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  [No.4084] ガシャガシャ 投稿者:造花   投稿日:2018/10/05(Fri) 22:13:14   76clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


 残酷な表現があるかもしれません



 これは犯した罪の数々が忍び寄る足音の回顧録。

 ▼

 最近ふと気がつくと妙な耳鳴りがする。
 音の正体は分からない。ただ何かが足を立てて遠くから近づいて来ているような錯覚に陥る。
 気の知れた同期に話してみると「お前それ憑かれてるよ」とか大真面目な顔で言ってくるのだから笑っちゃうよ。
 仕事柄怨みを買うのは馴れている。復讐されるのも覚悟の内・・・・・・なんてカッコつけるつもりはないが、泣く子も黙るポケモンマフィアがクローゼットの中やらベットの下に忍び込んでいるようなオバケにビビってちゃ面子も丸潰れだろう?
 しかし、うちの組織は妙に迷信深い連中が集まっており、俺の方がはみ出し者みたいな扱いを受けている。

 例えば先月の仕事だ。
 ターゲットは×××自然保護区×地点に密かに生息する「虫姫」と呼ばれる全身黒色の特殊変異態のビークイン。こいつの特殊能力を例えるなら「虫タイプ限定の生きたポケモンボックス」だ。

 小難しい原理は省くが、要するに虫姫は支配下にある無数の虫ポケモン達を自在に縮小させて胴体の巣に保管する事ができ、戦闘になれば巣の虫ポケモンたちを一斉に解き放つ。解き放たれた虫ポケモンは虫姫に完全に統率されており「攻撃指令」が下れば最後、小さな田舎町くらいなら半日待たずに地図から消してしまえる。地元の伝説によると古から戦が起こり虫姫の聖域が脅かされそうになる度に虫姫が出現し、人間の住処を無差別に蹂躙していた言い伝えが複数残っており、下手すれば一国の軍事力に匹敵する戦闘力を有する規格外の化物である。
 たかが虫ポケモンの群だと思うかもしれないが侮っちゃいけない。例えば空から大爆発を覚えたクヌギダマやらフォレトスが夕立のように降り注ぐ光景を想像してみれば、どれだけヤバイなヤツか分かってれるだろう?しかもそいつがポケットの中に収まるモンスターボールで持ち運びできるなら?世界中の軍事国家やテロリストが興味を引く隠密的且つ奇襲性に優れた生物兵器なのだ。
 うちの組織は数世代先の未来を往く(自称)スゲー科学の力を駆使して、ついに長年行方を追跡してきたターゲットを補足する事に成功したらしい。俺はそんなヤベーヤツの捕獲或いはDNAサンプルの奪取を特命の任務として任された。お分かりいただけただろうか?うちの組織はブラックを塗り潰した光も届かないダーク組織である。
 まぁそれはさておき俺も自殺願望者ではないし、上も俺に勝算があるから任せてくれたのだ。けして無茶振りじゃない。
 誰が言ったっか?笑えるB級映画のキャッチコピーだったかな?

「バケモンにはバケモンをぶつければいい」

 シンプルでワクワクしてくるゴキゲンな解答である。
 俺の切り札は「底無し沼」うちの組織がDNAを弄り回し薬物投与を繰返したとっておきの改造ベトベトンだ。
 こいつは重度の肉体改造の末、寿命はモンスターボールから解放後数日しか持たないが、大地を融解しては一体化を繰返し辺りを侵食、一帯の地盤を液状化し、あらゆる物を引きずり込んで吸収してしまう。
 一体化した土地は本物の身体の如く変幻自在に操る事ができ、いくら破壊しても再生を繰り返す。こいつを止めるには寿命が尽きるのを待つか、液状化した地の奥底に潜伏する本体を殺さなければならないだろう。虫姫よりこいつの方がヤベーだろうと思うかもしれないが、こいつはあくまで造り物。天然モノのイレギュラーと価値を比べるのはナンセンスだ。

