マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ
このフォームからは投稿できません。
name
e-mail
url
subject
comment

[新規順タイトル表示] [ツリー表示] [新着順記事] [留意事項] [ワード検索] [過去ログ] [管理用]

  [No.4112] 一擲乾坤を賭す 投稿者:シガラキ   投稿日:2019/03/04(Mon) 20:39:12   89clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 エネコロロvsゲンガーで参加させていただきました!
 本文の8割は戦闘してます。トウカの森壊れる。


▼ ▼ ▼



 風の噂を聞いた。

「トウカの森に強すぎるトレーナーが現れた。森の中の荒廃していた空き家を買い取って、そこに住んでるらしい」

 ホウエン地方を横断し、また違う浅瀬に波打つ音が聞こえるこの地にまで吹いてきた風は、強いに違いない。時期外れに半ば押し付けられた長期休暇。それを持て余しミナモデパートのフードコートでシークアーサーを啜っていた僕のすぐそばで、若手トレーナーがそれを口にした。これはツイている。僕はシークアーサーを飲み干し立ち上がると、透明なプラスチック製の容器をくしゃりとつぶしてトラッシュボックスに放り投げた。
 人ごみをかき分けながら、胸ポケットからポケナビを取り出し立ち上げる。時間はあるのだ。豪勢に船旅を楽しみつつ行こうじゃないか。熱いバトルの未来図を胸に抱きながら、期待と共にポーチに入った6つのボールをなぞった。


 *―*―*


 俺は退屈していた。場所が悪かったのかもしれない。近場にふたつのジムがあるから猛者も集まるだろう、という安易な理由で赴いたことを後悔して眠った夜は4回過ぎた。挑んでくる奴は大概なんてこともないのでもう面倒くさい。いっそ旅に出てしまおうか。カビ臭い部屋でひとり、俺はインスタントコーヒーを飲み干した。

「たーのもー!」

 誰かの大声が鼓膜を鳴らす。その声が木々に阻まれ減衰して消えていくのを最後まで聞いてから俺は席を立った。机の上に転がろしていたひとつのボールを手に取り、靴を履いてヒビの入った玄関の扉を押して外に出る。少しひらけた場所で、生い茂る木の葉の隙間から差し込む淡い太陽光に照らされた声の主は、俺の姿を見るににやりと笑った。短い茶髪に小奇麗に整った顔立ち。そういえば、と俺は思い出す。鏡を持ってくるのを忘れていた。嫌な予感がして上唇の上を指でなぞると、やはりというべきか、そこにはそこそこ伸びた髭の感覚があった。もしかしたら俺は原始人のような恰好になっているのかもしれない。

「貴方が強いひと?」
「さあ? ――確かめてみろ」

 俺の言葉で確信したのか、そいつは瞳を大きく広げて笑いながらポーチのボールに手を伸ばした。俺もそれにならってボールを投げる。2つのボールが宙に舞い、中から2匹のポケモンが姿を現す――。
 にしても、俺が答えた途端に茶髪の端正な顔が愉しそうに歪んだのを見て、なんとなく関わりたくない気持ちも出てきた。あれは完全に――実際に見たことがあるわけではないが――ヤクをやってる顔だった。
 2人の間に出てきたのは、俺のゲンガーと相手のエネコロロ。俺と戦うためにここに来た奴としては、かなり珍しい手持ちだ。エネコロロという種族は能力的に中の下か、下の上。舐められているのだろうか。

「1on1。道具の付与なし。制限時間はなしで、どちらかが瀕死になった時点で即終了。いいな?」
「いいよ。そういえば、名乗っていなかったね。僕はサカエ。貴方は?」
「俺はカロク。さあ、お前の先制だ」

 このような野良バトルにおいて、ルールの確認はとても重要だ。誤解があれば亀裂を生み、望むバトルから逸脱していく。それはお互いに望まないだろう。
 俺に挑戦してきたサカエは、先制を貰ってもすぐに攻撃はせず、俺とゲンガーを値定めるように見つめていた。ポケモンバトルにおいて、トレーナーができることは的確な指示をポケモンに届けること。それには自身の知識、経験、そして相手と自分を注意深く観察することで精度を増していく。彼を見るに、先手を貰ったことで喜び勇んで突っ込んでくる自称感覚派の名人さまではないようだ。少しだけ期待が膨らんできた。
 エネコロロとゲンガー、タイプ相性的には微妙。ノーマル技はゲンガーに効かず、ゴースト技はエネコロロに効かない。その影響で俺のゲンガーの技のうち、1つが潰されてしまった。残りの3つの技で俺とゲンガーはエネコロロを仕留めなければならない。だがそれはエネコロロも同じことのはずだ。――目線が変化した。来るか。

「Bだ!」

 サカエの言葉にエネコロロはうなずいてゲンガーの方へ駆けだした。技名は言わないか。食えない奴だ。ゲンガーはそんなエネコロロを迎え撃つかのように構える。
 ゲンガーとの距離は10メートルを切った。そこであろうことかエネコロロは歩みを止めて地面を蹴って後ろに跳んだ。そして口元で電流で球を編み、それを飛ばす。恐らく『電撃波』だろう。その技の選択のやりにくさに、俺は思わず下唇を噛んだ。確か『電撃波』は必中といわれるほどの命中精度を誇るものの、威力は控えめの特殊電気技だったはず。

