『その後私はカオリを宿舎に連れて行った。意識は回復したが、あの男の言った通り、何も覚えていなかった。…いや、まるでそんなことが最初から無かったかのようだった』
所変わって、現在のやぶれたせかい。長い長い話がやっと終わろうとしていた。
『で、そのツキミヤとかいう奴はどうしたんだ?』
『去って行った。何処で何をしているのかも分からない。それ以前に、何故カゲボウズを大量に引きつれ、感情を食べさせているのか…』
『ふーん』
それだけ言うと、レントラーはそのまま眠ってしまった。
『カオリが何も無ければ、私はそれでいい。そう、思い出さなくていいんだ…』
カオリ…ファントムは、曇り空の下を歩いている。大通りの交差点の信号が青になり、駅とセンター街から一斉に沢山の人間が吐き出される。彼らの中に混じって、ファントムも歩く。
真ん中まで歩いた時、一人の青年とすれ違った。落ち着いた色合いの金髪、整った顔立ち。不思議な雰囲気を持つ者だった。
ファンは何も言わず、センター街の方へ歩いて行く。
灰色の空から、白い物が舞い落ちる。
最後の日の街に、雪が降って来た。
―THE END