マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  [No.590] 9話 特色とトラウマ 投稿者:照風めめ   投稿日:2011/07/23(Sat) 12:34:37   61clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「んー! やっぱ本物は凄かったねぇ」
「先週とは大違いじゃない」
「いや、だってあの時は……」
「ふふっ、冗談冗談」
 美しさハイパーランクを生観戦し終わった夕方、余韻に浸りながらおれとカノンもといユナは、コンテスト会場に内設してあるカフェテラスで、先程のアピールの感想を言い合うことに。
 ギガイアスのDVDを観た後も、カノンにダンディー・ダディのドキュメンタリーや、他の人のDVD、昔テレビで放送されていたコンテストの録画映像を四日間程見せられ続けた。
 お陰でコンテストのアピールがどんなものか、というのは理解出来た気がする。……まだ自分があんなことをするヴィジョンは見えてこないけど。
 ちなみにギガイアスのDVDを観たあの日にコンテスト会場に行かなかったのには大きな理由がある。
 平たく言えば、その日(水曜日)はコンテストを開催されていなかったからだ。
 コンテスト会場のある街によってどの曜日がどうとは違ってくるが、カイナシティのコンテスト会場では、ポケモンコンテストは日曜日の午後三時から開催されるのみである。
 火、木曜日はバザー会場となり、月、水、土曜日はポケモンバトルを楽しむ施設、バトルテントに様変わりする。金曜日は設備メンテナンスのために休館だ。
 何故、こんなにコンテストやらバザーやらバトルテントが入るか。その答えは単純明解。そもそもここは元々はただの市民会館だった。そこでバザーをやっていたところにコンテストが入り、続いてバトルテントが入ってきたのだ。と、ユナがさっき説明してくれた。
 今いるカフェや売店、木の実ブレンダーなどを除き、この会館は曜日によって姿を変えるのだ。
 最も、ここまで目まぐるしく姿を変えるのはカイナのみだけらしいけど……。
 ちなみに日曜日でコンテストをやっていない時間はステージを練習用に有料貸し出ししているらしい。中々あざとい。
「そういえばジグザグマとの進展あった?」
「ほんとダメ。早ければ今週には旅に出るつもりだったのに、お陰で無理そう……」
「ワガママ姫ね、ジグザグマも」
「ケガ増えるだけで、どう考えてもワガママの度を過ぎてると思うんだけど」
「そもそもどうしてカノンのこと嫌うんだろう」
 この数日、姉貴とユナにカノンと呼ばれ続けたせいか、もうそう呼ばれても躊躇いが無くなってしまった。慣れは恐ろしい。
 同じくジグザグマに異様なまでに敬遠されることにも、慣れて来てるかもしれない。
 しかしこうなった原因はユナ、お前がジグザグマに嫌われていたからだ。何ちゃっかりおれに押し付けてるの。
「最初はもしかしたら匂いで嫌ってるのかなって思ったから、姉貴の香水使わせてもらったんだけど全然ダメでさ」
「じゃあ、見た目?」
「お面被ったりしたけどやっぱりダメ」
「お面はさすがに雑じゃない?」
「だからってさぁ」
「もしかして声とか?」
「それだと完全にどうしようもないだろ」
「カノン、言葉言葉」
 ついつい忘れていたけども、一々言われることの煩わしさにちょっとだけむっ、としてしまった。
 名前に関しては慣れたけど、やっぱりこういうのには慣れられない。
「どうしようもない……じゃない」
「わたしも手伝うからさ、今から109番水道行って様子見せて?」
「まあ、いい、けど……」
 別にそうしてもいいんだけど、不安がどうしても残る。
 ほぼ、というよりは完全に同一人物が二人いることにジグザグマはパニックでも起こすんでもないだろうか、なんて空になった紅茶のカップを覗き混みながらぼんやり考えた。



 109番水道はカイナの南に位置する。ホウエン特有の広い海に、相当広い砂浜。たくさんの海の家が並び立ち、民宿もある。丁度今くらいのサマーシーズンには、地方を問わずして観光客が大量にやってくるのだ。
 カイナシティ北西のコンテスト会場を後にしたおれ達は、バスを使って109番水道近くのバス停で下車して海を眺めた。
 これから沈もうとしている太陽が、水平線に溶けながら空を、海を橙色に塗り替えていく。海水浴に来た人々の喧騒さえ飲み込んでしまうような、この圧倒的な雄大さが心をぐっと捕らえて、それでいてあまりに単純過ぎる風景なのに、何も考えられなくなるようなこのインパクトがたまらなく大好きだ。