「木の陰に逃げろ」

 ゲンガーというポケモンは影に潜むことができる。しかもここは森の中。影なんていくらでもある。ゲンガーはケケケ、と笑うと足元の陰に潜んだ。遅れて『電撃波』がその地面に爆ぜるも、そこにゲンガーはいない。すでに影の中を移動している。薄い砂埃が舞う中、サカエは不用意に視線を周囲に向けず、ただ俺の視線だけを観察しているようだ。中々賢い。だが、そんなことは対策済みだ。

「『催眠術』」
「っ! 周りの木々に近すぎないように飛び回って!」

 このバトルフィールドは円形にひらけており、左右は木々が生い茂っている。そのせいで左右は日中でも少し薄暗い。影として潜むならそこを疑うだろう。しかしそれは当たるだろうか。俺はゲンガーにピンポイントな指示をしていないが、どこに隠れていそうなのかは何となく分かっていた。ほら、視界の隅でゲンガーの耳が地面から出て――。

「――! 近くの砂埃の陰だ! 距離を取って『電撃波』!」
「ッチ! 『そういうこと』かよ! 『シャドーパンチ』で弾き飛ばして距離を詰めろ!」

 影から出てきたゲンガーにエネコロロの『電撃波』が一直線に向かっていく。それをひきつけたところで、ゲンガーは『シャドーパンチ』で打ち返し『電撃波』はそのまま明後日の方向へ飛んで爆ぜた。距離を取るエネコロロにゲンガーは影と同化してスイスイ迫っていく。

「俺のゲンガーが物理型ってのはバレてんだな」
「コロちゃんが突然ゲンガーと距離を空けて『電撃波』を打ったとき、貴方は唇を噛んだ! 近寄らせないで! 『電撃波』!」

 ゲンガーというポケモンは特殊攻撃に秀でていることから、主に特殊技を使用するもが大多数だ。ゆえに基本的には中・遠距離を維持しながら戦うことになる。近距離に詰められてはまずいのだ。しかし、俺のミスのせいでサカエに『距離を取られると不都合がる』ということを知られてしまった。さらに『電撃波』を特殊技で相殺すればいいものの、1on1で隠れるなんてリスキーな選択をしているのだ。まともなトレーナーならゲンガーが型破りの物理型だと推測できるはず。悔しいが俺が未熟だった。さらに『催眠術』がフェイクであることは勘付かれているかもしれない。だが、『催眠術』を除く4つの技が出ていない以上、確信には至れないはずだ。物理・特殊の中に『催眠術』のような状態異常技などは含まれず、採用する可能性は低くないのだから。
 背後へ飛びつつ『電撃波』でけん制していくエネコロロに、ゲンガーは『シャドーパンチ』で弾いて対抗するも距離は縮められない。このままではじり貧だ。ならば、作戦を変えるまで。

「へっ! 『サイコキネシス』!」
「なっ! とりあえず『電撃波』を撃ち切って――」

 物理型だと露見したゲンガーに、メジャーな特殊技の指示。サカエは一瞬で先ほどまでの俺の行為がミスリードを誘うフェイクだったと判断したようだ。『サイコキネシス』は名の通りエスパータイプのエネルギーで、直接触れずとも物体を動かせたりできる技。捕まればその間自由を奪われることになる。さらに強い『サイコキネシス』だとそのままダメージも受けてしまう。そうなってしまう前に、ダメ元であるが『電撃波』でゲンガーの体勢を崩そうとしつつ、距離を取って『サイコキネシス』の射程圏外まで逃げようとしたのだろう。が、甘い。何せ俺のゲンガーは完全な『物理型』なのだから。
 『電撃波』が発射される直前、ゲンガーは高速でエネコロロの背後に回っていた。サカエはそのからくりに気づくがもう遅い。『不意打ち』は攻撃技に対して先制できる技。両腕から振り降ろされた『不意打ち』がエネコロロにヒットし、そのまま吹っ飛び地面に叩きつけられた。狙い通り。『サイコキネシス』などの特殊攻撃技のエスパータイプ技を指示した場合、それを『不意打ち』として処理するよう教えておいたのだ。さすが俺のゲンガー! 賢い。

