マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  [No.104] 1巡目―春の陣3:春風は距離を縮めさせる。 その1  投稿者:巳佑   投稿日:2010/10/30(Sat) 17:43:54   54clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

学校生活はまだ先があるからとかなんとか思っている内に足早に過ぎ去ってしまう。
入学式翌日から新入生オリエーテーションやら身体測定やら、そしてもちろん授業も進んでいく。
入学したてのクラスの子たちはまだ若干ぎこちない様子を見せているのが大半だった。
恐らくは彼らの背中を押す意味でこのような催し物があるのだろう。
タマムシ高校恒例の新一年生宿泊会が。

朝日が上ってまだ一、二時間経過するかしないかという頃。
タマムシ高校の正門にはどうやら一年生たちが集まっていて、
皆、ワイワイがやがやと井戸端会議のように隣と話していた。
よく見ると、五人で一つに集まっているようである。
ちなみに一人一人、学校指定の紺色のジャージを着用していて、
ちなみに胸元には『T』と『M』が格好良く組み合されているロゴがあった。
そして、その五人組の中には――。
「今日は皆ヨロシクな!」
アニメ・ゲーム大好き、特技兼趣味はイラスト。赤い色のふちを持つ眼鏡が眩しい日生川健太。
「ふわぁぁ……朝から元気ね。」
朝日を浴びて強くきらめくおでこをかきながら少し眠たげな朝嶋鈴子。
「え、え……と。よ、よろしくおねがいします……」
恥ずかしそうに朱色のツインテールを揺らしている光沢しずく。
そして――。
「……なんで、こないなところまで、おんどれと一緒やねん」
「しょうがないだろ。くじ引きが悪かったんだからな」
赤茶色の髪に白銀色のかんざしを挿していて、そして若干ご機嫌ナナメの天姫灯夢。
寝ぐせの髪を手でいじっている日暮山治斗。
以上の五人が一つに集まっていた。
「ウチを貧乏くじ野郎って言いたいんか、おんどれは!?」
そして、灯夢の怒声がこの場に集まった者たちにとって目覚まし時計となっていた。

[宿泊会一日目:朝]
「というわけですからね、皆さんね。
 このタマムシの森を回って行きますとね、
 チェックポイントがいくつかありますからね。
 そこでハンコを押してもらってですね、またこの場所まで戻って来てくださいね」
バスに揺られながら約一時間半。
タマムシの森にたどり着いた新一年生たちは
いくつかのヴァンガローが立っている広場に集まって、
1−Fの担当で国語教師の長束吉男からウォークラリー大会の説明を受けていた。
ルールはいたって簡単。
タマムシの森にいくつか散らばったチェックポイントにハンコがあるので
それを全部押してきて再びこの広場に戻ってくるというものであった。
各班(一班五名)にはそれぞれ地図が渡され、
その地図の示す場所に向かうだけでよいというシンプルなものである。
タマムシの森は散歩コースと銘打って歩道用の道がちゃんとなされており、
若干、正規の道から外れたところにチェックポイントがあるのだが、
深入りしなければ心配ないぐらいであった。
「いいですかね、皆さんね。
 チャックポイントの順番はですね、自由ですからね。
 あっそうそう。成績上位者にはですね、
 お楽しみがですね、 ありますからね。
 それではですね、準備ができた班からですね、スタートしてくださいね」
長束の声で新一年生たちは皆立ち上がり、スタートしていった。
ごほうび効果かどうかは分からないが、
瞳の中に炎を立てている新一年生が多かった。
無論、この班も例外ではなかった。
「成績上位者には何がもらえるんだろうな!? オレ、フィギュアとかがいいんだけど」
「お菓子とか、そういうのじゃないの?」
目を光らせながら何やら期待している健太をやや呆れ顔で見る鈴子。
「ウチ、みたらし団子がええ!!」
「おまっ、バスの中でも食ってたじゃねぇか!?」
「これだからみたらし団子は罪やで。
 何本何本食うてもウチを完ぺきに満足させることができへん」 
「……そこまでみたらし団子が好きだったのか」
「いいか!? おんどれ! みたらし団子を馬鹿にすることがあったら許さへんからな!! 覚えとき!」
 若干、暴走しがちな灯夢に相変わらず手を焼いている感じの治斗。
「……あ、あの、がんばりましょうね……?」
どうしたらよいのか分からない困り顔のしずくの言葉を先頭に治斗たちは森の奥へと入って行った。

