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  [No.693] 第六章 マスカレードの招待状 投稿者:紀成   投稿日:2011/09/03(Sat) 19:00:58   35clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

オペラを見て、リンネに連れられて服を変え、そのままレストランでディナーをし、馬車を呼んで屋敷に戻り、シャワーを浴びて床についた――
そこまでははっきりと覚えている。瞼が重い。確か寝る前に時計を見たら午後十一時半だった。リンネはこんな時間までいつも起きているのだろうか。
「ん…」
見慣れない高い天井が目に入り、ああ、ここはリンネの屋敷だったと思い出す。天蓋付きのベッドにはゴーストタイプ達が折り重なりあって眠っていた。カゲボウズ達は涎を垂らし何か言っている。旨い感情を食べている夢でも見ているのだろうか。
備え付けの時計は、午前八時を差していた。久々にゆっくり寝た気がする。ずっとずっと、なるべく同じ場所に留まらないようにしてきた。ホテルもなるべく遅くに来て、早くに出て行った。
「…」
ファントムはベッドから出た。カゲボウズの一匹が落ちた気もするが、気にしない。
カーテンを開ける。バルコニーは濡れていた。しとしとと雨が降っている。空はどんより曇り空。今にも雷が落ちてきそうだ。

コンコン

ドアを叩く音がした。女性の声がする。
「ファントム様、起きていらっしゃいますでしょうか」
メイドの一人だろう。ファントムは欠伸をした後、そっとドアを開けた。
「おはようございます。起こしてしまいましたか」
「大丈夫。さっき起きたところ。…どうかした?」
「貴方様宛ての手紙が届いております」
「!」
メイドが手紙を取り出した。薔薇の印が押された蝋で蓋をしてある。白い封筒。差出人は、無し。
「リンネお嬢様にも同じ物が届いているのです」
「渡してもいいと思うよ」
「えっ」
ファントムは封を切った。中から招待状と手紙が現れる。
「わざわざ送って寄越したんだ。隠していたと知ったら、怒るだろう」
「ですが…」
「私がいる。あんな愚かで脆弱な貴族気取りに、時計は渡さない」
メイドは呆気に取られていたが、やがて深くお辞儀をした。
「ファントム様。リンネ様をよろしくお願いします」

『マスカレード?』
デスカーンが意味が分からない、というような声を出した。ファントムは呆れて自分の仮面を指す。
「仮面舞踏会のこと」
『お嬢さんにも来てるのか、それ』
「ああ。おそらくそこで時計を奪うつもりだと思うよ。昨日は下調べって言ってたし」
招待状には、自分の名前が書いてあった。昨日名乗ったのをそのまま使ったのだろう。こう書いてあった。

『去る○月○日、午後六時より我がマルトロンの屋敷で仮面舞踏会を開催いたします。
なお、舞踏会の他に様々な遊戯などもご用意しておりますので、是非ご参加ください』

遊戯、の部分が気になった。貴族の言う『遊戯』とは一体どんな物なのか。嫌な予感がするが、ここで引き下がっても相手の思う壺だ。
『ファントム、一つ聞いてもいいか』
「何」
『…踊れるのか?』
冷たい風が、彼女らの間を駆け抜けた。しばらくの沈黙の後、ファントムが立ち上がる。
「日本舞踊は今でも染み付いてるけど、流石にワルツはね…」
ああ、火宮の時にお稽古事であったからな、とデスカーンは言いかけたが、慌てて口を塞いだ。彼女にとって、火宮家の人間でいたことは最低の歴史なのだ。
「参ったな」
『舞踏会は二日後。今から練習するのは流石に――』

『マスター、基礎程度なら私が』

そう言って手を上げたのは、プルリルとブルンゲル達だった。意外な相手に、ファントムが目を丸くする。
「踊れるのか」
『まだ貴方に付いて行く前、街の映画館でよく見ていたんです。それを見るうちに、覚えて』
「…お願いしようかな」


「ファントム、朝ごはんー…」
ドアを開けたリンネが見た物は、ブルンゲルとワルツの練習をするファントムだった。相手のステップに合わせてこちらもステップを踏む。
「…何やってるの」
「リンネ、招待状は渡された?」
「ええ。さっきメイドから。ファントムも貰ったって言われて、朝ごはん呼ぶついでに話そうと思って。
…それってもしかして」
「生憎全く踊れないんだよ。だから少し練習しておこうかと思ってね」
リンネは部屋に入った。カゲボウズ達に向かって飴玉を投げる。寄ってたかって奪い合う彼ら。
「扱い慣れて来たね」
「何かファントムと一緒にいたら、見えるようになっちゃったみたい」
「それは言えてるね。見える者と一緒にいればこちらも見えるように――っと!」
バランスを崩した。倒れるところをブルンゲルが支える。ありがとう、という言葉と共にリンネを見た。
「リンネは踊れる?」
「しきたりだから」
「そっか」


室内でダンスの特訓が続く。時計を守る以前の問題になっている気がするが――
大丈夫だろうか。


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