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  [No.561] 七色列島物語 投稿者:サン   投稿日:2011/07/03(Sun) 13:20:27   52clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 ぴちょん。どこかで水が滴った。
 薄暗い世界は、まるで洞窟のように静寂に包まれていた。そこには鍾乳洞の中のように、波紋を残した尖った岩があちこちから突き出ている。終わりもなく、始まりもない、現世と分かれた不思議な世界。透明なガラス球のような球体が大小さまざまな大きさで宙を漂い、立ち込めた白い霧が悪戯好きな妖精となってきらきらと笑い誘う。

「アグノム……」

 青く澄んだ湖の畔で、誰かが呟いた。ほっそりと痩せたしなやかな体と、細長い顔に半開きになった海色の瞳。額には翡翠色の玉を下げた細い紐が真一文字に横切っている。
 傍らにたたずむ青い光が、その者に答えるかのように鈍く輝いた。

『まさか、こんなことになるなんてね……』

 光がゆっくりと“彼女”に近づくと、照らされたその体に小さな膨らみが二つ、陰影を残してよく映えた。光は慈しむようにして彼女の周りをくるくる回った。

『まだこんなに幼いのに……これも運命か』

 彼女の体の小さな膨らみ。それは、彼女に抱き抱えられた二匹の子供だった。何も知らない無垢な表情で、静かに瞼を閉じている。

「そんなに気を使わないで、アグノム。私、何となくこうなるような気はしていたの」

 そう言って、彼女は笑った。誰もが作り笑いだと分かるほど、悲しみを堪えた表情で。

「仕方のないことなのよ。これは竜の血をひく者の、遠い昔からのさだめ」

『…………』

「でもね」

 不意に、彼女の強張った頬をつたう一滴。

「できることなら、もっと、平和な時代に産んでやりたかった……!」

 彼女は声を震わせ、子供たちをぎゅっと抱きしめた。この上もなく強く。この上もなく優しく。

『……シア』

 光は黙って親子の様子を見守っていたが、おずおずと前に出た。

『悪いけど、もうあまり持ちそうにないんだ。子供たちを……』

「ええ……分かってる」

 眠り続ける子供たちに、彼女は静かに笑いかけた。

「ごめんね……」

 水鏡が割れた。波紋が幾重にもなり、彼女の足取りを湖に印しては消えてゆく。
 湖の中心まで来ると、青い光がゆらゆら揺れた。

『準備はいいかい?』

「ええ」

 悲しき宿命。逃れることは叶わない。でも、できることなら。どうか、この愛しき命たちに、今しばらくの平穏を。
 彼女は額についた宝石の飾り紐を引きちぎり、祈りを込めて二匹の子供の間に当てやった。
光が白みを帯びて輝きを増す。彼女の頬を濡らした涙がきらりとそれを反射した。

「ノウ、リオ……必ず、絶対生き抜いてね……!」

 ぴちょん。こぼれ落ちる一滴、そして――

ザパーン!

 大きな水音。白い光が二つの体を包み込む。眩い輝きが芽吹いたばかりの若葉に染み込み、全てを溶かして新たな息吹が生み出される。脈々と波打つ命の鼓動。立ち上るいくつもの気泡。二つの体の輪郭を、青く透き通らせて煌めかせ、アグノムの光は弾けて散った。遠ざかる水音。混沌とした世界が七色の本流に飲み込まれ、あちらこちらに飛散して、色の洪水が押し寄せる。
そして変化のときは唐突に終わりを迎える。
 闇色の濃淡を残した雲の隙間から、いくつもの光の矢が放たれた。
 柔らかな風、ひんやりとした草の感触、繋がれた、青と赤の小さな手。
 ゆりかごから投げ出された二つの命は、朝焼けの中、静かに始まりのときを迎えようとしていた。





―――――――――――――――
はじめまして!サンと申します。

はるか遠い昔に辺境の小説板に投稿していたものを
原型もわからなくなるぐらいに修正してみました。

いろいろぶっ飛んだ設定も多いし
広げた風呂敷をどこまで回収できるかわかりませんが
少しだけお付き合いいただけるとうれしいです!

【批評していいのよ】


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