マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  [No.88] 1巡目―春の陣2:それは春一番の如く。 その2 投稿者:巳佑   投稿日:2010/10/23(Sat) 21:07:21   65clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「……というワケで以上がですね、基本的なことですね。
 まぁですね、皆さん。これからの高校生活をですね、謳歌して下さいね。
 人生はですね、勉強だけではありませんからね。
 あっそうそう。天姫さん。いきなり怒るのは体に悪いですからね。
 以後、気を付けるようにして下さいね」
丸底型の眼鏡を掛けた男がそう言うとクラスの皆が笑い出す。
灯夢はバツが悪そうな顔を男に向けていた。
いい加減にしないと自分の中の何かを切らすといったような眼光に
男は背中に冷や汗をかきながら、
しかし顔には出さずにソレを微笑みの中に隠しながら続けた。
「それではですね。皆さん、今日はお疲れ様でしたね。
 また明日、お会いしましょうね」
古さを感じさせる丸底型の眼鏡。
背は160センチぐらいで小柄。
少々メタボ気味の体型。
そして苦労を感じさせるちょっとしたハゲ頭。
1−Fの担任と同時に国語教師である長束吉男(ながたば よしお)の一声で
入学式の日の終わりが告げられた。

「……はぁ、今日はなんかとても疲れたで」
「そりゃあ、あんだけ怒ったら疲れるだろ」
「おんどれらがウチに余計な一言ばかり言い寄ってくるからやろ!」
「まだまだ元気じゃねぇか……」
『楓荘』の二階の自室に戻って来た治斗と灯夢は荷物を下ろすなり力なくその場に座り込んだ。
夕暮れが綺麗に映える帰り道では疲れとともに
新しい教科書という大荷物も手伝って、二人の口を閉じらせていたのであった。
ヤミカラスの鳴き声が遠くから聞こえてくる中、このまま眠ってしまいそうになるが
後片付けをしなければいけないという使命感にも似たソレが治斗と灯夢のまぶたに落ちることを禁じていた。
「あかん……。ともかく片付けせえへんと、このままやと力がカンペキに抜けて元の姿になってまう」
「…………」
「なんや? おんどれもさっさと手ぇ動かんさんか」
「いや、分かっているけど、お前ってやっぱり押し入れに住む気なんだな」
治斗が教科書などを机の上などに整理している一方、
灯夢が教科書などを押し入れの中に入れて整理している姿は誰が見ても新鮮だった。
大人一人程度だったらちょうど収まるぐらいの押し入れは二段式で、灯夢は上の段の方を使っていた。
中を覗いてみると本棚がちゃっかりと置いてあり、その中には教科書などが並べられている。
そして茶色のスタンド型の蛍光灯が枕元の方に鎮座(ちんざ)しており、夜中でも勉学などができるようになっていた。
「当たり前やろ? というより、おんどれ……分かっとると思うけど、ウチにことわりにもなく勝手に入ったりとかしたら
 特大の『だいもんじ』でヤキ入れてやるからな?」
片付けをする手を動かしながら治斗をにらみつける灯夢の瞳の中には
『本気』という二文字が浮かび上がっているように見えた。
おまけに疲れによるイライラの相乗効果で余計に恐ろしく見えるから手に負えない。
治斗は黙ってうなずくだけにしといて、後片付けの続きに手を動かした。

「……ふぅ、なんかようやく落ち着いた気分やで」
「明日の持ち物はこれでよし……。後は寝るだけか」
今日やるべきことを全てやり終え、後は就寝だけとなった夜中。
ちゃぶ台に置かれた黒いラジカセからラジオが流れてくる中、
治斗は教科書を入れたリュックサックの口を閉めていて
一方、灯夢の方は押し入れの中でゴロゴロしていた。
ロコンの姿に戻っていたので中は比較的広く感じられ、快適そうなエビス顔を浮かべている。
「明日は遅刻しないようにしないとな……」
そう呟いた治斗に灯夢が自慢げな顔を浮かべた。
「ウチはいざっちゅうときは元の姿で『でんこうせっか』するから心配あらへんな」
「……じゃあ、起こさなくても大丈夫ってことだよな?」
「そしたら呪うで?」
「……思ったんだけどさ、こういうときだけソレってズルくねぇか?」
「いいやん別に……ウチは本当のことを言うとるだけやで?」
このときの灯夢の笑顔の意味をどう取るかはご想像にお任せすることにする。
治斗はため息だけ一回つくとラジカセの電源を落とし部屋の電気を消した。
それと同時に灯夢も押し入れの扉を閉めた。
どこからかヨルノズクの鳴き声がお疲れ様というように鳴り響いていた。



[宿泊会のお知らせ]
皆様ご入学おめでとうございます。
入学してまだ慣れないこともたくさんあるでしょう。
そこで毎年の新一年生には親睦を深める為に宿泊会というものを実施しています。
タマムシの森でのウォークラリー大会や協力して料理を作ったりなどして、
最終的にはこの一泊二日の宿泊会を通じて、
皆様の親睦が深められるように祈っております。



月光に触れられた、
治斗の机の上に置かれてある一枚の手紙が
ぼんやりと目を開けていた。


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