マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  [No.157] 1巡目―春の陣7:梅雨が明ければ。 投稿者:巳佑   投稿日:2011/01/01(Sat) 18:42:46   50clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

ロコンから見える世界と
人に化けてから見える世界は
同じ世界という言葉なのに違って見えるもんやってことは、
そやな……ウチが生まれて、
変化の術を覚えたのは小さな頃やったから……
まぁ、つまり、もう随分と昔に知った感覚なんやな。
でも……ウチ的には飽きるという感覚がソレにはないんやな。
いつも、この世はいつだって変化を築いとっていたから…………。


ウチは人の足でブーツ音を立てながら歩いておった。
その音には怒りも込められてるっちゅうことは言わずもがなや。
……ったく、あやつが変なことをしよるからや。
ウチのことを馬鹿にするから、いけないんや!

ウチの名前は天姫灯夢っちゅうや。
年は997歳のロコンやで。
……ババァなんて言うたら、即刻『にほんばれ』プラス『だいもんじ』な。
ウチは普通のロコンとは違って、
1000という年を重ねて初めてキュウコンになれるんや。
……ウチはな、命令されたんや。
キュウコンになる為の残りの三年間、
タマムシ高校に通い、無事に卒業すること。
……なんで、そないなけったいな試練を受けられてしまったのが分からん。
けどな……あの方の命令は絶対やしな……。
まぁ、とりあえず、試練は楽勝かなって思うておったで。
要は三年間、女子高生の一人暮らし生活を楽しめばええっちゅうことやろ?
だけど、あの日、
あの男と住むことにならざるをえないようになるまでの思いやったけどな。

あの治斗っちゅう男と部屋がダブルブッキング(やったけ?)に
なってしもうてな……ウチは教えてもらった、その部屋しか住めへんというルールがあるし。
ま、まぁ追い出すんのも悪かったしな、結局は一緒に住むことになってしまったってことや。
あやつと一緒に住み始めて早三ヶ月。
……もう、と言いたくなるぐらい、この男はタチが悪いで。

いつもウチにケンカを売るようなことは言うてくるし。
ウチの水浴びを覗き見したときもあったし。
みたらし団子を勝手に食べてたときもあったやな。

……思い出すだけでも、ウチの怒りのボルテージが上昇していくでっ。
なんで、あないな男と住まなきゃいかんねんっ。
ウチは歯をキリキリ鳴らしながら図書館に入っていった。


図書館内の独特な静けさが辺りを包んでいる中、
ウチはとりあえず空いている机付きの席に腰を下ろして、一息ついた。
なんとなく落ち着ける雰囲気を持つ、この場所は本当に不思議やな。
ここなら誰にも邪魔されずに勉強できるで。
ウチは肩掛けカバンから数学の教科書とノートを取り出すと、
早速、テスト勉強を始めた。
……………………。
むむぅ、人間ってどうしてこんなに難しいもんばっかり創るんや?
この問題は……この式を代入して……と。
そこから計算してからの……こう、展開してやな……。
む、間違えたやな。
もう一回、やってみなあかんな。
……………………。
………………。
…………。
……。
書いては消し、書いては消しの繰り返し。
なんやノートが数式やなくて、消しクズで埋まってきたような気ぃするけど。
もう! こんなん、適当にやったればええんやぁ!!
頭をクシャクシャかきながら…………。
…………。
……。
なんや、簡単に解けたやんか。
ウチはほぼ殴り書きのような数式に赤い丸をつけた。
……なんか眠ぅたくなったやな。
ウチは大きなあくびを一つした。


それは昔々、暖かくて、ウチはあのヒザの上で昼寝を興じるのが大好きやった。
それは昔々、温かくて、ウチはあのもふもふな尻尾にくるまれるのが大好きやった。
も、もう、ウチは大人やからな。
そんな甘えはお願いしないけどな……多分や、けど。
それに…………。
あっ! それはウチの(みたらし団子と同じくらい)一番大好きな、
なめこ入りのきつねうどんやん!!
う〜ん! 母さんの手作りがやっぱり最高やな!!
ん? なんやて!? おかわりあるんかいな!
あっ! 大盛りで頼むで!!
モグモグ……モグモグ……。


