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あーっ、やっと来た！ んもう、待ちくたびれたじゃない。え？ カフェがありすぎて迷った？ そういう時こそタクシーの出番じゃないの。高いって？ そりゃそうだけどさ、時間を無駄にするよりいいじゃない。
っと、こんなお喋りも無駄よね。早速だけど本題に入っていいかしら。
今日呼び出したのはね、ちょっと確認してもらいたいことがあったからなの。アンタ、ここに来る時サウスサイドかノースサイド通ってきたでしょ。道端にメェークル、いなかった？ もちろんいたわよね、だってあれミアレの観光スポットの一部だもんね。
幸せそうにうたた寝するメェークル、可愛いわよねー。観光客がきゃあきゃあ言いながら写真撮ったり撫でたりする気持ち、よく分かるわー。
え？ ああ、もちろん野生じゃないわよ。あの子たち、保護団体が管理しているポケモンなの。最初は二頭の捨てられメェークルがミアレに居ついて話題になって、可哀想だからってことで世話する人たちもいたのよね。で、それを聞いたトレーナーが孵化余りの個体を持ち込んできてどんどん増えちゃったのよ。とうとう見かねた有志の団体が名乗りを上げて、観光資源にする代わりにミアレシティから多少の資金援助を受けて管理してるってわけ。カロスの観光ガイドにも載ってる有名な話よ。
ここだけ聞けば、すっごくいいお話よねぇ？ ところが、巷に出回る裏の噂もあるのよね。いわゆる都市伝説の類なんだけど、聞いたことないかしら。
【ミアレの居眠りメェークルはクスリの被験体に使われている】ってね。
なあにその顔、そんなに驚いた？ 全然聞いたことないの、ふーん、ネットじゃ結構有名なんだけどね。
よーく考えてみて、変だと思わない？ 何がって、あの子たち昼も夜も関係なく寝てるのよ。草ポケモンなんだから陽の降り注ぐ昼間は活動時間のはずでしょ、なのにうつらうつらしているか、起きてたってぼんやりしているだけでろくに動きもしない。そりゃあ観光用のポケモンなんだから、万が一にも見物客に怪我なんかさせたりしないよう、大人しい個体やおっとりした個体を選んでるんだろうけどさ。それでも異様だと思わない？
あたし、ノースサイドにあるカフェで一日観察してみたの。あの辺りにはガレット屋とか有名ホテルもあるし、朝から晩までひっきりなしに人が通るのよね。結構な数の人がメェークルを触って行くんだけど、あの子たち絶対に嫌がる素振りを見せないのよ。みんながみんな優しいわけじゃなし、中には無理やり抱き上げて写真撮ったり、耳引っ張ったり、酷いのになると手持ちをけしかけたりするのもいてね。まあどこかで見張ってるんでしょうね、そこまでしたら保護団体の職員が飛んでくるから危害は加えられないんだけど。メェークルにそれが分かってるとしたって、あの無抵抗っぷりは不自然よ、まさに薬を盛られているって話がしっくりくるくらいにね。
で、何時間か経ったらボールを持った職員がやってきて、別のメェークルと交換していくの。呼び止めて聞いたら、メェークルの疲労やストレスを考慮して一日に何度か交代させるんだって。交代はどこからって聞いたら団体の本部を教えてくれたんだけど、そこが妙に臭うのよね。
ツテを使って色々調べたら、その団体の幹部に某製薬会社の役員○○の名前があったの。ほら、あの新薬の研究開発に熱心な×××製薬よ。そこの○○が保護活動の場を提供していて、関連会社の社員が何人か、活動要員に名前を連ねているの。表立って×××製薬の看板を出しているわけじゃないんだけど、裏で繋がっているのはほぼ間違いないわね。おそらく、あいつら麻痺か眠りの試薬を使っているんじゃないかしら。投薬したポケモンを刺激の多い場所に置いて、その効果を試しているんだとすれば……。
そんなことをして何のメリットが、ってアンタ……ちょっと想像してごらんなさい。あの頑健な、ポケット「モンスター」達に効く薬よ？ 使い道は色々あるわ。
例えば、重要な人物や場所の警備を任されているポケモンに投薬したとして。彼らが完全に麻痺して、あるいは眠りこんで無力になったら？
例えば、希少なポケモンの生息地に薬をばら撒いたとして。動かない的なんて、どんな下手くそが投げてもボールを当てられるわよね。
あるいは、バトルの際に相手のポケモンに一服盛ったとして。痕跡を残さないようにできたら、原因不明の不調という事になるんじゃないかしら。
もしそんな薬が実用化されたなら。組織であれ個人であれ、絶対に買い手が付くでしょうね。もちろん秘密裏の取引になるわけだけど、高く吹っかけてもお客は文句を言わないだろうし。結局、正規でポケルスだの病気の治療薬だのの開発に時間とお金をかけるより、こういう非正規のアヤシゲな薬の方が儲かるのよね。
どうだった、あたしの都市伝説の検証は？ 分かってるわよ、検証って言ったって単なる推測でしかないって。だからそれをこれから確かめに行くつもりなのよ、例の保護団体の本部に潜りこんで、噂の真相を暴いてくるわ。もしあたしの予想が正しければ、これは物凄いスクープになるはず！
ああ安心して、別にアンタを連れて行くつもりはないから。潜入取材にど素人連れて行くほど間抜けじゃないし。アンタに頼みたいのはね、これよ、これ。そう、このICレコーダー。
へまをするつもりはないけど、万が一、ってこともあるでしょ？ ないとは思いたいけど、万に一つもドジったら……あんまり考えたくはないけど、切り札にはなるかなーなんて。
まあつまり、アンタにこれを預かってもらって、しかるべき時にしかるべき場所へ出してほしいのよ。そうね、一週間経ってもあたしから連絡がなかったら、警察……ううん、事によるとヤバいかも。癪だけど、うちの編集長宛に送ってちょうだい。公表なりなんなりしてくれるはず。
止めたって無駄よ、もう決めたんだから！ ショボい芸能ネタの追っかけしてたって駄目、こういう大きいネタの一つもすっぱ抜かないと、絶対に昇進なんて望めないんだから。もちろん同僚にも内緒よ、横から掻っ攫われたら困るし。だから外部のアンタを頼るしかないの、よろしくね。
さて、そろそろ行動開始といこうかな。一旦家に戻って……あら、送ってくれるの？ ありがとう、せっかくだしお言葉に甘える事にするわ。
ちょっと待ってて、録音切るから。
録音データの再生が終わった。