マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  [No.456] 第四章 会場と約束 投稿者:紀成   投稿日:2011/05/21(Sat) 17:03:16   48clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

『昔々、まだ英国で黒魔術が盛んだった頃の物語。

ロンドンの外れに、一人の男が住んでいた。その男は、どんな魔法でも使える、魔術師だった。
見える物を見えなくしたり、周りを一瞬で暗くしたり、そこにある物を消すことが出来た。
中でも得意だったのが、生き物を別の生き物に変えることだった。箱にポケモンを入れ、呪文を唱えるとそれは別のポケモンへと変わった。
人々はそれを見て、正に天才だとはやし立てた。
気を良くした魔術師は、師匠から禁忌だと言われていた術を使うことにした。

魔術師は、自分の住処に一人の少女を連れ込み、嬲り殺した後、箱に入れた。そして呪文を唱え、箱を開けた。
中には、元の姿が分からないくらいに体が膨れ上がった少女の遺体があった。魔術は、失敗したのだ。
魔術師はその遺体をビック・ベンの上からロンドンの街へ投げ捨てた。あまりの変わり様に、人々は愚か親さえも自分の娘だと気がつかなかった。
それからも魔術師は子供を攫っては殺し、別の生き物に変えようとしたがことごとく失敗した。やがて警察が嗅ぎ付け、魔術師は捕まり、死刑判決が下された。
だが、ギロチンで首を切られる直前に、晴れ渡っていた空がいきなり曇り始め、土砂降りの雨が降り始めた。
そして、魔術師がギロチンに首をかけた瞬間、大きな雷がそこに落ちた。

あまりの眩しさに人々は顔を覆った。次にギロチン台を見た時―
魔術師は死んでいた。まるで今まで殺した子供が復讐をしに来たかのように、その体には人の顔が沢山浮き出ていたという』

「ねー、ファントムまだ?」
「お待ちくださいまし、リンネ様。只今使用人共が服を選んでいるところです」
リンネの声が、廊下から聞こえてくる。せっかちな子供なのか、それとも子供は皆せっかちなのか。どちらでもいい、と思い、ファントムは鏡を見た。
「髪はどういたしましょう」
「そのままで頼むよ」
「かしこまりました」
恭しく頭を下げるメイド。後ろでカゲボウズ達がケタケタ笑っている。何か言いたいが、一般人の前ではあまり目立つことは出来ない。
「リンネ様があんなに楽しそうなのは久しぶりです」
「あの子の親は」
「二年ほど前から別地方へ仕事に出かけております。まだ幼いリンネ様を残して―」
「そう」
わざと明るく振舞っているようには見えなかった。昨日の姿がこの二年で定着してしまったのだろう。そして今の姿が両親と一緒だった時の物。
「ファントム様はどちらからいらしたのですか?」
「何処からでも無いよ。好きに回ってるだけ」
「そのことを是非リンネ様にも話してくださいまし」
ファントムは後ろを向いた。メイドの笑顔に、偽りは見えない。
「リンネ様は葛藤なさっているのです。このまま大人になっていいのかと。ヴァルバローネの家宝である懐中時計を守るためだけに生きていいのかと」
「…」
「あ、今の話内緒にしてくださいね。使用人に心配されていると分かれば、リンネ様も…」
「分かったよ」


「ファントム!」
部屋から出てきたファントムに、リンネが駆け寄ってきた。
「すっごい!まるで別人」
今日のファントムは、ラピスラズリ色のシルクのドレスにグレーのジャケットを合わせていた。靴はハイヒールだ。
「普段こんなの着ないんだけど」
「何言ってるの!そのギャップがいいんじゃない」
リンネは黒い、リボンとフリルが沢山付いたワンピースを着ていた。髪はサイドで二つ結びにし、帽子を被っている。
「さあ、表に馬車を回して」
「馬車!?」
「既に準備は出来ております」
執事が頭を下げた。外は夕暮れの色を濃くしている。
「ディナーの予約は」
「マルトロン劇場前、リストランテ・アルビーノ。夜九時から」
「ありがと。さ、行きましょ」
慣れないハイヒールに戸惑いながらも、ファントムは表に向かった。

