ある時、国立ポケモン大学ワンダーフォーゲル部の間で、「我々の国の中で一番険しい山はどれだろう?」という話が持ち上がった。
ある者はこう言った。
「そりゃあ、もちろんジョウトのシロガネ山だろうね。何せ、あの標高を見てみろ。てっぺんに辿り着くまでに、息が切れて、体力がばてちまわあ」
「いいや、違うね。ホウエンのエントツ山だね」
シロガネ山の意見に対して、ある者がこうやり返した。
「いつ噴火してもおかしくない、エントツ山の恐ろしい火口を見てみな。頂上へはロープウェイを使わないと行けないほど道が入り組んでるんだぜ」
エントツ山の意見に対して、ある者がこう返す。
「いやいや違うだろ。シンオウにあるテンガン山だろう。吹雪の吹き荒れる、あのテンガン山の厳しい自然環境はどうだ。雪崩だって少なくないし、遭難者だって続出するんだぞ」
その意見が出たところで、国立ポケモン大学ワンダーフォーゲル部の皆は、一番険しい山はテンガン山なのではないか、という気がしてきた。しかしシロガネ山派、エントツ山派の主張も決して負けてはおらず、皆が納得するような意見はなかなか出てこなかった。
そんな時、ある一人の者がふと気付いた。この話題の中で、まだ自分の意見を一度も発言していない男が一人だけいたのだ。その男に、彼は尋ねてみた。
「なあ、あんたはどう思う? 俺達の国の中で、どの山が一番険しいと思う?」
尋ねられたその男は、ワンダーフォーゲル部の中でも、とても物静かな男だった。彼はもう六年もの間ポケモントレーナーをやっており、今年になってようやくジムバッジを八つ集めることが出来たという。
「……そうだな。私はこう思う」
皆が、その物静かな男の言葉に耳を傾けた。
「私はカントーのセキエイ高原が一番険しいと思う。標高はシロガネ山ほど高くないし、エントツ山みたいな火口もないし、テンガン山ほど厳しい自然環境もないが……チャンピオンロードを通り抜け、ワタルまで打ち破るのは、人によっては一生かかっても登りきることのできない大きな山だろう」
その意見に、ワンダーフォーゲル部の皆が諸手を上げて賛同した。
というわけで、一番険しい山はカントーのセキエイ高原ということになった。