「たたみかけろ! 『瓦割り』!」
「ッ! 『アイアンテール』で迎え撃て!」

 倒れたエネコロロに上から『瓦割り』を仕掛けるゲンガー。いち早く『不意打ち』の攻撃から復帰し起き上がり、尻尾に『アイアンテール』を展開するエネコロロ。しかし間合い、手数、タイプ相性からゲンガーが有利なのは明らかだ。
 右腕から振り下ろされたゲンガーの『瓦割り』を『アイアンテール』で弾くエネコロロ。その衝撃に耐え、負けじと左腕の『瓦割り』を振り下ろすゲンガーだが、それは空を切った。エネコロロは『瓦割り』との相殺で生じた衝撃を利用し、背後へ跳び去っていたのだ。エネコロロはそのまま軽い動作で4本足でしっかりと着地し、迎撃に備え『アイアンテール』を展開する。ゲンガーも両腕に『瓦割り』を展開し、構えたままにらみ合った。
 エネコロロの後ろ足が半歩下がる――同時にゲンガーがエネコロロに飛び掛かった。エネコロロはそのまま迎撃の構えを取り、ゲンガーはそのままエネコロロの背後に着地する。その着地を狙ったエネコロロが体を横に一回転させて勢いをつけた『アイアンテール』をぶち込んだ。しかし、それがゲンガーにあたることはなくそのまま空ぶった。そこにゲンガーの姿はない。直後、エネコロロは激痛と共に空中へ打ち付けられた。

「コロちゃん! 下の影からだ! 『電撃波』!」

 エネコロロの『アイアンテール』がさく裂する寸前、ゲンガーはすでに着地と同時に地面の影に潜んでいた。ここが森の中であること前提の行動。そのままエネコロロ空振りしたあと、不意をついて影から飛び出し『瓦割り』を打ち付けた。エネコロロは空を隠す木の枝や葉にぶつかりそうな高度まで飛ばされるも、負けじと歯を食いしばり『電撃波』を真下のゲンガーに向かって放った。

「『シャドーパンチ』!」

 真上から放たれた『電撃波』を『シャドーパンチ』で難なく弾く。エネコロロは飛ぶ技術は持ち合わせていない。つまり、エネコロロが空中にいる限り、必ず地上へ落ちてくる。そこを迎撃すればいいのだから、必要以上に動く必要はない。俺も落下するエネコロロを見てタイミングを狙っていた。

「ここだ! 『瓦割り』! 振り下ろせ!」

 ゲンガーは両腕に『瓦割り』を展開する。エネコロロは尻尾に『アイアンテール』を展開する様子はない。このまま叩きつけて、そのまま瀕死までラッシュをかければ勝利だ。ゲンガーの両腕が落下してきたエネコロロに振り下ろされる――。

「そうはならないさ! コロちゃん!」

 一瞬、エネコロロが白く光った気がした。直後、ゲンガーの『瓦割り』がさく裂する。が、そのエネコロロだったものはあろうことか煙と共に消えてしまった。刹那、その煙の裏から伸びてくる影が――。

「『アイアンテール』!」

 エネコロロの『アイアンテール』の奇襲が見事ゲンガーに命中し、そのまま吹っ飛ばされた。何度か地面をバウントしながら数メートル飛んだところでゲンガーは何とか止まり、立ち上がる。恐らくあれは『身代わり』。ゲンガーの『瓦割り』がエネコロロを襲う寸前、エネコロロの体が一瞬だけだが光った気がした。その時点で『身代わり』を発生させ、本体は後ろに隠れたのだろう。そしてそのまま『身代わり』を攻撃させ、その後の隙を狙ってきたわけだ。攻撃はもらってしまったが、これで相手の手の内は全て知れたようなもの。技構成は『電撃波』『身代わり』『アイアンテール』と、タイプ一致だがゲンガーには無力の『ノーマル技』。『電撃波』をかいくぐって接近戦に持ち込めば完全にこちらに分がある。

「ふふ……」
「……」

 俺が勝利への道を捜索していると、不意にサカエが笑い出した。怪訝に思って俺は彼に目線を向ける。

「どうやら、まだ天に見放されてはいないようだ……。勝つよ、コロちゃん!」

 サカエの掛け声に、威勢の良い鳴き声で応えるエネコロロ。俺は1人と1匹から注意をそらさず考える。
 奴は先の戦闘で勝ちを引き寄せる何かを見いだせたらしい。その言葉のタイミングからして、『身代わり』で防御したあたりから『アイアンテール』でゲンガーを吹っ飛ばした間のことだろう。その間に起った何かがサカエの自信に火をつけた。模索しろ、試算しろ。どこかにヒントがあるはずだ。『身代わり』には体力を削らなければいけないという制約がある。それを払い、さらに攻撃を防御できたことによって生じる何かがあったのか。それとも『アイアンテール』のヒットに何か布石を置いたのか。『アイアンテール』の追加効果はたまに被弾させた相手の防御の能力値を一時的に下げるものだ。それを引き寄せたのか。だから『天に見放されていない』と判断したのか。いいや違う。これまでの勝負からして、サカエの戦術はとても整っていた。防御を下げたところで勝ちを見いだすほど楽観視はしないはず。しかし何かが彼を奮起させたのだ。どれだ、どこのどんな要因だ……?

