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タワーオブヘブン
正しき 魂 ここに眠る
これはフキヨセシティとセッカシティの間にある、雲よりも高く高くそびえる鎮魂の塔――『タワーオブヘブン』の入口の看板に刻まれた言葉。
僕は、この言葉が嫌いだった。
おそらくこの言葉の意味する通りだと、正しき存在ではない僕はここに眠る事が出来ないだろうから。
あのお気に入りの鐘の音を二度と聞けなくなるかもしれない。
それだけは嫌だった。
だから、恐れた。
今更恐れた所で、何かが変わるわけでもないけれども。
もしもし、そこにいるかもしれない誰かさん。
どうかわずかな時間でもいいから、僕の過去話を……いいや、懺悔を聞いてもらえないだろうか?
まあ無理にとは言わない。
愚か者の独り言だと思って聞き流してくれるだけでも、ありがたい。
さて、どこから話そうか……おっと、失礼。名乗りがまだだったね。
僕はヒトモシ。
ただの燃え尽きる運命にある、ろうそくポケモンだ。
† † †
白いキャンドルのような身体に金色のつぶらな瞳を持ち、頭のてっぺんには静かな蒼白い炎を携えている。それが僕達“ヒトモシ”という種族の外見だ。
僕達ヒトモシは、人間やポケモンの生命力や魂を火種としてすいとる事で頭の炎を燃やし続けている。
他人の命を燃し続ける事で、生きていた。
幸いと言うか皮肉と言うべきか、ここタワーオブヘブンを訪れるトレーナーやポケモン達は何故か皆一様に生命力に満ち溢れていて、僕達は灯火の燃料には困らなかった。
この環境を、仲間達は何も疑問を持たずに生きる為に当前の事として受け入れている。
だが、僕は違った。
この環境をのうのうと受け入れる事を僕自身の心が拒み続けていた。
……タワーオブヘブンは墓場だ。
塔の形をして、てっぺんに鐘が付いていて洒落ていても、単なる墓場には変わらない。
なのに彼らは「ここにいると、生きたいって気持ちでいっぱいになる。」という意味合いの言葉を口々にする。
おかしいとは思わないかい? 生気に満ちた墓場だなんて。
それに、ヘブン(天国)と名付けられているこの塔だが、魂が安らかに眠れずに僕達に喰われて燃やされてしまうような場所なんて、むしろ地獄ではないかとさえ僕は考えていた。
そんな事を思う日々を過ごしていた僕はある日、一人の女性と出会う事になる。
その桃色のレインコートと長靴を身に付けて、ボブカットの黒髪を持つ彼女は、僕が今までに見てきたトレーナー達とはどこか違う、言葉には表せない雰囲気を纏っていた。
彼女は自分のパートナーのポケモンを一匹も連れていなかった。
野生のポケモンが飛び出してくるこの塔に身一つで登ろうだなんて、無謀な奴だと思った事は今でも覚えている。
そんな彼女の無茶な行動に呆れたのか、彼女の雰囲気に引かれたのかは定かではないが、
僕は彼女の案内役をかってでる事にした。
案内役、といってもそれはあくまで表向きの話。
実際は道案内をしながら、僕が生きるために必要な生命力を少しばかり分けてもらうのが本当の目的だ。
だが不思議と目当てのモノよりも、僕は彼女の方に興味をそそられていたのも事実ではあった。
警戒されないように、顔に特徴的な作り笑いを貼りつけて僕は彼女の目の前に姿を現す。
「………………。」
見事なまでのノーリアクション。彼女は僕を見ても微動だにしない。
しばしの間、二人の間に沈黙が流れた。
(ま、まずい。無反応とは。何かアクション起こさないとスルーされ……うわっ?!)
思考を巡らしていたら、無反応だった彼女にいきなり抱きかかえられた。
まるで隙を狙っていたかの如く、彼女は僕を強く抱きしめた。それも思い切り。
「…………可愛い。むぎゅー。」
(いっ?! い、いい痛い痛い痛い痛いギブギブギブギブ――!!)
ぱたぱたと暴れる僕をよそに、彼女は僕を抱えながらも器用にかばんの中から薄くて小さい機械を取りだし、それを眺めていた。
その間になんとか彼女の抱擁を振りほどく事に成功した僕は、螺旋階段の二段目まで移動し、彼女の方へと振り向いて手招きをした。
「あ……案内してくれるの?」
その言葉を待っていたとばかりに激しく首を縦に振る。
僕の首肯を見て、彼女は表情を明るくする。なんとか意志の疎通は取れたようで、僕は安堵した。
「それじゃあ、案内お願いします。ヒトモシくん。」
そう言って彼女は礼儀正しくお辞儀をした後、僕の後ろの螺旋階段をトンッと音を立てて一段登った。
彼女はタワー内の墓やトレーナーには一切目を向けず、ただただ僕だけを俯くように見ながら歩き続けていた。
二階、三階四階と一通り回ってみても彼女の様子は全く変わらない。
もしかしたら彼女のポケモンの墓を通り過ぎてしまったのではないかと不安になって振り向くと、彼女は「大丈夫。そのまま上に行って。」と小声で呟いた。
何が大丈夫なのだろうかと疑問に思いつつも、僕は彼女に促されるまま階段を上る。
この先にはもう、墓は存在しない。
螺旋階段を上りきると、突然背後から彼女の歓喜に満ちた声が聞こえた。
「……きれい。」
爛々と光る彼女の両の目には、太陽の光を受けてきらきらと輝く雲海が広がっていた。
そう、この雲の上にあるこの場所こそがタワーオブヘブンの頂上。
おそらくは、彼女の目的地。
よっぽどこの景色が気に入ったのか、流れる雲を遠目に見ながら、彼女は最後の階段を上っていく。
僕もこの場所の変化し続ける景色が好きだったから、少し嬉しかった。
階段を上りきると、今度は目を細くした彼女がいた。
その見つめる先にあるのは、一つの鐘。
タワーオブヘブンの名物でもあるこの鐘の音色は、死者の魂をよろこばせるといわれている。
多分彼女も、ここに訪れた多くの者達と同様の理由で鳴らしに来たのだろう。
――彼女が目の前にある鐘に手を触れ、鳴らす。
僕は黙祷して、それを聞く。
彼女が鳴らした鐘の音は、透き通っていて、それでいて力強い音色となって果てのない空と僕の心身へ響いていった。
響きわたる鐘の音が鳴り止んだ後、しばらく黙っていた彼女は鐘を見つめたまま、唐突に僕に語りかけた。
「……ヒトモシくん。ヒトモシくんには私が誰の為に鐘を鳴らしにここへ来たのか、まだ話してなかったよね?」
「私のパートナーの……ううん、パートナーだった“ ”に鳴らしに来たんだ。」
「ヒトモシくん。ヒトモシくんは“シャンデラ”ってポケモンを知ってる?」
「“ ”、シャンデラの《れんごく》の炎から私を庇って……死んじゃったんだ。」
「跡形も、残らなかった。だからお墓を作っても、空のボールしか埋めてあげられなかった。」
「それに……シャンデラの炎で死んじゃった人やポケモンは、その魂まで燃やされちゃうんだって。」
「だから、本当の意味で“ ”のお墓の中には誰もいない。その事実が、私は悔しかった。」
彼女は拳を握り、続ける。
「私のせいで死んでしまった“ ”に対して、何か出来ないかずっと考えてた。」
「そして、タワーオブヘブンの事を知ったんだ。」
「ここの鐘の音は、魂をよろこばせてあげられるって。」
「……無意味なのかもしれないって事は分かっているよ。」
「それでも私は……」
「それでも私は、まだこの世界に残っているかもしれないあの子の魂を、癒してあげたかった。」
……そうする事で、私自身を慰めたいだけだったのかもしれないけどね。
そう締めくくって語り終えた後、彼女は振り返って僕を見下ろした。
その彼女の顔がとても高く高く、僕には一生届かないくらい高い位置にある様に思えた。
「ヒトモシ君、今日はありがとう。」
「今度会ったらその時はまた、道案内お願いね。」
この時の彼女は、まるで僕の様に――笑っていた。
† † †
(……結局、どうして貴方は燃え尽きようとしているの?)
(貴方は何を懺悔したかったの?)
ああ……失礼。話が大分それてしまっていたね。
結局僕は、ヒトモシとして生きてきた事で犠牲にした者達に謝りたかったんだ。
「僕みたいな奴がヒトモシに生まれてごめんなさい。」
「今まで貴方達の眠りを、安息を踏み潰して生きていてごめんなさい。」
そして、「貴方達の大切なご主人様達を悲しませてごめんなさい。」って。
彼女という現実を目の当たりにして、耐えられなかった。
あんな、誰かを不幸にしないといけない生き方なんて、申し訳なさすぎて耐えられなかったんだ。
こうして誰の生命も魂も奪わずにじっとしていれば、この命は勝手に燃え尽きてくれる。
その点についてだけは、ヒトモシに生まれた事に感謝しているさ。
(……違うわね。)
違う?
(ええ、違う。間違っている。)
(たかがそんな思いこみで貴方が自らの生命を捨てるなんて、大間違いよ。)
……じゃあ何が正しいのさ。
僕は、僕はヒトモシなんだぞ……!
彼女にあんな、泣きそうな作り笑いをさせる原因を作ったシャンデラの進化前なんだぞ!?
彼女は僕が進化前だと気づいていたかどうかなんて、そんな事はどうでもいい。
このまま僕が生き続けていたら、僕もいずれ進化して、彼女みたいな人間をつくってしまうかもしれない。
彼女みたいな人間をつくってしまう事を、良しとしてしまうかもしれない。
当たり前にしてしまうかもしれない。
そんなのはダメだ。
それだけは阻止しなくちゃいけないんだ。
たとえ、こんな形になったとしても。
(……大馬鹿者。)
……それ、たった一人の友人のリグレーにも同じ事言われたさ。
だが、これで良い。
こうしてれば僕はもう、誰も犠牲にしないで済む。
だから、これで、良いんだ。
(ふざけるな。)
(何が、「これで良い。」だ。)
(お前の逃げ口上のアホらしい行動を、私のご主人のせいにするなあっ!!)
わた、しのご主人……?
――まさか
(お前がお前の種族として生き方を嫌というほど呪っているのは分かった。気持ち悪いくらいにな。)
(だがな、お前は嫌だ嫌だと口では言いながら、実際はそれに対して何も行動していないだろう?)
あ…………
(本当に嫌だと思う事なら、それを阻止したいのなら、)
(ありのままの現実から目をそらさずに……受け入れてみなさい。)
(そして)
(しっかり見据えて――立ち向かってみて。)
(貴方には、そのチャンスがたくさん残っているじゃない。)
(私と違って、貴方はまだ生きているんだから。)
……キミは、もしかして彼女の――
(……ボロが出ちゃったか。)
(そうよ、私は“ ”。あの子のパートナーのポケモンだったわ。今は魂だけの存在だけどね。)
でも君は、シャンデラに燃やされたはずじゃ?
(命からがら、この場合は魂からがらか。魂だけは、奇跡的に炎から逃げ出せていたのよ。)
(まあ、結局死んでしまっている事にはかわりはないんだけれどね。)
(……私寂しがりやだからさ、成仏とか消滅とかしてあの子の傍を離れるなんて、絶対にしたくなかったんだ。)
(いつでもどこでも、あの子の周りにいた。それを伝えることは出来なかったけれどね。)
? でも僕が彼女と出会った時に、君は居なかった。
(貴方の種族にわざわざ魂を食べられに行く度胸は、流石の私でも持ち合わせてはいないよ……。)
…………失礼。
(そんな、気にしなくてもいいよ。別にもう、食べられても良いって思ってるし。)
どうしてだい? そんなに彼女に執着していたのに、何故無下にしても良いと思うんだい?
(聞こえたから。あの子が私の為に鳴らしてくれた、鐘の音。)
(貴方の話のおかげで、あの音に込められた思いを受け取れたから。)
そっか。じゃあもう君は未練が無いんだね。
(いいえ。後一つ、心残りはあるわ。)
(貴方に生きてもらうっていう大きな大きな心残りがね。)
……拒否権がなさそうだから聞いておくけれども、
僕は君の魂を食べるつもりは無い。やはりこのまま燃え尽きるのが正しいと今でも思うし、そうするつもりだって言ったらどうするんだい?
(させないよ。それこそ、無理矢理でも貴方の炎の糧になってやるんだから。)
ずいぶんと強引なんだね。
(ええ。だって貴方に死なれたら、きっとあの子が悲しむもの。)
……?
(これ以上言うと嫉妬になっちゃうから、言わない。)
(……ねえ、どうせ捨てるつもりだったのならその命、あの子の為に使ってみてくれないかしら?)
……………………。
(どう?)
――やっぱり、考えを変える事は出来ない。
でも、そういうのも悪くないとは思う。
だから、僕が僕自身の生き方について考え直す為に、君の時間を分けてくれ。
(…素直じゃないのねえ。)
む、僕の意に反した無茶な頼みを聞いているんだ。ひねくれて当然さ。
それに、さっきまで偉そうに語っていた考えをひっくり返すんだ。
これぐらいは格好つけさせてくれないと……情けない。
(ふふふふふふふふ……)
わ、笑うな!
(ごめんなさい。そして、ありがとうヒトモシくん。)
……どういたしまして。
そしてこちらこそ、ありがとう。
† † †
気がつくと、僕は見慣れない場所に居た。
周りの様子を確認しようとした時、右側から何かが僕を包み込んだ。
その何かは暖かく、そして、痛かった。
この痛みは覚えのある痛さだった。
「良かった……目を覚ましてくれて、無事でホントに良かったよぉ……!」
泣きじゃくる彼女が僕をぎゅっと強く抱きしめてくれていた。
僕の頭の炎は、僕の感情を表すように大きく揺れていた。
ジョーイ、と名乗る人物から聞いた話だと、タワーオブヘブンの隅っこに隠れ、燃え尽きようとして弱り切っていた僕を彼女が見つけ出して、ここフキヨセシティのポケモンセンターに連れて来たのだという。
僕の消耗は思ったよりも激しくて、本来だったら助からなかったらしい。
僕の生命が吹き返したのは、奇跡だと言っていた。
それから落ちた体力もすっかり元通りに回復し、僕は元気になった。
彼女は退院した僕をタワーオブヘブンまで送ると言ってくれた。
その時の彼女の心遣いに対して僕がどう返答したかは、あえて伏せさせてもらう。
ただ、アイツとの約束を守るというだけで行動したわけではないとは言っておく。
――行方をくらました僕を、心配して、探し続けて、見つけ出してくれた。そんな相手だ。
幽霊になっても思い続けたアイツにはとてもじゃないが敵わないだろうけれど、
僕だって彼女と……古今東西いつでもどこでも、一緒に居たいと思ったんだ。
一緒に生きてみたいと、思えたんだ。
† † †
タワーオブヘブン
正しき 魂 ここに眠る
僕はこの言葉が嫌いだった。
今は、そうでもない。
彼女と生きたいと思う今の僕には、眠る暇も必要も、いらないから。
あのお気に入りの鐘の音は、またここに戻って来た時の楽しみとして取っておこう。
あとがき
初めまして、空色代吉と申します。以前から気になっていたのですが、とうとうマサポケに一歩歩み出ました。これからよろしくお願いします。
読んでくれた皆様、ありがとうございます。
作中の意見とは正反対になりますが、ヒトモシとリグレーが好きな私にとってタワーオブヘブンは天国のような場所です。
そんなタワーオブヘブンを舞台に短編を書いてみたいと思って五年前作ったのが、この短編でした。つ、拙い。
タイトルは古今東西の当て字です。意味としては、
“故”(こ)故人、亡くなっている者の“魂”(こん)魂に対しての、“灯”(とう)ヒトモシが抱く、“罪”(ざい)罪の意識。となっています。
“ ”の名前のポケモンについては、最初は種族名を固定していたのですが、途中から変更してあえて空白にしました。
理由はただ単に空白の方が既に存在していない雰囲気を出せるかなと思っただけです。
なので、あなたがイメージしたポケモンの名前を思い浮かべて読んでみてください。
それでは。
「やめろ……なんで僕達がこんな目に……」
ここはホウエン地方のサイクリングロード。自転車に乗るものだけが通れる場所。そのキンセツシティ側で一人の少年とキルリアが6人の暴走族達に絡まれていた。瀕死になったキルリアが、暴走族の一人に頭を踏まれている。
「だ〜からポケモンバトルで負けたんだからさっさと有り金全部よこせつってんだろ?でねえとてめえの大事なキルリアちゃんがどうなっても知らねえぜ…」
「い、一対五で無理やり仕掛けておいて卑怯だぞ……!」
「うるせえ!負けるほうが悪いんだよ。やれ、怒我愛棲!スモッグだ!」
「ドッー!」
暴走族の男は手持ちのドガースに毒ガスを撒かせる。まともに浴びたキルリアの表情から血の気が失せていく。
「や、やめてくれ!わかった、お金なら全部払うから……」
「へっ……最初からそうしてりゃいいんだよ」
少年は泣く泣くお金の入った財布を出す。中身を出そうとすると、暴走族の一人が近づいてきて財布ごと奪い取った。
「ちっ、こんなもんかよ。これじゃまだまだ足りねえな……おい、その自転車ももらおうか!襤褸だが、少しは金になるだろうからよ!」
「そ、そんな……!お願いします、これだけは勘弁してください!」
少年にとってこの自転車は両親が必死に働いたお金で買ってくれたぼろぼろの宝物だ。必死に頭を下げるが、暴走族は舌打ちする。
「そうかよ、じゃあてめえのキルリアはどうなってもいいってことだな!息が出来なくなって死ぬのは苦しいだろうに、薄情なトレーナーを持ったこと後悔しなぁ!」
「やめてくれぇぇぇぇ!!」
だが暴走族は平然とドガースにより強く毒ガスを吐き出させる。紫色の気体がキルリアの体をうずまき、その白い肢体を汚く染め上げていく。悲痛な声をあげることしか出来ない少年。
(自転車を取られたなんて父さんと母さんが知ったらどれだけ悲しむか……でも、このままじゃキルリアが!)