黄昏時の街は、昼とは別物だ。街灯が点々と灯り、夜への道を歩いている気がする。
(そういえば、今日は変な視線を感じないな)
「ファントム、席は何処?」
リンネに言われ、ファントムは鞄からチケットを出した。ちなみにこの鞄も、リンネが選んで持たせた物だ。
「D列、五番と六番」
「結構前ね」
「懐中時計はきちんと持ってるの」
「ええ!」
リンネが服の下から懐中時計を出した。青いダイヤモンドが変わらず光っている。
「こんなオペラを見た後で食事なんて出来るかな」
「大丈夫よ!私、三半規管強いもの」
「…そういう問題じゃないから」
久々に無駄話をしたな、と考えていると馬車が止まった。
「到着いたしました」


マルトロン劇場は、街の一等地に作られていた。灰色の城のような外観に、車が止められるように円形の駐車場が設置されている。
空はすっかり夜の気配を濃くしていた。
「あ、リンネだ!」
馬車から降りるリンネを見つけて、数人の少女が駆け寄ってきた。皆が皆、小さなドレスに身を包んでいる。リンネも苦笑しながら彼女らに手を振った。
「こんばんわ、リンネ。貴方もオペラを見に来たの?」
「…まあね」
「すっごく気になるのよね、これ。この後ディナーが入ってるけど、大丈夫かしら」
「大丈夫よお、アンタなら。胃袋が大きくて、魔術師さえも飲み込んじゃうから!」
キャハハと笑う子供達の声が耳に障った。従者がファントムに呟く。
「リンネ様をよろしくお願いします」
「分かった」
ゼブライカとギャロップに鞭を振るい、馬車は元来た道を走っていった。まだ彼女達の話は続いている。
「ね、リンネ。今度うちの屋敷で舞踏会をやるの。お父様が是非って」
「クラスの子が皆来るのよ!」
「そう。お誘いありがとうね。でも今日はオペラを見に来ただけだから。
…ファントム!」
呼ばれたファントムはリンネの横に立った。見上げてくる子供達が可笑しい。
「数日前からうちの屋敷に泊まってるの。とってもバトルが強いのよ!」
「ちょっと、余計なこと」
「へえー。じゃあ今度の舞踏会に連れて来てよ。私のお父様とお兄様も強いのよ。多分、この街で一番」
一人の少女が意地悪く笑う。だが、リンネは涼しい顔をして、
「ファントムはね、ゴーストポケモン達のお姫様なのよ!どんなポケモンだってファントムの前には適わないんだから!」
「…」
やはり、子供なのだろうか。
「じゃ、二日後の舞踏会に来てよ!コテンパンにしてやるから」
「戦うのは君じゃないだろ」
いつの間にか、言葉が零れていた。少女達が驚いてファントムを見る。
「レントラーの威を借るスリーパー。もし君の父親と兄が負けたら、君…今の余裕を保ってられるかな?」
唖然とする彼女を置いて、ファントムはリンネと共に劇場へ入って行った。

「…参ったな」
ファントムは頭を抱えていた。リンネが笑う。
「まさかあそこで来るとは思わなかったわ!お腹痛い…」
「柄にも無く子供みたいなことになったな」
ムウマが擦り寄ってくる。喉を人差し指で撫でた後、ムウマは別の貴族が持っているポケモンをからかいに行った。
「さ、とりあえず楽しみましょうよ」
「うん…」
ファントムは辺りを見回した。また、変な視線を感じる。しかも今回は場所まで特定できる。
(舞台袖から…)
まだ決まった訳ではないが、今回の件…リンネと自分を見張る何かによる計画な気がする。そして勘が正しければ、進展は…
おそらく、今からだ。


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