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  [No.3628] 祈りが雑音に変わるとき 投稿者:逆行   投稿日:2015/03/15(Sun) 23:30:00   85clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

――全ての命は別の命と出会い、何かを失う 


1

 少々の霧に覆い被されつつも、山は幾多の深緑の木々を身に纏って、毅然と広汎にそびえ立っている。
 山の至る所に、ポケモンたちがとても平和に暮らしている。かつては違った。この辺りは、密猟が行われていた。毎日恐ろしくて熟睡さえままならず、仲間が次第に減っていく悲惨な状況に、ポケモン達は心身共に疲れ果てていた。彼らが人間を心底憎んだのは言うまでもない。
 最近密猟の規制が厳重化され、ようやく彼らの元に平穏が訪れた。平和、という状態がどんなものかさえ忘れかけていたポケモン達は、この上ない絶望の反動によってとても幸せだと感じるようになった。最も、人間達への恨みの感情が消え失せたわけではないが。
 種族間で協力して見張り役を割り当てていた経験と、人間に対する共通の思いから、ポケモン達は仲がよく連帯感に優れていた。それぞれの縄張りを荒らすものなどいないし、また、誤って別の縄張りに足を入れてしまった者を、強く責め立てることもなかった。


 そんな森の、おおよそ真ん中に位置する場所。そこは、非常に騒がしい所だった。そこに、ほとんど毎日のように、向かうポケモンがいた。
 彼女の名は、『アラン』という。チルット、という鳥系のポケモンだ。綿雲のようなふわふわの翼が特徴的で、体は空のように素朴な水色一色で塗られている。目はくりんとしており、可愛らしいのでペットとしても人気が高い。
 アランはいつも、ここで歌を歌っていた。歌うときは、がやがやした場所は回避するのが普通だ。アランは違った。むしろ静寂が流れる所では決して、声をメロディに乗せることはしなかった。それは、彼女なりの理由があってのことであった。
 倒れた巨木に、ちょこんと乗る。チルットは綺麗好きな種族だが、野生のポケモンは木に生えた苔は汚いと感じないので、アランは緑のカサカサを避けることはしない。ふわふわの翼を大きく広げ、嘴を開いて息を吸い込む。そして、歌い始めた。
 アランの歌声は、とてもよく響く。しかし森のポケモン達は、ソプラノのその声に特に反応することなく、今までと変わりない振る舞いをする。いつものことであり、気にしていない。それについてアランは特に、何も思っていない。
 自然音と生活音、彼女の歌声。それらの音が、極めて混沌としていた。
 アランは、この混沌が好きだった。自分の歌と森の音が混ざり合う。それが何よりも気持ち良かった。決して、自分が発した以外の音を、うるさくて邪魔なものとは思わなかった。
 アランは歌い終える。拍手などみじんも起こらないが、満足そうな表情で帰っていった。
 このチルットは、誰に聞かせるためでなく、ただ自分の楽しみのために、心の解放を味わうために、歌を歌っている。


