マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  [No.183] 第三章 投稿者:紀成   投稿日:2011/02/05(Sat) 15:56:16   65clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

夕食を摂った後、宿にある風呂に入る。ミスミはカオリを誘ったが、部屋のシャワーで済ませるとあっさり断られてしまった。
「本当人付き合い悪いねえ」
「カミヤさんの家、何処にあるか知ってる?」
「さあ」
そんなクラスメイト達の会話を尻目に、ミスミ達二人は湯船につかっていた。温泉らしく、神経痛、筋肉痛、リューマチなどに効果があるという。まあ、まだそんな物には縁が無い二人だが温泉自体は気持ちが良かった。
「あー生き返るー」
「まだそれほど歩いてないんだけど」
「文を書く仕事をしていると、どうしても家にこもりがちになるのよ。運動してないから冷え性も酷いし」
中学時代からの付き合いのため、ミコトはミスミが運動嫌いなのは知っていた。五十メートルは九秒、水泳はクロールで二十五メートルがやっと。一番酷いのはマラソンで、毎回限りなくビリに近い順位に入っていた。
「私思うんだけどね、カミヤさん絶対バトル強いと思うの」
「いきなりだね。どうして?」
「んー…勘かな」
「…」


氷かと思うくらい冷たい水が体に叩きつけられる。ちっともお湯にならないので、そのまま水を頭からバシャリとかぶった。髪からポタポタと雫が流れ落ちる。
ミスミの誘いを断ったのには理由があった。かつて、火宮の家にいた時に付けられた首の縄の痕を見られたくなかった。
(大分消えかけてはいるけど)

それでも、カオリは嫌だった。
人に気を許すことが。笑顔を見せることが。

『では何故、あの男と話した』

聞き覚えのある声がして、カオリは目を開けた。髪の毛の水をしぼり、側に置いてあったタオルを手に取る。
周りを見回すが、デスカーン達は外に待たせているため、何も感じない。
「誰」
『鏡の曇りを取ってくれ』
少々変に思いながらも、カオリはタオルで鏡を拭いた。
そこには、自分と…
「あ」
『久しいな』
ヨノワールが薄く映っていた。

「楽しかった?」
『は?』
その後、カオリはヨノワールを自分が借りているベッドの場所に案内した。一応誰かが入って来た時のために、ヨノワールは日陰にいる。そこにいれば、影で姿が分かることもないからだ。
「鏡の中から私のシャワー姿見てたんだよね?」
『そ、そんなつもりで話しかけたんじゃ』
「冗談だよ」
ヨノワールはため息をついた。彼女といると、どうしても調子が狂う。
「で、何の用」
『先ほど話していた男のことだ』
「皆気になるんだね。カゲネコにも聞かれたよ。私が男と話してたらいけないのかな」
不満そうなカオリに、ヨノワールは切り出した。
『心を許していた…私には、そう見えた』
「!」
細い目が真ん丸くなった。自分でも気付いていなかったらしい。
「笑ってた?私が?」
『そちらに聞くのが一番だろう』
そちら、と言われてカオリはカゲボウズ達を見た。小さな頭で一斉にガクガクとうなずく。
「へえ」
信じられない、という表情で顔をおさえる。ヨノワールが何か言おうとした、その時。
「カミヤさん?」
部屋のドアを叩く音がした。ハッとして振り向く。この声は、カゲネコだ。
「何」
「後五分で夕食だから、下に来て」
時計を見れば既に針は午後六時五分前を指していた。
「分かった。今行く」
人の気配が無くなってから、ヨノワールは話を再開した。
「明日、あの男と会うのか」
「まあ。…何が言いたい?」
一呼吸置いた後、小さく、でも鋭く言った。

『気をつけろ』


一方,ツキミヤはまだ浜辺にいた。夕暮れ時の不思議な色合いが、彼の周りの白い砂を染めている。
「不思議な子だったな」
柔らかい波が、ツキミヤの足元を削り取っていく。それと同時に,彼の影がざわざわと揺れる。
「何か隠しているのかと思いきや、優しい顔になる。こちらを疑っていたのに、一瞬にして心を開いたような雰囲気になった」
そして何より、第一印象の。
「何か裏のありそうな、目の光」

「明日は期待してていいと思うよ」
ツキミヤの影の中で、あやしい光がゴソゴソと蠢いた。


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