彼が自転車を諦めかけたその時。キルリアの周りの紫色の気体が吹き飛び、その体が宙に浮く。そしてそのまま高速で動き、少年の元へと突っ込んだ。慌てて受け止める少年。
「え……」
「なんだぁ!?まだ念力を使う余裕がありやがったのか!?」
そうだ、今の体を見えない糸で無理やり動かすようなそれは念力によるものに違いない。だが少年のキルリアは明らかに瀕死の状態だ。毒ガスから解放されてなお、荒く息をついている。
では誰が……?暴走族と少年が周りを見回した時、彼らは見た。
真っ赤な髪に緑色の目をした少年がマッハ自転車に乗って猛スピードでこちらに走ってくるのを。その傍らには鉄爪ポケモンのメタングがいる。
まるでヒーローのように颯爽と現れた彼は、少年と暴走族に向かってこう言い放った。
「てめえら邪魔だ!出口でぼさっと突っ立ってねえでさっさとそこからどきやがれ!!」
彼の瞳は少年のことなど全く見ていない。むしろ出口を塞ぐ暴走族達に対して好戦的ですらある笑みを浮かべている。
「え……ええええっ!?」
「このクソガキ……調子こいてんじゃねえぞ!やれ、てめえら!」
その態度を舐められたと感じた暴走族の一人、恐らくはボス格が命じると、他の五人が全員ドガースを出す。キルリアはこの5人に同時に襲い掛かられて負けたのだ。
「危ないです!いったん止まって……」
被害者の少年は止めようとするが、緑眼の彼は全くスピードを落とさなかった。全力疾走のままモンスターボールを手に持ち、僕を呼び出す。彼の乗る自転車にはめられたメガストーンが光り輝いた。
「出てこい、メガシンカの力で大河を巻き上げ大地を抉れ!波乗りだ!」
出てきたラグラージは早速作り出した大波に乗り、道の端を走る緑眼の少年に並走する。サイクリングロードの道幅ほぼ全てを飲み込む怒涛に、暴走族達、被害者の少年が慌てふためく。
「な、なんだこりゃあああああああ!!」
「ま、巻き込まれる……わわっ!!!?」
すると被害者の少年とキルリアの体が念力で無理やり動かされ、波乗りのわずかな死角――すなわち緑眼の少年の後ろまで強制的に移動させられる。襟を引っ掴まれたような優しさのかけらもない移動には少し文句も言いたくなったが、巻き込まないつもりはあるのだろう。
「邪魔するんなら……くたばりやがれええええええええ!!」
問答無用で怒涛は暴走族とドガースを飲み込みながら、緑眼の少年は一切スピードを落とすことなくサイクリングロードを駆け抜けた――
「ふぅん……そりゃ災難だったな」
「何も知らずにあんな無茶なことしたんですね……」
サイクリングロードを出て、キンセツシティのポケモンセンターで被害者の少年からどういう状況だったのか聞いた彼は、どうでもよさそうに頷いた。曰くあのような行動をした理由は、本気で道を塞ぐ彼らが邪魔だったからだけらしい。自分を助けたのはそのついでとのことだった。その破天荒さに少年は呆れる。
「……でも、ありがとうございました。僕のキルリアと自転車を助けてくれて」
「別についでだ。しかしみみっちい奴らだよなあ。こんな自転車、買い手を探す方が手間取りそうだってのによ」
「ははは……」
被害者の少年の自転車を顎で示してそう言う彼には、何の悪意もない。怒る気にもならなかった。
「そういえばあなた……名前は?僕はアサヒと言います」
「俺の名前はエメラルドだ。よく覚えときな」
エメラルドと名乗った彼は自慢げに言った。被害者の少年、アサヒは彼のポケモンについて聞く。
「それにしても凄かったですねあなたのポケモン……メタングとラグラージでしたっけ。僕、メガシンカを直接見たのは初めてです」
「当然だろ、俺様に仕えるポケモンたちだぜ?」
エメラルドという少年は、とても傍若無人で尊大不遜のようだった。エメラルドは13歳で140cmほど、アサヒは15歳で背丈も彼より高いのだが、そんなことは気に止めた様子もない。
「あの……今まで見たことなかったと思うんですけど、サイクリングロードに来るのは初めてでしたか?」
アサヒはよくサイクリングロードを走っていて、そこを走る人間やポケモンのことを観察していたりもするのだが、彼を見たことはなかった。
「ああ。思いっきり飛ばせる場所だって聞いたから何分で走り抜けられるか挑戦してみたんだが、あいつらが邪魔してやがるからさ。ったく、俺様の道塞いでんじゃねーっつの」
「何分って……普通どんなに急いでも三時間はかかりますよ!?」
「まあ、思ったより時間はかかったな。……95分くらいか?」
「もしかして……カイナシティからずっと全力疾走で?」
おう、と頷くエメラルド。彼は確かに汗こそかいているが、消耗しきっているようには見えなかった。慣れていない道を走るのなら普通神経も使うだろうに無茶苦茶な体力と根性してるな、とアサヒは思った。思って――ふとあることを思いつく。
「そうだ、エメラルドさん。明日からこのサイクリングロードで大会があるんですけど、良かったら出てみませんか?エメラルドさんなら、きっと結果が残せると思うんです」
アサヒはバッグから一枚のチラシを取り出す。それを見たエメラルドはあまり興味なさそうに読み上げた。
「……サイクリングバトル?」
「ええ、最近このサイクリングロードで始まった新しいバトルのスタイルです。僕は怖いんでやったことないんですけど、見ているととってもドキドキハラハラして……なんて言うんでしょう。新しいポケモンバトルの可能性を感じるんです」
「へえ……つっても旅もあるしなあ」
目を輝かせながら言うアサヒに対してやはりあまり気乗りしない様子のエメラルドだったが、チラシを眺める緑色の瞳がある一点で止まる。そこには、優勝賞品について書かれていた。
「メガストーンか」
「そうなんです!メガシンカを使えるエメラルドさんなら興味あるかなと思って……出てみませんか?」
エメラルドは考える。今この地方では、メガストーンを集めるティヴィル団という連中が暗躍している。彼らがこの大会に目をつける可能性を考えれば、出る価値はあるだろう。
「よし、わかった!俺様が優勝をかっさらってやるぜ!!」
「ほんとですか!?」
「おう、参加費は……なんだ、たったの5万円ぽっちか。これならパパに頼むまでもなく楽勝だぜ」
「そう言うと思いましたよ」
彼がかなりのお金持ちなのはこれまでの言動で察しがついていたため苦笑するアサヒ。なんというか、本当に自分とは違う世界に生きている人だとアサヒは思う。
「それじゃ、さっそく登録をしましょう!確か、ポケモンセンターでも出来たはずですから」
「そうだな、ちゃちゃっと済ませちまうか」
「ええ!そのあとでサイクリングバトルについて詳しくお話ししますね!」
ポケモンセンターの受付に向かい、カードでお金を払って登録を済ませる。そのあと、エメラルドはアサヒからサイクリングバトルについての詳細を聞き始めた。
「――まったく、危ない子だ」
緑眼の少年が怒涛の波乗りで暴走族を飲み込んだのを遠くで見ていたレネ・クラインは再び手持ちのサンダース日々のトレーニングに戻る。
彼はアスリートだ。日々愛用のマッハ自転車を駆り、己とポケモンを鍛えている。そして今は、大会の直前だ。あの被害者の少年にはかわいそうだが、余計な手を出して傷を負うリスクは避けなければならなかった。
(サイクリングバトル。それはスピードの中で進化したポケモンバトル)
明日の大会について、彼は走りながら考える。半年ほど前から行われるようになったそれは、もともとは暴走族のチキンレースのようなものだった。お互いにポケモンで自転車を走る相手を攻撃して、最後まで走り続けられた方が勝ち。
勿論、これから行われる大会はそんな野蛮な火遊びとは違う。ポケモンの力にリミッターをつけ、走る人間に生命の危険がないようにすることで、心置きなく技を打ちあい、設けられたゴール地点まで自転車を走りながらバトル出来るようにされたそれは、スピーディーかつスリリング、そして健全なスポーツとしての地位を少しずつ確立させつつある。レネもそんなサイクリングバトルに魅了され、また見る人々を魅了する一人となっていた。
(バトルの勝敗を決める要素は二つ。一つは普通のバトルと同じく相手のポケモンを全て戦闘不能にすれば勝ち)
これに関しては特別な説明は必要ないだろう。ただし、自転車を決して遅くないスピードで走りながらのバトルなので普通のポケモンバトルとは大いに勝手が異なるが。例えば、出場できるポケモンにもある程度制限がつくといえる。ナマケロやカラサリスのような遅い、動けないポケモンではバトルにならない。
(もう一つ。それは相手よりも早くゴール地点にたどり着くこと。この二つのうちどちらかを満たした方の勝ちとなる)
ここがポイントだ。サイクリングバトルにおいては何も相手のポケモンを倒す必要はない。相手の攻撃を躱し、防ぎながら迅速にゴールを目指すこともまた戦略となる。
(逆もまた然り。相手の走行をいかに妨害するかも重要な点。……すなわちこれはポケモン同士だけではなく、トレーナーもバトルに参加しているようなものだ)
そのため、前述の通りサイクリングバトルの際にはポケモンの能力にリミッターがつけられる。今回の場合はレベル5以上の力が出ないように調整されるらしい。とはいえそれでも攻撃を受け過ぎれば怪我もするし、自転車が壊れることもあり得る。全く危険がないというわけではないのだ。
(そして、サイクリングバトルとスポーツとして成立させるためのルール。トレーナーとその手持ちは、半径5メートル以上離れてはいけない)
この制限がないと、いかにトレーナーの両者の距離が離れていてもポケモンが好き勝手に攻撃出来てしまい、何のためにレースの形式をとっているかわからない。バトルを成立させるために必要なルールだ。
(そしてもう一つ。主にエスパータイプの技を使う場合に言えることだが、ポケモンの技で直接人間や自転車を操ってはならない)
これもまた同様、例えば念力で相手を浮かせてしまって自転車を動かせなくなってしまうとレースとしての意味がなくなってしまう。
(だが逆に言えば、それ以外の制限はない。そう――どんな技であれ、人間に使うことが出来る。このように)
「サンダース、電磁波」
傍らを走るサンダースに電磁波を撃たせる。対象は――レネ自身だ。レネの足に電磁波が走り、一瞬ピリッとした痛みが走り、その端正な顔を歪める。
だがそれは自らに痛みを課すトレーニングの類ではない。適度な電磁波がレネの筋肉を刺激し、より速いスピードでレネは自転車を駆る。
(このように、ポケモンの技を自分に使って速度を上げることも出来る。ポケモンの技で攻撃、防御、そしてトレーナーの補助……これらをいかに行っていくかが勝利の鍵を握る。だが――)
そして何より、重要な点がある。
(一番重要なのは、トレーナーの走り。走る意思の弱いトレーナーにはいかなるチャンスも与えられない)
いかにポケモンが強かろうと、どんなテクニックを有していようと、トレーナーにバトルをしながら走る技術、体力、精神力がなければこのバトルでは勝てない。
(そんな大会で、私は勝つ。そしてもっとこのバトルを世に広めてみせる)
冷静な思考の中に熱い情熱を燃やし、レネは自転車をさらに速く漕ぐのだった。
「なるほどねぇ……ポケモンの力にセーブがかかるってのはネックだな」
説明を聞き終えたエメラルドは、少し難しい顔をしていた。彼のバトルスタイルは先ほどのように、圧倒的な攻撃力とその攻撃範囲で押し切ることだ。だが技の威力に制限がかかる以上、それは難しいだろう
「ええ、ですけど……エメラルドさんなら、きっといいところまで行けると思いますよ」
「はっ、いいところつったら優勝しかねえよ。……んじゃちょっくら走ってくるか」
「もう行くんですか?」
「ああ、大会で走るとなりゃもうちょいルートを把握する必要があんだろ。――一緒に来るか?」
「はい、喜んで!」
アサヒはこの短い間にすっかりエメラルドの畏敬の念のようなものを覚えていた。恩人であるということもあったし、傍若無人な中に人を惹き込むカリスマのようなものを感じるのだ。
二人は大会のためにサイクリングロードへ再び向かう。一方そのころ、メガストーンを狙う組織の魔の手も忍び寄っていった――実に堂々と。
「ふふーん、ここがホウエンのサイクリングロードですか!シンオウのに比べてばなんと不格好なことでしょう!こんな暑苦しい場所で暑苦しいレースだなんてまったくホウエンの人間の考えはわかりませんね!パ……博士の命令なんでやりますけど!」
そうサイクリングロードの中央で騒々しく走っているのは、ホウエンとは違う地方――シンオウの四天王の一人、ネビリムという少女だった。薄紫の長髪をストレートにしているけど少し前髪が動物の耳のようにぴょこんとはみ出ていて、スポーティーな半袖シャツに小豆色のロングパンツを履いている。ちなみに、愚痴を言っているかのような口ぶりだが自転車を漕ぐその姿は楽しそうだ。
「ぶっちゃけ大会とか出ずに直接奪えと言われるかもしれませんが、そうは問屋が下ろしません!大会に勝てば手に入るのなら、優勝して堂々と手に入れればいいのです!その方が我々ティヴィル団の存在が目立ちますしね!」
悪の組織が目立つのはどうなのか、という意見はあるかもしれないが、彼女たちには彼女の理由があるのだった。その理由とは――
「――それが、四天王でありアイドルであり宇宙一強くて可愛くてお料理お裁縫もすごく上手い私の美学!こそ泥じみた行為なんて私には似合わないんですよ!」
……というわけだった。そんな風に一人で勝手に盛り上がる彼女を、サイクリングロードに戻ってきたエメラルドは白い目で見る。
「……誰だっけ、あのバカ女?」
「あれってもしかして……ネビリムさんじゃ?」
そうアサヒとエメラルドが自転車を漕ぎながら話すと、自分の名前を呼ばれたことに気付いたのかネビリムは猛スピードでこちらに走ってきた。
「私の名前を呼びましたね!盗撮はNGですが、言ってくれればサインくらいしてあげますよ!」
「うわっ、こっち来やがった!」
「あわわ……その、ネビリムさんもこの大会に出るんですか?」
有名人に話しかけられて慌てながらもアサヒが聞くと、ネビリムは胸を張って応える。
「その通りです!も、ということはあなたかそちらの失礼な男の子も参加するようですが、優勝は私が頂きますからね!そしてメガストーンは私の物です」
「はっ、あり得ねえな。優勝するのは俺様だって俺が大会に出るって決めた時点で決まってんだよ」
「……言いますね、その小さな背の割には大きなな台詞、言わなきゃ良かったと後悔させてあげます」
「てめえこそ、その小さい胸の割にはでかい口を叩いたこと悔いるんじゃねえぞ」
「ふふーん、それで挑発のつもりですか?クールな大人の女である私には痛くもかゆくもありませんね!」
「こんな公衆の面前で大口叩くクールな女がいるかっつの!」
お互いににらみ合うエメラルドとネビリム。なんだか似た者同士だなあとアサヒは思った。
「おっと、それでは私はトレーニングに戻りますので。それでは二人ともお元気で!決勝で待ってますよ、これたらの話ですけどね!」
「おもしれえ。その台詞、そっくりそのままリボンでもつけて返してやるぜ!」
そう言い残し、ネビリムは自転車を飛ばして向こうへ行ってしまった。恐らくはカイナシティに戻るのだろう。
「ったく……んじゃ俺たちも戻るぞ」
「そうですね……もうだいぶ時間もたってますし」
気が付けば、街は夕暮れに染まり夜が訪れようとしていた。二人はキンセツシティに戻り、明日の大会に備えて早めに休むことにした。
それぞれの思惑を胸に、大会の日を迎える――
翌日、サイクリングロードに向かってみると既に参加者たちはそろっていた。大半がアスリートもしくは暴走族といった感じで、エメラルドとネビリムがかなり浮いている。サイクリングロードの受付に、巨大な抽選の機械が置いてあった。
「それではこれから、大会の組み合わせを決める抽選を行います!」
福引のような安っぽい音を立てて、抽選の機械が回り始める。
「んだよ。しけてんな。金それなりに取ってんだからもうちょい余興とかねえのかよ」
「まあまあ……」
不満そうなエメラルドをアサヒが宥める。ボールが機械の中から二つ転がり落ちて。司会者がそのボールを二つ示す。
「第一試合は、エントリーナンバー15番、エメラルド・シュルテン!エントリーナンバー16番、ホンダ・カワサキ!この二人に決定されました!」
どうやら早速試合のようだった。ついてない、とアサヒは思う。
「エメラルドさんはサイクリングバトル初めてですから、他の方の試合を見てからがよかったんですけどね……」
「関係ねえよ、それに試合なら昨日お前にDVDで見せてもらってる」
自信満々に、不遜に言うエメラルド。その姿勢には一切の緊張がない。
そして対戦相手の方は――いかにも暴走族してますという感じの、茶髪のモヒカンヘッドの男だった。というか、アサヒはその人物のことを知っている。
「あ、あいつは……!」
「なんだ、知ってんのか?」
「知ってんのか?じゃないですよ!昨日の暴走族のボスですよあいつ……!」
きっ、と相手を睨むアサヒ。エメラルドはふーん、とどうでもよさそうにしている。
向こうは向こうでエメラルドのことに気付いたらしく、いきなり大股でどんどんと詰め寄ってきた。180cmはあろうかという巨体で、エメラルドのことを見下ろす。
