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  [No.3353] 0.5のいろちがい 投稿者:久方小風夜   投稿日:2014/08/25(Mon) 14:21:43   136clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:納涼短編2014】 【色違い】 【ポケトレ

「なあなあクレハ君。ポケトレって知ってるか?」
「ポケモントレーナーの略ではなくて、ですか?」
「トレーナーじゃなくってトレーサーだよ。ポケモントレーサー。最近試作品が広まってて、じんわりブームになってるらしい」
「はあ。名前の響きからして機械か何かですか」
「そうさ。簡単に言えば草むらに潜むポケモンを見つけ出す機械だよ」
「わざわざ機械を使わなくっても草むらに入ったらポケモンなんていくらでも出てくるじゃありませんか」
「まあそれはそうなんだけどさ。ポケトレの真の目的はその先にあるんだよ」
「はあ」

「草むらって色んなポケモンがいるだろ」
「まあそうですね」
「ポケトレを使うと、同じ種類のポケモンを見つけやすくなるんだよ」
「はあ」
「はあって、気のない返事だな。クレハ君もポケモン育ててるだろ」
「まあそりゃ育ててますけど」
「強くするために同じポケモンたくさん倒したりするだろ」
「いいえ特には」
「クレハ君それで大会上位行くのか。どうかしてるぞ」
「はあ。リイチさんは倒してるんですか」
「まあな。大体のトレーナーはそうやって育ててると思うぞ」
「はあ、そうですか」
「……まあ、いい。話を戻そう。ポケトレの話な」
「そうでしたね」

「ポケトレを使うと、同じポケモンが連続で出やすくなるんだ」
「さっきおっしゃってましたね」
「で、それをずっと続けると、出るらしいんだよ」
「幽霊ですか」
「違うよ。誰が好きこのんで幽霊呼び出すんだよ」
「じゃあ何が出るんです?」

「色違いだよ。色違いのポケモンが出てくるんだ」

「はあ、そうなんですか」
「お前本当興味なさそうね」
「まあ特には」
「お前見たことあるの? 色違い」
「何度か」
「まじか。俺本物は見たことねぇんだわ。何の色違い見たんだ?」
「ヨマワルとカゲボウズとムウマとフワンテとゴースですかね」
「多いな! ってか何でゴーストタイプばっかりなんだよ」
「よく出会うんで」
「クレハ君呪われてるんじゃないか?」
「そうかもしれません」
「お祓い行った方がいいぞ」
「考えておきます」

「まあ何というか、クレハ君みたいな呪われてる奴は置いといて」
「置いとかれました」
「一説には、野生の色違いのポケモンに出会う確率は8192分の1らしい」
「誰か数えたんですか」
「統計でも取ったんじゃねぇの?」
「出会ったポケモンの数をいちいち数えてる変態でもいるんです?」
「いや、遭遇した野生ポケモンの数ってトレーナーカードに記録されてるらしいから」
「このカード本当に個人情報ダダ漏れですね」
「まあそれはともかく、色違いってそうそう出会わないんだよ。普通は」
「普通は」
「普通はな」
「異常認定されました」
「まあな」
「否定してくださいよ」
「しねぇよ。とにかくそうなんだけど、ポケトレを使うと、色違いに出会う確率がぐぐっと上昇するらしいんだ。何と大体200分の1だと」
「はあ。同じポケモンと連続で出会うことと色違いに出会うことの関連性がまるで見えないんですが」
「俺もその辺は知らねぇよ。専門家じゃねぇし」
「どうやって出会うんですか」
「何でも同じ種類のポケモンと40回連続で出会うらしい」
「ポケトレ使っても必ずしも同じポケモンが出るわけではないんですよね?」
「まあな」
「40って結構な回数じゃないですか?」
「色違いに出会うにはそれだけ苦労がいるんだろ」
「……まあ、そうですね」
「おや、どした。突然歯切れが悪くなって」
「いえ、別に、何でも……」
「何だなんだ、何か思いついたのか?」
「……いえ、特に何も」
「あっそ。とにかく、クレハ君は一度お祓い行けよ。色違いとも出会わなくなってしまえっ」
「何で最後若干呪いがこもってるんですか」
「俺だって1度くらい見たいもん色違い」
「はあ、そうですか」


