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  [No.3800] カイリューが釣れました 6 投稿者:マームル   投稿日:2015/08/19(Wed) 18:04:40   120clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:カイリュー】 【ウインディ

 冬が本格的に来る前に、俺はカイリューに内緒でまた、リュウセンランの塔に行く事にした。
 セッカシティまで、交通機関を乗り継ぎ、最寄りからはウインディに乗って行く。カイリューに内緒で行く以上、車は使えなかった。

 セッカシティに着く。
 もう、ここは雪が結構降っていた。さらさらと降り積もりつつある雪の中歩くが、乗っていなくても隣に居るウインディのお蔭で大した寒さは感じない。
 セッカシティの小さな住宅街で俺は立ち止った。
 来た理由は、カイリューについて知る為だ。何も知らなくても良い、とも思っていたけれど、ボスゴドラの件があってから俺は、どうもカイリューがこのリュウセンランの塔に居た時に何かあったのではないかと気になっていた。
 子供に関する事。そう予想が付いていたが、その予想が正しいのかどうか、知りたくなって仕方がなかった。
「ばれたらどうなるんだろうな」
 ウインディに聞くが、特に何も話してはいない。ウインディは首を傾げるだけだ。
 怒るのだろうか。
 それとも、暴れてしまうだろうか。
 暴れられても、ココドラとウインディであれば、頑丈がむしゃらと神速で何とか倒せるだろうけれど。
 いや、今は考えないでおこう。
 有給取ってここに来ている何て、カイリューには分かりっこ無い事だ。リュウセンランの塔の臭いを嗅ぎ分けられる程、カイリューの鼻は鋭くもない……と思う。グラエナとかじゃあるまいし。
「お前、リュウセンランの塔の臭いって分かるのか?」
 ウインディは頷いた。
 ……不安になって来た。帰ろうか。いや。
 ここまで来てしまったら、もう仕方ないな。調べよう。
 分かるかどうかは、全く分からないが。

 数人にこの春から秋に掛けてリュウセンランの塔付近で何かあったかどうか聞いてみると、揃って季節外れの嵐が一度だけ来たという返答が帰って来た。
 それ以外には何か? と聞いても、特にこれと言った返答は来なかった。
 嵐……。
 もし俺の予想が当たっていたとして、カイリューが単なる嵐で子供を喪ったりする事があるだろうか?
 余り考えられなかった。
 それに水中に居れば、外が嵐だろうと大して被害は無い筈だ。
 雷が落ちようとも、水中の奥深くまで電気は余り届かないと聞くし。
 そう言えば、トレーナーが来たりはしたのだろうか。ただ、それに関する返答としては、しょっちゅう、というのが帰って来るばかりだった。
 イッシュ最古の塔で、そして出入り自由。それだけで遺跡マニアは垂涎ものらしい。
 何やら伝説のドラゴンに纏わる話もあると聞く。
「俺が行った時は殆ど人は居なかったけどな」と言うと、「そりゃ、皆周りの湖より中に興味を持つからね。見なかっただけなんじゃないの」と返された。
 確かに。見なかっただけかも分からん。大体は湖を眺めて釣りをしていたし。周りの事何て殆ど覚えちゃいない。
 ウインディがここ辺りに住んでいる野生のポケモンと気ままに戦っていたり、じゃれていたりしてた位だ。
 俺がカイリューが釣り針を握っているのを大物だと叫んでいたのも、周りの人からすれば単に釣り人の叫びだとしか思われていなかったのだろうし。
 結局、推測が当たっているかどうかは分からないまま、時間が過ぎて行く。
 町の人達から情報収集するのは止めて、リュウセンランの塔に行ってみる事にした。

 中に入って、早々に出会ったトレーナーとポケモンバトルをする事になった。ウインディに指示を出すのは久々だ。
 相手は、ハクリュー。
「……どこで捕まえました?」
 念の為に聞いてみると、「俺のポケモン達はゲーセンに寂しく居た奴ばっかさ」と、返って来た。
 なら、違うか。
 神速で相手を翻弄して、突如ななめ後ろからインファイト。
 全身を使った攻撃の内数撃当てられた、と思ったらウインディは電磁波で麻痺させられた。
 持たせておいたラムの実を食べている内に高速移動をされて、今度は逆に素早い動きで翻弄され、玉が付いている尻尾でアクアテールを胴に見舞われた。
 互いに体力が減り、距離を取ってウインディは俺の指示を待った。両方の体力的に次で最後になる。
 ウインディにのみ聞こえる小声で、言った。
「神速で近付いて、そのまま捨身タックル。合図したら、最速で、真直ぐ」
 ハクリューも指示を受けたようで、口に光が集まって行く。
 ……破壊光線? 竜の波動? 分からないが、強力な攻撃であるのには間違いない。
 カントーのチャンピオンが悪人に対してカイリューに破壊光線を命令した珍事を思い出しながら、言った。
「発射されるギリギリまで待て」
 そう言った瞬間、何かがリュウセンランの塔の窓から突っ込んで来て、それにぶつかってウインディは真横に吹っ飛ばされていた。
 は?
 言う間でも無く、戦闘不能。
 唖然としていると、そのトレーナーが種明かしをするように言った。
「流星群。窓からウインディに通るように、ピンポイントに一発だけ落とした」
 ウインディに元気の欠片と回復の薬をやりながら、俺はそのトレーナーの力量に驚いた。
 要するに、口に溜めていた光弾は囮だったって訳か。いや、囮が無くとも多分、ウインディは反応出来なかっただろうけど。
「カイリューにもなってないのに、そんな高等な技を……凄いですね」
「いやいや、毎日練習させても出来ない事の方が少ないですよ」
 そういう事を出来るようにさせるトレーナーの方が凄いだろうけどな、と俺は思った。