「おいクソガキ、昨日はよくも舐めた真似してくれやがったな?今すぐここでぶちのめしてえところだが、こうなった以上大会で昨日のケジメはきっちりつけさせてもらうぜ!」
メンチを切る暴走族のボスに対して、エメラルドは右手をひらひらと振った。
「あ?うるせえなあ。俺はお前のことなんて知らねーよ、通行人A」
「てめっ……ぶっ潰してやる!」
「はいそこ、喧嘩は後にしてくださいねー」
司会者に止められ、渋々と引き下がるボス――ホンダ。腸は煮えくり返っているが、そのうっぷんを大会で晴らすつもりなのだろう。
「それでは一回戦ですしパパッと進めてしまいましょう!一回戦のルールは1対1、走行距離は3km!二人は速やかにスタート地点についてください!」
(……一回戦、ねえ)
何か引っかかるものを感じるが、今はどうでもいい。目の前のバトルに集中するだけだ。
「じゃ、行ってくるぜ」
「はい!頑張ってください、エメラルドさん!」
アサヒに軽く手を振り、エメラルドは自転車を押してスタート地点まで向かう。ホンダもエメラルドを睨みながら同じ場所に向かった。
スタート地点につき、愛用のマッハ自転車に跨る。その機体は使いこまれていながらもピカピカだ。対するホンダの自転車は、紫色の煤のようなもので汚れている。ドガースの毒ガスが染みついているのだろう。
「潰す……てめえのせいで俺たち死亜悶怒ダイアモンドは一人しかこの大会に出れなくなっちまったんだぞコラ!」
「なんだよその名前、俺が知るかっつの。てかどうせ巻き上げた金だろそれ」
「その舐めた口、二度と聞けなくしてやるぜ……」
はっきり言ってエメラルドにとってホンダは眼中にない。その為適当にあしらっている。
「さあ、それでは張り切っていってみましょう。3・2・1……」
どうやらこのサイクリングバトル、開始の際にはトレーナーはある言葉を言って始めるのが暗黙の了解らしい。それをエメラルドとホンダは大きく叫んだ。
「「サイクリングバトル、アクセル・スタート!!」」
「出てこい、メタング!」
「来いや、股怒我巣!」
自転車で走り出すと同時に二人はポケモンをだす。メタングとマタドガス、二匹の相性ははっきりしている。
「へっ、やっぱりマタドガスだったか」
「ああ?」
訝しむホンダに対し、エメラルドは得意げに言う。
「連れに言われて思い出したんだがな。てめえの手下は全員ドガース連れてたろ」
「はっ、それで俺の手持ちはその進化系だと思ったってか?見た通りのガキだな」
「いーや、それだけじゃねえ。もうひとつはてめえのチャリだ」
「・・・」
ホンダの自転車は紫色に煤けている。それがエメラルドの推理の決め手になっていた。
「その汚れ、いくらドガースが取り巻きに居るったってそれだけじゃそうはならねえ。ならてめえも毒タイプ、それも煙をだすようなやつを連れてるってことさ」
手持ちポケモンをズバリ読まれ、タイプの相性で鋼・エスパーという圧倒的に不利な相手を出されたホンダはーーにやりと、凶暴に笑った。
「へっ、小賢しいな・・・だがサイクリングバトルでそんな相性なんざ・・・知ったことか!やれ、股怒我巣!」
「怒っー!」
マタドガスがホンダの後ろにつき、毒ガスをマフラーを外したバイクのような轟音を立てて噴出する。ホンダがその勢いに押され更なるスピードで直進し始めた。そしてーー
「うえっ・・・デカイ屁こいてくれんじゃねえか」
その煙はエメラルドの視界を塞ぎ、その息を苦しくした。本来なら呼吸困難に陥ってもおかしくないほどの毒だが、そこはポケモンのレベルを押さえる装置で抑えられている。
「メタング、メタルクロー!!」
エメラルドも離されないように懸命に自転車を漕ぎながら技を命じる。メタングが少し離れて技をあてにいこうとするがーー
「無駄だなぁ!股怒我巣、煙幕!」
今度は黒い煙幕を放ち、その姿を隠す。メタングの爪が空を切った。エメラルドにその様は見えないが、音がしないことからそれがわかる。
「ちっ・・・気分悪ぃな」
「そろそろ毒が回ってきたか?なにしろてめえは俺を追い抜くためにいっぱい運動していっぱい息を吸わなきゃ行けねぇもんなあ!たっぷり毒を吸ってふらふらになって俺に負けな!そしてそのあとで・・・地獄を見せてやる」
ホンダはこのバトルだけでエメラルドに対する仕返しをやめるつもりはない。バトルで毒によるダメージを与えた後、直接痛め付けるつもりだ。
「どうだ・・・これがサイクリングバトルの恐ろしさだ!てめえのメタングがいくら無事でも、走るトレーナーがボロボロになっちゃ意味ねえんだよ!」
「・・・」
返事もできないエメラルドに勝ち誇るホンダ。勝負は一キロ、もう半分は走っただろう。エメラルドに打開手段がなければ負けだ。そしてメタングには念力が使えるが、直接トレーナーを操る行為は禁止されている。
「・・・ああ、そうだな」
かなり疲労した声でエメラルドがようやく返事をした。昨日はサイクリングロードすべてを走りきっても平気だったのに。毒ガスが効いているのだろう。
「へっ、ようやく認めやがったか。だがもうおせえぜ。俺たちを怒らせたこと後悔しな・・・!?」
息を荒くしながら勝ち誇るホンダだったが、その声がひきつる。
(なぜ、やつの声が横から聞こえる?)
そう、もう半分は走っただろう。すでに相当な距離がついているはずだ。なのに・・・
「よう・・・また会ったな」
「な・・・!?」
エメラルドは汗をながしながらも、確かにホンダに追い付いていた。その方法とは・・・
「て・・・てめえ、まさか煙に隠れて念力で移動しやがったのか!?」
「へっ、俺様がそんなセコい真似するかよ・・・俺はただ、全力でかっ飛ばしたんだよ!」
「な・・・なんだと!?」
馬鹿げてる、とホンダは思った。それでマタドガスで加速する自分に追い付けるはずかない、と。
「なあ・・・てめえ、息があがってるぜ?」
「・・・!!」
エメラルドの指摘に、今更ながらホンダは自分の状態に気づく。まだ一キロも走っていないのに彼はバテはじめている。
「そう・・・毒ガスを吸ってたのは俺だけじゃねえ。お前もなんだ。俺よりもずっと長い間な」
謂わばホンダは、長い間きつい煙草を吸い続けたようなものだ。彼の肺はすっかり毒ガスに侵されている。
「つまりてめえの走る速度は、てめえの思うよりずっと遅かったってことだ!さあ、このまま追い抜くぜ!」
「させるかよ・・・ならてめえのメタングを沈めれば俺の勝ちだ!股怒我巣、火炎放射!」
「てめえはこうも言ったぜ。相性なんざ知ったことかってな!メタング、念力!」
メタングの念力で火炎放射を跳ね返す。マタドガスの体が逆に燃えた。
「怒っー!」
「股怒我巣!!」
「よっしゃあああー!!」
二人の距離が、どんどん離れていく。そして一人が、ゴールを切ったーーエメラルドの勝利だ。
一回戦を勝利したエメラルドは、サイクリングロードを戻りアサヒのもとへ戻る。アサヒはエメラルドにタオルを差し出して出迎えた。
「やりましたね、エメラルドさん!」
「へっ、俺様にかかりゃあんなやつ屁でもねえよ」
エメラルドに言わせれば、ホンダはそもそもこのバトルに出てくるような敵ではなかったのだ。要は彼は自分の技で自分の肺を傷めて自滅しただけなのだから。
そう話すと、アサヒは感服したように頷いた。
「・・・そうだったんですか。でもあの毒ガスの中を全速力で走るなんて・・・やっぱりすごいです」
「そんなことより、他のやつらはどんな感じだ?」
汗を拭いながら、受付の上にいくつか設置されたちゃちなモニターを見る。そこでは他の面子の試合が小さく写っていた。既に終わったものもあるようだ。
「やっぱり凄いのはプロアスリートのレネさんと・・・あと、昨日のあの人です」
「あいつは・・・」
二人はモニターの一つを見る。そこに映ってのはーー
「ミミロップ、メガトンキックです!」
絶対的な自信を湛えた笑顔で、自らのポケモンに命じるのは、シンオウ四天王の一人、ネビリムだった。彼女は相手の横につき、ハガネールに休み暇なく攻撃を続けさせている。それは美女の艶やかなダンスのように、見るものを惚れさせるものだ。
だが相手も圧倒的な防御力を誇るハガネールの使い手。自転車の回りをとぐろをまく蛇のように、鋼の山のように覆いながらも、走るトレーナーの邪魔をしない動きはよく訓練されたものに間違いない。相手のがっしりした、応援団長のような格好をした男がハガネールの守りごしに叫ぶ。
「いくら攻撃を仕掛けようとも無駄だ、貴様では我が風林火山の走りを止めることは出来ん」
「いままで攻撃のひとつも仕掛けて来なかったくせに風林火山とは片腹痛いですね!」
「相手が女とあっては忍びないがそういうのならば見せてやろう。疾きこと風の如し、静かなること林の如し・・・」
するとどうしたことだ、ネビリムの相手の自転車の速度が音もなくスピードアップしはじめたではないか。予想外の動きに、ネビリムは少し距離を離される。
「真の走りに音は必要ない。それはエネルギーの無駄を生む」
「今までは手加減してたんですか?この私を相手に」
「そうだ、そして侵略する事火の如しーーハガネール、高速スピンだ」
命じられるまま、ハガネールがその巨体を音もなく回転させ始めるーーレベルの制限がかかっているため滅茶苦茶な速度ではないが、大きさが大きさだけにそれは立派な脅威だ。
そして相手は自らの車体をネビリムに近づけ始める。回転する巨体がネビリムに迫る。
「くっ・・・一旦下がりますよ、ミミロップ!」
たまらずネビリムが減速し、相手から距離を取る。あんなものが直撃すればさすがにただでは済まない。
「どうだ、これが我が風林火山の走りよ。俺自身が風の如く、林の如く走り。ハガネールが火の如く攻め、山の如く守る。我らに一分の隙もありはせん」
女相手に本気を出すのが不本意なのか、憮然と言う相手。それに対しネビリムはやはり笑顔を崩さなかった。
「あと300m」
「なに?」
「あと300m で、あなたを追い抜きます」
「馬鹿なことを」
相手は取り合わず、音無き走りを続ける。ネビリムも追走するが、ハガネールの守りと攻めを一体化した動きを攻略しなければ勝機はない。
「まさか一回戦からこれを使うとは思いませんでしたーーいきますよ、ミミロップ!」
ネビリムの髪留めと、ミミロップの体が光り輝く。それを見た相手の自転車からわずかだか一瞬音がした。
「なぬ?それはまさか」
「ええ、メガシンカです。その強さは巨人を倒し、その可愛さは天使に勝る!今このステージに降臨しなさい、メガミミロップ!」
ミミロップを覆う光が消え、体を一回り大きくしより鍛えられた体になったメガミミロップがネビリムの隣を並走する。
「さあ行きますよメガミミロップ!飛びひざげり!」
「受け止めろ、ハガネール」
助走をつけてメガミミロップが回転するハガネールに突っ込んでいく。鋼としやなかな筋肉の激突ーー結果は。
「ふん、やはり無駄だったようだな」
ハガネールの体は、崩れない。むしろ鋼鉄のボディに思い切り膝をぶつけたメガミミロップが膝を傷めている。そうしている間にも、100m が過ぎていく。
「見たところ、貴様のミミロップも雌であろう。女の体は傷つけたくない。これ以上の攻撃はやめるのだな」
「・・・安い台詞ですね」
ネビリムがメガミミロップをちらりと見る。メガミミロップは膝を気にすることなく頷いた。
「メガミミロップ、もう片方の膝で飛びひざげり!」
「なんという愚かな・・・」
もう一度、同じ攻撃が繰り返される。そして結果も一緒だった。メガミミロップが両膝を痛めて、流石に走りにくそうにする。200mが過ぎていく。
「・・・これ以上やれば、貴様のポケモンの無事は保障せんぞ」
「あなたに保障される謂れはありません。メガミミロップーー今度は両膝で飛びひざげり!」
三度、飛びひざげりが放たれる。バキン、と何かの砕ける鈍い音がした。恐らくはメガミミロップの膝の骨が砕ける音だろう。相手は残念だと思いながら、後ろのネビリムを睨む。
「自らのポケモンへの配慮を忘れた愚かなトレーナーよ。せめて同じ道をたどり、悔やむがいい。アイアンテールだ」
一度痛い目を見なければこの女は暴挙をやめるまい。そう判断した相手はもはや容赦なく、ハガネールに鋼の尾を振るわせ叩きつけようとする、がーーその鋼の巨体が動かない。回転が止まり、自転車に覆い被さる。
「ぬおおおお!」
そうなってはもう走りようがない。その横を、ネビリムが追い抜くーー
「300m、追い抜かせてもらいましたよ!」
膝を引きずるようにしつつも懸命に走るメガミミロップとともに、ネビリムがゴールを潜り抜ける。戦闘不能になったハガネールから、相手の自転車が出てくることはなかった。
モニターから目を離したエメラルドは、ふーんと退屈を装って言う。
「・・・はっ、どんなもんかと思ったら相性とパワーの力押しじゃねえか」
「エメラルドさんが言うことではないような・・・」
「なんか言ったか?」
「なんでもありません。・・・でもハガネールの防御力ってすごいんですよね。どうして倒せたんでしょう?」
疑問を呈するアサヒに、エメラルドが答える。
「さっきも言ったろ、相性だ。・・・ミミロップはメガシンカすると格闘タイプがつくんだよ。タイプ一致、高威力、効果も抜群とくりゃ流石にきつい、それに」
「それに?」
「・・・あとは、レベル制限のせいだな。いくらハガネールの防御力が高くても、それは抑え
られちまってる。ミミロップのも同様だか、逆に言えばそれだけ技自体の威力が大きなアドバンテージになるってことだ」
「なるほど・・・どうですかエメラルドさん、彼女と戦って勝てそうですか?」
「当然だろ」
自信満々の風で言うエメラルド。だがその後ろから、若い男の声が聞こえた。
「いいえ、君では難しいでしょうねーー」
「なんだ?お前」
突然声をかけてきた男に、エメラルドは眉を潜める。アサヒはこの男を知っているらしく、彼を指差した。
「あ!ほら、さっき言った人ですよ。この人がプロアスリートのレネさんです」
「こいつが?んで、そのプロ様が何の用だよ」
エメラルドの横柄とも言える態度におろおろするアサヒ。一方男ーーレネはドライアイスのような冷たい目で。
「がっかりですね」
「は?」
「一回戦の様子は録画したものも合わせてすべて見させて頂きました。それを見る限り、今回の優勝は私か今試合を終えた彼女、そして君だと思っていたのですがーー」
「おう」
見る目あるじゃねーかと思いつつ頷いたのだが、その評価はすぐに取り消されることになる。
「どうやら決勝は私と彼女の一騎打ちのようです」
「・・・ほー。言うじゃねえか。根拠はあるのかよ?」
てっきり怒るかと思ったアサヒだったが、この時エメラルドは意外にすんなり話を聞いた。
「君が彼女のことを、パワーと相性だけで押しきったと評したからですよ」
「・・・」
黙るエメラルド。レネはため息をついて続けた。
「分かりませんか。彼女はあの飛び膝蹴りを・・・いえ、そもそも最初の攻撃からですね。闇雲に放っていたわけではありません。彼女は相手が防御力に秀でたハガネールと見たときから、攻撃する場所を一点に絞っていたのです。
そうして彼女らは少しずつ攻撃を積み重ね、最後に強烈な一撃で止めをさした。彼女のなかでは全て計算済みだったことでしょう」
レネが説明を終える。エメラルドは目を伏せて話を聞いていた。
「それを見抜けなかった君は恐らく同じ場面にたったら闇雲に攻撃し負けていたーーこれが君が優勝できないと判断した理由です。何か反論がありますか?」
「・・・あるに決まってんだろ」
「聞きましょう」
エメラルドが顔をあげる。そしてレネを指差して宣言した。
「お前、アスリートなんだろ!だったら口先でごちゃごちゃ言ってねえで俺と、バトルだ!」
「・・・なるほど、そうきましたか」
言葉とは裏腹に、全く驚いていないようすのレネ。むしろ予想通りと言いたげですらあった。
「ではさっそく始めましょうか。ルールは一回戦のそれと同じで良いですね?」
そして、非公式のサイクリングバトルが始まりーー
「やっとつきましたか」
「ちっ・・・」
決着はあっけなくレネの勝ちで終わった。短距離走であることも影響していたが、走りの技術力も技の使い方も圧倒的だった。涼しい顔をしてゴール地点にいるレネに対し、ようやく追い付くエメラルド。
「これでわかりましたか。君のバトルはただの力ずくです。サイクリングバトルでは、通用しません。では、失礼します」
言いたいことを言って、レネは走り去る。一人残されるエメラルド。
だがその表情は、屈辱にも絶望にも染まっていなかった。
午後からの第二回戦も平然と勝ち抜き、彼は準決勝へと望むーー
「なんだあ、こりゃ?」
翌日、サイクリングロードにやって来たエメラルド達が見たのは、昨日のちゃちなモニターとはうってかわった高画質の巨大テレビと、それを見る沢山の人々だった。どうやら今日からは客を集めているらしい。
「おっと・・・さあ、これで選手も全員揃いました!それではさっそく抽選の時間です!・・・はい、決まりました!一回戦は『痺れる針山地獄』レネ選手と!『音速伝説』エメラルド選手です!ルールは10km, 使用できるポケモンは2体まで!さあ、盛り上げてくださいよー!」
対戦相手があのレネと聞いて、エメラルドは笑みを浮かべる。アサヒは逆に不安そうだ。
「あの・・・彼に勝つための作戦が思い付いたんですか」
