投下時間から二日遅れの執筆であったにも拘らず、掲載を許可して下さったあきはばら博士さん、本当にありがとうございます。大遅刻ではありますが投下失礼いたします。
一週間で書き合うという趣旨から逸れてしまって大変申し訳ないのですが、せめてオリジナリティは出そうと他作品様は全く読まず執筆させて頂きました。何卒宜しくお願い致します。
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シンオウ地方ノモセシティのバトル施設、あるスタジアム。ポケモン選出を終え、二人のトレーナーがバトル場のトレーナースペースに立つ。観客はいない。あくまで練習試合の光景だ。
「お手合わせの許可を下さり、ありがとうございます。アローラの戦い方、楽しみです」
僕は逆サイドに対峙する外国人の女性に一言感謝を表す。
「いいえ、こちらこそ。私もシンオウのトレーナーと戦えるのは嬉しいものです。アローラでの土産話が一つ増えますからね」
彼女は流暢なシンオウ語でそう答えた。本当にお上手だ。ふと呟くと女性はまだまだです、と謙遜して見せた。
「まあアローラの戦略と言っても、最近は他地方の戦略も入ってきてですね…… 私なんかは専らそれに影響受けていますから、違うところがあるとすればこのZリングくらいですよ」
「そういうものですか。でも、Zワザを生で見れる機会なんて今のシンオウでは希少ですし、アローラの特徴は少ないにせよ僕の知らない戦法が見れるわけですからね。どの道、楽しみですよ」
二人の会話が過ぎたところで審判がそろそろ準備はよろしいですか、と二人に尋ねる。二人はそれぞれ肯定の返事を返した。
「ではルールを説明します。それぞれ選出した一体を使ったシングルバトルです。ポケモンに持たせたもの以外の道具は使用不可。選出したポケモン以外を繰り出したりトレーナーが所持する道具を使ったりすると失格になります。このルールでよろしいですか?」
審判のルール説明に対し、僕は答える。
「はい。大丈夫です」
「分かりました。それではお互い同時にポケモンを繰り出してください」
「いけっ! ロズ!」
「お願い! ヴィオーレ!」
双方が繰り出すポケモンは僕はロズレイド、女性はジャラランガであった。
「よろしくね。ヴィオーレ」
女性はジャラランガに向けて声をかける。ジャラランガは何度も力強く頷くと小さく吠えながら構えを取った
一方ロズレイドの方は隙を見せない凛とした立ち方でジャラランガを鋭く視界に捉えている。
男トレーナーは思う。
さすがアローラの人だ。僕たちに比べてポケモンとの距離が一段と近いように感じる。それにしても、タイプ相性が不利。出し合いは負けたか。いや、勝算がないわけじゃない――
「僕たちも負けないチームワークを見せるぞ、ロズ!」
ロズが静かにうなずく。相変わらず冷静な奴だ。
審判の声が響く。
「では始めます。三、二、一、試合開始!」
「ロズ、くさむすびだ!」
「避けていつものいくよ!」
ロズは地にバラを模す片手を素早く突く。一鳴きして跳ぼうするジャラランガの足に絡むくさむすび。ジャラランガがステップするも既の差でくさむすびは完成しており、ジャラランガを大きく転ばせた。少しスタジアムが揺れる。
「あらら、隙が少ないくさむすびだ。ヴィオーレ、起きていつもの!」
「いつもの、って?」
起き上がるジャラランガを幾つもの白い風が包み込む。
「あぁ、シンオウではワザ名言わないのはタブーだったね、いつもの癖でつい…… ボディーパージ。効果は分かるかな?」
ボディーパージ、被ダメージを上げる一方ですばやさを著しく上げるワザ。速く動けるようになる、ということはワザも避けられやすくなるということだ。すばやさを貯められたらワザが当てられず一方的に攻められる可能性が高い。
「高速戦法か…… タイプがキツいけど一気に決めないとまずいな……!」
ボディーパージの副効果として体重が軽くなるというものもある。重量が多いほど効果が高いくさむすびはドラゴンタイプとの相性も極まって効果がより薄くなる。
まずは威力がタイプ考慮しても一番高いメインウェポンで攻める……!
