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  [No.3314] 精霊信仰とカロリーエンジン 投稿者:   《URL》   投稿日:2014/07/04(Fri) 03:32:33   98clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

それは2014.07.03深夜にかけておこなわれた。
それは半分くらい即興だ。
それは上から読む。


音色:腹減ったな(23:35)
音色:なんか食べてくる(23:35)
殻:はいです(23:36)
殻:「腹へったなぁ……」青年がつぶやいた(23:36)
お知らせ:GPS(iPhone/Safari)さんが入室しました。(23:37)
殻:この国がまだ、領土あらそいのようなことをしていたころである。(23:37)
GPS:見えないものを見ようとして〜シルフスコープ覗き込んだ〜(23:37)
GPS:聴いてください、バンプオブアチャモで「変態観測」です(23:38)
GPS:ただいまです(23:38)
音色:>>突然始まった<<
こんばんは(23:38)


「腹へったなぁ……」青年がつぶやいた
この国がまだ、領土あらそいのようなことをしていたころである。
「おかえりなさい、どうでした」と青年がきく。「いやあ、今夜はいい変態観測日和ですよ」と答えたのは、彼の同期である。
そのころ、この国の成人国民は、生体機関(カロリーエンジン)の取り扱い免許を取得することがなかば義務付けられていた。
彼もまたこの制度のために、演習場であるオレンジ諸島にやってきたのだった。
「きみのその、なんといったか」と青年、「なんとかスコープというのはやはり、見えないものがみえるのかねえ」
「そうですねえ。いいかんじに、みえますよ」と同期が答える。
ぽつり、ぽつりと会話。「やはり、シルフ製でなくては」「……そうかい」
それから、二人の間に沈黙が流れる。深夜、虫の声と、木々のざわめき。どこか遠くで、太鼓の音。
ああ、またどこかでだれかがいったのか、と青年はおもう。
長い演習のさなかで、精神に不調を訴えるものは少なくない。
ことに、演習場の中でも、すでに補給の途絶えたこの島にあっては。
翌日、青年に辞令がくだる。ついに、試験の日がやってきたのだ。
しかし、仮に試験に合格したとて故郷に帰れる保障はない。
栄養失調で衰弱した体で、いったいどれほどの働きができるだろうか。
もたされたのは、米三合と、煙草二箱、そして小さな生体機関がひとつ。
「免許なんていらないから、たらふく食えたらなあ」と青年はおもう。
夕方、青年をふくむ小隊が出発した。
「免許とって、かならず帰ってきてね」と恋人。いまはどうしているだろう。親は、故郷は、友達は……。
青年が目をさます。日はとうにのぼっていて、真上にちかい。どれくらいねむっていたのだろう。
うっそうとした森のなか、青年は裸に近い姿で横たわっていた。荷物はほとんどなくしていて、ただ腰に生体機関がひとつぶらさがっている。
はっとして、まわりをみわたす。木々、草、葉……仲間も、同期も、試験官もいない。ひとりきりである。