2

 突如、あの子は現れた。
 彼女の名前は、『サラ』と言った。アランと同じ、チルットだった。アランよりも体の色が薄く、嘴は若干丸っこかった。しかし、そんな外見の違いは、アランにとってはどうでもよかった。   
 サラのことを知っている者、知らない者、だいたい半々であった。知っているポケモンは少し心配な表情をしつつ、サラの元まで駆け寄った。サラの笑顔を見て、話を聞いた後、彼らは安心したようだった。
 一通り知り合いと会話し、初対面だが声をかけてくれたヒトとも話した後、サラはその場にいた何匹かのポケモンの前で歌を披露した。
 歌うことが同じく好きであり、なおかつ同じ種族であるので、アランは驚くと共にとても親近感が湧いた。もちろんアランは、サラの歌を近くで聞こうとした。
 ところが。
 歌い始めてすぐに、これはあまり自分の好きなものではないとアランは確信した。どこか彼女の歌には、不純物が混ざっている、そんな気がした。何よりも、彼女自身がのびのびしてないように思えた。
 にも拘らず、切りの良い所で歌を切った後、みんながこぞって拍手をしていたことにアランは驚愕した。もっと聞きたかったなあ、などとみんな口々に喋った。
 サラは一匹一匹に丁寧にお礼をして、その後、もう私はここにはいられないなどと悲しげな表情で言った。不意に強風が吹いて、その風に乗るようにして飛び去っていった。
 半衝動的にアランはサラを急いで追いかけた。なぜあんなにあの子の歌が自分に受け付けなかったのか、それが気になっていた。そもそも彼女が何者なのか、どこからやってきたのか、それすら知らない。彼女のことが少し分かれば、その理由がつかめるかもしれない。ちょっと自分は自己中心的すぎるのではとも思ったが、どうしても知りたかった。
 サラが森を出る寸でのところで、アランは追いつくことができた。サラは、焦った表情で振り返った。自分を食べようと誰かが狙ってきたのではないかと思ったのかもしれない。迫ってきた者の正体が同種族だと分かり、ほっとした表情になった。驚かせてごめんと、即座にサラは謝罪する。
「初めまして。私はアランって言います。あなたに聞きたいことがあるのだけど、どこからやってきたの? 後、なんでもう帰っちゃうの?」
 聞いても失礼のないことから聞いていく。サラは極めて丁寧な口調で答えた。
「私は、人間に捕まっているのです。主人がいない間は自由に出入りができます。けれども、そろそろ帰らないと。今日は久し振りに、みんなと話せて楽しかったですよ」
 野生ではないと知って、アランははっとなった。
 人間は、モンスターボールというものを使って、ポケモンを捕まえる。捕まえたポケモンは、戦わせたり、ペットにしたり、仕事を一緒にやらせたりする。一般的にはあまりいい扱いはされないので、野生のポケモンのほとんどは捕まりたくないと考えている。この人間がひどく気に入ったなど言って、自分から捕まりにいく者も中にはいる。野生のポケモン達は、大概その者を行かせまいと食い止めようとするが、大概それでも捕まりに行ってしまう。そして、その後である。野生のポケモン達は、人間の下についた奴の悪口を、口々に言い始めるのだ。例え仲が良かった者でも、手のひらを返すように叩く。あいつはろくでもない奴だと。
 特にこの森のポケモン達は、人間に対する恨みが強いわけだから、その傾向が非常に強く、アランは傍から見て恐ろしいと感じていた。アランはこれといって、人間に自ら捕まるポケモンを、嫌いだとも好きだとも思っていなかった。興味がなかったのだ。
「では、私もう行きます」
 なんと返していいものか分からず、アランは黙りこんでしまった。気まずい沈黙が流れ、サラは丁寧におじぎをして帰ってしまった
アランは高度を上げた。付近の町が見渡せる所まで飛んだ。サラの飛薄い水色の体を、じっと見つめていた。


 アランが戻ると、サラの悪口が耳に入った。やっぱりかと空で聞きながらアランはため息を付く。サラと仲良く話していたヒト達は、手のひらを返して彼女を蔑む。決して本人の前で、その本音を漏らすことはしない。陰湿であり、気分が良くないことだが、仕方がないことだとアランは思っていた。
 どころか、サラが悪く言われているのを知って、笑みが溢れるのを必死に堪えていた。アランはひっそりと喜んでいた。サラに申し訳ないと、罪悪感を抱きつつも。

3 


 翌日のことだった。アランは、サラの家の前まで来ていた。アランは昨日、場所を特定しておいたのだ。
 他人の家を除くという行為は、些か道理に反するかもしれないし、それに、人間の町になんか飛び出しては、捕まる危険もあるけれども、そんなこともお構いなしにできるほど、アランは例の理由に対する関心の気持ちが増幅してしまった。
 サラの家というよりか、サラの主人の家という方が適切だろうか。そんなことを考えつつ、そっと窓から覗いてみる。小刻みに揺れている綿雲をすぐに見つけた。少々見えにくいが、サラは一人の人間と対峙していることが判明した。
 彼女は、その人間に歌を聞かせていた。人間は歌を聞きながらうんうんと頷いていた。
 やはりアランの耳には、その歌は綺麗に届かなかった。そして、なぜ彼女の歌には、不純物が混ざっているように聞こえるのか、その理由は朧気ながら判明してきた感じだった。
 歌い終える。すると、人間があれやこれやとサラに指示を出し始めた。そしてサラはその指示に、時々難しそうな表情を見せつつも頻りに頷き、最後には真面目な表情になった。再び歌い始める。先程言われた箇所を、修正しながら。
 再び歌い終える。サラは不意に、こっちを見てきた。少しだけ驚愕したような顔をした後、主人の方に笑いかけた後、ドアを開けてもらって部屋を出た。
 アランは玄関で待っていた。だがサラは二階の窓から飛んで出てきた。サラは、少しだけ戸惑いを見せるがすぐに、
「とりあえず、人間に見つかったら面倒なので、森の方へ行きましょう」
 彼女の邪魔をしてしまい、アランは申し訳なく思った。とりあえず彼女の指示に従い、森へ移動することにした。