「コロちゃん! D!」

 エネコロロは彼の言葉を聞いて再び駆け出した。今度はDときたか、俺は内心で舌打ちしてエネコロロの動向を予測する。
 サカエには俺のゲンガーが物理型の近距離タイプであることがばれている。すなわち、接近戦を仕掛けてくるということは勝つための決定打を持っているということ。見る限りそれほどの決定打は『まだ』持っていないとみえる。つまり、Dと銘打っているが恐らくBのように接近戦を仕掛けるフェイントをしつつ、実際は遠距離を行うパターンだろう。それにBよりも踏み込んだフェイントとみた。ならば、それを逆手に取ろう。引く前提の接近など、知ってしまえばただのカモだ。

「『シャドーパンチ』!」
「!」

 俺の考えは相棒と密接にリンクしている。ゲンガーはこの指示を待っていたに違いない。白い歯を見せて相変わらず不気味な笑顔で『シャドーパンチ』を放つ。はたから見て不気味な笑顔でも、俺にとっては世界一かっこいい笑顔だ。
 『シャドーパンチ』という技。そのパンチと名付けられている技の実態は射程無視、伸縮自在の影を使った『第三の手によるパンチ』だ。命中精度は『電磁波』や『燕返し』と並び、必中と謳われるほど。ゴーストタイプのエネルギーで実体化した影を第三の拳として飛ばし、それをパンチとして利用する。
 ただ、『シャドーパンチ』はゴーストタイプ。ノーマルタイプのエネコロロにはダメージを与えられない。ではなぜそれを放ったのか。それは攻撃のためではない。
 ゲンガーの『シャドーパンチ』がエネコロロの体を貫通する。貫通、というよりも『すり抜けた』という表現の方が正しいかもしれない。その拳はエネコロロをすり抜けた後も伸び続け、後ろの根に近く太い木の枝をつかみ取った。これが目的だった。しっかりと掴むとゲンガーは地面を蹴る。同時に『シャドーパンチ』の伸縮性を利用して、伸びていた部分を縮めることにより体は掴んだ枝に向かって急加速した。これはつまり、掴んだ枝の位置はエネコロロの真後ろなため、エネコロロへ急接近したと同義である。踏み込んだフェイントを仕掛けようとする中、思いがけない急接近に対し満足に対応できるとは思えない。
 多少は狼狽するだろうかと俺はサカエを見た。そして目を見開く。彼は狼狽えてなどいなかった。――笑っていた。

「そうくると思っていたさ」
「……」
「貴方のゲンガーの技は要所では使わない『催眠術』と他は物理技しかない。貴方が勝つためには接近戦に持ち込むしか手はなかった。だから『こうくると思っていた』」
「――ッ! そのままたたみかけろ!」

 『催眠術』がフェイクなのはばれていたか。そして今更退くにしても遅すぎる。ここでの最悪の結末は無駄に退いて体勢を崩し、そこを押し込まれて取り返しのつかない状況に陥ることだ。それに、まだ策はある。ただこれにはタイミングが重要であり、そう迂闊には使えない九死に一生を得る『反撃』だ。
 勢いと共にラリアットのようなかたちで右腕の『瓦割り』をエネコロロに仕掛けるゲンガー。しかしエネコロロはそれを身をかがめてかわし、すぐさま横から『アイアンテール』をぶち込んだ。響いたのは高い音。ゲンガーは『アイアンテール』を食らう瞬間、左腕の『瓦割り』でそれを防いでいたのだ。その衝撃で横に軽く吹っ飛んだゲンガーは2本足で確かに着地し、エネコロロへ飛び掛かる。

「距離を空けるな! 『瓦割り』!」
「――ここだっ!」

 太陽を背に飛び掛かったゲンガーに対し、エネコロロの右の前足が淡い水色に光る。同時にサカエのポーチの中にある何かが同じ色で光った。――直後、ゲンガーが攻撃するよりも少しだけ早く放たれた無数の透明なつぶてがゲンガーを地面に叩き落とす。『氷のつぶて』。確かにそれは『氷のつぶて』だった。倒れこんだゲンガーにエネコロロは空中に跳んでくるりと一回転し勢いをつけて『アイアンテール』を繰り出す。ゲンガーは寸でのところで起き上がり、俺の方へ逃げて距離を取った。対象を失った『アイアンテール』は地面にあたり、地面が削れて土の破片が宙に舞う。
 俺はエネコロロと向かい合うゲンガーがよろけるのを隅で見て、ダメージの蓄積を感じていた。しかし、彼の手の内はもう理解した。今回は悪運とまではいかないものの、運を勝ち取りきれなかったようだ。ありえない『5つ目の技』によって、自分で種明かしをしてしまったも同然。ノーマルタイプ特有の技の多様性、それを利用したかったのだろうが、まさか2回目で地雷を踏むことになろうとは。運はこちらに向いている。