「夕陽が眩しいねぇ」
「ほんっとに、この風景綺麗よね! わたしここより良い風景ないんじゃないかなって思うんだ」
「カイナしか知らないクセに?」
「カノンもじゃない。それよりさ、早く久しぶりにジグザグマ見せて見せて」
「うん。とりあえず移動しよう」
 コンクリートから砂浜に降り立ち、有事を考慮して出来るだけ人通りの無さそうな方へ向かう。
 海の家みたいな建造物が付近になく、海からそこそこ距離が離れていてかつ人が周囲にいない。全ての条件をクリアするために、五分近く歩くハメになってしまった。
「ユナこれだけ歩いたけど大丈夫?」
「流石にこれくらいは大丈夫よ。無理なら無理ってちゃんと言うから」
「じゃあ……。ジグザグマ!」
 ポーチからモンスターボールを取り出し、空に向かって放り投げる。モンスターボールは緩やかに宙を舞いながら、最高点で白い光と共に中にいるジグザグマを砂地に出させた。
 グウウウウ。早速おれを見るなり唸り声を上げるジグザグマ。
「あ、もう。カノンがビビっちゃ駄目じゃない」
「だ、だって! って、うわっ!」
 散々ボロボロにされた辛さが分かるか! と逆ギレしてやろうと思った矢先、顔面目掛けて砂浜の砂が飛んできた。くっ、ジグザグマか。ジグザグマのせいか。両腕で急設したバリケードで顔を守る。うわっ、服の袖を通して中に入ってくるし。「ユナ、なんとかしっ、ゲフッ!」口の中の感触がジャリジャリと。砂利だけに!(後から考えたら砂利では無かった)
「はい、もう大丈夫」
 そんなユナの声に被さるように、ジグザグマのカアアアアアと凄まじい威嚇が聞こえた。大丈夫なのかさっぱりわからん。ユナを信じて恐る恐る目を開くと、ユナにお腹回りを掴まれて両手足をバタバタさせるジグザグマが。こいつ本気でおれしか見てない。もちろん負の意味が十二分にこもった視線を伴って。
「わたしの事無視するくらい嫌われてるのねぇ」
「もうさ、どうしろと。本気で凹むよ」
「な、泣かなくても」
「まだ泣いてないし、泣くつもりじゃない!」
 目にゴミが入っただけ、と言いかけたけど、あまりに下手な言い訳過ぎる。そもそも目を守るために両腕バリケードをしたのに、とすぐに看破されそうだ。
 確かに砂は痛いしケガも痛いけど、それ以上に今まで信頼しあったはずのパートナーにここまでされるのが辛かった。
 一週間前までは共にこの砂浜を駆けたのに、一緒にお風呂に入ったりしてやったのに、もうあんなことは出来ないのだろうか。
 確かにジグザグマをどうかしてやりたい。一緒にいたい。でもジグザグマはそれを望んでないだろうし、おれも正直ジグザグマが若干トラウマになりつつある。
 だからコンテストの勉強をすると言ってユナに借りたDVDを見て、ジグザグマとあまり対面する時間を増やさないようにしていた。……かもしれない。
「まあ確かにわたしも涙腺脆いけども……。きっとなんとかなるって」
「それでなんとかなったら簡単なのに……」
 本音だった。簡単じゃないからここまで辛いんだ。ハードルは高い方が良いなんて言ったやつをグーで殴りたいくらいに辛い。
 そんなとき、突如背後から砂を踏む足音がした。
「騒がしいから何があるかと来てみたけど、そこのジグザグマすごい気が立ってるわね。何か手伝えることがあるなら手伝いましょうか?」
 声の方に振り返ると、一人の背の高い女性のシルエットが見えた。足も手も白くその上すらりと長い。ウェーブがかっている長い髪も素敵で、ショートパンツにおへそが見えるくらいのタンクトップがスタイルに合っている。ここまで容姿端麗という言葉が似合う人は初めてだ。
 いや、見たことある。つい最近、この人を何かで見たことがある。そのときも似たような事を思っていた。デジャヴってやつだ。その答えはユナが示してくれた。
「エレナさん……ですよね?」
 まだ吠えるジグザグマをその腕からポトリと落としてしまいそうな程恍惚としているユナの言葉で、全て思い出した。
 一昨日ユナに貸してもらったDVDで見た。一級ポケモンブリーダーで、モデルでもある、かつての最年少コンテスト全制覇者、エレナ。
「そう、私がエレナよ?」
 これが、おれと彼女との最初の出会いだった。


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