「いや?俺は俺らしくやるだけさ」
自信満々のエメラルドを見て、これは自分一人で不安がっていても仕方ないなと思うアサヒ。せめて笑顔で送り出すことにする。
「わかりました・・・じゃあ、頑張ってください!」
「おう、行ってくる」
そうしてエメラルドはスタートラインに向かう。そこには既にレネがいた。
「逃げずに来ましたか。感心ですね」
「はっ、俺様を誰だと思ってやがる?」
「私のなかでは『元』優勝候補ですね」
「相変わらずいけすかない野郎だな」
「昨日から何か変わったのか何も変わっていないのか・・・見せてもらいますよ」
「はいはーい、おしゃべりはそこまでよ!」
すると、実況の声が聞こえてきた。二人は自転車に跨がり、スタートの態勢をとる。
「それじゃあ3・2・1・・・」
「「サイクリングバトル、アクセル・オン!!」」
二人が自転車を漕ぎ出し、ポケモンを繰り出す。
「出てこい、ジュカイン!」
「出番です、サンダース」
お互いいきなり技は繰り出さない。先を行ったのはやはりレネだ。第一コーナーを角を垂直ギリギリで曲がり、更にリードを広げようとする。
「っと・・・へへ、真似してみりゃ軽いもんだな!」
だが、エメラルドもそう簡単には引き剥がされなかった。エメラルドはレネの後ろにぴったりつき、その自転車さばきを真似るーーそうすることで、自転車のテクニックに関する差を縮めようという魂胆だ。尤も、誰にでも真似できる芸当ではないが。
「なるほど、ですがそんな付け焼き刃のテクニックでは追い付くことは出来ても一生追い抜けませんよ」
「わかってら!」
そう、彼の走りを真似ているだけでは決して彼の前に出ることは出来ない。ここから先を決めるのは、やはりーーポケモンの技だ。
「ジュカイン、リーフブレード!」
「サンダース、電磁波」
レネの後ろから斬り込もうとするジュカイン
対し、サンダースが電磁波を放ちその体を痺れさせて止める。草タイプには電気タイプの技は通じにくいとはいえ、状態異常は別だ。
「ちっ・・・」
「それで終わりですか?サンダース、ミサイル針!」
「さっそく使ってきやがったか!」
サンダースの体毛が一斉に逆立ち、強力な電磁波を帯びた針が水平な雨の如く撃たれる。それはジュカインだけでなくエメラルドの体さえもチクリとさし、僅かに痺れさせて減速させた。
「もう一度です、サンダース」
「リーフブレードで受け止めろ!」
エメラルドはジュカインの刃で防ごうとするが、降り注ぐ雨を刀で受け止められる道理はない。再び体が痺れ、更に自転車の速度が落ちる。
「やはり、一日での成長は無理ですか・・・」
「そいつはどうかな!ジュカイン、ぶっぱなせ!」
「!」
しかしエメラルドもただでは起きなかった。リーフブレードで受けることを試みる間にもソーラービームをチャージさせ、溜めた太陽熱を一気に放つ。それはサンダースの体を直撃したかに見えたがーー
「フッ・・・」
「なにぃ!」
その体を、ソーラービームがすり抜けた。
「残念ですが、『高速移動』を使わせてもらいました。・・・そんな単純な攻撃が通用すると思いましたか?」
「言ってろ!」
エメラルドは、なおも急いで自転車を漕ぎ、遅れを取り戻す。幸いにしてレベル制限のお陰で痺れはそう長くは続かない。とはいえ。
「サンダース、ミサイル針」
「タネマシンガンだ!」
無数の針に対して、こちらも今度は小さな種子の弾丸で応戦する。だがそれでもなお、ミサイル針はそれを踏み越えてくる。
「へっ・・・」
「?」
「どうやら見えて来たぜ、お前の弱点がな」「ほう」
レネは特に動揺しなかった、それはそうだろう。今だ彼は堅実にリードを守り続けているのだから。
「お前の技は確かに隙がなくて走りもすげえけどよーーちょっとばかり威力が足らねえな!!ジュカイン、ソーラービーム!」
「今度は私を直接狙ってきますか・・・なら、十万ボルト!」
サンダースの電撃と、ジュカインの太陽光がぶつかり合う。打ち勝ったのはーーエメラルドだ。太陽の光に一瞬目がくらみ、スピードを落とすレネ。
そしてその隙に、エメラルドが彼の横に並びーー
「おらあああ!どきやがれ!」
「なっ・・・!」
レネの車体ギリギリ。壁にぶつかるギリギリを通り抜けてついにレネの前に出る。走る間に彼の技術を盗み、彼の垂直に曲がるようなコーナーリングをしたのだ。
(とはいえ、私にはまだ劣る・・・それでもあの子が私を抜けたのはーー)
「教えてやるよ、プロ様。バトルってのはなあ、こいつは絶対に自分の道退かないバカだってビビらせたほうが勝つんだぜ!」
そう、あのときレネが少しでも自分の道を譲らなければ二人の車体は衝突し事故を起こしていただろう。エメラルドはただの無謀ではなくそのリスクを承知で突っ込んできた。
それは、レネの好むサイクリングバトルとは逆の形。昔の暴走族のチキンレースのようだったが。
「・・・面白いですね」
「へっ、ようやくそのいけすかない仮面を取りやがったか」
エメラルドの走りは、そういった野蛮なモノとはどこか別のように思える。見てて笑みがこぼれてくるものなのだ。だからレネは自然に微笑むことができた。
「では私も、本気で行きましょうーー戻れサンダース、そして出番ですスピアー!」
羽の音を馴らして黄木な蜂そのものの姿をしたポケモン、スピアーが現れる。鋭い二つの針がキラリと光っていた。
「さすがにジュカインじゃ相性が悪いな・・・戻れジュカイン、そして出てこいワカシャモ!」
「おや、メタングでなくてよいのですか?」
「ああ、これでいい!」
どうせ周到な相手の事だ。一回戦で出しているメタングに対してなにも出来ないようなポケモンを出してくるとは思えない。それよりここはーーワカシャモの可能性に賭ける。
「いくぜワカシャモ、大文字だ!」
「スピアー、ダブルニードル」
ワカシャモが大きな火の輪を放つと、スピアーはその輪を潜らせるように針を撃ってきた。二本の針が僅かに燃えながらエメラルドとワカシャモを刺す!
「いってえ・・・!!」
鋭い痛みは、ミサイル針の痺れとは比べ物にならないほどだった。気の弱い者なら自転車から転げ落ちてしまうだろう。
そしてその間にレネは大文字をかわし、エメラルドを抜いて前に出る。エメラルド、猛追ーー
「さすがに大文字じゃ当てれねえか・・・なら、火炎放射だ!」
「スピアー、毒づき!」
ワカシャモの炎の柱に、なんとスピアーは鋭い針を槍のようにして突っ込んできた。虫ポケモンが炎タイプの技に飛び込むなど、まさに飛んで火にいる夏の虫だーーだが相手はそれだけで終わらない確信がエメラルドにはあった。
「ワカシャモ、二度蹴りで受け止めろ!」
スピアーは炎を貫き、ワカシャモを突き刺そうとする。それを蹴りを見舞いながらなんとかかわすワカシャモ。
「やりますね、ですがダブルニードルは受けきれないでしょうーー攻撃です!」
「いいや、防げるさ。あんたのお陰でいい経験が出来たからな」
その時、ワカシャモの体が光輝いた。これは・・・
「ここで進化・・・まさか君は!?」
「そう・・・昨日あんたにバトルを仕掛けたのはなにも勝つためだけじゃねえ!ここ一番でワカシャモの経験値を貯めて進化を狙ってたのさ!
そして更なる進化を遂げろ、メガシンカの力で炎を巻き上げ天へと登れ!」
「メガシンカまでも・・・」
「いけ!ダブルニードルを焼き尽くせ!ブレイズキックだ!」
メガバシャーモが、炎を纏った蹴りで二つの針をまとめて蹴り飛ばす!そしてそのままの勢いでスピアーに向かった。
「スピアー、守る!」
スピアーが腕の針をクロスさせて守るが、それでもメガバシャーモの蹴りの前に吹き飛ばされ、レネにぶつかった。またエメラルドが追い抜く。
「・・・まさかここまでやるとは思いませんでしたよ」
「どうだ?俺様に塩を送ったことを後悔したか?」
「まだ勝負はついていませんよ。スピアー!メガシンカです!」
「何!?お前もメガストーンを持ってたのか!」
「めったに使わないのですがね。いでよ、全ての無駄を削ぎ落とした究極至高のメガシンカ!」
光をまとい、現れたのはよりその体を細く鋭くしたメガスピアーだった。
「スピアー、ダブルニードル!」
「ブレイズキックだ、バシャーモ!」
そこから先は、お互いにとってとられての繰り返しだった。そして、最後のコーナーリングにさしかかる。
(ここを先に曲がりきれば、それで勝ち)
(勝負を制するのはーー)
「俺だ!」
「私だ!」
二人はやはり、壁に、お互いにぶつかるギリギリで曲がりきろうとする。ここは、完全なトレーナーどうしの意地の勝負。自分の道を譲らなければ勝ちだ。
観客の誰もが、お互いにぶつかり合って事故を起こすのではないかと思い、しかし目を背けなかったその角を先に曲がりきったのはーー
「うおおおお!!」
「くっ・・・!!」
どんなときでも自分の信じる攻撃スタイルを貫く。エメラルドだったーー。
バトルを終えたレネは、エメラルドに歩み寄る。そして、素直に手を差し出した。エメラルドも、それに応える。
「おめでとう、まさか負けるとは思いませんでしたよ」
「けっ、よく言うぜ」
「おや、なにか思うところでも?」
「俺様をバカにすんなっての。別に優勝候補から外れたってだけならお前はほっといてここで俺に勝ちゃよかったんだーーあんな風に声かけて来た時点で、俺を強くするつもりだったんだろ。自分に勝てるかはさておいてな」
「おや、ばれていましたか。・・・では決勝戦、必ず勝ってくださいね。・・・悪の組織に荷担する彼女に優勝されてはサイクリングバトルの今後に響きます」
「それが目的かよ。・・・ま、俺様に任せとけって」
そう言って、エメラルドは走り去る。さあ、次はいよいよ決勝戦だ。
準決勝を勝利し、エメラルドが受付に戻る。アサヒより先に何故かネビリムが出迎えてきた。
「……何の用だよ、紫アイドル」
名前を忘れたので適当な印象で呼ぶエメラルド。彼女は特に怒ることもなく、いつものどや顔で話しかけてきた。
「お疲れ様でした、エメラルド君。男の子らしい、傲慢ないい走りでしたよ。プロのアスリートを退けるとはやりますね」
「何の用だっつってんだよ。気色悪いな」
この手の態度ははっきり言って嫌いだった。自分が金持ちだと知ったとたんに媚びを売ってくる女とイメージがかぶるからだ。
そして案の定、ネビリムには何か企むところがあったようだ。にやりとほくそ笑んで。
「ふふん、私の魅力に簡単に靡かないところもいいですね。あなた、ティヴィル団に入りませんか?」
「はあ?」
だがその提案はさすがに予想外というか、斜め上である。眉を顰めるエメラルドに、ネビリムがさも素晴らしいことを語るような口調で話す。
「いいですか、あなたは傲慢で、欲しいものは何が何でも自分のものにしたがって、そしてそれを貫く強さを持っている。私達ティヴィル団の求める存在なんですよ。それにあなたがティヴィル団に入ってさらにメガストーンを集めれば、あのシリアを倒すことも容易に叶うでしょう――どうです?あなたの求める、全てを攻撃で押し通す最強の力が我々に加担すれば手に入るんですよ?」
「……ほー、よくわかってるじゃねえか」
真顔になるエメラルド。それは傲慢だ、と言われたからではない。そんなことは自覚しているし悪いとも思っていない。
「んじゃ、一つ聞いていいか?」
「いいですよ?」
「お前――アサヒをどこにやった?」
「……勘がいいですね」
ネビリムが黒猫のような笑みを浮かべる。さっきから彼の姿が見えないのが、偶然とは思えなかった。何故なら――
「お前は俺が自分の道を曲げないことを知ってる。だったらそう簡単にはいそうですかと頷く俺様じゃないのもわかってるよなあ?それであいつを人質にとったってわけだ。ったく、世話の焼ける奴だぜ」
「そこまでわかっているのなら話が速い。……彼はサイクリングロードを出てすぐのところにいますよ。一緒に行きますか?」
「どうせついてくるんだろうが」
「まあそうですね。彼らだけでは不安ですし」
その彼ら、の正体もエメラルドには見当がついていた。二人はサイクリングロードの外へ出ると、やはりそこにいたのは――ホンダら暴走族と、彼らに囚われたアサヒだった。
「はーはっはっは!さあどうです、私たちの仲間になる気になりましたか?と言うか頷かないとお友達がどうなっても知りませんよ?」
「え、エメラルドさん……」
情けない顔でエメラルドを見るアサヒ。それを見てエメラルドはため息をついた。
「いや、俺だって知らねえし。つか友達じゃねえからそいつ」
「「「え……」」」
暴走族、アサヒ、ネビリムの全員が口をそろえた。エメラルドは気にせず腕を組んで。
「だから、好きにしたらいいじゃねえか。別に俺はそいつのこと助ける義理なんかねーし?」
「い……いやいやいやあるでしょう!というか一度助けたんじゃなかったんですか?話が違いますよ、あなたたち!」
ネビリムが暴走族を睨む。暴走族にしてみれば確かに一度自分たちをブッ飛ばして彼を助けたはずなので、彼らも困惑する。
「あの時はたまたま通るのに邪魔だったってだけだっての。妙な勘違いされてアサヒも可哀想なこったぜ」
あまりにもあっけらかんとエメラルドが言うので、ネビリムはやけになったように顔を真っ赤にしてエメラルドを指さした。
「その極悪非道な姿勢……ますます気に入りましたよ!こうなれば実力行使です。かかりなさい!」
暴走族達がドガースとマタドガスを繰り出す。だがそんなものはエメラルドにとっては物の数ではない。さっそくメガストーンを光らせる。
「ラグラージ、ビッグウェーブを巻き起こせ!」
メガラグラージが津波のごとく巨大な波を生み出す。ここではレベルの制限はかかっていないため、久々の本気の一撃だった。
「ちょ……サーナイト!」
ネビリムは自分をサイコキネシスで波を避けて守るが、暴走族達には防ぐ術などあろうはずがない。アサヒもろとも水で飲み込み、吹き飛ばしてしまう。
「さあ片付いたぜ?次はどうすんだ、紫アイドル」
「ネビリムです!こうなったら……明日のバトルで決着をつけましょう!私が勝ったらティヴィル団に入ってもらいますからね!」
「ほう、いいのかそんなんで」
「私にそんな口が叩けるのも明日までです!では失礼!」
そう言うとネビリムは自転車に乗って走り去って言ってしまった。エメラルドが悪ガキの顔をする。
「それだけのことを俺様に要求するってことは、当然向こうが負けた時は相応の対価を払ってくれるってことだよな……さて、どうするかね」
ずぶぬれになって気絶しているアサヒをメタングの念力で運びながら、エメラルドは考える。そして運命の決勝戦へ――
「ふふん、逃げずにやって来るとはいい度胸ですね」
「あんな約束勝手にされて逃げるわけねぇだろ、ところでこっちの条件がまだだったよな」
「こっちの条件?」
どうやら本気で何も考えていなかったらしいネビリムに、エメラルドはびしりと指差して、悪い顔で宣言する。
「そうだ、こっちが負けたらそっちに入る以上、そっちが負けたらこっちに入ってもらわねえとフェアじゃねえーーだからお前には、負けたら家の女になってもらうことに決めた!!」
「な!なに言い出すんですかこのお子ちゃまは!10年速いですよ!」
「うるせえ!もう決めたからな、ほら始まるぜ!」
「え!ち、ちょっと・・・」
鳩が豆鉄砲を食ったように慌てるネビリム。そうしている間にも、実況者のカウントは進む。
「「サイクリングバトル、アクセル・オン!!」」
「・・・んでもって先手はもらった、いくぜラグラージ!」
「っ、謀りましたね!出てきなさいエテボース」
実況者の説明によれば決勝戦のルールは3対3、コースの距離は40km の長期戦だ。とはいえ心理的にも物理的にも先手を取っておくことは重要だとエメラルドは判断していた。スタート直前に話を持ちかけたのもそのためだ。
「いくぜラグラージ、俺様の後ろで波乗りだ!」
「ラー!」
ラグラージが自ら産み出した波に乗る。エメラルドはその波に飲まれぬようにスピードをあげた。エメラルドの前から見れば自分のだした技から逃げる少々間抜けな格好だが、後ろのネビリムからすれば、波を突破しない限りエメラルドを抜けない。
「いきなり仕掛けてきましたね・・・ならばエテボース、ジャンプしてダブルアタック!」
「その程度の技がラグラージに通用するかよ!」
エテボースが跳躍し、波の上のラグラージに向かう。波乗りに集中しているラグラージには隙があるが、彼の耐久力は高い。簡単には止められない。だが。
「甘いですよ、私のエテボースは特性『テクニシャン』を持ちます!さあやりなさい!」
「ボー!」
「ラッ!」
「ラグラージ!」
ラグラージが波の上から弾き飛ばされ、波が崩れる。そしてネビリムがエメラルドの横にならぶ。
「ちっ、やるじゃねえか。だが次のカーブで目にもの見せてやるぜ!」
「お好きにどうぞ?」
曲がり角でレネから学んだ直角に近い移動で無駄なく曲がりきる。対してネビリムは道の中央を悠々とカーブした。再びエメラルドが前に出る。
「いいのか?このままじゃカーブの度に差がついちまうぜ」
「これはあくまでポケモンバトル。その分はポケモンの技の技術で追い抜かせてもらいますよ。ところでさっきの話ですが」
「ラグラージ、グロウパンチだ!」
「聞きなさい!エテボース、ダブルアタックです!」
ラグラージの拳をエテボースの尻尾の片方が受け止める。そしてもう片方の尻尾が伸びて、エメラルドを狙う!