 話が脱線してきたからそろそろ本題に入ろうか。俺は部下を引き連れ、虫姫捕獲作戦を実行するべく現地に訪れ「底無し沼」を解放した。広大な自然保護区の中を地道に探索する気は毛頭ない。
 底無し沼は最初こそ通常のベトベトンと何ら変わりない大きさと姿をしているが、瞬く間に草原に溶け込み姿を消す。
 後は待つだけ。さすがに地盤の液状化は一瞬で済むものではない。数日は安全な場所で待機する必要がある。現場にはジェットパックやらエスパータイプのポケモン・ガスマスク等を支給した数名の部下と監視ドローンを待機させ、自分は数キロ離れた安全地帯にキャンプを張り、監視モニターで現場の様子を確認する。
 一日経てば最初に底無し沼を解放した場所に草木は存在しない。ただ薄汚れた黒紫色の沼が一面に広がっている。数日経てば自然保護区の草木は大地に泥濘みいつでも沈んでしまいそうだ。生息していた野性のポケモンは?数日の命を全力で燃やす底無し沼の糧となってくれただろう。
 作戦の準備は整った。次は虫姫を誘き寄せる。方法は簡単、底無し沼に暴れるように指示を出せばいい。自分は被害の届かない安全地帯で特殊な電波を流すだけのお仕事だ。
 電波を受信した底無し沼は波打つように暴れだし、沼から一本の巨腕が伸びたかと思えば辺りを凪ぎ払い、一帯の木々は底無し沼に完全に飲み込まれようとしていた。
 その時、ようやく満を持して木々の陰からヤツが現れた。
 事前の情報通り全身真っ黒で赤い瞳をギラギラ輝かせるビークイン。通常の個体よりも体長は大きく4〜5メートルくらいはあるだろう。よくそんな図体で今まで潜伏していたものだ。
 今まで静観していた眠れる暴威は、怒りを爆発させるかのように胴体の巣から虫ポケモンの大群を解き放つ。
 ターゲットはもちろん黒幕の俺でも空中で待機する部下でもなく、聖域を脅かしたヘドロの怪物。沼から生え出て暴れ狂う巨腕を標的に嵐の如く獰猛な「攻撃指令」が発令される。
 胴体の巣から一斉に小蝿のようなものが湧いてきたかと思えば、縮小させていた体を元のサイズに戻す。バタフリーにスピアー・モルフォン・ストライク・レディバ・レディアン・ヤンヤンマ・メガヤンマ・ヘラクロス・アゲハント・ドクケイル・アメモース・テッカニン・バルビート・イルミーゼ・ガーメイル・ビビヨン・クワガノン・アブリー・アブリボン・・・さらには見たことのない奴等まで、大群がまるで一つの生き物と化したかのように一糸乱れぬ動きで突撃する。
 しかし、この場に限っては悪手だ。全力を出せるなら突破する事もできたかもしれないが、地上が底無し沼に占拠されている状態では飛行能力を持つ虫ポケモンしか呼び出せない。地の利が「攻撃指令」の威力を半減させている。
 案の定ヘドロの巨腕は、突撃してくる虫ポケモンたちを次々と飲み込み、底無し沼に取り込んでいく。
 そして新たな獲物を知覚した底無し沼は全貌を顕にする。×地点が丸々超巨大なベトベトンと化した。
 底無し沼もいつ死んでもおかしくない状態である。必死に生き長らえようとエネルギー源を求めているのだ。
 対する虫姫は大群の攻撃が敵に効果がないとわかるや否や、即座に「攻撃指令」を解除し、虫ポケモンの群を自分の周囲に滞空させて「防御指令」を発動させながら、顕在した底無し沼から逃れようと距離を取ろうとしていた。
 人間が語り継ぐ物騒な言い伝えにより誤解されがちだが、こいつの本質は獰猛で規格外の戦闘力ではなく、数多の虫ポケモンを保存しながら使役する特異な生存戦略にある。虫ポケモンたちが共同生活を送る母体が優先する事柄は戦闘や復讐ではなく何よりも生存だ。人間と明確に敵対する選択をしながら今日まで孤独な種を繋ぎ止めてきた秘訣は引き際を見誤らなかったからだろう。
 底無し沼は最早天災に等しい怪物と化している。まともに相手をしていては虫ポケモンの共同体は全滅してしまうのは目に見えて分かる事だ。
 もっとも生に執着する底無し沼も易々と虫姫たちを逃がそうとしない。虫姫目掛けて沼に沈んだ大量の木々をロケット弾のように発射する。
 虫姫を守ろうと群は壁になるが、木々は群に直撃した途端、爆発を巻き起こす。底無し沼は体内で様々な毒素を生成しており、爆発性の科学物質を化合する芸当もできるのだ。しかし、群の壁は予想していたよりもかなりの強度を誇り付け焼き刃の爆発攻撃ではビクともしないようだ。
 だが底無し沼は攻撃の手を緩めず、木製ミサイルを乱射し続ける。決して防御指令を発動した群の壁は崩せないが、底無し沼の狙いは別にある。

