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  [No.496] 最弱説 投稿者:スウ   投稿日:2011/06/04(Sat) 19:38:18   41clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 コイキング愛好協会の会員の一人であり、ミツハニー♂復興委員会の委員の一人でもある、ポケモン博物学者のムテヒヌー・オスカー氏は、過去に二つの論文を発表している。
 その論文の一つ目が『コイキング最弱説』であり、これは一時期、ポケモントレーナー達の間で一大センセーショナルを巻き起こしたことがある。今でこそ、この学説は時代遅れのものとなってしまっているが、その当時はとても新鋭的な学説だったのだ。それに、彼の『コイキング最弱説』には、今でも頷けるところが多くある。
 当時のムテヒヌー氏はこう語っている。
「……つまり、私が調査した結果、同レベルでのコイキングのバトルにおける勝率は一%にも満たないのです。敗北率は九九・九五%。これは異例の数字と言えます。ではこの敗北率を裏付けるため、まずはコイキングの身体能力から見てみましょう。すばやさに関しては一応目立って良好だと言えますが、それ以外の数値は恐ろしく低いですね。特に、こうげき能力の面が低すぎるので、相手にあまりダメージを与えることが出来ないのです。相手にダメージを与える前に、ころっとやられてしまうというわけです(ここでムテヒヌー氏は黒板に書かれたコイキングの種族値のグラフをバンバンと叩く。このポケモンがいかに弱いかを強調したいのだろうか?)。
 しかし身体能力のみに関して言うならば、他にも弱いポケモンは沢山います。キャタピーやビードルを見てみましょう。彼ら虫ポケモンも確かに弱い。しかしやはりコイキングは、この虫ポケモン達にさえよくやられてしまうのです。その理由はコイキングの覚える技にあります。では次にコイキングが覚える技を見てみましょう(と、ここでムテヒヌー氏は、黒板に『たいあたり』、そして『はねる』と順番に書く。特に『はねる』は赤のチョークまで使って、濃い字体で書く。『はねる』の弱さを強調したいのだろうか?)。
 まず、コイキングというポケモンは、技マシンで技を覚えさせることが出来ないという点に注意してください。レベルアップでの成長でしか技を覚えてくれないポケモンなのです。それも『たいあたり』だけ。で、コイキングの技の中には、もう一つ、この種族が最初から所有している技があります。これがちまたで『トレーナー泣かせ』とまで言われている『はねる』の技なのです(ムテヒヌー氏は黒板の『はねる』の文字をバンバンと執拗に叩く)」
 ここで少し補足の説明を入れる。ムテヒヌー氏がこの事を発表したのは、ポケモンという種が調査され始めた『初代学会』での頃だった。だからこの時はまだ、コイキングが『じたばた』の技を覚える事までは調べられていなかったのだ。この事は後に、コイキング最弱説の反論の一つとして、ジョウト地方のポケモン研究学会から『じたばたが語る・コイキング最弱説への疑問』という論文が提出されている。
 では、話をムテヒヌー氏の最弱説の方に戻そう。
「……この『はねる』という技に、どういった機能的な意味があるのかと、私はその研究に、三年の歳月を費やしました。そしてわかった結論なのですが、この『はねる』という技は、ポケモンが扱う技の中でも『ただ無力である』というだけのことだったのです。コイキングのバトルでの敗北率の異常な高さは、この『はねる』の無力さにあったというわけです。キャタピーなど虫ポケモンが使う『いとをはく』は、まだ相手のすばやさを下げるという意味で、戦闘では十分に機能すると言えます。しかしこの『はねる』にはそれさえも一切ない!(バンッと、黒板の『はねる』の文字をムテヒヌー氏が乱暴に叩く。聴衆の一部が驚いて席から飛び上がる)
 とにかく無力! 無力なのです!(黒板の『はねる』の文字を、これでもかと叩きながら、ムテヒヌー氏は狂人のように目をぎょろつかせる。聴衆は互いに顔を見合わせ、騒然となる。この衝撃の事実は、すぐに次の日の新聞のトップを飾ることとなった)」
 ……と、このように展開されたムテヒヌー・オスカー氏のコイキング最弱説だが、時代が進むとともに、この説はだんだん廃れていくことになる。先に述べた『じたばた』の技を覚える件や、コイキング最弱説の反論派としては、他にもこんな見解が出てきたからである。
「コイキングは進化してギャラドスになれるという道がある。そうなれば、一気に強さを増すではないか。ポケモンを語る上で進化は無視できない重要な要素だと思われるが、どうか?」
 このポケモンの進化云々の見解に関しては、さすがのムテヒヌー氏も「そうである」と認めざるを得なかった。彼は、彼の自説である『コイキング最弱説』を「うむ、時代は変わったな。私の説はもはや過去の産物である」と自らの手で破り捨てたのであった。そして反論した側の陣営の研究成果を、彼は微笑しながら素直に褒め称えたのだった。ムテヒヌー氏の学説はもはや覆されたも同然だったが、それでも『コイキング最弱説』を生み出した彼の功績は、今でもまだ多くの者達に支持され、称賛されている。