「うおっ!」
バランスを崩すエメラルド。そしてついにネビリムがエメラルドを抜いた。
「にゃろう・・・」
「まだ終わりませんよ、今度はアクロバットです!そしてエテボースに持たせた飛行のジュエルの効果発動、飛行タイプの技の威力を増加させます。美しい宝石の輝きを見なさい!」
「泥爆弾だ!」
ラグラージの攻撃を正にアクロバティックな動きでかわし、攻撃を叩き込むエテボース。特性、そして道具で強化された攻撃は本家飛行タイプのそれよりも強力でーーラグラージを戦闘不能にするのに十分な一撃だった。
ルールによってトレーナーとポケモンは離れすぎてはいけないため、一旦止まってボールに戻すエメラルド。
「やりやがったな・・・いくぞ、ジュカイン!」
ネビリムとの距離が大分離れてしまったので、急いで追いかけるエメラルド。幸い曲がり角ではこちらのほうが速い。時間はかかったが、追い付くことは出来た。そして。
「お返ししてやるぜ・・・ジュカイン、マックスパワーでソーラービームだ!」
追い付くまでの時間で太陽光を溜めに溜めたジュカインがエテボースに、いやほぼコース全体にソーラービームを放つ。
「相変わらず規格外な子ですねっ・・・!」
自転車から落ちないようにするので精一杯なネビリムをエメラルドが追い抜く。エテボースは一発で戦闘不能になった。
「出てきなさい、花嫁の如く美しきその姿!サーナイト!」
「やってやれジュカイン、もう一度溜めろ!」
「こっちもフルチャージです!」
お互いにエネルギーを溜めながら自転車で爆走する。ジュカインが溜めるのは太陽、そしてサーナイトが溜めるのはーー
「さあいきますよ、ムーンフォース!」
「ぶちかませ、ソーラービーム!」
月の光、太陽の光がお互いのポケモンを直撃する。トレーナー狙いではないため、全力の攻撃だった。結果は。
「戻れ、ジュカイン」
「・・・お疲れさまでした、サーナイト」
全力をぶつけ合い、倒れる2匹。残りはお互いに1体だ。
「さあ、ケリをつけるぜバシャーモ!」
「頼みましたよ、ミミロップ!」
ここからはほぼ一直線だ。自転車の速度は同じ。ならば。
「どうだ?ここまできたんだ、こっからはガチのポケモンバトルといこうぜ!」
「・・・仕方ありませんね!」
自転車で走るのはやめない。だがお互いの妨害は考えず、純粋なポケモンバトルで決着をつけようと話す。
「いくぜ!メガシンカの力で炎を巻き上げ天へと登れ!」
「現れなさい、その強さは巨人を倒し、その可愛さは天使に勝る!」
「メガバシャーモ、ブレイズキック!」
「メガミミロップ、メガトンキック!」
2体の蹴りが空中で交差する。そこからはお互いの全てをかけた戦いだった。どちらがどちらのものになるかをかけた、全力勝負!
「これで最後だ、飛び膝蹴り!」
「止めですよ、飛び膝蹴りです!」
お互いポケモンもトレーナーも体力のギリギリ、最後の最後で同じ技を選択した二人。何度めかの蹴りが交差しーー
「頑張れ、バシャーモ!」
「ファイトです、ミミロップ・・・!」
立ち上がったのは、バシャーモだった。そしてエメラルドがゴールを切るーー
「負けた・・・四天王のこの私が・・・」
敗北し、女の子座りでへたりこむネビリムに、エメラルドは容赦なく近付く。相手がショックを受けているからといって、遠慮するエメラルドではない。
「よう。約束、忘れたとは言わせねえぜ?」
「うう、あんな態度をとっておきながら俺の女になれだなんて、あなたツンデレなんですか、実は僕にメロメロだったりするんですか!せめて責任とってくださいね!」
「誰がツンデレだよ。それに何か勘違いしてねえか?」
「え・・・?」
涙目で首を傾げるネビリム、エメラルドはとても意地の悪い笑みを浮かべて。
「お前、アイドルなんだろ。だからうちのーーパパの会社と契約して、そっちで働いてもらうってんだよ。一応言っとくけど、俺はお前みたいな媚び売った女は嫌いなんだ」
「え・・・ええええっ!ても今はティヴィル団として活動してるからアイドルはおやすみ中で・・・」
「だったら、そのティヴィル団は俺がぶっ潰してやるよ。それからでいい」
「な・・・」
間髪入れず、当たり前のようにエメラルドが言ったのでネビリムは言葉につまりーーそして、笑った。この男の言うことはあまりにもむちゃくちゃだ。でもそれを、彼は現実にするのだろう。
「わかりました、今回のメガストーンはあなたに預けておきますが、ティヴィル団としての活動が終わったらあなたの会社で働かせてもらいます。パパも許してくれるでしょう」
「おう、ようやくわかったか」
「それと・・・ちゃんと責任はとって下さいね」
「心配すんなよ、パパの経営手腕なら大儲け間違いなしだぜ」
「ふふ、そういうことではなくあなたに・・・ですよ、いずれね」
ネビリムの顔は、激しい運動をした後のそれとは別の意味で赤かった。
「は?」
「ではごきげんよう!次会うときは、ティヴィル団としてあなたをぎたんきだんにしてませますからね!」
「おう、次もぶっとばしてやるから覚悟しろ!」
そうして、ネビリムと別れを告げる。彼女とはまた会うことだろうそしてティヴィル団がなくなるそのときまでは、お互いに凌ぎを削りあうのだ。
そしてエメラルドは大会で優勝し、メガストーンをもらった。大会のすべてが終わり、アサヒが話しかけてくる。
「エメラルドさん、優勝おめでとうございます!まさか本当に優勝しちゃうなんて・・・」
「はっ、当たり前よ」
「でも四天王に勝つなんて・・・僕、最後の最後まではらはらしっぱなしでした」
「ああ、あれはな」
エメラルドには、最後の一対一、相手がミミロップを出した時点で勝利が見えていた。何故なら。
「あいつのミミロップ、まだ膝を痛めてたんだよ。あの一回戦の時からな。もちろん四天王のエースだけあってなかなか強敵だったが・・・ま、エースと言えども過信は禁物ってこったな」
「なるほど・・・」
「じゃあ今まで世話になったな。お前も達者でな」
「いえ、こちらこそ。あ・・・最後にひとつだけいいですか?」
「なんだ、言ってみろ」
エメラルドが促すと、アサヒは意を決したように聞いた。
「エメラルドさんはどうして、変化技や防御技を全く使わないんですか?」
「決まってんだろ」
その言葉は、エメラルドのバトルを見た誰もが感じる疑問だ。それに対するエメラルドの答えは、そう決まっている。最後の言葉を残し、エメラルドはサイクリングロードを後にする。
「俺が攻撃をやめたら、今までの攻撃がすべて無駄になる」
ionizationさん、感想ありがとうございます。
メレシーという種族の寿命や時間の捉え方、数億年という年月を過ごしてきた生き物と一緒に生きていくというのはどういうことなのか、ということについては、結構前から何度かツイートしながら考えていたことでした。
大晦日に間に合わせるために数日で書いてしまったのですが、もうちょっと大晦日のエンジュの色んなシーンを書き込みたかったなというのは反省点です。特に最後のほうがちょっと駆け足になってしまったのは心残りですね。
何はともあれ書こうと思えば数日でこれくらいの量が書ける、というのは自分の中で収穫でした。次に繋げていきたいです。ありがとうございます!
コメントがついているっ!
初めまして! 本格的に投稿するようになってから初めてコメントを頂いて嬉し恥ずかしのボウヤです///
十年前のアズマはただのめんどくさがりでかっこよくも可愛くもない無気力野郎でしたが、今回の話を作るに際し練り直しました。可愛げありますか!よかった!
そうなんです続いてしまうんです。現時点で思いついている続きのプロットを数えたら十以上あって戦慄です。遅筆のくせにネタが浮かぶのだけは高速でして…。
コロシアムは妙に難しいですよね。世界観やシナリオの大人っぽさ故に難易度も高かったのでしょうか。それに引き替えXDのなんとやり易いことよ。
別の話とあわせて…というと長編板のでしょうか? もしそうでしたら本当にありがとうございます!!
原作キャラをいじるのが大好きなので、そう言って頂けるととても安心します*^^*
今月中に三話目を投稿出来れば、と思っています。よろしければまたお付き合い下さいませ!
ありがとうございました〜!!
はじめまして。感想(?)あげさせて頂きます。
氷タイプになんの恨みがあるのか。そんなフーディンとメタグロスも読みたい。
はじめまして。年越しのお供にしました。いろいろな活字のバックボーンを思わせる文体から、それぞれの地の真冬の緊張感、浮かれた空気感がよく伝わってきます。
3年前カロスの鏡の洞窟でメレシーの外見に一目惚れした(シンボラーやニャスパーの冷静そうな所が好きなんですよね)
のを思い出します。キュウコンの千年は有名ですが、彼等の寿命が数億年なのは言われて虚をつかれました。
まさに今長い命を歩みはじめた彼(女)にはしんしんと降る雪が似合いますね。
『にじのタマゴ』の人間サイドの思いやりも覚えてます。
ひとつ気になったのは、主人公は納得しているのでしょうが、メレシー一匹のために尽くしている姿(主にトレーナー
人生後半)を見ていると、少しだけゲッコウガ達が不憫に思えました。
思ったより年末年始要素は少なかったけどいい話でした。ありがとうございました。
はじめまして。別の話とあわせて読ませて頂きました。
理知的に見えて年相応に可愛げのあるアズマを応援中です。明確な組織に所属したことはありませんが、クレイン所長の話も
もっともで、考えさせられます。ってか続くのか…予想外だった。
オーレはコロシアムを投げ出したきりなのですが、元から硬派なシナリオといいつつこういう視点はあまり用意されてなかったような…BW信者でした。原作キャラの使用と改変はいいぞもっとやれ派です(w)。
それでは、更新ゆったり待ってます‼
Appeindix 1:この資料は案件の無力化した2015年10月2日以降に、関係者#142309-3によって管理局に提出された、日記と見られる計30冊の大学ノートです。関係者#142309-3によると、この大学ノートは生前の関係者#142309-1より譲渡されたもので、最近になって中身を確認するまで、その異常性に気付かなかったとのことです。
大学ノートは市販の一般品で、それ自体に異常性はありません。大学ノートの表紙には番号と記録期間が記されています。中には関係者#142309-1の筆跡で“ナオヒコ”と名付けられた生物の観察記録のようなものが書かれていますが、この記録にある生態と一致する生物は現在に至るまで発見されていません。
以下は、1と番号が振られたノートの最初の部分です。:
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2003年2月11日 晴れて今日、ナオヒコを家に迎えた。[関係者#142309-1の友人の名前。故人]に薦められたときは腹立たしくなったものだが。少しずつ会って、今ではナオヒコのいない人生を考えられなくなっている。
[関係者#142309-2の名前]が亡くなった寂しさが消えるわけではないが、しかし、ナオヒコがいないと腐っていただろう。
2003年2月12日 餌を変えて様子見。環境が変わった為だろう、ナオヒコは前の家にいた時より食欲がなくなっている。明日[関係者#142309-1の友人の名前]から青菜を貰う予定。
2003年2月14日 昨日から少しずつ元気になっているような気がする。医者でないから予断は禁物だが。だが[関係者#142309-1の友人の名前]の野菜が効いたのだろう。うちでも育てるべきか悩む。
昨日整理をしたので、今日ちょっとの間部屋に出してやる。ナオヒコは小さいので、踏まないか緊張。
片づけだのもしないといけない。いつ私もぽっくりいくかしらん。
2003年2月15日 昨日放した為か、ナオヒコややゴキゲン。片づけに気合が入る。
片づけの途中、昔の写真が出てくる。[関係者#142309-2の名前]がたくさん写っていた。
懐かしさを感じた。と同時に、ナオヒコの餌をどうするか不安になる。貝殻なぞ。
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ノート中の“ナオヒコ”について、調査が行われる予定です。
残りのノートの内容については順次アーカイブ化が進められています。
タグ: | 【書いてみた】 【Subject Notesの1ページ、あるいは似た何か】 |
Subject ID:
#142309
Subject Name:
侵入したくなる家
Registration Date:
2015-02-05
Precaution Level:
Level 2(2015-10-02以前)→Level 0(2015-10-02以降)
Handling Instructions:
建築物#142309内の固定電話からの緊急通報は管理局に直通し、自動的に録音が保存されます。当該の緊急通報を受け取った担当者は現地に向かい、侵入者の確保及びヒアリングを行ってください。侵入を試みた彼/彼女に、他人の敷地に無断で侵入することが違法である旨を説明すれば、彼/彼女に励起された建築物#142309内への侵入欲求が消失することが分かっています。
[2015-10-02 Update]
上記の取扱方は廃止されました。建築物#142309は解体は終了し、建築物#142309の廃材及び跡地、その他資産について、異常性は見出されませんでした。関係者#142309-3より引取以来のあったその他資産については、通常の配送ルートを用い順次返却してください。案件#142309は既に無力化されており、これ以上の保全は必要ありません。
Subject Details:
案件#142309はジョウト地方ヨシノシティ北部の宅地にある建築物(建築物#142309)と、それに掛かる一連の案件です。
建築物#142309は1969年に建てられた庭付き・平屋の一戸建です。同年に男性(前保有者。関係者#142309-1)が購入し、関係者#142309-1とその妻(関係者#142309-2)、息子(現保有者。関係者#142309-3)が居住していました。関係者#142309-3の独立、関係者#142309-1と-2の死亡により、現在は空き家となっています。建築物#142309は2LDKのごく一般的な住居で、内部は老年夫婦の生活環境としてごく普通のものとなっています。調査の結果、内部に携帯獣や携帯獣が隠れうる空間異常は存在せず、後述する事象#142309を発生させる他に特異な点はありません。
事象#142309は「建築物#142309の内部に未知のポケモンが存在する」と確信する認識異常(段階1)から始まる一連の事象です。被誘引者#142309は未知の携帯獣について一切の先入見を持っておらず、未知の携帯獣について質問すると「未知だから未知なんだ」という旨の回答が得られます。建築物#142309が認識異常をもたらす対象者(被誘引者#142309)については、半径6km圏内(圏内にポケモンセンター有)に立ち入った旅のトレーナーが最多ですが、そうでない者も少数含まれます。認識異常は距離に反比例して少なくなり、ヨシノシティ外での発生は確認されていません。
段階1に陥った被誘引者#142309は次に「建築物#142309の内部にいる未知のポケモンを捕獲したい」という耐え難い欲求に襲われます(段階2)。この欲求に反抗することは極めて困難で、被誘引者#142309は建築物#142309を何らかの方法で見つけ出し、敷地内への侵入を試みます(段階3)。段階3で建築物#142309内への侵入に成功しても、被誘引者#142309が未知の携帯獣を発見することはありません。段階3と前後して、建築物#142309内の固定電話から警察へ関係者#142309-1の声で「家に押し入ろうとしている不審人物がいる」旨の緊急通報が入ります(段階4)。警察官もしくは局員が被誘引者#142309を確保し、建築物に押し入るのは法律的に問題であると指摘すると、段階2で発生した欲求が消失し、事象#142309は終了します。この際、未知の携帯獣が建物内で見つかっていないと指摘しても、被誘引者#142309が「未知だから分からないんだ」「未知だから見つけたら分かる」と繰り返すのみで事象#142309が終了しないので留意してください。
事象#142309のいかなる段階においても、事象#142309を中断する試みは成功していません。段階1-3にある被誘引者#142309を確保する試みは、被誘引者#142309によって全て突破されます。また、建築物#142309内の固定電話の撤去/別機器に変更/また電話回線の閉鎖を行っても、段階4の緊急通報をストップすることはできません。現状では、段階4の緊急通報に応じて被誘引者#142309を確保することが最良と判断されています。
建築物#142309の前保有者である関係者#142309-1、その妻である関係者#142309-2は事象#142309の最初の通報以前に死亡が確認されており、電話の声の主については調査中となっています。また、関係者#142309-1と-2はトレーナー免許を取得しておらず、携帯獣の所持履歴がないことも判明しました。関係者#142309-3はトレーナー免許を所持していますが、携帯獣の所持履歴はありません。にも関わらず、建築物#142309について何故このような認識異常が起こされるのかは分かっていません。
[2015-03-12 Update]
建築物#142309の解体工事が開始されました。関係者#142309-3はかねてより建築物#142309の解体を計画していましたが、当局はこの件について関知していませんでした。関係者#142309-3と案件#142309の保全及び原因究明について、話し合いの場を持ちましたが芳しい成果は得られませんでした。建築物#142309の解体は止められない状況です。
[2015-06-18 Update]
建築物#142309の解体が終了しました。解体後の廃材及び跡地、その他資産についてはヨシノシティ支部に収容され、異常性についての試験が行われます。
[2015-10-02 Update]
解体後の廃材及び跡地、その他資産についての試験が終了しました。この試験結果と事象#142309の発生が長期間観測されなかった事実を鑑み、裁定委員会に案件#142309の無力化を提言し、受理されました。
Supplementary Items:
本案件に付帯するアイテムはありません。
[2016-01-02 Update]
本案件には、1件の付帯資料があります。適切なセキュリティクリアランスを持つ局員のみが、付帯資料を参照できます。
(この報告書は正規のものではないかもしれません)
タグ: | 【ラプラス】 【ポケモン世界の事件】 【フォルクローレ的何か】 |
水族館で少年が不法侵入で逮捕された。彼の狙いはラプラス。水族館ではラプラスの歌が名物で歌声を目当てにたくさんの人がつめかけていた。
一方、少年はこう証言する。
「ラプラスはずっと助けを求めていた。助けて、助けて、ここから出して、と歌っていた。僕だけにはわかったんだ」
尚、話の枝葉が広がってこのような噂がある。
少年は釈放された後にトレーナーになった。研鑽して8つのバッジを集めた彼はその足で水族館へと向かい、建物、水槽を破壊し、ラプラスを奪取した。そして今も少年はラプラスと旅をしている……。
そんな話を少年はすると、海に向かって口笛を吹いた。現れたのはラプラスで、少年は飛び乗った。私は何かを聞こうとしたけれどうまく言葉にならなかった。そうして彼らは水平線へと消えていった。
うちの先生の話をしよう。
先生は、太ってる割にあまり食べない。
以前昼食を見せてもらったら、木の実数個とパン、それに牛乳だけだった。
思い出してみると、修学旅行先の食事も他の先生に上げていた。
誰も気に留めなかったけど、私は気になった。
不思議なことがある。
先生は古典を担当しているんだけど、その時に限って、すごく眠くなる。
お昼が終わった後だからかもしれないけど、それにしても眠い。
うっかり寝てしまい、友達に起こされることなんてザラだ。
でも先生は怒らない。
先生は小説をよく読む。
面白い話が好きらしい。
以前授業で、物語を一人ずつ書いた。
皆面白かったけど、先生は私の話を一番褒めてくれた。
『とても夢がある話だ』と言ってくれた。
私は普段から子供っぽいと言われていたので、すごく嬉しかった。
……そういえば。
友達は先生の授業、一度も寝たことがないらしい。
むしろ、私が何で毎回寝てしまうのか不思議だと言っていた。
先生の授業は面白くて、寝る暇なんてないという。
私もそう思う。でも、
あのゆったりした声を聞いていると、
脳に直接語りかけてくるような声を聞いてると、
知らぬ間に眠くなって、
私は寝てしまうのだ。
そういえば、もうひとつ。
最近、一度も夢を見てない。
あれだけ寝ているなら、一度は見てもいいはずなんだけど。
うちの先生は、スリープみたいだ。
なんというか、目つきがそれにそっくりなのだ。
おまけに太ってるし、背は低いし。
だから皆、陰で彼のことを『スリープ先生』と呼ぶ。
本人も満更じゃなさそうだ。
だって、
あのスリープみたいな目を、キュッと細めるから。
東の海で、トリトドンが大量発生したらしい。
北の海が、南の海みたいになったらしい。
西の海でも、トリトドンが大量発生したらしい。
北の海が、赤潮みたいになったらしい。
(80字)
ゴーストポケモンが、オーケストラをやりたいらしい。
何匹かが私に相談してきたんだ。配役を決めてくれって。
なかなか考えられていたけど、一つだけ忠告しておいた。
『絶対に合唱はするな』ってさ。
(93字)
うちのゲンガー、ゲームが大好きなんだ。暇さえあればやってる。
得意なのはアクションだけど、意外なことにホラーが苦手でね。
理由を聞いてみたら、人工物のホラーは逆に怖いんだって。
……どう回答すればいいんだ。
(100字)
私のエネコロロ、光り物が大好きで。散歩ルートにジュエリーショップがあるんだけど、
いつまでたっても動いてくれないんだ。
困ってたら店員さんが出て来て、ジュエルキャンディをくれて。
その帰り道はご満悦だったなあ。
(102字?)
