えて、トウヤは箱に巻かれたリボンを丁寧に解いていく。
「あっ、トウヤの家に届いたんだから、トウヤが1番に選んでね!! 」
「そうだね、異論はないよ。」
 そう言う2人に「ありがとう。」と返事をしながらも、トウヤ1階にいる兄の事を考えていた。
 カントーリーグ制覇を遂げた兄。
 ジョウト、ホウエン、シンオウと、数々の地方を旅して廻った、トレーナーとしては誇るべき兄。
(どうして、今更・・・・・・。)
 こんな所にきたんだろう、とトウヤは思う。
(どうして・・・・・・このタイミングで・・・・・・。)
 するりとリボンは解けたが、トウヤの頭の中の疑問が解けることはなかった。


- 関連一覧ツリー (★ をクリックするとツリー全体を一括表示します)

- 以下のフォームから自分の投稿記事を修正・削除することができます -
処理 記事No 削除キー