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  [No.4190] 子引山と夜月鴟 投稿者:砂糖水   投稿日:2023/12/17(Sun) 00:48:37   3clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 ハイキングコースも整備され、今や人の賑わう小比木山(こひきやま)ですが、かつては子引山と字が当てられ、人喰い鳥が住むと恐れられた山でした。
 それは昔、まだポケモン達が今よりも力を持っていた頃のお話です。

 子引山には古くから夜の王とも呼ばれる夜角鴟(ヨルツク、あるいはヨルノズク)が住んでおり、しばしば幼子を攫うのだと言われておりました。
 そんな噂を聞きつけて、近隣の村に一人の僧が訪れました。
 訪れた僧は子引山の夜角鴟について尋ねますが、皆堅く口を閉ざし誰一人として答えようとはいたしません。何も知らぬ、放っておいてくれ、余計なことはするなと言うばかり。よほど恐ろしく、口にするのも憚られるのかと思った僧は、そうであるならもはや山へ向かうのがよいだろうとその足で山を目指しました。
 おそらくは山頂に祠や社などがあるのでしょう、かつてはもっと人の往来もあり、整備されていたであろう道が山頂まで続いているようでした。
 山に登りはじめたのは昼過ぎで、まだまだ明るい時間のことでした。ですから道の様子がよくわかりました。
 最近は手入れが行き届いていないであろう道は、いくらか崩れたところもございましたが、けれど、今も人の往来があるようでした。もし人々が人喰いの夜角鴟を恐れているのなら、山になど登るでしょうか。それとも、恐怖を堪えてでも山頂にあるであろう、祠や社に詣でるものがいるのでしょうか。あるいは山の獣が通るのでしょうか。そのようなことを考えながらも、僧の足は止まることはなく山を登り続け、日が暮れる前には山頂にたどり着くことができました。
 果たして、山頂には古びた祠がありました。供物などは見当たりませんでしたが、仮に人が何かを供えても山の獣が漁ってしまえば見当たらなくなるでしょうから不思議ではありません。けれど、祠そのものは荒れていることもなく、やはり誰かが祠の周りを整えているように思えました。
 さて、と僧は思案します。夜角鴟は、昼の間に姿は見せません。夜の闇をものともせずに動き回る、それが夜の王と呼ばれる所以です。
 日が暮れかけておりました。僧はその場にどっかと座り込み、夜を待つことにいたしました。
 やがて日が落ち、夜が訪れました。その日は満月ではありましたが、木々の生い茂る山の中では足下もおぼつかないでしょう。幸い、祠の周りは開けていましたからいくらかはましでしたが。
 そして、それは深い夜でございました。山は静寂に包まれておりました。
 不意に、静寂を切り裂くようにギャッギャッギャッ、と耳障りな声が響きました。音もなく現われたのは、黄金の鳥。まるでもう一つ、月があるかのような輝き。
 それは夜の王たる夜角鴟、いえその輝き故に夜月鴟と書くべきでしょう。夜月鴟は少しの音も立てることなく祠の上へと降り立ちました。
 僧が立ち上がるのと同時に、雷獣がどこからか現われ、身を震わせながら小さく唸り声を上げました。ぱちり、ぱちりと身に雷を帯びている様子は雷獣の名に違わぬ姿です。
 けれど夜月鴟はそれを意にも介さず、ただ僧だけを見て問いかけたのでございます。
「人よ。我を討つのか」
 それには答えず、何故と僧は尋ねました。何故人の子を喰らうのかと。
 ギャッギャッギャッ、と耳障りな声で再び夜月鴟は嗤いました。
「ほんに人は愚かよの。たしかに喰ろうた、人の子を喰ろうた。だが、だがしかし、自ら狩ってまで喰らおうとは思わなんだ」
 何故ならば、と夜月鴟は告げます。
「夜、人は家に籠もる。戸を閉ざし獣を受け入れない。それで何故、幼子はいなくなる?」
 僧はその言葉にはっとしたようでした。夜月鴟は答え(いらえ)がないことを気にせずに話を続けました。
「人よ、知っているか。前の秋もその前の秋も実りが悪かった。獣も人も飢えていた。なあ人よ! ここらは皆、飢えていた。
 人は山を訪れたよ。幼子を連れて。山を下りるとき幼子はいなかった。
 生きて惑っているだけならば我は人里へ帰しただろう。けれど、けれどそうではなかった。ああそして我もまた飢えていた。
 人は話したがらないだろう。我を恐れているから? 否! 否否、否!
 人は耐えられなんだ。己が行いに耐えられなんだ。故に、故に我だ。故に我を恐れる。偽りであると知るが故に」
 言葉を切った夜月鴟は三度(みたび)ギャッギャッギャッ、と耳障りな声で愉快そうに笑ったのでございます。
「人よ、我を討つか? それもよかろう。獣も山も荒れるだろうが、それもまた人の選んだこと。その獣の雷(いかずち)で我を撃ち落とすといい」
 夜月鴟はただそこに佇んでいました。悠然と、そう、王者の風格を持って。
 対峙する僧は気圧されたように黙り込んでいました。
 僧の傍らの雷獣は雷を纏ったままもう一つの月たる夜の王を睨み上げておりましたが、けれど夜の王はそれを一瞥しただけであとはただ僧にだけ目をやり、僧もまた夜の王を見上げます。
 張り詰めた空気が場を支配します。呼吸すらもおぼつかないほど。
 と、ふう、と僧が止めていた息を吐き出しました。僧はただ首を横に振り、詫びの言葉を告げると夜月鴟に背を向けました。
「我を討たぬか、人よ。それもまた人の決めたこと。さらば人よ。我はこれからもこの山に在る、ただそれだけだ」
 僧は何も言わず、雷獣に小さな明かりを灯させて歩き出します。夜の王はギャッギャッギャッ、と耳障りな声を僧の背中に浴びせました。