「お客様……お客様……」
「んはあぁ!?」
「あ、あの、もう閉館時間ですので」
…………最初は寝ぼけておったけど、徐々にウチは状況を理解した。
ウチとしたことが居眠りしすぎてもうたみたいやな。
……あ、よだれがちょっとばかし垂れてるやないか。
とりあえずウチは背伸びをしようと立ち上がった。
……『フラフラダンス』をしているような感覚やで。
気分はパッチール、なんて思いながらウチは帰り支度をすますと
図書館を後にした。
……むぅ、今、気がついたんやけど結局問題一問しか解けへんかったな。
そうや! だいたいあの男がウチを怒らすから、
余計な体力を使ってしもうたやないか!!

……おなかから音が鳴ったで。

ま、まぁ、あいつは顔に似合わず料理は作れるしな。
この前は大根の煮込み料理なんか、いっちょまえに作りよるし……。
箸が大根を綺麗に通るぐらいの絶妙な感じやったなぁ。
…………。
なんや悔しゅう気持ちになるんのは気のせいやろうか。
と、ともかく、なんかうまいもんでも作ってくれたら許してやってもええかな。
ウチは優しいからな! 
……あかん、腹が減って力が若干抜けているで……。

はよう帰るかと図書館の入り口のところまで出たところで、
ウチの目と鼻が何かを捕らえた。

「……しもうた、雨が降ってきよったか」

参ったで……カサを持ってきよるのを忘れてもうた。
まぁ、雨に濡れるなんて今まで何回もあったから、いまさらやけど。
近くの水たまりで二匹のニョロモと
ピカチュウ色のレインコートを着よった一人の小さな女の子が
きゃっきゃっと遊んでおった。
ロコン色のレインコートは売ってへんのか?


……それにしても、雨かぁ、ちょうどこの時季やったっけな。
ウチが大たわけな事をしよったのは。
あれを思い出すたびに、ウチは本当に馬鹿なことをしよったと思っとる。
………………。
いかんな。
どうやら腹が減りすぎてネガティブになりすぎてしもうてたようや。
多少、ぬれてもしゃあないから、さっさと帰ったほうがええな、これは。


「やっぱり、カサを忘れてたか」

いきなりウチの耳になじみのある声が聞こえたのと同時に、
目の前に現れたんのは同居人のやつやった。
そいつは右手に開いた黒色のカサを、左手には――。
「ほら、お前のカサ、持って来たぞ」
ウチの赤いカサを手渡してきた。
「なんや、ストーカーでもしよったんやないやろうな?」
「図書館に行くって言ったのはどこの誰だよ」
む? そないなことも……まぁ、言ったことにしといてやるで。
ウチはそいつからカサを受け取ると勢いよくソレを開いた。

ん、まぁ、この男は最悪とまではいかないだけ、まだマシやってことやな。
ほんまにときどきやけど心遣いも、まぁできるみたいしな。
…………三年間ぐらい、我慢できへんことには
立派なキュウコンにはなれへんっちゅうことにしといてやるわ。

うん、幸い、この男は料理が人並みできるから我慢できそうや。
うん、うん、うん、そういうことにしといてやるわ!
強引なんて言わせへんで!!

「ほな! ウチは腹減ったで! はよう帰って飯や! 飯!」
「お前なぁ! カサに対するお礼はどこに行ったんだよ!?」




通り雨だったのか、数十分後には見事に空は晴れ渡った。
灯夢の鼻には雨上がりの匂いとともに、
ちょっとばかし、夏を予感させるものが届いていた。
期末テストが終わった後に彼女らのドアをノックしてくるのは

           
            
                夏休み。


1巡目―春の陣【完】


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