 回復したウインディを連れて、頼み事をする。それからそのトレーナーと一緒に塔を登って行く。
 この付近に一年近く居るらしく、何か変わった事が無いか聞いてみたが、特にこれと言った事も無かった。
 何かあったんですか、と聞かれたが、はぐらかしておいた。追及されなかったのは幸いだった。
 ……何もなかった。すると、カイリューはここには居なかった?
「いや、でも、この頃あいつ見ないな……」
「あいつ?」
「カイリュー。たまーにこのリュウセンランの塔の付近を飛んでいたのを見る事があったんだけど、この頃は全く見ない」
 ……。やっぱり、ここに住んでいたのか。カイリューは。
「どんな奴だったんですか?」
「俺は挑まなかったけど、他のトレーナーがカイリューに挑んでも軽くあしらったり、相手にもしなかったりで、誰も殆どダメージすら与えられなかった。……俺のハクリューが流星群をやろうとも、きっと意に介さない位に」
「……そんな強い奴だったのか」
 それを言ってから、しまった、と思った。案の定、トレーナーは俺を怪訝そうな顔で見て来た。
 ……。仕方ない。
「そのカイリュー、今、俺の家に居る。捕まえてはいない。ただ、居候してる」
「……何故?」
 その質問に対しては、「良く分からない」と言っておいた。憶測を喋る必要は無い。
「数か月前、ここで釣りしてたら釣り針握って姿現して、勝手に付いて来た。けれど、数か月間、何もしてないし、何もされてない」
「何だそれ」
 想像通りの反応だった。
「未だに捕まえるチャンスを待ってる人も居るんですよ。捕まえられるかどうかは別としても」
「そうだろうなぁ」
 宝の持ち腐れとでも言われそうだった。

 トレーナーと別れて、登れる一番高い場所まで来た。
 特に何も無い。誰も居ない。
 瓦礫だらけでポケモンバトルをするにも適していない場所だし、研究はされつくしたようでもあった。野生のポケモンも殆ど居ない。
 ウインディへの頼み事、カイリューの臭いを探せ、と言ったが、ここまでは特にしなかったようだ。何も俺に伝えて来なかった。
 ここでもだろうか。
「カイリューの臭いはするか?」
 二、三度鼻を嗅いで、ウインディは歩き始めた。
 何か、あるようだった。
 瓦礫だらけの場所の、特にバラバラになっている場所にウインディは歩いて行く。瓦礫に隠れていた野生ポケモン達が出て来てじろじろ見たりしている中、ウインディは迷わずに歩いて行った。
 そして、視界にそれが目に入った。
 不自然に土が盛られていた。上には小さな木が生え始めている。
 …………。
 ウインディがそこを掘り返そうとして止めた。
 どこでそういう事を知ったのか、それとも自分で何も知らずにやったのか。
 分からないが、それはどう見ても墓だった。
 瓦礫塗れではあったが、この場所は見晴らしは良い。外も良く見えた。
 丁寧に盛られた土、生え始めた木、見晴しの良い、高い場所。
 とても大切にしていたのだろうと、それだけで、とても良く分かった。分かってしまった。
「……帰る、ぞ」
 ウインディは不思議そうにしながらも俺に従った。

 塔を降りながら、何故、と言う疑問が新たに湧いて来る。何故、あのカイリューは子を喪ってしまったのだろう。
 とても強いだろうに、子を守れなかった理由は何だろうか。
 嵐に原因があるのだろうか。それとも単に事故だったのか、または病気だったのか。
 分からないまま歩いていると、瓦礫に躓いてしまった。
 起き上がろうとすると、ウインディに襟を噛まれてそのまま背中へ投げられた。力を抜くと、俺の体は一回転してウインディに跨った。
 ウインディが曲芸師のギャロップに憧れて、俺の体を何度も犠牲にして身に付けた曲芸だ。
 久々にそれをされて、俺は何となく、呟いた。
「疲れたな」
 それは俺の台詞だ、と言うようにウインディが俺を振り落した。
 可愛くねぇ奴。
 でも言っておく。
「済まん。流星群は分からなかった」
 ウインディは、いいよ、と言うようにそのまま歩き続けた。俺も起き上がって歩いた。


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