はぐれたのか、いや、あるいは自分ひとり生き残ってしまったのか。これでは、試験もなにもあったものではない。
「はは、ばからしいや」と青年がふたたびぶったおれる。
一晩中走り回ったのでずいぶんと疲れている。腹も減った。米を三合ももらっていたのに、すべて背嚢の中だ。背嚢はなくした。それは必死に逃げたので、いろいろとなくしてしまった。すべて、なくしたんだ。
目をつぶる。そうしていても、この地方の太陽はまぶしい。こうして、じぶんも死んでしまおうかと青年は考える。
かんがえてみればばからしい。いりもせぬ免許のために、こうして苦労するだなんて。ほしいものは、こんなことをせずとも手に入ったはずなのに……
ここは地獄だ。どっと疲れがやってくる。目の前が暗い。ああ、きっともうしばらくしたら、しねるのだろうなあ。こうしてしずかにしねるなら、こわくはないなぁ。
「いやだ」と青年がおもむろにさけぶ、「ひとりはこわい。だれか、たすけてくれ。死にたくない」
青年が目をかっぴらく。そうしてはじめに気づくのは、太陽がそれほどまぶしくなくなっているということ。
逆光の中にみつけた。青年の顔におおいかぶさるように、一人の少女が彼を見下ろしている。
そのひとみと目が合う。かとおもうと、女はおどろいた顔をして、走りさってしまった。
青年はその少女のことを知らない。それでもひとつだけ分かることがある。彼女のしていたかっこうは、このオレンジ諸島の原住民のそれなのだ。
その村は、森の奥深くにひっそりとあった。
あばら家から子どもたちが顔をのぞかせて、少年をじっとみつめている。
それほどあからさまでないにしても、家々からたくさんの視線がそそがれているのが分かる。
青年はあれから歩きつづけて、ようやくこの村にたどりついた。
すでに体力は限界である。いつ倒れてもふしぎではない。
ふと、青年に近づくものがいる。どうやら村の若者らしい。それが手に何か槍のようなものを持っているのを見つけて、青年は緊張する。
身の危険を感じた青年は、なにか武器をもっていなかったかしらと考える。ナイフはなくした。しかし、腰には生体機関をたずさえている。そっと腰に手をのばす。
若者が目の前にやってきて、何事かを語りかける。しかし青年にはわからない言葉だった。若者は右手にもった槍を青年に差し出し、次に左手にもった果物のようなものをまた差し出す。
くれるということだろうか。しかしそれにしては、若者の顔がやたらと険しい。
青年がおずおずと、差し出されたもののひとつを受け取る。いの一番に、それを受け取って、そして本能のままに、食欲にかられて、むしゃりむしゃりと食べ始める。甘い南国の果物だった。
槍を持った若者の表情がほぐれる。わっと村人がよってくる。子どもたちは青年をかこんで、観察したりつっついたりしだす。
青年はそんなことはおかまいなしに、もらった果物を一心不乱にほうばる。なんとも美味である。
しかし、近寄ってくる村人の中に、とある少女を見つけて、食事を中断する。いつか青年を見下ろしていた、あの少女だった。ああ、彼女はここに住んでいたのか。
ところで、あまりに空腹なときには、あわててものを食べないほうがよい。食物の消化吸収にもまた、エネルギーが必要だからだ。
青年が、少女に声をかけようと、一歩をふみだす。そして彼は倒れふした。