彼は友達が少ない。少ないというより、作らない。
理由を聞いたら、踏み潰してしまうかもしれないって。
だから私は言ったんだ。
「そう考えられる君は、優しい人なんだね」
心配しなくても、きっと友達はできるよ。
(99字)
最近、スリープがよく行き倒れている。
一匹助けて話を聞いたら、餌がないという。
木の実はそこらにある。何が食べたいの、と聞いたら腹の音が返ってきた。
「夢が食べたい。子供達の」
(84字?)
伝説の名前をもらったコーヒー。彼らが見たら、どう反応するだろう。
「見てみたいですね」
「大きなバケツを用意しないとね」
「え?」
「このカップじゃ、味を知るには少なすぎるもの」
そんな日はいつか来るだろうか。
(100字)
―――――――――――――
何か書かずにはいられなかった。とりあえずショートショートショートを。
この地方には、昔からミミロルを食す文化がある。
近くの山には野生のミミロルが特に多い。故に、ここに住む人間は、よく野生のミミロルを狩り、様々な方法で調理することが多い。
青年は、物心ついた時からこの地方で暮らしている。食卓にミミロルの料理が並ぶのは日常茶飯事であったし、夕飯でミミロルを使用したご飯が出ると知った時は小躍りする程喜んだ。ミミロルの料理は、青年の大好物だったのである。
青年が成長し、都心部へ単身で移り住んだ後も、時々実家へ帰る機会があれば必ずミミロルの料理を求めた。その度に幸せを噛み締め、自分は今最高に幸せなのだと心満たされる程だった。もちろん、都心部でもミミロルの肉を使用した料理を提供する店があるので、彼はよくそこへ通った。しかし、やはり地元で捕れた新鮮な肉を使用した料理の方が味は良い。都会の色に染まり切った青年が故郷との繋がりを維持するもの、それがミミロルの料理だった。
青年が引っ越して数年経った頃、彼に恋人ができた。会社の先輩だった。
一緒に仕事をする内に恋愛感情を抱いてしまい、複数回二人で遊びに出かけた後、青年から想いを伝えたところ、相手も好意を持っていたという流れである。彼らは勤め先には上手く隠しつつ、互いの時間を共有する日が増えていく。同じ職場の先輩という壁を青年はあっさりと乗り越え、大切な相手がいる日々を堪能していた。
この恋は上手くいった。数年後、青年は相手に家族になって欲しいと伝え、相手もそれに承諾した。
青年は、会社の先輩である女を自分の故郷へと連れて行く。青年の転機に彼の両親は喜び、女を温かく迎え入れた。
母は青年が大好きなミミロルの料理を振る舞った。もちろん青年は喜び、久々の故郷の味を堪能した。
一方の女は、最初美味しそうにミミロルの料理を口にしていたが、何の肉を使用しているのかを知ると、途端に箸を置いた。それからは、なるべく肉以外の野菜や穀物で食べ腹を満たしていた。
青年の実家を出て都心部へと帰宅すると、女は青年にこう宣言する。
「私、あなたと結婚するのは嬉しい。あなたと出会って良かったと思っている。でも、一緒に暮らすようになってからは、ミミロルを料理するのは嫌なの」
青年は、予想外の発言にもちろん驚いた。
「どうして? 別に君が肉を解体する訳じゃないだろう?」
「それでも嫌、私、ミミロルを調理すること自体嫌なの」
「母の料理が口に合わなかったのかい?」
とっさに思いつく質問をする。しかし、女はそれをあっさり否定する。
「私、ミミロルを食べるってことは、とても残酷なことだと思うの」
青年は首を捻る。女は、真顔のまま言う。
「聞いたけど、あなたの実家の周辺では、よく野生のミミロルを捕まえて食べるんですって? 私達の生活の中でポケモンを食べることはよくあることだけど、わざわざあんなに可愛いポケモンを食用にすることは、私には考えられないの」
「でも、君はあの料理を美味しそうに食べていたじゃないか」
「確かに美味しかったわ。でも、それとこれとは話が別よ」
女の声が大きくなる。
「ミミロルと言えば、男女共に手持ちのポケモンとして人気のポケモンじゃない。あなた、ピカチュウやマリルを食べるなんて想像できる?」
「それは想像しづらいな」
「そうでしょう? あなたがミミロルを食べているのは、ピカチュウを食べるのと同じことなのよ。聞いただけであまり気分が良くないでしょう?」
確かに、ミミロルは美味しいだがピカチュウが美味しそうに見えるかと聞かれればそうではない。当たり前だが食欲もわいてこない。
「できれば今後あなたにミミロルを食べないで欲しいけど、そこまでは求めないわ。でも、家庭の料理には持ち込まないで欲しい」
青年は理不尽と思いながらも考える。
誰にでも好みというものはある。例えばの話、世間にはどうしてもトマトを食べられない人もいれば、この世で一番好きな食べ物は何かと聞かれればトマトと即答する者もいるのだ。食べ物の好き嫌いを無理に変えることは、とても難しいことである。
女の言っていることは不条理だった。しかし、これ程否定してくるということは、彼女は本当にミミロルを食べたくはないのだろう。今後一切、自分にミミロルを食べるなと圧迫してこない辺り、かなり妥協したのかもしれない。青年はそう結論づけた。
何よりも青年は、一生を添い遂げようと決めた相手と、こんな些細なことで喧嘩をしたくはなかった。元々自分でミミロルの料理を作ることはほぼなかったので、自宅であの味を堪能できないことは些細な問題ではなかった。
「分かった。少なくとも、君にミミロルを調理させることはないよ」
「ありがとう。後、我が儘を言ってごめんね」
「そんなことないさ。知らないうちに君に不快な思いをさせないで良かったよ」
二人は、ぶつかった壁をあっさりと乗り越えることに成功した。
後日青年は、女の実家へと訪れていた。
女の両親に挨拶を済ませ、仲睦まじく会話を重ね、青年はまた一つのハードルを乗り越えたところだった。
その日の夕方、青年は夕飯をご馳走されることになった。
「君は、貝は好きかね?」
脂肪を蓄えた体の大きな女の父親は、青年にそう質問する。
「はい」
青年は、さわやかな笑顔で返答した。
「それは良かった。今日は君が来るということだから、地元で有名な食材を用意しておいたんだよ」
「そうなのですか。わざわざありがとうございます」
しわを作り笑う女の父に、青年は軽く頭を下げる。青年の隣に座る女は、上機嫌な様子で囁く。
「私が頼んでおいたの。お母さんが作る貝の料理、本当に美味しいのよ。きっと気に入るわ」
彼は、将来の妻の気遣いに感激しつつ、振る舞われる料理を想像する。
青年は普段動物の肉を好んで食べる。女はもちろんそのことを知っている。それを分かっていて、あえて魚介類を勧めてきたのだ。地元でしか食べられないのもあるだろうが、女の台詞からも、青年が満足するだろうという自信がうかがえた。
期待に胸を膨らませて待っていると、ついにその料理が目の前の机に並んでいく。
大きな皿が複数並べられる。貝の揚げ物、貝の刺身、貝の煮つけ。どれも貝を中心にした一品ばかりである。
「さあ、召し上がれ」
これらを用意した女の母は、青年に笑顔を向ける。彼は、まるで料亭に並んでいるように綺麗に盛り付けられたおかずに箸を伸ばしていく。
口に入れ、ゆっくりと味わってみれば、確かに女の言う通りどれも美味しいものばかりだった。ついつい、料理を口に運んでしまう。女の父の遠慮はするなという気遣いに甘え、青年は口数が少ないまま腹を満たしていく。
「とても美味しいのですね。これは何の貝なのでしょうか?」
お腹がいっぱいになりかけた頃、青年は、何気なく女の家族にそう尋ねた。
「シェルダーだよ。意外に美味しいだろう?」
ここで漸く、青年の手が止まる。
「シェルダーですか?」
シェルダー。2枚がいポケモン。そう、れっきとしたポケモンである。
彼は戸惑いを隠せなかった。というのも、彼女は、青年がミミロルを食べることを酷く嫌悪していたからである。故に彼は、女は一切食用のポケモンを食べない主義と勘違いしていたのだった。
青年は目を見開いて女を見る。そんな将来の夫を、女は笑顔で見返した。
「美味しいでしょう?」
純粋な笑顔だった。
「とても美味しいよ。驚いた」
自らの意思とは、真逆の言葉がこぼれてくる。
「君は、昔からシェルダーを食べているのかい?」
「そうよ。私の地元では有名な名産だもの。自然と好きになったわ」
「私の知り合いに漁業関係者がいてね。毎年時期になると、シェルダーを譲って貰うのよ」
女の母が横から呟く。青年はそれを殆ど聞き流していた。
彼が戸惑っていると、突然部屋の襖が開く。部屋中の人間の目がそちらに向く。
入ってきたのは、うざきポケモンのミミロル。
「ミミちゃん。久しぶりね」
女が手招きをすると、そのミミロルはすぐさま女の膝に飛び込んだ。嬉しそうに目を細め、喉を鳴らしている。
「そのポケモンは?」
青年が質問する。
「ミミロルのミミちゃんよ。昔、家に迷い込んで来て、そのまま居ついちゃったの。今では大切な家族よ」
「確かもう、十年以上前になるな」
女の父が懐かしそうに呟いた。
青年は思い出す。随分前に実家の方へ残してきたポケモンがいると女が話していたことを。その時に彼女は、進化前のポケモンが好きだからと、かわらずのいしを持たせていると語っていたのだった。
ミミちゃんと呼ばれるミミロルが、青年を認識し凝視する。青年は、野生ではなく、人間に飼われているミミロルを観察する。ミミちゃんは、女の膝から離れると、青年の膝の上に乗り寛ぎ始めた。
「珍しいわね。ミミちゃんが家族以外に近づくなんてあまりないことだけど」
女は驚き、そして嬉しそうに言う。
「流石は娘が認めた男だな」
「本当ね」
女の両親も、同様に微笑んでいる。
青年は、自分に擦り寄るミミロルを、食用ではないミミロルを撫でながら、目の前に出されたシェルダーを口にしていた。複雑な心境だったが、それでも彼は、とても満足しながら料理を堪能していた。
――――――――――
うさぎを食べた経験がないので、いつか食べてみたいと思う時はあります。
企画書作成お疲れさまでした。わたしの方からもいくつか気になった点を。
書籍化という大きなイベントがある企画ですので、できるだけ誰もが納得できる応募要項・審査方法の方がいい、ということを念頭に置いてコメントさせていただきます。
> 15000字程度まで/多少のオーバー可/1人1作品まで
「程度」「多少」といった漠然とした表現は最初から避けておいた方が無難なのでは。
(文字数がどうしても押さえられなくてやむなくシーンを削った……というのを未然に防ぐ措置なのかもしれませんが)
わたしの感覚だと「多少」はせいぜい1割(=1500文字)、つまりオーバーしても16500文字くらいが上限だと思うのですが、人によってはこれよりも多かったり少なかったりするでしょうから。
>ただし、今回は無印および、マイナス評価 ★、★★、★★★を入れるかも。
確かに、あんまり「マイナス評価」って心象がよくないですね。
これまでのコンテストからは振れ幅を増やして、無印から☆五つか七つまでのプラス評価でいいのではないでしょうか。
マイナス評価を入れたくなるほどであれば、それはこれまでのように批評文で説明してもらうこともできるでしょうし。
評価はさておき、文字数のところは、突き詰めれば「もめごとの余地をできるだけ減らせたら」という意図です。コンテストとはいえそもそもは趣味人たちの創作ですので、楽しくやれるのが一番でしょうしね……!
>「ポッポです」
>「そんなことはわかっとる!」
『メロンパンの恨み』、好きです。
さっそく、ありがとうございます。
> 例文が二個ずつになってますよ!
あ、それはわざとです。
1と3、2と4です。
また☆評価ですが、
★評価には「まだ早えーよ! 出直してこい!」みたいな感じとか「これはこれは(かくかくしかじかの理由で)ふさわしくないでしょ」的なニュアンスが含まれるので、七段階評価とはまた意図が変わるのですね。
マイナス良い気分がしないという事なら、従来通りにするか、無印だけ発生させて、4段階評価でいいかなと思う。
今回は、募集要項の時点でかなり出足を挫いてるから(制約ごとが多い)、そういう意味では必要無いかもしれないですね。
みなさんの意見を聞いてみましょう。
>・三点リーダ(…)やダッシュ(―)は2個単位で使用する。
>×
> 家政婦は…いや、クジラ博士は見た!
> 家政婦は………いや、クジラ博士は見た!
>○
> 家政婦は……いや、クジラ博士は見た!
> 家政婦は…………いや、クジラ博士は見た!
例文が二個ずつになってますよ!
