マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  [No.181] 第二章 投稿者:紀成   投稿日:2011/02/02(Wed) 20:11:04   54clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「ミコト,ちょっと」
「何」
一通り民芸品の店を冷やかして回った後,ミスミとミコトは旅館街やみやげ物の店を抜けて浜辺の方へ来ていた。買うのは最終日でいいだろうということで,まずはどんな物があるかを見学・・ウインドー・ショッピングをしていた。
「へー。銘菓,雷獣焼きだって。おいしそー」
「少し離れた場所にガラス工房があるんだってさ。ミドリちゃんが聞いたら羨ましがるだろうなー」
「ミコトもちょっとは女の子らしい小物を身に付けなさいよ,この香袋とか」
それを目の前に突き出そうとするミスミの手を,ミコトはパシッと払いのけた。
「あのさ,こうも観光ばっかでいいのかい?少しはこの地の文化財を見てみるのもいいと思うけど」
「えー」
「さっきガイドさんが言ってたじゃないか。お城。そこに行ってみるのもいいんじゃないかな」
「本当まじめよね,ミコトって」
そんな無駄口を叩きながら浜の方へ歩いて来て,ミスミが人影を見つけて・・
今に至る。
「あの左にいる子,カミヤさんじゃない」
その言葉にミコトは目を凝らした。砂浜に立つ二つの影。片方は確かに彼女だ。
だが,もう片方は・・。
「どれどれ」
ミスミがウエストポーチから双眼鏡を出して,覗き込んだ(ちょっと,何でそんな物持ってるの)
「おー,結構かっこいいじゃない」
「カミヤさんと話すって,相当の変わり者だと思うんだけど」
「ちょ,あの人だれ!?」
「・・聞いてる?」


「僕はこの街に少し用があってね。近くのポケモンセンターに泊まってるんだ」
「私は・・合宿で」
「学生さんか。一緒に回る人はいないのかい?」
少し躊躇った後,カオリはこくりと頷いた。
「でもその警戒心の強いポケモン達がいるから大丈夫だね」
「・・うん」
カオリは何故か緊張していた。初対面の人間と話す時にしどろもどろになるほど,小心者ではない。なのに,今は体がガチガチになっていた。
(風邪でも引いたかな)
「それにしても,カゲボウズ達が見えるとはね。君のポケモンの気配に誘われて出てきたとはいえ・・」
ツキミヤの周りにカゲボウズ達が浮いていた。カオリに懐いているカゲボウズ達とはやはり少し違う。
「僕の知り合いにもいるんだ。君みたいな人」
「へえ・・」
「ホウエンの送り火山に行ったきり戻ってこないけどね」

それから二人は,海を見ながら話をしていた。いつもならば初対面の人間には全く口を開かないはずのカオリが,その時だけはちょっとおしゃべりになっていた。
見ていたミスミもポカンと口をあけていた。ミコトが見るに見かねて口を閉じようとしたが,それでもすぐに開いてしまうのだ。

「ああ,もうこんな時間か。ごめんね,引き止めちゃって」
カオリの付けている腕時計が午後三時半を指していた。
「ううん,すごく楽しかった。・・あのさ,また来てもいいかな」
カオリの言葉に,後ろに控えていたデスカーン達は凍りついた。カチーンという音が聞こえそうなぐらいに。
「いいよ。じゃ,明日はあそこで待ち合わせしようか」
ツキミヤが指した場所は―

『・・』
一方,こちらはやぶれたせかい。一匹のヨノワールが,透明な玉を覗き込んでいる。いや,透明というわけではない。中に人間が映っている。
先ほどツキミヤと話していた少女,カオリだ。
『カオリ・・』
ヨノワールは胸を押さえた。それには,カオリに対する気持ちだけでなく,別の何かも混ざっているような気がしてならなかった。
違和感というのか,それとも・・
『同じような力を持つ者同士が出会った』
胸騒ぎか。
『話してみるか・・』

ミスミは,戻ってからずっとカオリを観察していた。いつになく話しかけても上の空な感じだったが,それには今までとは違う別の何かがある気がした。
「カミヤさん,ちょっと?」
ゆすってみても反応が無い。心ここにあらずということだ。多分。
「ねえってば」
しびれを切らしたミスミは,側にあったうちわでカオリの頭をペシペシ叩き始めた。
「カミヤさんってば」
そして叩き始めてから二百十九数えた後・・
「痛い」
やっと反応した。叩かれた所が微妙に赤くなっている。
「何」
「え,えって・・。カミヤさん,さっき男の人と話してたよね。あの人って誰?」
「関係ない」
バッサリ切り捨てると,ベッドから降りて部屋を出て行ってしまった。
「彼女のプライベートに干渉すること自体が間違いだったんじゃないの」
ミコトの冷たい子tに貫かれそうになっても,ミスミはめげない。
「面白そうなら,私は何でもするわよ!」
「・・野次馬根性」
夕日で温まっている部屋が,南極のブリザードが吹き荒れる場所のようになった気がした。

『カオリは気にならないのか』
「何が」
『あの男のことだ。カゲボウズを引き連れている人間なんて,俺は見たことが無い』
「うるさいなあ。棺おけは黙っててよ。それに向こうも同じようなこと思ってるよ」
小高い丘の上にある宿舎。さっきの浜に行くには,二十分くらい必要となる。
「ま,違和感は少しあるけど。ただ,それ以上に」
『・・それ以上に?』
嫌な予感がした。純粋無垢故質の悪い,とは正にこのことか。
「分からないけど・・。別の何かにその違和感が全て押しつぶされてる」
そういうカオリの表情は,今まで見たこともないような物だった。ミスミが側にいたら,こう言っただろう。

『それはアレよ,アレ!恋ってヤツよ!』


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