嵐の中、ひっそりと湖の奥底で子供を抱えている。
外の嵐の強さに怯えている子供の頭をゆっくりと撫でて、上を見た。まだまだ、嵐は収まりそうに無い。
こんな時期に一体どうしてこんな強い嵐が来たのか不思議に思いながらも、ただただ、過ぎ去るのを待った。
そんな時、唐突に痺れを感じた。
電撃……。誰だ、こんな奥底まで届くような強力な電撃を飛ばしてくる奴は。
子供にも少し影響が出ていた。上に居たバスラオが数匹気絶して浮き上がって行く。
また、電撃が来た。さっきより強い。
多分、水面近くに居るバスラオは死んだだろう。
子供が痛みを訴えていた。水中から出て、その元凶を倒すか、それとも過ぎ去るのを待つか迷った。
でも、抱え込めば子供までに電撃は伝わらないかな。
苛立ちを抑えながら、子供を自分の体で抱え込んだ。電撃はもう何度か来た。
痺れるが、流石に子供にまでは大して伝わっていないようだった。
ほっとしながら、電撃が来なくなったら叩きのめしてやると決めた。
しかし、それだけでは終わらなかった。
上を見上げると、今度は渦が出来始めていた。上に何が居るんだ?
渦は広く、深くなっていく。巻き込まれたバスラオが宙に飛んで行くのが見える。
そして、ぼんやりと姿が見えた、宙に浮く二体の内一体が、強い電撃を渦の底へと飛ばしてきた。
渦の底から自分までの距離は狭まっていた。抱え込んでも、子供が痛みでがくがくと震えた。自分にとっても痛みは強いものだった。
出なくてはいけない。子供が殺される前に。
子供を抱え込んだまま、体をうねらせて、一気に水上へと飛んだ。
強い電撃が来て、子供に直撃しないように背中で受け止める。
子供がびくびくと震える。堪えてくれ、後少しだけ。
水上に出た。暴風と雷が異常に激しかった。
そして、目の前に居たのは今まで見た事の無い、二体の姿形が似た、下半身が雲に包まれているポケモンだった。
片方は電撃を体からばちばちと出していた。もう片方は、風を纏っていた。二体とも、にやにやと自分の方を見ていた。
逃げよう。二体も同時に、子供を守りながらこんな嵐を起こせる力を持ったポケモンと戦う何て、不利に決まっていた。
雷を司っている方が、自分に手を向けて来た。ばちばち、とその手に電撃が集中していく。
風を司っている方も、自分に手を向けて来る。ぎゅるぎゅると、その手に暴風が纏われていく。
神速で逃げた。直感的に、危険過ぎるものが迫っていると分かった。塔の中に逃げ込もう。
背中に雷を受けて、一瞬怯んだ。塔まで後少し、逃げ切れ。
けれども、中へ入る前に暴風が体を襲い、塔の壁に叩きつけられた。
子供は……大丈夫。離していない。けれども、神速で放した距離は詰められてしまった。
戦わなければいけないのか? 守りながら、この強力な二体を倒さなければいけないのか?
何度も子供を電撃から庇い、更に壁に叩きつけられた背中は痛んでいた。
子供もぐったりとしている。体力はもう無い。
また、二体から手が向けられ、咄嗟に破壊光線で雷を司っている方を遠くに吹き飛ばした。
すると、もう一体の表情が変化した。
悪戯しているだけなのにこんな事までするか、と言ったような、とても吐き気のする怒りの顔だった。
向けられた手が、握られた。抱えている子供が暴れ出した。
何、を。
体は破壊光線の反動で思うように動かなかった。
やめてくれ。俺になら何でもして良い。子供だけには。
背中を向けようとも、子供は痛みで暴れ続けた。何かしらのエスパータイプの技を使っていた。
直接叩きのめさなければ、この攻撃が止む事は無い。
動くようになった体で、距離を一気に詰めて尻尾の一撃を見舞う。当たらなかった。
振り向いた時、怒りの顔は嗤いになっていた。柔らかく握られていた手が、一層強く握られた。
その瞬間、子供が、ぷつり、と力を失った。
え、あ。嘘、だ。
冬がやっと過ぎようとしていた。
マフラーを付けていると、流石に暑いと思う位だ。カイリューもウインディに抱き付く事は少なくなり始めていた。
ウインディを連れながら、仕事で外を歩いていると街灯のテレビが目に入る。
緊急らしきニュースを伝えていた。
いきなり嵐が発生して、気象予測が全く頼りにならないような軌道を描きながら様々な場所を移動しているらしい。
「ポケモンの仕業か?」
ウインディに聞くと、そうだろうと言うように頷いた。
「こっちまで来なきゃいいけどな……」
カナワタウンやセッカシティがもう被害を被っているとの情報を聞きながら、俺はそこを後にした。
カイリューの事が気になったが、まあ、大丈夫だろう。
嵐だろうとあいつから空すらも奪う事は出来ないだろうし。