 爆発攻撃を防ぐ度に壁を形成する虫ポケモンの群は、徐々に崩れかけてきた。今まで苛烈な攻撃を難なく耐えてきたのに突然意識を失い墜落し、ドボンドボンと沼の中に沈んでいく。
 爆発攻撃は時間稼ぎの為の目眩ましに過ぎない。虫姫が底無し沼の狙いに気がついたのは、辺りに撒き散らされた神経ガスに体を蝕まれ墜落した後の事だろう。
 極上の獲物を仕留めた底無し沼は大口を開けて待ち構えていたが、かかさずジェットパックで滞空させていた部下が虫姫を保護する。
 墜落する虫姫に向けて投げつけられたのは、どんなポケモンでも必ず捕獲してしまう究極の性能を誇るマスターボール。母体を守る群は崩壊しかけており、生き残りも毒に蝕まれた状態では思うように体を動かせず、虫姫はあっけなく捕まえる事ができた。

 獲物を横取りされた底無し沼は怒り狂い、部下たちに攻撃を仕掛けようとするが、迅速にエスパータイプのポケモンにテレポートを使わせて拠点に帰還させた。
 現場に残された底無し沼は我を忘れて暴れ狂う。さすがにこのまま放置する訳にもいかないので、暴走電波で最終指令を与える。
 底無し沼の体内に含まれる無数の毒素は爆発性の科学物質に化合する事ができるのだ。ポケモンリーグの関係者が異変を察知して現場に到着した頃には、辺り一面は殺風景な爆心地と化しているだろう。
 一匹のポケモンを捕獲するのにここまでするのは異常かもしれないが、環境破壊のケアはうちのフロント企業の十八番だから都合がいいらしい。
まったく良くできた酷いマッチポンプだ。うちの「若様」は本当に末恐ろしいお方だよ。

 虫姫捕獲に成功したら俺も今頃若様の側近に昇格できたかもしれないが、世の中は中々上手くいかない。
 ここまで話が上手すぎるぐらい順調に仕事は進んでいたが、俺は最後の最後で虫姫に出し抜かれた。
 俺の部下たちが拠点に帰還してくるや否や、いけ好かない上司にお宝を誇らしげに見せびらかせる間もなく、手中に収まっていたハズのマスターボールは内側から破壊された。
 虫姫の巣の中に待機していた全ての虫ポケモンが一丸となり、伝説のポケモンすら沈黙させるマスターボールの絶対的な捕縛力を崩して見せたのだ。どんなに完璧なモンスターボールだろうと収用限度を超えれば壊れてしまうらしい。後は語るには惨すぎる地獄絵図である。
 部下たちは体の一部残して全滅した。俺は幸いキャンプの中で待機していたおかげで、逃走する事を主眼とした虫姫の残党から狙われる事はなかった。悪運が強いとはこの事だ。
 虫姫本体は胴体の巣が張り裂けた状態で絶命し、置き去りにされていた。神経ガスに侵されていた事もあり体の自由は効かないハズだが、巣の中で待機していた群に指示を出す余力はあったのだろうか、或いは群が母体を見放して暴走したのかはわからない。しかし暴走していたのならば俺はあの場で死んでいた事だろう。
 博士や同僚にこの事を話したら、巣の中にいた新たな母体候補に全てを託し、自分を犠牲にして群を無理やりマスターボールの中で解放した可能性もあるらしい。まぁ終わったことだからもうどうでもいい話だがね。

 生きたまま捕獲する事は叶わなかったが、虫姫の死骸を持ち帰りDNAサンプルを入手できただけ上出来である。

 しかし、気にくわないのがここからだ。若様は虫姫の死骸を標本にでもするかと思ったが、どういうわけか墓まで立てて埋葬し慰霊式を開いたのだ。しかも俺の可愛い部下たちや底無し沼よりも先にだ。

 何でも輝かしい未来の礎となるポケモンは手厚く葬るそうだ。俺を含め複数の幹部がそんな茶番に付き合わされたんだぜ?とんだ偽善者倶楽部で笑ってしまいそうになったが、他の幹部連中は大真面目に参加してるから呆れたよ。
 同期に気はたしかなのか確認してみたら「こういう事こそ謙虚であらねばならない」とか抜かしやがる。ポケモン殺しの常習犯が奇麗事ばかり並べて何を取り繕うつもりなんだ?



 ・・・この頃は、そんな風に思っていた。
 でも今になっては理解できる。
 そう言えば、この耳鳴りはいつ頃から始まったけ?


ガシャガシャ・・・ガシャガシャ・・・


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