夜、ようやく青年が目をさます。あばら家の中に寝かされていたらしい。周囲の暗がりに村人が寝息を立てているのが分かる。
そっと外にぬけだしてみる。村の広場は、月明かりに照らされている。そこで、少女をみつける。
「やあ」と青年が声をかける、「きみにお礼を言いたかったんだ。あのときはあのままほんとうに死んでしまいそうだったんだけど、ぼくはきみの顔をみたとき、ふしぎと生きる元気がわいてきたんだ。なぜなら、きみは故郷の恋人にすこし似ている」
こういういいかたは、すこし失礼かもしれない。けれど青年はかまわなかった。どうせ、言葉は通じない。
少女はきょとんとした顔で、青年をみつめている。彼女が、青年の腰につけたものを指差して、なにかをいう。
「これかい? これは、生体機関っていうものさ。ぼくはこいつのせいで、ひどいめにあったんだよ。みてみるかい」と青年が、それを少女にわたす。
少女が興味深そうに、その機械をもてあそぶ。
「その小さな機械には動物が封じ込められていて、カロリーをエネルギーに変換するんだ。それが生体機関(カロリーエンジン)というものなんだ。燃料になる米をなくしてしまったから、もう用をなさないけど。かしてごらん」
と青年が機械を操作する。機械の中から、奇妙な動物がとびだす。
かつて十八世紀後半、新種の動物群の発見があった。この新種生物を密閉した容器に封入すると、非常に効率よくカロリーを動力に変換することができたのである。
ワットの開発したこの生体機関は、産業革命の推進力として働き、それ以後人類の文明のありようを大きく変化させていった。
出力を動力から熱、そして電力へと応用されながら、今日においても先進国の生活はこの生体エネルギーの上に成立している
広場をかけまわる動物。目を輝かせてそれを追いかける少女。座ってそれをながめる青年が、微笑む。
「気に入ったなら君にあげよう。ぼくにはもう必要ないからね」月明かりが、二人と一匹を照らしている。
そうしたことが、彼らの夜の日課となった。
およそ一週間後、青年の前に何人かの村人が座っている。そのうちの一人の老人は、片言だが青年に分かる言葉を使って言った、「おまえは他のニッポン人とはちがう。あらそいをしない」
あらそいというのはどうやら、青年たちが行っている試験のことをいっているらしい。
「だから」と老人がつづける、「おまえはここにいていい。しかし条件がある。おまえがとらえている精霊をはなしてほしい」
「精霊というのはなんのことでしょうか」と青年がきく。
「その小さな機械にいれているもののことだ」と老人はいった。
「これは生体機関(カロリーエンジン)といって、人間がつくった道具です。なかにはいっているのは、ポケットモンスターとよばれる動物です。人間のよき友です」
「ポケット(金銭)のモンスター(怪物)ではない。それは精霊だ」そして老人は家の外をゆびさし、「人間の友はあれだ。犬だ」
四足の動物がかけまわっているのがみえる。
犬、現代にいたって、絶滅した動物の一種だった。……少なくとも青年は、そのように教育された。ポケットモンスターすなわち原生生物の出現は、それ以外の動物の絶滅と相関していたのである。
ところが、この南方の奥地に、絶滅したはずの古生物種、犬がまだ生きていたのだ。青年はおどろく。
「いったい、精霊とはなんですか」
「精霊は森の奥深くに棲むものだ。精霊は目に見えない。精霊を怒らせると大変なことになる」
「なあんだ。精霊が目にみえないものなら、目にみえるこれは精霊とはちがいますよ。ごらんなさい」
といって青年は、昨晩と同じように機械を操作して、奇妙な動物を出現させる。
それをみていた村人の何人かが、老人になにかをもうしでている。
「おまえのいっているものが、われわれにはみえない。それはやはり精霊だ」
「なんだって……」
青年らがいままで甘受してきた生体機関社会とは、いったいなんだったのだろうか。きそって生体機関を手にいれ、自分の飯まで機械にまわして、腹をすかせて幸福を求める……。それが精霊だなんて。
この村ではどうだ、だれも競ったり、奪いあったりしない。狩猟採集を生活の糧として、原初のままの暮らしがある。
紀元前ギリシアの学者アリストテレスが動物誌に動物に関する広い知識を記録しながら、なぜかポケットモンスターを発見できなかったのは、アリストテレスがポケットモンスターを精霊的な存在だと考えていたからだという説がある。
実際のところ、われわれには、ほんとうにこの生体機関というものは必要だったのだろうか。はたしてポケットモンスターが、われわれの生活になにを与えてくれたのだろうか。
青年が、村人に見守れながら、機械を操作する。これでいい。これで……、そう青年は考える。生体機関を、森に返す。
ところが、そこへ例の少女がかけよってきて、青年の手から生体機関をうばいとる。
「だめ」と少女が青年の言葉で、「これはわたしにくれるっていった」
青年はおどろく。彼女が青年のまえでこの言葉を使ったのははじめてだった。
「それは精霊だから森に返すんだよ」と青年がさとす。
「ちがう。これは精霊なんかじゃない。あたしの宝物。だって、あなたはあなたの村に恋人がいるんでしょう」
「どうして……」といいかけて、気づく。かつて青年は、恋人の話を彼女にしたことがあった。彼女には言葉がわからないとみくびって。
「あなたは帰ってしまうから、この動物はあたしがもらう」
青年が、少女への気持ちに気づく。
「ぼくはもう、あの国に帰る気はないよ。この村に、きみのそばにずっといようとおもうんだ」
少女が答える、「そうならいいなっておもってた。うれしい」
ひしと抱き合う二人。
そうして、村人たちは顔を見合わせてふしぎがるのだった。
彼にはやはり、目に見えないものが見えるらしい、と。


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