「ロズ! にほんばれ!」
ロズがオレンジ色の球を放つとその球はスタジアムの天井近くまで上り少し暑いほどの光を放つ。
その間にジャラランガを包んでいた白い風は消え去る。ボディーパージが完了したようだ。
「ロズ! ウェザーボール!」
「ヴィオーレ! もう一度ボディーパージ!」
ロズがオレンジがかったウェザーボールを放つ。一方で一鳴きしたジャラランガは再度白い風を纏う。そして、避けることなく甘んじてウェザーボールを受けるジャラランガ。
決まったか―― いや、ジャラランガはワザを受けてなおケロッとしていた。よくよく考えればなぜウェザーボールを避けなかったのか。僕はこの時点でその違和感に気づく。
「効果なし……? 特性か」
「特性ぼうだん。ボール系のワザは効果はないよ」
ジャラランガの特性を知らなかった僕は少し恥ずかしくなった。すなわち、ウェザーボールは完全に封じられたということだ。
「圧倒的に不利じゃないか…… でも負けない」
「ロズ!!」
ロズも戦意は喪失していない。力強く鳴いて答えてくれた。まだ、あいつも俺を信じて戦ってくれる。俺は期待に応えないと……!
くさタイプの強みとしてにほんばれ状態にややパフォーマンスが上昇するというものがある。すばやさが少し上昇くらいだが、ジャラランガにもギリギリ食いつける。
あのワザは…… 遠距離攻撃をジャラランガが備えていた場合、見せるとかなり不利になるワザだ。いや、ジャラランガが特殊系だった場合詰みだが僅かな可能性にかけて今は封じる。すると今メインウェポンにできる技は一つしかない。
「ロズレイド、ひとまず今は耐えながら少しずつ攻撃! くさむすび!」
「ヴィオーレ! りゅうのまい!」
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りゅうのまいの構えをくさむすびで妨害する流れが何度も続く。にほんばれの効果が切れたらもう一度にほんばれを発動した。
結果としてくさむすびは四回決まった。決まったが与ダメージはジャラランガのボディーパージによる重さの劇的な減少により、一回一回雀の涙程度だ。未だジャラランガの体力を四分の一削っていたらいい方だろうか。一方りゅうのまいは二回積まれた。ジャラランガのすばやさは限界の六段階強化され、攻撃も二段階強化された。かなり厳しい状況だ。
ここでさらに戦況が変わる。彼女とジャラランガがついに攻め始めた。
「ヴィオーレ! どくづき!」
来た!―― 攻撃が二段階上がっている以上、一撃でも急所に当たってしまってはかなり削られてしまう。完全に運だが、耐えなければいけない。
特性どくのトゲの効果を意地でも発揮させるしか、突破口はない!
