チョロネコの額ほどの空間に、ちゃぶ台と座布団二枚。
ちゃぶ台の上に、湯のみが二つ。
湯のみの側に、野菜炒めの皿と御握りと味噌汁のお椀が二つずつ。
座布団の上に、子供一人。
座布団の上に、大人一人。
子供の側に、レパルダス一匹。
大人の側に、ルカリオ一匹。
『いただきます』の声が二つ。それを見計らったかのようなノックの音が、二回。
何でもない兄弟の日常が、この音で崩される。
「はい」
レパルダスを撫でていた凛は、兄である大輝が立ち上がったのを確認して御握りに手を伸ばした。熱いので注意して中身を割る。梅干入り。白米がピンク色に染まっている。
熱い味噌汁を見て、少し顔を顰める。
「もう少しぬるめにしてって言ったのに……」
凛は猫舌である。どんなに大好きな物でも、熱々は食べられない。おまけにこの部屋には冷房がついていない。あるのはいつ壊れてもおかしくない扇風機のみである。
それでも日当たりの関係か、ここに越してきてからは一度も熱中症にはなったことがない。兄の健康管理のおかげかもしれないが。
「凛!来て挨拶しなさい」
氷水を飲んでいたところへ、兄の声が響く。ため息をついて、レパルダスを飛び越えた。
玄関先に立つ二つの人影。一つは兄。もう一つは…… 女性だ。
髪は赤毛。以前読んだ『赤毛のアン』に出てくる赤よりも少しだけ濃い。あちらが『にんじん』なら、こちらは『トマト』とギルバートに言われることだろう。
背丈は小柄。いや、兄の側に立っているから小さく見えるだけかもしれない。兄は百八十近い。ちなみにオレは百五十ちょっとしかない。
彼女の頭に停まっているのは、図鑑でしか見たことのない、ヤミカラス。重くないのだろうか。
「今日からこの水東荘に住むことになりました、秋風カエデです。……よろしくお願いします」
「こちらこそ。私は水嶋 大輝です。こちらは弟の凛」
「……はじめまして」
困ったことがあれば何でも言ってください、という兄の言葉に彼女は『ありがとうございます』と言い、『これ、うちの実家の名物です』といかり饅頭を渡してきた。
こちらで言うヒウンアイスみたいなポジションだろうか。
ふと足元に柔らかい感触。レパルダスが玄関先までやってきていた。口元に米粒が付いてる。
「こら、レパルダス、ダメだってば」
『ミャオン』
レパルダスとヤミカラスはお喋りを始めてしまった。悪タイプ同士、何か通じ合うものがあるのかもしれない。
『これからよろしくお願いします』という挨拶で、一先ず彼女は部屋に戻って行った。
「美人さんだったね」
「……」
「どうしたの?……もしかして、気になった?」
「馬鹿を言うな。早く食べろ」
「はいはい」
華ができた、気がする。
なんだか楽しくなりそうだ。
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えっと、初めまして。神風紀成と申します。
面白そうだったので書いちゃったんですけど…… いいんですかね、こんな感じで?
他の部屋の住人さんがどんな感じなのか気になってます。
とりあえず、彼らもよろしくお願いします(?)
では。