カントー地方の有名な森といえばトキワの森である。
そしてタマムシシティでキャンプ地として利用されているのがこのタマムシの森である。
面積はトキワの森に比べればさほど広大というわけでもなく、
また人の手が入っていたりしているためか、
少なくともトキワの森よりも複雑ではないはずであった。
「……で、どうしてアタシたち迷っちゃったわけかしら?」
「なんでだろうなぁ?」
「……」
「……」
「……」
「ん? なんだよ、みんなしてオレのこと見つめちゃって」
「おんどれが勝手に動きよるからやろ!!」
灯夢の怒声が森の中に響き渡った。
チェックポイントを二つほど経過した、そこまでは順風満帆だった。
しかしここで事件が発生した。
目ざといのかどうかは分からないが、
健太が急にポケモンを見つけたと追いかけ始めてしまったのである。
治斗たちの方は健太を追いかけて、
ようやく健太が逃げられたと言いながら止まったところで無事に合流……した地点で、
一行は正規の道から大きく外れてしまっていた。
元来た道をたどって行けばいいという考えは
右に左に疾走していく健太を追いかけているときに捨てて来た。
「しょうがないじゃん。ポケモンがオレのことを誘惑するから」
あくまでも前向きな態度に笑顔を乗せた健太に
怒る気力をなくしたかのように鈴子が苦笑いしながらため息をついた。
「……でも……ここはどこ、なんでしょうか……?」
あちらこちらに顔を向かせながら、しずくが不安の色に上塗りされた声を出す。
朱色のツインテールも行き場がないと示すかのような揺れを見せていた。
トキワの森のように深くて複雑ではないとはいえ、森は森。
一瞬の迷いが不安の元になる。
そよ風が立てる葉っぱの小さくささやくような音に不安感をより一層あおられてしまう。
鈴子はこのままではラチが明かないと思ったかのように手をたたいた。
「ともかく、ここはなんとかして、
 とりあえずバンガローの広場に戻って来ることだけを考えましょ」
弾けるような乾いた音とともに治斗、灯夢、健太、しずくは鈴子を見やる。
「考えるって方法は?」
治斗の素朴な疑問に鈴子はポケットから何やら取り出す。
赤と白に塗られたボール――モンスターボールだった。
「一応、野生のポケモンに襲われても対処できるように
 班の中に必ず一人はポケモンを持っている人を入れるってルールがあったでしょう?」
人の手が通っているとはいえ、元々はポケモンの住みかであるタマムシの森だ。
野生のポケモンが出てきてもおかしくはない。
しかし、人間に警戒してるのか森の奥の方を住みかにしているポケモンが殆どを占めているかもしれないから、
遭遇率は比較的に低いほうである。
まぁ、たまに正規のルートの近くに顔を出す野生のポケモンもいるようだが。
野生のポケモンはおとなしいのもいるが、気性が激しく襲いかかってくるのもいたりする。
「アタシが一匹、ポケモンを持っていることは班を構成するときに教えたわよね?
 あのとき、うっかりみんなに聞くのを忘れてたんだけど、他にポケモンを持っている子っている?」
それを聞いた灯夢は当たり前のように手を挙げながら。
「そないなことやったら、ウチはポケ――」
しかし、それは鈍い殴打音に間を入れられて阻止された。
治斗の『からてチョップ』によって。
綺麗に垂直にそして少し力を込められたソレによって。
ちなみに灯夢の自信満々な顔から何を言おうとしたかは……ご想像にお任せする。
「な・に・すんやねん!! おんどれは!!」
もちろん灯夢の中の何かが切れたのは言うまでもない。
いきなりの出来事に鈴子も健太もしずくも目を丸くさせていた。
「頭に虫が止まってたから仕留めてやろうかと思って」
「な!? おんどれはたわけモンかぁ!? そないな方法でやったら、どうなることぐらい分かるやろ!?」
嘘は人の口を饒舌(じょうぜつ)にさせる。
「分かっててやってみた」
「この、どアホがぁぁぁ!!!」
灯夢の怒りが爆発した、という言葉を見事に表現した音が森の中に鳴り響いた。
みぞ打ち一発。
だけど、これで面倒なことから回避することができたと
大きな任務達成を果たした気分になりながら――。
声にならない悲鳴とともに
治斗はその場にうずくまってしまった。