 ところが十数年後、ムテヒヌー・オスカー氏がまたもや驚くべき学説を発表した。その学説こそ、彼の発表した二つ目の論文、今なお賛成派と反対派とに別れて、多くの議論が続けられている『ミツハニー♂最弱説』であった。この学説はムテヒヌー・オスカー氏の最大のポケモン研究だ、とまで言われている。シンオウ地方の長期滞在旅行から帰ってきた彼は、それから、三日も経たないうちに、この挑戦的で奇抜な論文を世に公表したのだった。
 彼はミツハニー♂がどうして最弱なのかという理由について、まずはコイキングの時と同じように身体能力の低さをあげてから、最後の結論としてこう結んだ。
「ミツハニー♂は進化しないのだっ!(バンッと、彼はこの時もまた黒板を乱暴に叩いた)」
 この衝撃の事実は、またもや次の日の新聞のトップを飾ることとなった。

 ところが後日、真意のほどはともかく、こんな話があったという。どこかの名も知らぬ子供が、ムテヒヌー氏の自宅をわざわざ訪ねてきて、彼にこのような事を言ったそうだ。
「おじいちゃん、ミツハニー♂は一番弱くなんかないよ」
 ムテヒヌー氏は非常な興味を示して、この子供に聞き返した。
「ふむ、どうしてかな? その理由をおじいちゃんに教えてくれるかい?」
「うん。えっとね、カイオーガっているでしょう? すごく強くて最強って言われてるけど、そのポケモンでもヌケニンには負けちゃうことがあるんだよ。でもミツハニー♂はそのヌケニンに勝てるもん。ヌケニンよりも速いし、『かぜおこし』の技だって使えるもん」(補足説明:『かぜおこし』はヌケニンには効果抜群な飛行タイプの技である。したがって、ヌケニンの特性である『ふしぎなまもり』のバリアを貫いてしまえるのだ)
 名も知らぬ子供がこのように述べた時、ムテヒヌー氏は明らかに衝撃を受けたような表情を浮かべたそうだ。彼はなぜか突然、涙を流し始めたという。そして目の前の子供にこう言ったとか。
「うんうん、そうだね。確かにヌケニンに勝てるね! ありがとう、ありがとう坊や……!」
 ムテヒヌー氏はひどく感動し始めて、その子供に何度も何度も感謝の言葉を述べたという。
「うむ、そうだ! ミツハニー♂は決して最弱のポケモンなどではないのだ! ミツハニーの名はちゃんと上のところに上げてやるべきなのだ! ああ、そうだ! 確かにそうだとも!」
 彼は新しい喜びに満ちた顔で、声高くそう言った。しかし、それ以後も、彼が『ミツハニー♂最弱説』を取り下げることはなかった。あの時、ムテヒヌー氏が、どうしてあのように感極まったのかは、今でも謎、彼にまつわる最大の謎とされている。
 伝えるところによると、ムテヒヌー・オスカー氏に会いに行ったあの賢い子供は「あのおじいちゃん、甘い蜜と同じ匂いがしたよ」と、ある時母親に言ったそうだ。子供の母は「まあ、それじゃあ蜂蜜がとても好きな方なのね」と、笑ったとか。
 それからこの親子はその日の午後、蜂蜜を塗ったパンをおやつに食べて、その夜、一匹のミツハニー♂の夢を見たとのことだ。


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