あと評価方式ですが、
>ただし、今回は無印および、マイナス評価 ★、★★、★★★を入れるかも。
>★はマイナス評価で、★1つにつき、☆が一個相殺される評価。
あんまりマイナス点って気分が良くないので。
それを導入するより、☆から☆☆☆☆☆☆☆の7段階評価にしといた方が良いと思うのです。
タグ: | 【ポケモンストーリーコンテスト】 【企画概要】 【鳥居の向こう】 【フォルクローレ】 【意見・質問どうぞ】 |
●イベント名
ポケモンストーリーコンテスト 〜鳥居の向こう〜(仮)
●募集部門
・小説部門
15000字程度まで/多少のオーバー可/1人1作品まで
・記事部門
文字数後日発表/1人何作でも応募可
●テーマ「ポケットモンスターの世界における民俗・文化」
ここで言う「ポケットモンスターの世界」とは、いわゆるゲーム本編(初代赤緑〜BW2、XY)の世界観を基本とするものとします。
ポケットモンスターの世界における民俗・文化を貴方なりに想像して文章(小説/記事)を書いてください。
ここでいう「民俗・文化」とは、だいたい以下のようなもの、またぞの組合せを想定しています。
・行事、風習、節句、冠婚葬祭
・神話、伝説、民話、昔話、伝承、都市伝説、怪談、古典
・伝統芸能、神楽、短歌、俳句、民謡、わらべ唄、楽器
・芸術、伝統工芸、民族衣装
・宗教、信仰、儀式、まじない、タブー
・寺院、神社、縁起
・遺跡、古墳、住居、観光、歴史、地名
・狩猟、漁業、農業、放牧、貿易、食文化
ただし、ここに挙げたのはおおまかなものです。
ほかにも該当するものがあるかもしれません。
また、今をときめく文化というよりは、
・一昔前のもの
・伝統的なもの
・文明に追われて失われつつある感じの文化
を想定しています。
参考までに、検索をしてみますと、
・民俗とは
民間に伝えられ行われている風習・風俗。フォークロア。(はてなキーワードより)
・民俗学とは
民俗学は、風俗や習慣、伝説、民話、歌謡、生活用具、家屋など古くから民間で伝承されてきた有形、無形の民俗資料をもとに、人間の営みの中で伝承されてきた現象の歴史的変遷を明らかにし、それを通じて現在の生活文化を相対的に説明しようとする学問である。(wikipediaより)
などとなっています。
ちょっとテーマが難しいかもしれませんが、自由な発想で書いていただければと思います。
●参考作品
それでもちょっとわかりづらい…という方は以下の小説をお薦めします。
ただし、これは一例に過ぎませんので、イメージを固定されたくない方はお気をつけて。
【小説部門】
砂漠の精霊(タカマサ)http://masapoke.sakura.ne.jp/novels/takamasa/seirei.htm
海岸線(No.017)http://masapoke.sakura.ne.jp/pkst/01/002.html
砂漠の神の子(リング)http://yonakitei.yukishigure.com/stcon2012/w/002.htm
キャモメが五羽飛んだ(クロトカゲ)http://masapoke.sakura.ne.jp/pkst/03/007.html
【記事部門】
達磨(No.017)http://pijyon.schoolbus.jp/minzoku/sample.jpg
●応募にあたって――本コンテストの目標、禁止事項等
本イベントは以下の二つの目標としてしています。
ご理解の上、応募ください。
・応募作を掲載した電子書籍風PDF(無料公開)の作成
・優秀作品を掲載した紙媒体書籍(有料頒布)の発行
よって、
・PDF化、紙媒体になった際の、作品掲載に同意いただけない方
・編集に伴う打合せ、校正などに参加いただけない方
・投票に参加いただけない方
・メールアドレスを持っていない方
・チャットかスカイプを出来る環境をお持ちでない方
・後述する文章作成ルールを守っていただけない方
は応募をご遠慮ください。
また、禁止事項等は以下のようになります
・他人の作品を応募する事を禁止する
・オリジナルポケモンの登場は禁止とする
・オリジナルトレーナー、オリジナル技、オリジナル地方は可とする
・人間の姿をしたポケモン(擬人化)やあいの子(人間とポケモンの間に出来た子)の登場は、原型のポケモンに出番がある場合のみ可とする。
×ポケモンと人間のあいの子が活躍する。原型のポケモンは出ない。
○ポケモンと人間のあいの子が活躍する。原型のポケモンも出て、ストーリーに絡む。
○実は人間に化けていて、正体がゾロアークだった。
○元々人間だったが、なんらかの理由でポケモンになってしまった。
●文章作成ルール
・地の文の文頭は一文字分空ける
×
クチバシティのホテルに戻ると弟子の頭に妙なものが乗っかっていた。
○
クチバシティのホテルに戻ると弟子の頭に妙なものが乗っかっていた。
・「!」や「?」の後は一文字空ける。
×「おい!その頭に乗っているものは何だ!」
○「おい! その頭に乗っているものは何だ!」
・「!!」「!?」は半角の「!!」「!?」を使用する。
理由:縦の文章に編集する為。
・三点リーダ(…)やダッシュ(―)は2個単位で使用する。
×
家政婦は…いや、クジラ博士は見た!
家政婦は………いや、クジラ博士は見た!
○
家政婦は……いや、クジラ博士は見た!
家政婦は…………いや、クジラ博士は見た!
・ルビ振りはカッコで指定する(PDF化するときに振ります)
特殊な読み方や難しい漢字などには指定ください。
(例)携帯獣(ポケモン)
霊鳥(ネイティオ)
抱擁(ほうよう)
・場面の転換、重要な強調以外の行空けは原則禁止とする。
地の文、台詞間も行空けも原則行わない事。
理由:縦の文章にした時に行間が空いているとスカスカになる為。
(例)
×
クチバシティのホテルに戻ると弟子の頭に妙なものが乗っかっていた。
もさもさとした羽毛の鳥ポケモンだった。頭から尻尾までの大きさは30センチほどで頭部から背中にかけては茶色い。胸と腹はクリーム色。なんとも憎たらしい配色だ。冠羽は老人の眉毛にも似ている。そしてなにより目つきが悪い。
「おい! その頭に乗っているものは何だ!」
思わず私は弟子のトシハルにツッコミを入れた。
「ポッポです」
「そんなことはわかっとる!」
○
クチバシティのホテルに戻ると弟子の頭に妙なものが乗っかっていた。
もさもさとした羽毛の鳥ポケモンだった。頭から尻尾までの大きさは30センチほどで頭部から背中にかけては茶色い。胸と腹はクリーム色。なんとも憎たらしい配色だ。冠羽は老人の眉毛にも似ている。そしてなにより目つきが悪い。
「おい! その頭に乗っているものは何だ!」
思わず私は弟子のトシハルにツッコミを入れた。
「ポッポです」
「そんなことはわかっとる!」
●優秀作品掲載書籍について
以下、2種の本の発行を目指しています。
・「マサラのポケモン図書館短編小説集 鳥居の向こう(仮)」
A6文庫サイズ、フルカラーカバー付、200〜300P程度予定
小説部門の優秀作品を集めた短編小説集。
形態としては「ポケモンストーリーコンテスト・ベスト」が近いです。
タイトルにある「鳥居の向こう」は日常とは隔絶された異界、彼岸、神域といったものをイメージしています。
そういった起想をさせるもの、伝説や信仰、日本的なものを扱った小説のほうが有利かもしれません。
(もちろんあえて破りに行くのもありです!)
・「携帯獣民俗図説 フォルクローレ(仮)」
記事部門の優秀作品を掲載したビジュアルブック。
B5横型サイズ、フルカラー、24〜50P程度予定。
各記事にあったイラストをポケモン大好きな絵師さん達がつけてくれる予定です。
形態としてはNo.017個人誌「携帯獣九十九草子」が近いです。
フォルクローレ (folclore) は、民俗的な伝承一般という意味ですが、日本では、ラテンアメリカの民族音楽(例:コンドルは飛んでいく)を指す事が多いです。
日本的なタイトルになっている「鳥居の向こう」よりはより海外の風習や文化などをモチーフにしやすいかもしれません。
●コンテスト〜書籍化までの流れ
作品募集(2〜3ヶ月)
応募作品順次掲載(この時点ではHTMLのみ)
↓
作品募集終了
↓
作品校正(1〜2週間)
(共通の掲示板を使い、お互いに誤字などを指摘)
↓
応募作品PDF化
↓
ウェブ投票(2〜3週間)
↓
結果発表
審査員による書籍掲載作品選考会
(ウェブ投票の順位が基本だが、必ずしもそれによらない)
↓
掲載作品決定
↓
書籍掲載用作品校正・編集
イラスト製作期間、書き下ろし製作作成
(※主催者判断により、別途製作依頼をかける可能性)
↓
入稿
↓
同人イベントにて書籍頒布
●書籍化による費用
・書籍発行における印刷費・イベント参加費は原則としてNo.017が負担するものとする
・作品掲載者にはできた本を無償で配布する(自宅配送、イベント渡し、局留め可)
●ウェブ審査方法
・ストーリーコンテストお馴染み、☆方式採用予定。
☆、☆☆、☆☆☆
ただし、今回は無印および、マイナス評価 ★、★★、★★★を入れるかも。
★はマイナス評価で、★1つにつき、☆が一個相殺される評価。
・自分の作品には最低評価しか入れる事が出来ない。
☆一個、あるいは無印評価予定。
・応募者は全員参加とし、記名投票とする。
・非応募者も原則、記名投票とする。
●掲載作審査員
後で。
基本的には主催が声掛けして集めるつもりですが自薦OK。
オフで顔をつきあわせて話し合える方が望ましい。
構想段階でだが、都内に集まって審査をユースト放送したい(顔は隠す)。
●絵師
基本的には主催が声掛けして集めるつもりです。
●Q&A
・書籍化の際の掲載作品はウェブ投票の順位で決まるのですか?
だいたいそれで決まりますが、絶対的な基準ではありません。
ページ数、話のバリエーション、登場ポケモンなどのバランスを配慮しつつ、編集(主催)・審査員・絵師さんの意向が反映されます。
ですから、たとえばウェブ投票5位だった作品が、4位を押しのけて掲載みたいなシチュエーションはありえます。
・そもそも校正って何ですか?
誤字脱字や言い回しのおかしい所などを直す作業です。
文章作成ルールに従っていない部分も修正します。
またこれは「編集」になりますが、書籍掲載の際はさらに内容にテコ入れしたり、文章表現を変えたりなどもします。
・プライベートが忙しくなってしまい、校正に参加できなくなってしまいました
その時の作品の状況によって判断しましょう。
完成度によっては校正の必要が無いかもしれませんし、ある程度一任していただく方法も考えられます。
ご相談ください。
・本の配布ですが、親から個人情報を出すなと言われています。
地方なのでイベント受け取りも出来ないのですがどうしたらいいですか?
郵便局留めをご利用になってはいかがでしょう?
お近くの郵便局を指定いただき、取りにきていただく形式です。
順次追加予定
●お問い合わせ
pijyon★fk.schoolbus.jp(★を@に変換)
スカイプでもこのアドレスで検索できます。
コンテストの件でという名目でリクエスト送ってくだされば認証します。
カフェラウンジでもご質問もお気軽にどうぞ。
なんかあればまた追加します…
初めての投稿になります、いつもはチャットの方で顔を出しているコマンドウルフといいます、よろしくお願いいたします。
ちなみに、過去にマサポケにノリで1回投稿したことがありますが、あれはノーカウントということで。
あまり長い文章や細かいところまで書く技量はないので余地のある構成にしてみました。
自分の中である程度設定は決めた上で書いてみたのですが、これだけでどんな続きが想像できるものなのでしょうか。
今のところまだ続きは頭の中を漂っていますが、参考にさせていただきたいと思います。
研究施設の一角で行われるこじんまりとした送別会
私がリーダを勤めていた研究チームが今月末を持って解散することになったのだ。
前々からその気配はあったが、それに気づいたころにはどうすることも出来なかった。
解散が確定した時点で私は研究者から身を引くつもりでいた、部下からは惜しむ声もあったが
肩の荷が下りたような気持ちになり、その流れで辞表を出し受理された。
そして、今日が研究者として最後の日だ、そう、チーム解散と私の送別会である。
夕方からソフトドリンクを飲みながら談笑、時間は夜20時を回ったところだろうか
「さて、そろそろお開きにしようか」と、私は皆に声をかけ閉めの言葉を述べ始めた、
「今まで世話になった、我々の研究は最終的に評価されることは無かったが、
極めて価値のある研究であったと自身を持っている、これからもそのつもりだ。
それぞれ違う部署と研究につく事になるだろう、特に健康には気をつけて生活してほしい…
短いが以上だ、諸君らの健闘を祈る。」
うっすらと目に涙を浮かべる研究員もいるなか、片付けが始まる。
そう、価値のある研究だった、しかし何も残らなかった、成果も記憶も。
唯一残っていた研究チームも今月末を持って解散となる。
資料は電子化され保管されるが、引継ぎは無い、数少ない残った機材も破棄される、
もう誰の目にも触れることはないだろう。
研究員の一人が声をかけてくる「あの・・・博士、これも破棄ですか・・・」
それは冷蔵庫のようなものといえば判り易いだろうか、中身は研究の成果物である。
私は少し考え、この研究のケジメとして自分の手で弔うことにした。
博士「これは私が処理しよう、研究者として最後の仕事にするよ。」
成果物を冷蔵庫から輸送用ケースに移し変え、私は施設を後にした。
本来持ち出しなどできないものだったが、セキュリティの人間とも長い付き合いだ、
中身と理由を説明をしたら目を瞑ってもらえることになった。
後ろのトランクにケースを入れ、車は走り出す、静まり返る夜の道へと吸い込まれるように。
Jack Pot(ジャックポット)とは
ギャンブルにおける大当たりのこと
ただし、何を以ってジャックポットとするか
という明確な基準は存在しない。
語源には諸説あるが、ポーカーに
由来するとする説が良く聞かれる
転じて、日常生活においては
大成功という意味としても使用される
(出典・ウィキペディアより)
小さなテーブルを囲む4つの影。
1人は、黒い髪の少年。
1人は、その少年の兄と思われる青年。
1人は、紫の髪に、鋭い金色の目の少年
1人は、オレンジの髪に赤渕の眼鏡をかけた青年
そして、彼らの手にはトランプが握られ
4人の側にはそれぞれ、エネコ・クルマユ・ブラッキー・コロモリの姿
そのすぐ近くに、紫の髪の少年そっくりの
桃色の目の少女とエーフィがいた。
「……いいか、てめえら。」
「うん。いつでもどうぞ!」
「俺も大丈夫。」
「ボクもOKだよ。」
「……わかってんな?これに負けたヤツは
ヒウンアイス全フレーバーを自費で買ってきやがれ。」
「……ただパシリ決めんのに大げさだな、お前ら。」
鋭い金色の目の少年が、荒々しい口調で
顔色を全く変えずに罰ゲームの内容を告げた。
少女の皮肉を無視して、紫の少年は目線を合わせると
全員、異議無しと頷き、彼の合図でカードを出した。
「フルハウス!」
「ボクもフルハウス!!」
「げ……2ペアだ。」
「ヴィンデは?」
「…………。」
ヴィンデと呼ばれたのは、先ほどから仕切っていた紫の少年だ。
にやりと笑うと、カードを降ろした。
「ロイヤルストレートフラッシュ……俺の勝ちだ。」
******************
「あっちぃ……。」
カードで負けた黒髪の青年は
クルマユを抱えて、人で溢れるヒウンの中心街である
モードストリートを歩いていた。
「ヴィンデのヤツ……あの場でロイヤルストレートフラッシュって……
リラ姐さんといいヤツといい……さすが双子の悪魔。強運姉弟……。」
ぐちぐちと人込みの合間をすり抜けて
青年はアイスの販売ワゴンについた。
最近、客足が減ったのか、前ほどの賑わいは
あまりなかった。(買いやすくはなったが。)
クルマユは早くしろと言わんばかりに
青年の腕を無言でべしべしと叩いていた。
「ぼたん、大人しくしろ、財布取辛いから。」
「…………。」
「よし……すみません。」
「はぁーい!」
「全フレーバーのヒウンアイスをセットで。」
*あとがき*
今回はわが子を出しました。
リラとヴィンデは、だいぶ前から
皆さんの前に出したかったキャラです。
ポケライフつけて書いてみたけど
これからは関係無しに書くかも
もしかしたら続くかも。
とりあえず、今回はこれにて。
【書いてもいいのよ】
【描いてもいいのよ】
「……何があったの」
午後十時十分前。もうじき今日の開店時刻は終わるというところ。店内もお客の姿はまばらで、隅っこでゼクロムを飲んで粘っているサラリーマンしかいない。
従業員、バイトがユエと目の前のカウンター席に座っている少女を交互に見つめる。その目が周りの同じ立場の人間に向かって『おいどうなってるんだよ』『おいお前聞けよ』『やだよお前が行けよ』と会話している。
バクフーンが『やってらんねー』と彼らを見て大あくびをした。
「目元が腫れてる。右頬に部分的に赤い跡」
「……」
「どうせまた、お父さんと喧嘩でもしたんでしょ」
「ユエさん!」
少女が顔を上げた。男性陣がおお、と顔を歓喜の色に染める。彼女はとんでもない美少女だった。
イッシュには珍しい黒い髪と瞳。肌はぬけるように白く、染み一つない。これで泣き顔でなければもっと美しく見えるだろう。
男達の視線を一瞥して、彼女ははっきり言った。
「格闘タイプ使いが、悪タイプ使うのって、いけないことでしょうか」
「……は?」