+++


「……あーっ! またダメ! もう!!」

「おや、そこにいるのはサクヤさんじゃないですか」
「あら、クレハ君。お久しぶりね」
「こんな草むらの中でどうしたんです。目が血走ってますよ」
「あ、あらやだ恥ずかしい」
「ポケモンでも探してるんです?」
「まあそうね。でも今やってるのはこれよ、これ」
「何です? このレーダーみたいな機械」
「知らないの? ポケトレよ、ポケトレ。今流行ってるのよ」
「はあ、これが例のポケトレですか」
「見るのは初めて?」
「ええ。話だけはリイチさんから聞いたことがありますけど」
「まあ確かに、クレハ君興味なさそうだもんね。こういうの」
「はい」
「……素直よねぇ、無駄に」

「サクヤさんも探してるんですか? 色違い」
「そうよ。クレハ君もどう? 結構ハマるわよ」
「いえ、特に興味もないですし、道具も持っていませんから」
「あら、クレハ君ぐらいのトレーナーなら、問題なくもらえると思うけど」
「はあ」
「これ試作品で、ある程度の実力のあるトレーナーに無料配布してるの。会社に行ったらもらえるわよ」
「……そう、ですか」
「あら、少しは興味が湧いたかしら?」
「いえ、特には」
「……あ、そ」


+++


「よう、クレハ君」
「あ、リイチさん。こんばんは」
「珍しいな。君が大通りのレストランにいるなんて」
「……別に裏通りが好きなわけじゃないですよ。普段この時間に開いてる店がちょっと奥まった場所に多いってだけで」
「もう10時すぎだもんな。どうだ、1杯付き合わんか?」
「あいにくまだ未成年なので」
「こんな時間にうろつく未成年もどうかと思うがな」
「基本夜行性なので」
「そう言う割には随分眠そうだがな。……ま、トレーナーなら活動時間は関係ないか。で、今更だけどここ、いいか?」
「どうぞ」

「ところでクレハ君、お祓いは行ったのか?」
「一応は。『特に悪い気配のものはない』って言われましたよ」
「ふーん、本当かねぇ」
「あまり疑ってると神主さん泣きますよ」
「色違いには遭ったのか?」
「まさか。あれからほんの1ヶ月半じゃないですか」
「だよな。さすがにないか。すまんすまん。あ、俺ポテトグラタンと唐揚げとホットワインの白。クレハ君は?」
「……ホットコーヒーを」
「食わんのか」
「食欲ないんで」
「飲まんのか」
「未成年ですので」

「そうそうクレハ君、聞いたか? 例のポケトレを管理してた会社、流通してる端末全て回収するそうだぞ」
「ええ、ニュースで見ました」
「気まぐれだよなあ。ただでじゃんじゃん配布して突然回収なんて」
「はあ」
「サクヤもがっかりだろうなぁ。あいつ随分入れ込んでたからなぁ、ポケトレ。聞いた話じゃ相当数見つけたらしいからな、色違い。羨ましいったらありゃしないぜ」
「……そう、でしたね」
「おや、何やら浮かない顔だな。珍しい」
「いえ……少し、気掛かりなことがありまして」
「ほう?」

「……そもそもの疑問は3つあります。まず、ポケトレがどうやってポケモンを探しているのか。次に、どうして同じポケモンと出会いやすくなるのか。最後に、なぜ同じポケモンと出会い続けると色違いと出会いやすくなるのか」
「お、おう」
「まず1つ目。これは明白ですね。草むらの一定範囲内の生体反応を拾っているのでしょう。ポケトレで最初に出会う種類は運次第だそうですので」
「そうだな。レーダーみたいだもんな」
「そしてトレーナーが遭遇したポケモンと、戦うか捕まえることで標的が登録される」
「うむ」
「2つ目。これは最初に登録した生体反応に近いものを選別しているのだと思います」
「ふむ。そういえば、ポケトレはトレーナーから離れた場所の方が同じポケモンと出会う確率が高いらしいぞ。これはどう思う?」
「トレーナーに近いところでは、トレーナーの所持しているポケモン、あるいはトレーナー自身がノイズとなって、判定の誤差が大きくなるのかもしれません。あるいは……草むらの広い範囲を探索させること自体が目的なのかも」
「なるほど」
「同じ種のポケモンと出会い続けることで、その種のデータが累積していく。40回の遭遇を経た頃には、その草むら内の、リアルタイムでのポケモンの棲息情報が完成するわけです」
「ふむ。しかし、それに何の意味が?」
「その答えが3つ目です。8192を200にするからくりが、積み重ねた棲息情報そのものなのではないでしょうか」
「ふーむ?」