「小賢しいな。『猫の手』で遅延か」
「バレちゃったか」

 エネコロロの体力を吟味してみる。いいや、するほどでもないか。『身代わり』のコストはかなりのものなはず。威力が低い『氷のつぶて』を受けたとしてもゲンガー優位には変わりない。だが、問題はエネコロロが使った『猫の手』だ。
 『猫の手』は手持ちのポケモンの持ってる技をランダムで繰り出すギャンブル技。それは6匹以下の場合にのみ発動でき、それよりも多くのポケモンを持ち歩いている場合は発動しない。だから、今の状況で『猫の手』から繰り出されるであろう技の種類は、多く見積もって20。ゲンガーにタイプ相性で効果がなかったり、技の重複や『猫の手』で繰り出せない『指を振る』や『ミラーコート』などの技を考慮するともっと少なくなる。もしも、あえて『猫の手』で選ばれることのない技を持つポケモンを手持ちに入れることで、繰り出されるであろう技をあらかた推測できる構成にしていることもありえる。『身代わり』、『氷のつぶて』。これだけでは判断しにくい。『火炎放射』や『10万ボルト』などのメジャーな高威力で安定性のある技が選抜されていないことが気になる。ただ繰り出されなかったのか、それともそのような技を持つポケモンを持っていないのか。後者だった場合、『猫の手』で出る賽の目が自分有利に働く可能性が高い。『猫の手』のために組まれたパーティ構築をしている可能性がある。とても奇妙で珍しいが、こいつだったらやりかねないような気がする。
 サカエのポケモンの手持ちを推測するにしても、それにはもっとヒントがいる。しかし、それを得るためには『猫の手』をもっと使わせないとろくに推測ができず、本末転倒だ。ここは賭けるしかない。先ほどサカエは、天に見放されてはいない、とそう言った。どうしてそう言ったのか。それはあの状況を突破できる可能性が僅かだったから。つまり『身代わり』やその他の『状況を切り抜けられる技』が出ない可能性の方が高かったということ。俺は考える。奴の手持ちは『猫の手』を中心に考慮して選ばれているものではない、と。

「一気に叩く! 『瓦割り』!」
「またそれかあ。同じ味ばっかだと見栄えしないじゃないか、『猫の手』」

 駆け出したゲンガーに対し、エネコロロは『猫の手』を振りかざす。
 ここで『猫の手』か。俺は『電撃波』で距離を取って戦うだろうと思っていた。駆け出し距離を縮めていくゲンガーに対し、その判断を下すとは余程『猫の手』を信頼しているのだろうか。となると、もしかしたら本当に『猫の手』専用のパーティを組んでいるのかもしれない。悪趣味な奴だ。
 エネコロロの腕が今度は緑色に光った。同じくサカエのポーチの中のもの――恐らくポケモンが入ったモンスターボール――も呼応するように緑色の光を放つ。
 一瞬、大地が揺れ動いた気がした。刹那、エネコロロを中心に地面から複数の大きな根っこが這い出してきて、鞭のようにゲンガーへ向かって繰り出された。――『ハードプラント』。ここで草タイプの大技を引くとは、なかなかどうして天に見放されてはいないというのもうなずける。しかし勝敗を分けるのに必要なものは運だけではない。ゲンガーの視線を一瞬だけ感じた気がした。運なんてもの、単純明快な力量で押しつぶしてやろうじゃないか。なんとなく伝わってきた相棒の心意気に、自然と口元が緩む。

「突っ切れ!」

 ゲンガーを真上から襲う根に、ゲンガーはあえてジャンプして近き、『瓦割り』でそれを引き裂いた。そして引き裂いたその僅かな隙間から根の上へ飛び出し、根の上に着地して駆け出す。そう簡単にはさせないとゲンガーが乗った根に対し、うねりくるほかの根が下から叩きつけた。衝撃によりゲンガーは空中へ投げ出される。そして空中に漂うゲンガー目掛けて2つの根が左右から押しつぶすかのように迫った。ゲンガーは愉快そうにケケケと笑うと、『シャドーパンチ』で先ほどまで乗っていた根を抱え、そこ目掛けて急発進する。ゲンガーを逃がした2つの根は双方正面衝突し、お互いの矛先をぶち抜いてそのまま動かなくなった。それによって飛び散った木片が降る中、ゲンガーは再び駆け出す。が、先ほど下から叩きつけた根も、ゲンガーを乗せている根の表面をグルグルと螺旋状につたいながらゲンガーを追ってきていた。そして不意をつくようにゲンガーの背中目掛けて直進する。けれども、後ろから轟音をばらまきながら近づく根にゲンガーが気づかないはずがなかった。ゲンガーは背後からの直進してきた根をジャンプしてかわし、『シャドーパンチ』で先端を捉えてそこに降り立つ。その根はそのまま直進してエネコロロのすぐ隣の地面に突き刺さった。ゲンガーはその衝撃をあえて利用し、真上へ飛び出して下にいるエネコロロを見据える。――エネコロロの硬直は未だ解けていない。ニヤリと口を半円に緩めながらゲンガーは『瓦割り』を展開し、エネコロロへ落下の勢いと共に振り下ろした。
 しかし、その『瓦割り』がエネコロロに届くことはなかった。エネコロロのそばに突き刺さった根が再び動き出し、地面を削りながら横へ移動し始めると、そのままエネコロロを掬って投げ出したのだ。当然『瓦割り』はその根を裂き、投げ出されたエネコロロの硬直は空中で解けてそのまま着地した。同時に複数の根は力なくその場に崩れ落ちる。
 俺は乱雑に乱れまくったフィールドを見て、ふと後始末のことが頭に浮かんだが、すぐさま取り払った。とりあえず今は嫌なことは後回し。今必要なのはこいつをどうするか、だ。

