マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  [No.213] 第一章 始まりはメインストリート 投稿者:紀成   投稿日:2011/03/04(Fri) 18:36:43   39clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

何処かの地方、小さな街。古い建造物が残る、時代から取り残された場所。良く言えば歴史を重んじる場所、悪く言えば開発が遅れている場所。
この街に住む人々は、現代に有りがちな時間に追われて生活するということが無い。ゆったりしていて、余裕がある。ミヒャル・エンデが作り出した時間泥棒など、付け入る隙も無い。
不意に。メインストリートへ続く路地から、黒い人影がこぼれ出た。薄い春物のコートに、軍人が被るような帽子。そして一際目立つ、白い仮面。
だが、そんな異色を放つアイテムに気付く者はあまりいない。皆が皆、人影とすれ違う度にハッとして振り向く。男女関係無く。
何故か?人影の顔を見れば、分かることだった。綺麗に整った顔立ち。長い睫を持った鋭い瞳。そして歩く度に風に揺れ動く、灰色の髪。
誰かが振り向いた後、ボソッと言った。
「美しい」
飾り気も無い言葉だが、人影を表す言葉でそれ以外見つからなかった。
だが、当の本人はそんな彼等の視線など全く気にならないような様子だった。レンガ作りの道をひたすら歩き、何かを探しているような姿だ。
「嫌な感じだ」
冷静な、それでいていらついているような声がこぼれ出た。女性の声だ。
「回りを歩いている人間だけじゃない、もっと別の何かの気配を感じる」
彼女の言葉に答えるように、小さなてるてる坊主が集まってきた。暗がかかった、群青色の角が生えたポケモン。
カゲボウズ。
『それっぽいヤツはいないぞー』
『そんなヤツがいたらデスカーンがいきのねをとめてるぞー』
寄ってたかって自分に話し掛ける彼等に頷く。考え過ぎならいいのだが・・
『マスター』
姫をモチーフにしたような水・ゴーストタイプのプルリルが寄って来て深々とお辞儀をした。
『肩に力が入ってますわ。この街はまだ貴方様の噂は入って来てはいません。たまには神経を緩めて、お休みになってください』
そう諭されても彼女は辺りを見回すのを止めなかった。


ファントム。十八歳。出身地方不明、誕生日不明、血液型不明。
ある地方では、あぶく銭に浮かれた愚か者にバトルを仕掛け、金を掻っ攫っていく、変わった泥棒として知られている。ちなみに知られてはいないが、金の半分は美しい花束へと変わる。もう半分は孤児院などに名を隠して寄附するらしい。
一部の地方ではマスコミや警察に追われたこともあるようだが、そこは持ち前の体力と技術で綺麗に撒いてきた。
まあ彼女の頭を悩ませるほどの物はそうそういない。
・・一部を除いては。


メインストリートへ出たファントムは、楽しげな音楽が流れる場所へと歩いていた。煉瓦造りの建物と、嵌め込まれたガラス板がひたすら横に立ち並ぶ。白いスプレーで書かれた文字は、潰れていて読めなかった。
「そこのお嬢さん、お土産にキャンディはいかがかね?」
道端にキャンディ・ワゴンを出していた老人がファントムに声をかけた。群がっていた子供達の視線が一斉に彼女に集まる。
「もちろん、キャンディがお気に召さないなら、チョコレートもある。体が大きくなるケーキもある。さあ、EAT MEと書かれているだろう」
意味を知らない子供が首を捻る。
ファントムはため息をついた。
「生憎ルイス・キャロルは趣味じゃない」
「それでは何がお好みかな?冷たい干し葡萄がゆ、鶫の入ったパイ」
「キャンディを一つ貰うよ」
しつこくなってきた。このまま行ってもこの街にいる限り何処からともなく現れそうだ。諦めてワゴンに寄り、ポケットから小銭を出した。
「はい、ありがとうございます」
してやられたという感じだが、まあ良い。キャンディを受け取り、ポケットに入れようとして・・
視線を下に向けたファントムの目に、向こうの横断歩道が写った。このメインストリートで唯一の向こうの歩道へと行ける道だ。
そこを、一人の少女が走って渡り出したところだった。遠目からでも分かるくらい、少女の服は高価に見えた。高級感の溢れる緑と、黒ボタン。内側の生地がギンガムチェックなのが、袖の裾から分かった。
黒いローファーをリズミカルに動かし、風のようにかけていく。何を急いでいるのかー

走る少女の横から、乗用車が一台走って来た。信号が赤になっていることに気付いてない。そのまま少女に突っ込んで行く。
「お嬢さん!?」
ワゴンの主人が状況を把握する前に、彼女は走り出す。信号まで約三百メートル。普通なら無理だ。
そう、普通なら。

「っ!」
道を蹴る。硬直して動かない少女の頭を自分の胸の中に納める。足を腕で持ち上げる。
コンマ数秒。少女を抱き抱えたまま、ファントムは道路の端にそのまま突っ込んで行った。


タイヤが擦れた臭いと、排気ガスの臭いが混ざり合い、なんとも言えない空気が充満していた。
ファントムの目の前には、助けた少女が立っている。信号無視のドライバーは既に警察に事情を聞かれている。
「助けてくれてありがとう」
少女が頭を下げた。ファントムは帽子に付いた砂埃をフワンテに落としてもらっている。
「別に」
「ねぇ、貴方の名前は?ここら辺じゃ見ない顔ね」
名前を言って良いのか、一瞬迷う。だがまあ、顔は割れてないし大丈夫だろう。
「ファントム」
「ファントム?私、リンネ」
リンネは今のファントムの格好を見た。道路に擦り付けたせいで、黒いコートとパンツ、靴が茶色になってしまっている。
「ファントム、私の家に来てくれない?お礼もしたいし、その服を洗濯しなくちゃ」
「えっ」
突拍子も無い発言に、ファントムは驚いた。たがリンネはそんなこと微塵も気にしない。
「さ、行きましょ。ついでにこの街にいる時は泊まって行って」
リンネに手袋をした手を引かれるファントムの姿は、それはそれは滑稽な具合だったという。


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