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  [No.3789] カイリューが釣れました 3 投稿者:マームル   投稿日:2015/07/25(Sat) 17:51:36   104clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 カイリューは何をする事も無かった。
 あれから、休日を除く日は仕事に行こうが付いて来る事も無ければ、俺とウインディ、それとムシャーナにちょっかいを掛ける事も無かった。
 俺から貰うポケモンフーズをぽりぽりと食べ、俺が居ない時は外をぶらぶらと回って近所を騒がせ、俺が居る時は俺とウインディと一緒にテレビを見たり。
 正に居候そのものだった。
 ここに来てからは俺にとって害になる事もしなかったし(食費やら近所への説明やらはあったが)、かと言ってこれと言って益になる事もしなかった。
 ドラゴンタイプの生命力、それは近付けば慣れた今でも少し畏怖を感じる程にあるのだが、このカイリューには活気が無かった。
 生命力を持て余しているような、そんな気もした。
 そんなカイリューは、くぁ、と俺の近くで欠伸をする。長く、大きく口を開けて。口の割りには小さな歯が並んでいるのが見える。
 そしてむずむずと鼻を動かして、体を丸めて大きくくしゃみをした。
 居眠りをしていたウインディが跳ね上がる。慣れた今でも、俺も少しびびる程の反応をしてしまう。
 そのままガラスに向けてやられたら、ガラスがはじけ飛ぶ気がした。
 そんな事がありながらも、俺の日常はそこまで変わっていなかった。
 朝起きて、ウインディを連れて仕事に行く。カイリューがぶらぶらと外を散歩する。
 仕事を終えて、ウインディと一緒に帰って来る。カイリューが庭で待っている。
 テレビを見ながら二匹と一緒に夜飯を食べる。シャワーを浴びて寝る。
 大して変わらない日常だった。
 同僚に話すと、とても珍しがられた。
 俺もそう思う。
 その一番の理由は、カイリューも俺も、互いに大して何も要求していないからだと思えた。
 ……と言うよりかは、俺はカイリューに対して大それた事を要求出来なく、そしてカイリューは俺に対して、ここで暮らす事以外を要求していない、と言った方が正しいか。
 カイリューが暴れたら、俺とウインディには為す術も無い。ただ居るムシャーナも、戦う姿を見た事は無いが一緒だろう。
 それを恐れずには居られなかった。ここに居るなら俺のものになれとボールに入れる事すら出来ない。そんなでもお人よしにカイリューに飯を与えているのだが。
 けれども、それでも別に良かった。
 ただ隣に居るだけ。それだけで俺はカイリューが居ない時より満たされていた。きっと、カイリューも同じだった。
 それ以上、カイリューも俺も、今は望んでいなかった。

 休日、起きるとムシャーナが居なくなっていた。
 妻は、どう思うのだろうか。きっと、カイリューが居る事も伝わる筈だ。
 とは言え、どうなる事でも無いだろう。俺が曲がらない限り、きっと帰って来ない。そして、曲がるつもりは無い。
 それだけの事がきっとずっと続くのだろう。
 互いに曲がらずに、子も為さずに、離婚も再婚もせずに、そのまま終わるのも有り得ると思う。
 目覚ましを掛けなかった今日の朝、いつもより遅めに起きる。ウインディは器用に自分でドアを開けて外にもう既に出ている。カイリューも居なかった。
 欠伸をして、目を擦って、起き上がった。でも、二度寝する事にした。少し疲れている。

 暫くして、ウインディが俺を起こしに来る足音が聞こえた。圧し掛かってべろべろ舐められる前に起き上がる。
 頭を掻きながら、ドアを開けられるならポケモンフーズも自分で取って食えよと言いたくなる。それはそれで困るが。
 寝室にウインディが入って来て、跳び掛かられる前にベッドから降り、そして跳び掛かって来たので横に避けた。
 まともに跳び掛かられて、蝉ドンされ、そのままウインディが壁に爪を立てながらずるずる床に落ちた日何て、本当に何とも言えない気持ちが一日中続く羽目になった。
 躱すとカイリューが入って来て、壁からずり落ちるウインディを不思議そうに眺めた。
「……飯にするか」
 とは言え、休日だろうと食う物は大して変わらないのだが。

 飯を食い終え今日はどうするか少し悩む。
 ただぼうっとしているのも、ここにずっといるのも余りしたくはなかった。
 また魚釣りにでも行くか、と思うが、カイリューを連れて行く事になると、傍にいるだけで釣れなくなりそうな気がした。
「……町にでも、行くか」
 ただ居候しているだけ。きっと俺やウインディを害する事は無いだろう。そうは思えても、保険は欲しかった。
 外へ出る。カイリューも今日が俺にとっての休日だと分かっているらしく、ラフな格好の俺に付いて来た。
 ウインディの背に乗って、「町に行くぞ」と言うと、意気揚々と走り出す。
 後ろを振り返ると、カイリューも空を飛んで追って来ていた。小さな翼なのに、余裕のある飛び方だった。
 ウインディもそれを見て、負けじと足を速める。カイリューが付いて来る。
 足を速める。カイリューがそれを追う。
 やめてくれ、と言おうとした時にはもう遅かった。俺は下手に走る車何かよりとても速く走るウインディの背中にしがみつくのが精いっぱいだった。
 吐くかもしれないと思った。


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