「貴方のゲンガーの動き、素晴らしいね! あの大技が出れば大概は勝負つくのに……」
「ふん。そこらのやつの一緒にするな」
「そうだね、『猫の手』」
「させるか! 『不意打ち』!」

 再び己の右前足に光を灯すエネコロロ。それに向かって地面にある影に溶けて急接近し、背後を取ったゲンガー。エネコロロもそれに気づき、その振り向いて右足をかざして迎撃の体勢を取る。が、少なくても俺とゲンガーはこの時点で何かがおかしいことに気づいていた。
 『不意打ち』は攻撃技に対して先制できる技。しかし相手が技を繰り出せなかったとき、あるいは攻撃を介さない補助技を繰り出したときには失敗してしまう。ここで今の状況をみてみると、ゲンガーの先制するはずの『不意打ち』がエネコロロに読まれてしまっている。振り向いて、今にも返り討ちにされそうな立ち位置だ。――エネコロロに対し先制できていない。これより導き出せる結論は、『猫の手』によって選ばれた技は攻撃技ではないということ。

≪――ッ!!≫

 エネコロロの白く光った足から不協和音が飛び出してきた。ゲンガーは驚いて体勢を崩し、耳を抑えながら地面に落ちてしまう。エネコロロも発信源である右足をできるだけ遠くまで伸ばし、目を閉じて反対の左足で左耳をふさいでいる。唄とも演奏ともにつかない、黒板を爪で思いっきり引っ掻いた音をライブ会場の爆音で聞いているかのような、しかもそれには一定のテンポが刻まれている。これは、確か。

「『滅びの歌』……ッ! ここで引いちゃうか……!」

 歯ぎしりと共にサカエが小さく呟いた。
 『滅びの歌』、これを聞いたポケモンは一定時間が経過すると『瀕死』になってしまうという。しかもそれは相手だけでなく、発した自分にさえ襲い掛かる。ポケモンを入れ替えればその効果を打ち消せるのだが、この勝負は1on1。入れ替えは許されない。これらが示すのは、

「コロちゃん! 『電撃波』!」
「ゲンガー! 『瓦割り』!」

 ――効果がくるよりも先に相手を倒す。『滅びの歌』が響き渡る最中で両者が動けないにも関わらず、俺たちは叫んでいた。
 このまま持久戦を持ち込んでは引き分けという何の面白みのない結果になってしまう。純粋なポケモントレーナーとそのポケモンは、少なくても俺は、それを一番嫌う。多分ゲンガーも同じだ。証拠に、俺が指示を出すよりも先に、耳を塞ぎながらも一歩前に踏み出していた。
 『滅びの歌』が響き終わる。それを合図にゲンガーはエネコロロへ向かって駆け出し、エネコロロはゲンガーに向かって『電撃波』を放った。ゲンガーは地面にある影の中に身を潜めると『電撃波』はゲンガーを見失い地面に爆ぜた。ゲンガーは地面や根の上にできた影をつたってエネコロロへ迫っていく。

「くそッ! 『猫の手』!」

 サカエが『猫の手』を指示した。この状況において『猫の手』のギャンブルは限りなく危険であることを知っての苦渋の決断だろう。今までのサカエの言葉や表情から分析するに、彼の『猫の手』は完全に運任せの博打。自分のパーティも『猫の手』を中心に組まれたものではない。ここで『猫の手』を繰り出すことが、どんな影響をもたらすのか。エネコロロの右前足は淡い瑠璃色の光を放っていく――。
 ついにゲンガーがエネコロロのもとにたどり着き、エネコロロの影から飛び出して『瓦割り』を繰り出した。しかしそれは豪快な羽音と共に空振りに終わる。ゲンガーが上を見上げると、そこには半透明な翼が背中に生えたエネコロロが空を停滞していた。――『空を飛ぶ』。

「まさかここでこれを引いてくれるとはね! 『電撃波』!」
「ッ! 根を使え!」

 俺は『空を飛ぶ』が選ばれたのは初めて見たので、まさか実際に翼が生えるとは思いもしなかった。しかし、見る限りエネコロロは鳥ポケモンほど翼を扱いきれていない。叩けば落とせる。
 エネコロロが背中の羽をぎこちなく羽ばたかせながら『電撃波』の球を込めている隙に、ゲンガーは『ハードプラント』により発生した大きな根を使って上へ上へと上がっていく。それを狙って『電撃波』が放たれるも、空中でろくに効かないコントロールと入り組んだ根の残骸でそれはゲンガーには届かない。
 一番高度が高い根の先まで到着したゲンガーはそのまま飛び出して、エネコロロを上から攻める。

「『瓦割り』!」
「――『アイアンテール』!」

 空中でふらふらしているエネコロロに、回避という行動をとらせるのはいささか不安があったのか、サカエは迎撃する選択肢をとった。エネコロロは何とかバランスを取り、上から飛び掛かってきたゲンガーの『瓦割り』に対して『アイアンテール』を合わせる。が、勢いをつけて振り下ろす『瓦割り』には勝てない。衝撃は和らげたものの、そのまま押し負けて地面へ落下した。ゲンガーはエネコロロと少し離れたところに着地し、そのまま駆け出した。エネコロロも体力を振り絞りながらなんとか立ち上がる。