「えっと、その、何のようでしょうか」
 森へ移動し、彼女が口を開ける。歌い終えた後で少々声が枯れていた。
「いや、なんか、その、あなたのことが気になって見に来ちゃって。邪魔してしまってごめん」
「下手に森から飛び出さない方がいいですよ。どうして私のことなんかが気になっているのですか」
「なんというか、人間の下で生活するのってどういう感じなのかなって」
 彼女は遠回しに質問した。すると彼女は途端に笑顔になった。やや早口になって、話始めたのだ。
「とってもいいですよ。人間の下で生活するのは。楽しいです。私が歌を上手く歌い終わると、主人は手を叩いて褒めてくれます。ちゃんと歌っていなかったときは、誠意を込めてしかってくれます。彼と一緒にコンクールで優勝することを目指しているのですよ。優勝すれば、主人はきっと喜んでくれます。だから私はもっと練習しちゃいますよ!」
 話終わって彼女はしまったという顔をして
「すいません、つい熱くなってしまいました。人間を心底憎んでいるヒトもいるのに、こんなことを嬉々と話すのは不謹慎でした」
「あ、大丈夫だよ。私は平気だから。それよりも、そうやって人間を喜ばすために歌うのって、楽しいの?」
 気を取り直して私は一番聞きたいことを質問した。すると彼女はさも当然のように、
「楽しいに決まっているじゃないですか」
 そう言い放った
 人間の下にいること、別にそれはいいと思う。自分の楽しみのために歌を歌わないのはどうかとアランは思った。アランはここで、腑に落ちた表情になった。だから自分は彼女の歌を、あまりよく感じなかったのだと。ぴったりと合点がいった。
「でも、私は自分の楽しみのために歌った方がいいと思う」
 自分の考え強くぶつけてみた。そしたら、彼女は少し考えて、
「でも、それって自己満足じゃないですか。せっかくなんですから、誰かを楽しまさせた方がいいと私は思うのです」
 そこで会話が止まってしまった。胸の中に確かに違和感は存在しているのに、なんと言葉にして言い返せばいいのか分からなかった。


 サラと別れ、帰りながらアランは一匹で考える。
 アランは決めた。また明日も、彼女の姿を見に行くことを。やっぱりどうしても、彼女は腑に落ちなかったのだ。


 4

 ここ最近何やら変なチルットに目をつけられていることに、サラは内心うんざりとしていた。正直面倒ではあるけれども、相手を必要以上に刺激させないように、サラはちゃんと敬語で接していた。心の中でどんなに相手に対して苛立っても、常に敬語に接し、反抗の意思を見せないようにするのが、世の中を上手に渡るコツだ、などとサラは考えていた。アランと名乗っていたチルットは、そこまで怒るようなタイプではないと思うけれども念のため。
 アランはいったい、何を考えているのだろう。自分が人間の下にいるのが、よほど癪に障ったのだろうか。でもそれよりも、歌を自分のためではなく、他人のために歌うって話、そっちの方が、真剣な眼差しを向けてきていた。
 野生のポケモンと価値観が違うのは当たり前。だから、そこまで別に気にする必要はないと自分に言い聞かせる。
 今日もサラは歌を歌う。今度のコンクールでは絶対に一位を取るつもりだ。主人を喜ばせるためには一位を取る他はない。
 主人は現在、買い物に行っていて家にいない一匹で練習することになる。少し寂しいけれども、仕方がないとサラは思った。一人で練習するのは今日が初めてではない。けれども、あの子と話してしまってから、主人が隣にいるという状況を改めてありがたいと感じ、意識してしまったから寂しいと感じてしまった。

 
 



 今日中に完成させる予定てしたが、まだ半分もおわってません。嘘かもしれません。
 自分の小説にしては、かなり平和主義な小説です。嘘かもしれません。
 最初一人称で書いてたけど、三人称に変えました。嘘かもしれません。
 たぶん後一週間くらいで書き終わります。嘘かもしれません。
 

 


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