「8192分の1。この色違いの遭遇確率って、それぞれのポケモンごとじゃなくて、トレーナーの出会う全ての種類のポケモンを総合した上でのものですよね?」
「まあ、そうだな」
「種類によって棲息数の違うポケモンの、それぞれの種における色違いの割合って誰も知りませんよね。少なくとも、今は」
「……お、おう」
「本来野生での、色違いの発生率が……0.5%の可能性も、ありますよね?」

「……い、いやいや。いくらなんでもそれは多すぎるだろ。そんなにいたら誰かしら1度は遭遇してるぜ。俺だって!」
「あ、まだ出会ってないんですね、色違い」
「前会ってからまだほんの1ヶ月半だろ!」
「そうでしたね」
「0.5%なら俺だってその間に会ってる!」
「赤いヨマワル」
「ん?」
「金のコイキング。青いビリリダマ。ピンクのパチリス。水色のサニーゴ」
「自慢か! 出会った自慢か!」
「赤いヨマワルしか見たことないですよ」
「やっぱり遠回しの自慢じゃねーかちくしょう!」

「目立つと思いません?」
「あ?」
「暗闇の中に真っ赤なヨマワル、目立つと思いません?」

「やっぱり不自然なんですよ。色違いって。ポケモンはその生息地に合わせた姿をしているはずなんです。その中で、色違いはどうしても目立つ」
「……つまりこういうことか。色違いは敵に狙われやすい」
「ええ。優先的に狙われるので、生き残る数は非常に少なくなります」
「仮にそうだとして、何で棲息情報が関わってくるんだ?」
「色違いの遭遇率を上げるなら、まだ減っていないところに行けばいいわけですよね?」
「……あ」

「巣、あるいはねぐら、テリトリー……外敵が来ない場所にはいますよね。……『子供』が」

「つまり、ポケトレは……」
「住家を見つけ、未だ庇護下にある幼いポケモンの居場所を探す道具、といったところでしょうか」
「な、何と言うか……」
「人間に例えるなら、小学校や病院の新生児室を探知して刃物持って乗り込む感じでしょうかね」
「やめろよ何か生々しくて気持ち悪い!」

「はー、酒がまずくなった気がするぜ」
「それは申し訳ございません」
「しかし、何だってそんな装置開発したんだ? 試作品をトレーナーに配りまくってたし」
「金になりますからね」
「金?」
「色違いは珍しいですから」
「……あー、そうだな。しかし……それって儲かるのトレーナじゃね? 会社に何の利益もないだろ」
「……そう、ですよね」
「ん?」
「……いえ、思い違いだとは思うんですが……」

「例の回収がニュースになる少し前、なんですけど……。連絡、取れなくなったんですよね。サクヤさんと」
「えっ、そうなのか?」
「はい。まあ、電波の届かないところに行ってるだけかもしれません。そもそもそんなに頻繁に連絡をとっていたわけでもありませんから」
「ま、そうだよな。俺もサクヤもクレハ君も、前の大会でたまたま知り合っただけの関係だし。あいつも冒険好きだから、どっかの洞窟にでも篭ってるのかもな」
「ええ。……そう、思っていたんですよ。昨日の夜までは」
「……え?」

「見つけたんです。サクヤさんの、ポケナビとトレーナーカード。だから昨日の夜からついさっきまで、質問責めにあってたんです。警察の方に」
「警、察……?」
「そこの裏通りの路地で、見つけたんです。見つけてしまったんです。サクヤさんの、ポケナビとトレーナーカード」




「血だまりの中に、落ちていたんです」








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※作者はポケトレ大好きです


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