「ロズ、当たりが悪くないようにワザを受けろ! トゲを刺せ! 頼む!」
ロズは気合のこもった鳴き声を上げて、どくづきを受けながらジャラランガにトゲを刺そうとする。一発目は失敗。ジャラランガは攻撃しては距離を取るヒットアンドアウェイの動きだ。
軽く避けると言ってもダメージを食らいながら相手にトゲを刺す。とても難しかろう。僕はとにかく応援することしかできない。とにかく成功を願うことしかできない。
「ヴィオーレ、トゲに気を付けてどくづき!」
「ロズ、このまま頑張れ!」
二発目、ジャラランガに逃げられる。失敗。
「ヴィオーレ、もう一度!」
「頑張れ、ロズ!」
三発目、失敗。ロズは持っていたオボンの実を食べた。余裕があるチャンスはあと一回。
「ヴィオーレ、もう少し! 頑張って!」
「頼むッ!」
四発目……! ジャラランガがワザを撃って後退する。ジャラランガの表情が歪んだ。ジャラランガの体を紫の電撃が走る。
どくのトゲが入った――
「ヴィオーレ!」
「よくやった! にほんばれの後、近づいてベノムショック!」
ロズはにほんばれを発動、晴れ状態を延長した後に急激に距離を詰める。
「避けて! ヴィオーレ」
ロズが発射する紫色の弾はジャラランガに向かって飛んでいく。ジャラランガは毒状態に未だ慣れず、避けがワンテンポ遅れた。着弾。激しい紫の電撃がジャラランガを襲う。
ベノムショック。毒状態の敵に攻撃すると威力が倍になるワザ。効果半減のワザばかりの中で、唯一の有効打。
「ナイス、ロゼ!」
「うん。仕方ないよ、ヴィオーレ。気を取り直して、反撃に気を付けながらどくづき!」
「避けながらベノムショック!」
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毒状態で動きが少し鈍くなったジャラランガは近距離のベノムショックを一部避けきれない。一方でにほんばれ天候によって少しコンディションの良くなっているロズは相手の毒状態によるワザの鈍さも携わってほとんどを避けきれていた。やがてにほんばれが一旦切れ、にほんばれを発動する。ペースはこちら側に傾いていた。
ただ、油断していたのだ。波に乗ってきてこれは主導権を握ったと思った。ただ、彼女も機転を利かせた策を確実に用意するはずだった。それを予測していなかった僕は完全に油断していた。
「この隙を待っていた…… 私たちのZワザ!」
対戦相手はシンオウでは見慣れないポーズを取る。ジャラランガの持つZクリスタルが輝きを放ち、何か白いオーラのようなものがジャラランガから湧き上がる。
これが…… Zワザ……
「受けてみて! ヴィオーレ、Zドラゴンクロー!」
ジャラランガは踏み込み、恐ろしい跳躍力でロズに迫る。
「ハッ……! 避けろ、ロズ!」
ロズはステップで避ける。しかし、ジャラランガの飛び込みはその先まで届いた。空中で翻りながら放たれる、蒼い力を纏ったドラゴンクロー。僕の目にはスローモーションのように映ったそれは、悔しいけど第一に美しかった。
避けろの号令が一足遅かったのだ。我ながら不甲斐ないし、僕の指示を待ったロズに申し訳がない。初めて見るZオーラに見入ってしまっていた。
ロズが地面に転がる。
「ロズ!!」
ロズは両手の薔薇で地を押して立ち上がろうとするも、膝立ちから上手く立ち上がれない。
「ヴィオーレ、ドラゴンクローでフィニッシュ!」
「ロズ、ベノムショックで迎え撃て……!」
ロズへ一気に差を詰めるジャラランガ。それに向けてロズはベノムショックの弾を撃つも、ジャラランガは跳躍し命中せず。上から縦に切り裂くドラゴンクローをロズは地面を転がり避けるが、二段目のドラゴンクローの薙ぎは避けきれず攻撃を受けた。
「ロズレイド戦闘不能! ジャラランガの勝ち!」
審判の声がスタジアムに響いた。
「ごめんな、ロズ。戻れ」
俺はロズをボールに戻す。最後はやはり自分の不手際が起こした負けだ。勝たせてやりたかった。悔しい。
「ありがとね。ヴィオーレ」
彼女はジャラランガを少し撫でていた。ジャラランガは気持ちよさそうに鳴くと、自分からボールに戻った。
「ありゃ。まあ毒状態だもんね。すぐ回復するからね」
彼女は誰に言うわけでもなく呟くとバトルエリアに歩いていく。そうだ。バトルをし終わったらやることは一つだ。僕もバトル場に少し駆け足で入る。
「いいバトルでした。ジャラランガもあとベノムショック二発くらいで負けてたよ。危ない危ない。対戦ありがとうございました」
「二発って…… 結構余裕あるじゃないですか。対戦ありがとうございました」
バトル場中央での握手。課題が多く残るものではあったが、僕たちのバトルは幕を閉じた。
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