 それからも子引山には人喰い鳥が住むという噂が密やかに流れ続けました。けれども時が過ぎ、夜の王、もう一つの月たる夜月鴟の姿が消えるとその噂もなりを潜め、いつしか山の名前に当てられる漢字も変わり、今はただ、穏やかな山がそこにあるだけです。


 かつて貧しい農村などでは堕胎や生後間もない子を殺す間引きが珍しくなかったようで、モドス、オッカエス、といった隠語が用いられました。それらの行為は禁止されることもままあったようですが、貧困から陰で行われ続けたようです。そうしなければ親子ともども死ぬしかなかったためと考えられます。
 責めることは簡単ですが、生きるためにやむなく行われた、悲しい行いだと思います。


――
夜角鴟とかの当て字はこのサイトを参考にしました。
https://gogen-yurai.jp/mimizuku/

特に深い意味はないんですけどミミズクと夜の王リスペクトです。(笑い方とか
コミカライズも完結したよ!よろしく!

さねとうあきら著「地べたっこさま」が着想元です。
といっても展開は全然違いますが…導入というかまあ、うん。
地べたっこさまのあらすじ:出産で妻を亡くし、子どもは育てられそうにないので地べたっこさまへ返してこい=山に埋めてこいと言われ、泣く泣くそうしたものの、それを気に病んだ男は村を出奔し、山で孤児を育てている鬼と出会い、孤児たちを育てて幸せに暮らしましためでたしめでたし(?)
読んでビビビと来ましたが、そこでビビビと来ちゃうのが我ながら邪悪すぎる…。つらい。
まあそもそも一作目も水害をきっかけに思いついたので今更かもしれない…。

七つまでは神のうち、というのを入れようと思ったら、いやあれは柳田國男が言い出したことでそんな言葉はそれ以前にはなかった、とボコボコに言ってるブログを見つけたのでまじかーと思ってやめました。
間引きについては調べれば調べるほど暗澹たる気持ちになりますね…。
そもそもこの話、別に説教したくて書いたわけではなく、上に書いたように、地べたっこさま読んで思いついただけなので…。
軽い気持ちで書くなよ、という。
締めの文章は以下を参考にしました。
水子供養の発生と現状
http://doi.org/10.15024/00000680
長々と書いてもあれなのでめちゃくちゃ端折りましたが…。
あと一応書いておきますが子引はわたしの造語です(子間引きという表現はある)。


前回(2019年)(は?)、「次回は暴れるポケモンに困ったわ…みたいなの書きたいですね」って書いてましたが、あれー?????
い、いやそういう話のネタもあるんだけど、なんかイメージが膨らまないんですよね。
ゆるゆると続けているこのシリーズですがそろそろネタがないので↑のネタが完成したらもう続かないんじゃないかなー。
気に入ってるので思いついたら書きたいですけどね。


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