「終わりだ! 『瓦割り』!」
「『猫の手』!」

 この際まだ『猫の手』に頼るのか。しかし一見頼りない選択肢だが、無視できない爆発力があるのは確かだった。エネコロロの足が再び光を放つ。それは深い藍色に輝きを持ち、そして――。

「ゲンガー! 下がれ!」

 とてつもない気迫。俺の直感がこれはやばいと赤ランプを点灯させた。ゲンガーは慌てて足を止め、地面を蹴って後退しようとする――寸前、何かがゲンガーの頬をかすってそのまま横たわっている大きな根を破壊した。
 俺とゲンガーは突如破壊され、砂埃があがった根を見据えた。先ほどまでいた場所からエネコロロは姿を消している。恐らく、いや、十中八九これはエネコロロが『猫の手』で引いた技の何かだ。『猫の手』の爆発力、これはまさにそれだ。ここにきて爆発させてきた。俺は噛みしめる。ゲンガーも身構えなおした。――来る。
 破壊された根の付近で巻き起こっていた砂埃が、蒼い嵐で一蹴される。その中には燃えるような蒼いオーラをまとうエネコロロがいた。これは『逆鱗』。ドラゴンタイプの中でも追随しない暴力性をはらんだ技。威力はさきのを見て知っての通りだ。これをまさかこのタイミングで引き当てるとは侮れない。
 動悸が荒くなっていく。無意識に、自分が震えていることに気づいた。それは武者震いなのか、武者震いだったらどれだけよかったか。どうする、あの技をどうやって攻略する。震える手を無理矢理握りしめ、何とか考えようとした。それでも焦燥ばかりが前に出てきて何も考えられない。額に汗が流れる。

"――ッ"

 突然、ゲンガーが吠える。その声が俺の中にあった不安や焦りの霧をすべて掃きだした。俺がゲンガーを見ると、彼はこちらを向いてニヤリといつものようにケケケと笑ってみせた。その笑顔を見て、俺は思い出す。俺の相棒は負けを恐れず勝ち取るすごい奴であると、そう確信したあの日の興奮を。

「あぁ……そうだ。まだ、いけるな?」

 ゲンガーは自信満々にうなずいた。彼も分かっていた。まだ俺達には『反撃』の手段が残されていることを。

「いいね……! 唄がくるまでに、決着をつけようか! 『逆鱗』!」
「ああ! 望むところだ! ゲンガー!」

 サカエの声に呼応したエネコロロが咆哮する。そして、蒼いオーラで地面を抉りながらゲンガーに向かい駆け出した。ゲンガーは自分から飛び掛かることなく、ただエネコロロを見据えて構えた。その対面する瞬間まで。
 最初にゲンガーを襲ったのはエネコロロの突進。それをゲンガーは左に滑って避け、エネコロロを視界から外さぬように振り向くもそこに姿はない。

「上だ!」

 俺の声に呼応したゲンガーはあえて上を見ず、そのまま後ろへ飛び去り、上から飛び掛かってきたエネコロロの隕石のような『逆鱗』による突撃をかわした。苔の生えた岩もろとも砕くその威力に、地面はなすすべなくえぐり取られて破片が宙に舞う。しかしそれだけでエネコロロの猛攻は止まらない。
 後ろに飛び去ったゲンガーに追いつくほどの速さで、エネコロロは地面を沈没させるほどに蹴って、さらに距離を詰めていく。ゲンガーに追いついたエネコロロの放った右足がゲンガーの頬をかすり、衝撃で多少吹っ飛んだ。なんとか倒れずに地面を滑りながらも堪えて立ちなおしたゲンガーの目の前には、すでにエネコロロの回し蹴りが迫っていた。さらにゲンガーは身を反らしてそれをかわし、その勢いで後ろに下がっていく。――が。
 その下がった先で、ゲンガーの背中が何かにあたった。そこには『ハードプラント』によって出現した根が横たわっていた。エネコロロはここに誘導していたのだ。何もないところで全力をぶつけるよりは、相手が逃げられない空間に追い込んで確実に当てる。背後に逃げ道を失ったゲンガーの目の前には、『逆鱗』を宿したエネコロロの突進が迫っている。それは今までとは比べ物にならないほどのスピード。それは――

「『逆鱗』!」

 一縷の青い光のように一直線にゲンガーへ激突した。ゲンガーは腕で防御しようにも、強すぎる力にあっけなく押されていく。

「ゲンガー!」

 ゲンガーをつたって後ろにあった大きな根が音を立てながら壊れていくほどの威力。砂埃がその場から逃げるように去っていった。しかし、その中でもゲンガーはまだ耐えている。蒼く暴力的な美しさをも感じさせるオーラを前に、ゲンガーは未だ立っていた。そして、いつもと変わらずに唇を緩ませるのだ。