気の抜けた声を出したのは、男達だった。周りの女性達の射抜くような視線に、強制的に『ちいさくなる』を使うハメになったが。
「別に私は良いと思うけど」
「ですよね!格闘タイプだけじゃ勝てない相手もいますよね!」
「エスパータイプとかね」
たとえ相手に有利なタイプの技を持っていたとしても、得意不得意がある。それに相手のタイプが有利だということは変わらない。例外もあるが、それでも相手の苦手な技を出したが耐えられて逆に返り討ちにされました―― なんて話も少なくない。
話を聞いていたバイトの一人が、少女に声を掛けた。
「ねえねえ、貴方は悪タイプが好きなの?」
「え…… あ、はい」
「どうして?」
「えっと…… 好きな物に理由なんていりますか」
変な所でしっかりしている子だ。バイトがおののく。ユエは話しても大丈夫?と彼女に促した。
頷いたのを見て、周りに説明する。
「この子はミユ。お父さんが有名な格闘タイプ使いで、幼い頃から格闘タイプ使いになるように言われてきたの。でも最近悪タイプに興味を持ち始めて、それで時々お父さんと喧嘩してここに来るようになったのよ」
「初めまして。マコト ミユと申します。マコトは真実の真です」
腰まである長い髪が揺れる。男達の頬が緩んだのを女性陣は見逃さなかった。顔が般若のそれになる。
バクフーンはポケッターをやっている。
「悪タイプに興味を持ち始めたのは六年生の時で…… 偶然、テレビでジョウト四天王のカリンさんのバトルを見たんです。それがすごく素敵で、バトルの仕方だけでなく使うポケモンもかっこよくて……
私もああなりたいって」
「それは、カリンさんみたいな女性になりたいってこと?」
「え?……いえ。私は悪タイプ使いになりたいな、と」
「あ、そうなの」
『ああ良かった』『ほんとに』『アンタ達何を想像してんのよ』という会話を無視し、ユエは続ける。
「それで、こっそりモノズを捕まえて育てていたんだけど、お父さんにバレちゃったのよね」
「モノズは餌代が結構かかって…… それで自分のお小遣いで買う薬やフーズだけでなく、家に置いてあるミカルゲ用の餌も少し拝借してたら、ある日見つかっちゃって」
「何でミカルゲ?」
「従姉妹がホウエン地方にいて、しばらく預かってるんです」
ペナルティは三時間の正座と同時進行のお説教。ただひらすら嵐が過ぎるのを待っていたミユだったが『あのモノズは知り合いのブリーダーに引き取ってもらう』と言われた途端、反撃した。いきなり動いたため足が吊ったが、それでも口は動かしていた。
結果、道場が半壊する惨事になった。
「でもよくモノズなんて捕まえられたね」
「リオルに手伝ってもらいました」
「格闘タイプも持ってるんだ?」
「この子だけですが」
そう言って出したリオルは、普通のより少し小さかった。聞けば幼い時に脱走してしばらく病気だったことが原因だという。
「塀がその日来た嵐で一部壊れてて……」
「随分大きい家みたいだけど」
「はい。母屋と離れ、そして庭園があります」
サラリと言う辺り、自慢している様子はない。住む次元が違うと言うことが痛いほど分かる。
リオルはバクフーンの気配に気付いたのか、裏からカウンター下へ回っていった。数秒後、『グエッ』というガマガルの断末魔のような声が聞こえた。
「結局モノズだけは死守して、育てられることになったんですけど……」
「良かったじゃない」
「でも私は悪タイプ使いになりたいんです!出来ることなら悪タイプのパーティで旅もしたいし、……そう、チャンピオンにだってなりたい!」
「……」
沈黙の渦が店内を包む。それを破ったのは、ドアに取り付けられているベルの音だった。いらっしゃいませ、と言いかけたユエの口が止まる。ミユが立ち上がった。
「父上」
「え!?」
今度こそ男性陣は驚いた。が、目の前の男に一睨みされてズササササと後ずさりする。
男がユエに頭を下げた。
「ご迷惑をおかけしました」
「いえいえ。とんでもない」
「ミユ、帰るぞ」
だがミユはカウンターに突っ伏したまま動かない。痺れを切らした男がミユの腕を引っ張った。
「迷惑だということが分からんのか!」
「いやー!」
「はいはい騒ぐなら外に行ってくださいね」
流石カフェのマスター。そこらへんはキチンとしている。そして容赦ない。
「……そこまで悪タイプを使わせたくない理由ってあるんですかね」
親子が帰った後、バイトの一人がぽつりと呟いた。ユエが掃除しながら答える。
「ミユのお母さんは、ミユがまだ小さい時に、捨てられて野生化したヘルガーに火傷を負わされて、それが原因で亡くなったの」
「そんな重度の火傷だったんですか」
「ヘルガーの吐く炎には微量だけど毒素が含まれていて、火傷するといつまでも疼く。……授業でやらなかった?」
たとえ軽い事でも、場合によっては何を招くか分からない。ミユの母親は、その犠牲者になった。
「それが元であの子のお父さんは悪タイプを嫌っている、と?」
「嫌っているかどうかは分からないけどね。彼だって一応大人よ。全ての悪タイプがそういうことを招くわけじゃないってことは、理解していると思うわ」
「じゃあどうして」
「……」
淀んだ空気が、夜のライモンシティを包み込む。
夜明けはまだ遠い。
作品完成おつかれさまです、そしてイラストを作成していただきありがとうございます
グレイシアとトレーナーさんの暑さにやられた顔がいいですね(笑)
イラコンの結果をドキドキしながら楽しみにしてます
それでは失礼しました
「サボネアああああ!!!!」
あーあ、また始まったよ……。
うるさいんだけど、ねえ。
「ねああああ!!!」
「人の菓子勝手に食うとはいい度胸だなあええ!?
しかも俺が楽しみに取っておいたコ〇ラのマーチを
5箱も食い漁りやがって!!!」
サボネアも悪いけど、コイツが取り易いとこに
毎回置いてるアンタも悪いって。つーかマジうるさい。
「てめえ、いい加減にしないと
金輪際甘いもの食わせねーぞ!!」
「ねあ!?」
「いいのかー?食えなくなっても。」
「ねー、ねあッ!!」
「うお!?……おい!部屋の中ではっぱカッターはダメだろうが!!」
「ねああああ!!!」
サボネアのやつ、ぐれて暴れ出しやがった。
はあ……俺の出番かな。
「ヘルガー!!こいつ止めてくれー!!!」
はいはい、今行きますよ。
……めんどくせーヤツらだよ本当に
そのあとバークアウトとひのこで
サボネアを止めた俺は、主人と一緒に
他の部屋の人たちに謝りに行った
*あとがき*
ポケライフのタグをつけて初めて書きました
主人と主人のお菓子を勝手に食べて暴れるサボネアと
決まってサボネアを止める損な役回りのヘルガーの話し。
【書いてもいいのよ】
【描いてもいいのよ】
【バークアウトとひのこの間違った使い方】
(大方の予想通り)背景のオオタチに心を奪われました!(´ω`)
はじめまして。ねここと申します。
「俺とポケモンのへーわな生活。」読ませていただきました。
投稿されてから結構経っているようで感想なんか今更ながらというか、感想を書くのが初めてというかでプチパニックですがお許し下さい。
このお話は完全にわたしの理想です。
羨ましいですわたしはメタモンがいいです。←
レンジのところのくだりがとても良い表現だなあと思いました。
全体的にさくさく読み進められて、面白かったです。
主人公君が魅力的過ぎt(ry
こんな感想でいいのかまじでええええという感じですが、とにかく素晴らしいお話でした。素敵です。
感想もっと早くに書きたかった……(´・_・`)
では失礼しました。
※ポケモン等を殺したりといった要素を含みます。含むどころかメインになってます。あと嘔吐や見方次第では拘束・監禁・調教といった要素も含みます。という訳で閲覧注意です。
僕は悪くない。仕方ないんだ。悪いのは僕を使う人間なんだ。
確かに僕は今まで沢山の人間やポケモンを殺して来た。でも、それは全部あいつらの指示だ。僕の意志じゃない。仕方ない事なんだ。だから――僕は悪くない。
そう考える様にしてから、随分と楽になった。
僕の意志じゃない。それは間違いないんだ。でも、でも、それならどうしてあの時、つまらないなんて思ったんだろう――。
初めて殺したのはいつだっただろう。僕が生まれ育てられたこの大きな建物の一室で、訓練と称されたそれは行われた。形式自体はそれまでの訓練と同じで、あいつらに用意されたポケモンと戦うというものだった。ただ、指示が違った。それまでとは違い、はっきりと告げられた。殺せ、と。
どうすれば良いのか分からなかった。動けなかった。その時、あいつらが一言おい、と言った。分かっているな、とでも言うかの様に。
命令に従わなければどんな目に遭うか、思い出し、吐いてしまった。今でも思い出す度に体が震えてしまう。殺したくなかった。でも、あんな目に遭うのはそれ以上に嫌だった。今度はもっと酷いかもしれない、殺されてしまうかもしれない。恐怖が僕を突き動かした。そして、僕はそのポケモンに襲い掛かった。多分、泣いていたと思う。あのポケモンも、僕も。
自分がしてしまった事を改めて自覚した時、またしても吐いてしまった。殺した時の感触が、悲鳴が、表情が、次々と甦ってきた。自分が、殺した。その事実を認めたくなかった。でも、どうしようもなかった。殺さなければまたあんな目に遭っていた、仕方なかった、と必死に自分を説得した。でも、逆らっても殺される訳じゃない。それにもし殺されるとしても、こんな自分の為に他のポケモンを殺す様なポケモンより、あのポケモンの方が生きるべきだったんじゃないか、そんな思いは拭えなかった。
それからは通常の訓練に加えて、殺せと指示が出る事があった。僕はその度に葛藤し、恐怖し、殺し、後悔してきた。自殺だって何度も考えた。でも、出来なかった。自分が助かる為に殺して来たのだから、当然と言えば当然だ。でも、自分1匹が助かる為に何匹も犠牲になっている事がおかしいのは分かっていた。もし僕が死んだらそれまで殺したポケモンが生き返るのなら、あの時はまだ自殺に踏み切っていたかもしれない。
初めて殺した時、いや、殺させられた時から数週間が経った頃だっただろうか。僕の主人が決まり、それまで訓練と呼ばれていた事は仕事と呼ばれる様になった。それを境に変わった事と言えば、まず場所だろう。初めて仕事として指示が出た時、僕は初めてこの建物から出た。その時見た景色は、僕が生活してきた部屋よりも、訓練の時に連れてかれた部屋よりも、それまで見たどんな場所よりも直線が少なく、沢山の色があった。前にも横にも壁は見えず、駆け出したかった。勿論出来るはずもなかったが、戦っている時は、あんな場所で動ける事に喜びや楽しさを感じていた気がする。殺せと指示が出ていたにも関わらず、笑っていた様な気もする。それ位新鮮だった。
他に変わった事は、仕事の対象がポケモンに限らなくなった事や、首に枷の様な物を付けられる様になった事、他のポケモンと協力して戦う事があった事もだろう。初めて協力して戦った時、僕は同じ様な境遇のポケモンがいる事を知った。協力したポケモンは首には同じ枷を付け、傍らにはあいつと似た様な服装の人間がいた。その人間とあいつが何やら話している間に彼と少しだけ話した所、彼が僕と同じ様な境遇である事、そして彼が他にもそんなポケモンを数匹知っている事を話してくれた。多分まだまだいるだろうという事も。
その仕事を無事に終え、部屋に戻された僕は考え事に耽っていた。僕みたいなポケモンが沢山いるという事がどういう事か。
まず、僕は殺すのが嫌だ。慣れてしまって来ていても、外で動ける事が楽しくても、それは変わっていないはずだ。いや、絶対に変わっていない。でも、指示に従わなければあんな目に遭わされる。だから、仕方ない。そう考えて来てはいたけど、割り切れてはいなかった。でも、でも、僕と同じ境遇のポケモンがいるのなら、無理に殺させられてるポケモンがいるのなら、僕が殺していなくてもあのポケモン達は助からなかったんじゃないか? 僕が殺さなくても他のポケモンが殺したんじゃないか? 訓練のは別のポケモンの訓練に回され、仕事のは別のポケモンが仕事で殺すんじゃないか? 今まで僕は自分が殺したからそのポケモンが死んだ、自分が殺さなければそのポケモンは死ななかったと思っていた。でも、あいつらに選ばれた時点でもう助からなかったんじゃないか? それなら、それなら――
指示に逆らう理由はないんじゃないか?
そうだ、逆らう理由なんてない。僕は殺すのは嫌だ。殺すのは悪い事だ。でも、相手はもう死んでいるも同然なんだ。あいつらに選ばれた時点で助かる事は出来ないんだ。殺すのは僕だ。でも、死ぬのは僕の所為じゃない。あいつらの所為だ。悪いのはあいつらなんだ。だから、僕は悪くないんだ。それにもし僕が逆らったら、あいつらは代わりのポケモンを使うかもしれない。そうしたら、また僕みたいに扱われるのだろう。それは間違いなく辛い事だ。なら、僕が指示に従う事は良い事なんじゃないか? 僕が指示に従う事で、ポケモンを1匹助けている事になるんじゃないか? そうだ、僕は殺す事で誰かを苦しめているんじゃない、誰かを助けているんだ。だから、僕は悪くない。殺す事自体は悪い事でも、指示に従う事は良い事なんだ。それに殺すのは僕の意志じゃないんだ。あいつらの指示だから仕方ないんだ。悪いのはあいつらで、僕は悪くないんだ。そうだ、僕は悪くない――。
そう考えた時、何だか楽になった気がした。仕事だって楽しみに思えて来ていた。仕事はない方が良いんだとは思いつつも、この建物の外に出られる事は魅力的だった。
実際、罪悪感さえなければ仕事は楽しかった。罪悪感が込み上げて来る時もあったけど、その度に自分自身に言い聞かせて来た。僕は悪くない、自分の意志じゃないんだ、仕方ない事なんだ、と。そうだ、殺すのは僕の意志じゃない。絶対に、絶対に違う。でも、僕は確かにあの時つまらないと思ってしまったんだ。どうして、どうして僕はそんな風に思ったんだろう――。
今日の仕事の事だ。最近は殺す指示が多くなっていた気がする。前回まででも何回連続でその指示が出ていただろうか。だから、今回もそうだと思っていた。でも、出された指示は殺すな、生け捕りにしろというものだった。その時だ。つまらないと思ってしまったのは。何で、どうして僕はそう思ってしまったんだろう? 今までを思い返してみても分からない。何がつまらないんだろう? 楽しかったのは外で動ける事のはずだ。でも、殺しても殺さなくても動ける事には変わりない。それで変わる事と言ったら――。いや違う。絶対に違う。そうだ、仕事は無事に殺さずに終える事が出来たんだ。殺さずに済むならそれが一番良いんだ。僕は殺したくないんだから。僕は殺したくないんだ。殺すのは僕の意志じゃないんだ。だから、だから、殺す事が面白いと思うはずはないんだ。絶対にそんなはずはないんだ。でも、それならどうして――。僕は、本当は――。違う。違う! 違う! きっと他に理由があるんだ。つまらないと思った理由が。でも、分からない。いや、分からなくて良いのかもしれない。とにかく違うんだ。殺す事が楽しいはずがない。殺すのは僕の意志じゃないんだ。仕方なくそうしているだけなんだ。それさえ分かっていれば良いんだ。僕の意志じゃないのは間違いないんだから。絶対に、絶対に。僕は殺したくなくて、殺さずに済んだんだ。殺さずに済んだんだから良いんだ。僕は殺したくないんだから。そうだ、今まで殺して来たのは全部あいつらが悪いんだ。僕の意志じゃないんだ。だから、だから――
僕は悪くないんだ。
―――――――――――――――――――――
えーと、はい、ごめんなさいごめんなさい。でもこれでも結構自重しました。多分全年齢ですよね、多分。リョナとかイマサラタウンな箇所は省きましたし。
と言う訳で悪の組織的な何かに使われるポケモンの話。続くかもしれませんし続かないかもしれません。続くけど投稿出来ない可能性も結構あったり。
でも1匹ずつ管理してる理由とか首輪付ける理由とかどうでもいい事は考えてあるのに組織の大きさとか目的とかを決めてないという。そっちの方が大事だというのに。決まってても書く訳じゃないのであまり影響は無いのですけれども。それにしてもこいつら殺しすぎですね。ロケット団でさえ殺したと明確に分かるのはあのガラガラ位だった様な気がするというのに。こいつらどんだけ悪い奴らなんだっていう。イッツ無計画。
食料とかもどういった設定にしましょうかね。木の実を用意されてるとかが無難ですかね。でもイマサラタウンな案の方が自然に思えてしまうという。殺す理由にも繋げられますし。
さて、何のポケモンかはご自由に想像して下さい。首があって自己暗示が使えれば大体当てはめられると思いますので。キュウコンとかグラエナとかゾロアークとか。アブソルなんかも夢特性が正義の心ですからその場合葛藤が激しそうで可愛いですね。結論も自分のやっている事は正義だと思い込んだり。あと個人的にはブラッキーの妄想が捗ったり。自己暗示使えますし悪タイプなのも似合いますしなにより懐き進化で分岐進化という所が。懐いた理由とか妄想がイマサラタウン。分岐進化はここまでだとあまり関係して来ないんですけどね。
あと読点とか「でも」とかが多すぎますね。読み辛くてすみません。でも読み辛い方が雰囲気出る場面もありますよね。それが意図的だったら良いんですけどね。全体的に読み辛いですからどうしようもないですね、すみません。
何はともあれ書いてて楽しかったです。書いててと言うよりは妄想しててと言った方が正しいかもしれませんけど。
【書いてもいいのよ】
【描いてもいいのよ】
【虐めてもいいのよ】
【ややイマサラタウン】
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