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  [No.1318] 三時間目「サーナイトは知ってる」 投稿者:GPS   投稿日:2015/07/26(Sun) 20:39:54   43clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

どうしようもなく不安な気持ちのまま、祐介は社会資料室のドアを開けました。三年生の祐介は社会係です。授業で使うための本や、むかしの道具を資料室からとってくるよう先生にたのまれたのです。祐介は本当のところ、この、昼でもあまり明るくない部屋があまりすきではなかったのですが、係の仕事なのでしかたありません。いやだなあ、とは思いましたが、チャイムの音を聞きながら、資料室まで歩いてきました。
実さいは、社会係は祐介のほかにもう一人いて、祐介だってこのうす暗い部屋にたった一人で来るひつようもありませんでした。でも、休み時間にあそびにいってしまったのか、さがしてもみつからなかったのです。先生に仕事をたのまれたのは二時間目がおわったあとでしたから、ここに来なくてはいけないのはわかっていたはずなのに、なんて勝手なのでしょうか。でも、祐介はそれを口に出すことができません。
もう一人の社会係は、京子という女の子です。祐介は、京子のことが苦手でした。京子は気が強くて、いつもハキハキと自分の意見を言っています。みんなは、そんな京子をたよりになる人だと言いますが、祐介は少しこわく思ってしまうのです。とくに、京子は祐介にたいして、ほかの人と話すときよりもおこったようになるものですから、祐介は京子と話すたびに不安になるのでした。
今だって、仕事をしにこない京子を本当はおこってもよいはずです。でも、そんなことはとてもこわくてできない、と祐介は思いました。むしろ、一人で係の仕事をしたことをおこられるかもしれません。ふん、と言って自分をにらみつける、京子の大きな目を思い出して祐介は重たい気分をさらに重くしました。
でも、おちこんでいてもどうしようもありません。祐介は先生に言われた資料をさがして、さっさと教室に帰ってしまおうとかんがえました。

「ねえ」

しかし、祐介が部屋を出るよりも前に、だれかが祐介に話しかけてきました。祐介はおどろいてその人をさがしましたが、資料室には祐介しかいません。なんだったんだろう、と思った祐介は首をかしげました。

「ねえ、って言ってるの」

するとまた、さっきの声が聞こえました。祐介が声の方をふりむくと、そこには一つの木像がおいてありました。
それはサーナイトの像で、今より何百年も昔の人々が、神さまにおいのりするために作ったというものでした。サーナイトは、未来を予知する力があると言われています。昔の人はそのサーナイトを木で作ることで、サーナイトの神さまとお話して、未来を教えてもらおうとしたのです。
木目がのこった、なめらかな像は本物のサーナイトと同じくらいのうつくしさを持っています。目は赤い宝石でできていて、まどから少しだけ入ってくる光にあたるときらきらします。お星さまみたいにきれいなその目は、祐介をじっと見下ろしていました。

「今、しゃべったのは、あなたですか?」

おそるおそる、祐介がそうたずねると、サーナイト像はつんとすました声で「そうよ。悪い?」とへんじをしました。

「あんたたち、私のことうわさしてるんでしょう? 私に聞けば、未来のことを教えてもらえるって。もちろん私は、それくらいのこと、かんたんにできるわ」

サーナイト像がそんなことを言いました。うわさとは、このごろ三年生の間ではやっているもので、この像にたずねれば未来のことをわかるという話です。祐介はサーナイト像がそのことを知っているのにもびっくりしましたが、それが本当だということにもびっくりしました。

「じゃあ、あなたは未来がわかるんですか」

「未来のことなら、なんだって知ってるわよ。特別に、あんたに教えてあげてもいいわ」

ふふん、と得意げに笑ったサーナイト像に、わあ、と祐介は声を上げてよろこびました。
未来のことを、なんでも教えてくれるのです。こんなにうれしいことはないでしょう。祐介は、何をたずねようか、少しなやんでから口を開きました。

「ええと、今日の五時間目の、さんすうのテストにはどんなことが出ますか」

「わり算の筆算かしらね」

「今日の、僕の家の夕ごはんは何ですか」

「スパゲッティと、サラダと、デザートにパイルが出るわよ」

「あさってにバトル見にいくんですけど、お天気はどうなりますか」

「一日晴れるわ、かさなんていらないくらい」

何を聞いてもサーナイト像はすらすらと答えてくれるので、祐介はすっかり感心してしまいました。気になっていることをだいたい聞けたので、祐介がまんぞくしていると、「もっと知的なことを聞きなさいよ」とサーナイト像が気どった口調で言いました。知的なこと、というのがどのようなことなのか祐介にはよくわかりませんでしたが、少し考えて、祐介は「それじゃあ」と聞いてみることにしました。

「京子ちゃんと、もっとなかよくなるためには、どうすればよいですか」

すると、サーナイト像の声がとぎれました。さっきまでは、しつもんするとすぐに答えてくれていたのに、急にだまってしまったのです。どうしたんだろう、と不安になった祐介は、あわてて話しました。

「あの、なかよくっていうか、京子ちゃんともっとお話するにはどうすればよいのかな、って思ってるんです。いつも京子ちゃんと話そうとすると、うまく話せないから、もっとみんなみたいにお話したいなって」

しかし、サーナイト像はやっぱりだまったままです。なんでだろう、と祐介はとてもふしぎに思いました。きらきらの赤い目だけが、さっきと同じです。
その時、チャイムが鳴りました。いけない、授業がはじまる、と思った祐介は、いそいでドアの方に走りだします。ドアをしめる直前、サーナイト像をちらりとかくにんしてみましたが、だまってしまったままでした。
祐介の出ていった、うす暗い資料室にガサゴソという音がひびきました。サーナイト像のちょっと後ろ、たたかいに使われたという、トリデプスみたいに大きなタテのかげから、京子はふきげんな顔をのぞかせます。

「こんなのしんじて、ばかじゃないの」

京子はひとりごとを言いました。こんなの、とは、サーナイト像が未来を教えてくれるといううわさのことです。京子は祐介をからかってやろうと思って、祐介が資料室に来る前にかくれたこの場所から、サーナイト像のふりをして話していたのですが、祐介が本当にだまされてしまったので、出ていくことができなかったのです。
しかも、あんなしつもんをされるとは思っていませんでした。祐介め、と、京子は心の中でどなります。どうすればよいのか、なんて京子が知るわけがありません。だいたい、それは未来のことではないのです。そんなことをサーナイト像に聞いてどうするつもりでしょうか。かんがえればかんがえるほど、京子は、祐介にたいして言いたいことをたくさん思いつきました。

「だいじょうぶ。あなたたちは、なかよくなる」

その時、急に聞こえた声に、京子はびっくりしてきょろきょろとあたりを見回しました。ここには京子のほかにだれもいないのですから、さっきみたいに、未来を予知したみたいなことを言うものもいないはずです。では、今聞こえた、京子よりも大人の女の人みたいな声はだれのものだったのでしょうか。
京子はもう一度、資料室を見回してみましたが、それはわかりそうにありませんでした。それより、じゅ業がはじまってしまうので、京子は教室にもどることにしました。
資料室を出るときに、京子はサーナイト像をふりかえりました。木でできた体の目の部分にはめられた、赤い石がきらりと光ったように見えました。

「それ、しんじるからね」

京子はそう口に出してから、わたしもばかみたい、と思いました。
そして、京子がドアをしめてしまった資料室には、サーナイト像だけがしずかに立っているのでした。


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