「『カウンター』!」
「――」

 叫びと共にゲンガーの拳が赤く光る。それにはエネコロロによる猛攻以上の破壊力が見込めるほどの『反撃』。全てを凌駕する熱気がそれには込められていた。エネコロロの『逆鱗』が徐々にゲンガーに押し返されていく。そしてエネコロロの吐いた一瞬の緩み。その刹那が勝負を変えた。
 ゲンガーはエネコロロを押し飛ばした。エネコロロは『逆鱗』の効果時間も解けてそのまま宙に放り出される。重力に従って落ちるエネコロロ。この瞬間が俺にはスローモーションのように感じられた。そのエネコロロ目掛けてゲンガー渾身の『カウンター』による掌底打ちが繰り出される。――未だ瞳に闘気の光が宿っているエネコロロに向かって。

「『猫の手』!」
「ぶちかませ!」

 瞬刻のうちは何が繰り出されたのかはわからなかった。ゲンガーの『カウンター』がエネコロロに命中する。一拍遅れてその威力さながらの爆発が爆音を引き連れて巻き起こる。その爆風によって周囲の木々は乱れ、俺とサカエの両者は腕で目をカバーするほどに強烈な砂埃が舞った。その中でも俺はうっすらとその中心を見据えていた。この勝負の行方は、凱歌をあげることになるのは果たして――。



 ***
 


「おい、そっちの根っこ」
「あっ、うん」

 すでにヨルノズクの姿が垣間見える満月の下。俺とサカエは滅茶苦茶にしてしまったトウカの森の修復作業を行っていた。こういう公式なフィールドではない場所でバトルを行い、フィールドを破損させてしまった場合はその管轄のジュンサー連盟に報告して元来の姿に戻す義務がポケモントレーナーには課せられている。自然環境やポケモンの生態系を崩さないようにという処理であり、これをしないと問答無用で罰せられても文句はいえないほど重要な作業だ。これをせずに大地を増やそうやら海を増やそうやら企む集団がいるものだから、身の程知らずだなあとため息が出る。
 ちなみにフィールドを滅茶苦茶にしてしまった一番の理由は『ハードプラント』で発生した根っこである。俺のポケモンが出した技ではないのだが、いやはやポケモンバトルをしていたのはサカエと俺であり、勝負で出てしまった損害である以上当然俺にも半分責任がある。俺とサカエで半分半分。これが正しいかたちだ。
 最初はサカエのポケモン達にも後始末を手伝って貰っていたのだが、残念なことに日が沈むまでに終わらなかった。そこで今日は一旦お開きということで、俺の家で皆で仲良くごはんを食べたて寝ようという話になったのだが、俺の手持ちはゲンガー1匹しかおらず、今回の後始末に俺1人ではあまり貢献できていないことになんか負い目を感じていた。故に夜中抜けだして1人で作業をしていたところに、サカエもやってきて2人で作業をすることになったのだ。そして今に至る。

「にしても、結局どっちが勝ってたんだろうな」

 巨大な根っこを少しずつ切り刻んで小さくしたあと、地面に埋める作業をしながら、ぽつりと俺は呟いた。
 ゲンガーの『カウンター』がさく裂したあと、辺りは砂埃にまみれた。その後、ゲンガーとエネコロロの両者の反応が見られず、一旦バトルを中断して見に行ったところ、どちらも戦闘不能の状態で倒れていたのだ。これならばゲンガーの『カウンター』でエネコロロが倒れ、その後『滅びの歌』の効果でゲンガーが倒れた、というゲンガーの勝利で終われたのだが、おかしな点がひとつ。
 あれほどの攻撃を食らったはずのエネコロロは吹っ飛ばされず、ゲンガーとエネコロロはすぐそばでお互い倒れていたのだ。このことから、両者とも『カウンター』が十分に発動する前に『滅びの歌』で倒れたのか、それともサカエが最後に指示を出した『猫の手』で何かの技が出て、ゲンガーを倒したのちにエネコロロが『滅びの歌』で倒れたのか、まったく見当がつかなかった。ちなみに戦闘不能となった2匹はすぐさまトウカのポケモンセンターに運んで、今は両者とも手元にいない。

「ま、十中八九どちが勝ったかは分かってるけどね」
「お、マジ? 実は俺も」

 手を止めて笑みを浮かべて言うサカエに、俺も笑ってうなずいた。さすがは俺とゲンガーに善戦させただけはある。見る目があるということか――。

「俺のゲンガーの勝ちだな」
「僕のコロちゃんの勝ちでしょ」

「……」
「……」

 間違えた、見る目ねぇよこいつ。
 綺麗なほどに平行する意見が飛び交いながらも、いつも通りトウカの森の夜が更けていった。


- 関連一覧ツリー (★ をクリックするとツリー全体を一括表示します)

- 返信フォーム (この記事に返信する場合は下記フォームから投稿して下さい)
おなまえ※必須
Eメール
subject 入力禁止
Title 入力禁止
Theme 入力禁止
タイトル sage
URL 入力禁止
URL
メッセージ   手動改行 強制改行 図表モード
添付ファイル  (500kBまで)
タグ(任意)        
       
削除キー ※必須 (英数字で8文字以内)
プレビュー   

- 以下のフォームから自分の投稿記事を修正・削除することができます -
処理 記事No 削除キー