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  [No.195] 第六章 投稿者:紀成   投稿日:2011/02/12(Sat) 21:23:19   57clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「何、あれ」
『分からん』
カオリの表情は青ざめていた。口調は至って冷静だが、中身が落ち着いていないことは自分自身がよく分かっている。
今まで生きていてこんなおぞましい物を見たのは初めてだった。黒い影が人間の全身を覆い、何かをしている。ツキミヤはまだこちらには気付いていないようだ。
「見つかったら同じ目に遭う気がするよ」
『逃げるか』
「待ち合わせ場所に戻っても、動揺していたら意味無いから」
沈黙する一人と一匹。重い口を開いたのは、カオリだった。
「デスカーン、約束してくれる」
『何だ』
「今から私が指示を出すから、それをした後、ヨノワールを呼んで」
『!?』
「お願い」
デスカーンには、カオリの言っていることが理解できなかった。否、理解したくなかったの間違いかもしれない。
『カオリ』
「私、はっきり言って怖い。こんな状況初めてだから、どうしたらいいかも分からない。分かるのは、ツキミヤさんが私達の力に負えるような簡単な力の人じゃないってこと。
断言してもいい。絶対デスカーンと私だけじゃ勝てない」
『ヨノワールに頼むのか』
「どちらにしろ、このままじゃ見つかる。行くよ」
有無を言わせない威圧感に、デスカーンは思わず頷いていた。
ザッと木の影から飛び出す。ツキミヤが少し驚いた表情でこちらを見る。
カオリが、叫んだ。

「シャドーボール!」

爆発音が響き渡った。それは、当然ミスミとヨノワールにも聞こえていた。
ミスミは走り出す。音の方へ。
途中何かとすれ違った気もしたが、そんなことは今はどうでもいい。
知りたいことは、一つだけ。

(何が起きてるの!?)


もうもうと土煙が上がる。風で着ていたジャケットがなびく。何も見えない。
口を手で押えながら、カオリは辺りを見回そうとした。
だが。
「!!」

体が動かない。足元が真っ黒だ。光も何も無い、ねっとりとした闇。何かが足元に密集している。吐き気とも言えるような何かがこみ上げて来て、冷や汗が額を流れ落ちた。
「見られちゃったか」
「…ちょっと気になったから」
荒い息を鎮め、カオリは向こうを見た。女が倒れている。
「何をしていた?」
「ちょっと食事をね」
「…食事?」
意味が分からないという顔をすると、ツキミヤは笑って、
「言い方が難しかったかな。彼らに食事をさせてたんだよ。その足元にいる彼らにね」
「…」
「じゃあ、問題。カゲボウズの好物は?」
こんな時に問題を出してくるツキミヤへの腹立たしさと、それを考える自分への情けなさに頭を抱えたくなったが、それどころではない。
カオリは今までに読んだ本の中から記憶をほじくり返す。私について来るカゲボウズ達は甘党で、キャンディが大好きだけど、普通に食べる物といえば…
そこまで考えて、ふと頭の隅にひっかかっていた謎が解けた。ツキミヤのカゲボウズと、自分に懐いているカゲボウズの違い。
「…食べている物が違う。彼らの主食は、感情。喜びとかじゃない。負の感情。恨み、妬みとか」
ツキミヤが拍手するような仕草をした。
「ご名答」
「そこに倒れてる人は?」
「ああ」
起き上がってくる気配は無い。胸が動いているため、死んではいないようだ。
「彼女は泊まっている場所で知り合ったんだ。只の一般人。会った時から彼らが騒がしくてね。押えるのが大変だったよ。弟を溺愛していて、その弟に彼女が出来たと知ってずっと恨んでいたらしい」
「…悪いけど、私は食事相手にならないと思うよ。だって特に恨みたいと思ってる奴なんて」
「恨みたいだけ、かい?」
ツキミヤが何を言いたいのか分からない。
「カゲボウズ達は言ってたよ。出会った時から、恨みはあんまり伝わってこないけど、怒りは伝わってくる。決して表には出さないけど、何かに対する凄まじい怒りが」
「カゲボウズ達に何をさせる気?」
その質問の答えは、ゾッとするような台詞だった。

「知ってる?感情って甘い味がするんだよ」


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