「……ともかく、話を戻して」
「……え、でも、朝嶋さん。……日暮山さんと天姫さんが……」
「あの二人はポケモンを持っていないってことで話を続けましょ!」
後味がかなり残る、みぞの痛みに悶絶(もんぜつ)している治斗を
見下すように顔を向けながら灯夢が何やら呟いていたが…………気にしない方向で。
「それで! 後の二人はポケモンを持っているかしら!?」
自分の方に注目させるように鈴子はハキハキとした声で健太としずくに訊いた。
「あ……わ、わたしは……持っていなくて……その、ごめんなさい……」
一方は申し訳なさそうに。
「オレはもちろん持ってるぜ!」
かたや一方は『どわすれ』を使ったかのように。
自分が今の状況を作り出した張本人であることを忘れているように。
笑顔で応えていた。
「ドーブル! 出て来い!」
健太がまっ白な球体に赤い線が入ったプレミアボールから出したのはドーブルだった。
ベレー帽のような頭に尻尾の先端で絵を描くことができるポケモンだ。
「へぇー。ドーブルだったのね、アンタの手持ちって」
「おうよ! こいつとは最高のイラスト仲間さ! なぁ? ドーブル!?」
「ブルッ!」
お互いの片腕を組ませてポーズを決める健太とドーブルの
熱い友情の熱に押されそうになりながらも
鈴子は先を続けた。
「それで……そのドーブルでこの状況をなんとかできそう?」
鈴子から健太に。
「なぁ、ドーブル。オレ達さ、道に迷っちまったみたいなんだけど。
 なんとかできねぇか?」
健太からドーブルに。
「ブルッブルッ」
ドーブルが首を横に振って。
「無理だってさ」
「……言われなくても、ドーブルを見れば分かるわよ」
鈴子という『ふりだし』に戻った。
しょうがないという意味がこもった、ため息を止めることはできなかった。
ドーブルに非があるわけではない。
全ての元凶はどこからどう見ても健太なのだから。
しかし、ドーブルとしずくが触れあっている様子を笑顔で盛り上げている姿を見ると
あったはずの怒りも消えていってしまった鈴子であった。
「……とりあえず、アタシのポケモンを出すしかないわね。
 出ておいで、ピジョン!!」
上に投げ出されたモンスターボールからピジョンが出てくるのを確認した鈴子は
すぐさま空で待機しているピジョンに指令を与える。
「ごめん、ピジョン。ここから近くに川があるところを探して来てくれる?」
「ぴじょ!!」
主である鈴子の頼みを聞いたのと同時にピジョンが飛び去っていく。
「……朝嶋さんのポケモンは……ピジョンだったのですね……」
「そういえば。なんのポケモンを持っているかまでも教えてなかったわね」
「なぁ? 川を探してどうすんだ? 水遊びでもするのか? オレ、コイキングすくいとかやりたいな!」
「この……時期での……水遊びはまだ、さ、寒いと……思いますよ……」
「わかったわかった! これから説明するから!」
収拾がつかなくなる前に鈴子は急いでリュックサックから一枚の紙を取り出した。
タマムシの森の地図である。
「いい? タマムシの森には一本の川が流れているでしょ?
 それを沿って下って行けば、下流に着いて、近くの入り口付近に出るはずっていうコト」
「……なるほどです……これなら、その、か、帰れるのですよね?」
「多分、大丈夫だと思うわ。後は野生のポケモンに気をつけることね」
「なぁ、ウォークラリーの方はどうすんだ?」
「ブルッ」
「あのねぇ……今は戻るのが先でしょう? 
 このまま遭難なんてことになったらシャレにならないし……」
呆れ顔の鈴子はそこで一旦、言葉を切った。
「…………若干一名、重症かもしれないしね」
鈴子の瞳に映っていたのは
依然と見下すかのように治斗をにらみ続けている灯夢と
予想以上のダメージに両腕がみぞ辺りを離さないまま倒れている治斗であった。


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