マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  [No.155] 1巡目―春の陣6:梅雨に入りて。 投稿者:巳佑   投稿日:2011/01/01(Sat) 05:17:30   46clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


体育祭や文化祭などが学校行事にあるように、
これだって立派な学校行事であろう。

「え……と、この式がここに代入して、と……」

「この漢字は覚えにくいから赤ペンでチェックしましょ……と」

「この例文の……関係代名詞を……しっかり……」

期末テストという名の学校行事。


ところどころ雲が散らばっている空の下にある、とある一つのアパート。
楓荘の一室にて俺は勉強していた。
……まぁ、俺一人だけじゃないけど。
「……むぅ、いつになっても数式には慣れへんわ」
「なんだよ、てっきり数学は得意なものだと思ってたけど」
「あんなぁ、ウチは別になんでも得意っちゅうもんやないんやから。
 まったく……こんなにぎょうさん数式なんか作りよって」
「……教科書をにらみつけても仕方ないだろ」
俺が自前の勉強机で勉強している傍らで、
開いている押入れからはブツブツと文句を言っているモノが、
一人…………いや、一匹いた。
「う〜ん、アカン……みたらし成分がなくなってきたやな」
「なんだよ、みたらし成分って」
ソイツは近くに置いておいたらしいみたらし団子を一つ口に入れた。
するとソイツは急に何かをひらめいたかのような顔つきになった。
「せや! ここはこの数式を代入するんやな!!」
「単純だな! オイッ!」
……押入れの中で勉強しているのは人ではなくポケモンであった。
赤茶色の体に六本の尻尾。
頭の巻き毛には白い光を帯びた銀色のかんざしが一本。
「ふふん、ウチにかかれば、楽勝やで!」
さっきまでの不安な言葉はどこへやら……。
得意げな顔でロコン――灯夢は満足そうな顔をしながら、
ノートの上で走らしている鉛筆の速度を上げていったのであった。


俺の名前は日暮山治斗。
タマムシ高校に通っている一年生だ。
両親が職業柄、よく海外へと出かけてしまうので、
タマムシ高校に入学という機会に一人暮らしを始めることにした。
……さて、初めての一人暮らしで緊張していた俺だったのだが、
それは記念すべき一人暮らし初日、
一匹のロコンに出会ったことで見事にその緊張はどこかに消え去ってしまった。
なんでも、そのロコンはキュウコンになる為の試練として、
三年間、タマムシ高校に通い、無事に卒業しなければいけないらしい。
…………事情はさておき、
そのロコンとなぜか同室になってしまって、
今、こうして一緒に一つ屋根の下、住んでいるということだった。
……俺から見たらロコンが勝手に住みついたとしか考えられないんだが。
「おんどれは余裕なんか? 数学は」
「余裕というわけじゃないが、どっちかというと得意科目だな」
俺とロコンの灯夢はただ今、勉強中である。
二日後に来るべき期末テストに向けて。
「……それ、ウチに対する嫌味か?」
「なんで、そうなるんだよ!?」
いきなり灯夢から投げつけられた理不尽に面をくらった。
なんで灯夢はいつも俺の言葉を
ケンカ腰のような受け取り方をしてるのかが全く不明だ。
「おんどれのノートに、ほとんど丸しかついてないやんか」
灯夢が俺のノートをのぞいたようだった。
……押入れから勉強机の俺のノートの中身を見るなんて、器用なヤツだな。
俺もただいま数学の勉強をしていて、
確かに、俺が解いた練習問題には赤い丸がついていた。
……まぁ、もう三回も同じ問題を解いているんだから、
ほとんど赤い丸があってもおかしくないだろう。
俺の場合の数学の勉強の仕方としては基本、
練習問題を繰り返して、その公式の使い方とかを理解していくというやり方だ。
後は、期末テストとかで応用していけばいい、といった感じかな。
いつも百点を取っているわけではないから、
それがベストな勉強方法というわけではないのだが。
「……これはウチに対する当てつけとしか考えられへん」
「あのなぁ、お前だって本当は数学なんて楽勝だろ?」
俺はいったん勉強机から離れて押入れの灯夢のノートをのぞいて――。
「!! このエッチ野郎っ!」
おもいっきり灯夢からパンチをもらった。
右のいいストレート一発。
人にも化けることができる灯夢だが、今は元のロコンの姿なのだが、
その小さな手から放たれたパンチは冗談抜きでメガトン級だった。
……けど、攻撃をくらう前にちらっと見えてしまった。
若干だが、赤いバツ印が多かったような気が……。
「もうええわ! おんどれと一緒に勉強なんて、もう集中できへんわ!」
そう吐き捨てるように言うと灯夢は
さっさと自前のショルダーバックに色々と入れ込み……終えると。
「図書館で勉強して来るわ!!」
その言葉とともに扉がおもいっきり音をたてながら閉められた。
俺は漫画の描写かと疑われるぐらい赤く膨らんだ、ほっぺたをさすりながら、
灯夢の怒りを抱きながらの行動を見ることしかできなかった。



「イテテ……灯夢のやろう、思いっきりなぐりやがって……」
依然と痛みを訴えてくる、ほっぺたに、
ユキメノコ印のロックアイスを入れた袋を当てながら、俺は勉強を続けていた。
左手に例の袋、右手にシャープペンシルを持ち、
数式というモンスターに再び挑んでいった。
近くのちゃぶ台に置いてあるラジオから音楽が流れてくる。

灯夢って、どうしていつも怒り気味な感じなんだろうな。
それにいつも何かと自分の鼻を高くしているところもあるし。
……本当に謙虚っていう言葉を知らないんじゃないだろうか?
…………まぁ、頼りになる、っていうところはあるが。

怒りやすい。
自惚れ。
みたらし団子に関しては我がままなところがある。

……なんだろう、他人ならぬ他ポケの短所なんだけど、
短所しか浮かばないあたり、悲しくなってくるのは気のせいだろうか?
そういえば、もうアイツとも早三ヶ月といったところかぁ……。

尻尾を間違えて踏んで、みぞ打ち一発。
あまりにも腹が減りすぎて、アイツのみたらし団子を間違えて食べて、頭突き一発。
掃除中に誤って、ほうきでアイツを力強く掃いて、アッパー一発。

……なんだろう、宿泊会のこともあるけど、
俺ってばロコンに、なぐられっぱなしじゃねぇか?
ついさっきのほっぺたに一撃もあったしな…………。
まぁ、至近距離の『かえんほうしゃ』や『だいもんじ』に比べたら、
まだこのパンチは序の口なのかもしれない……と考えていたら、
なんか鳥肌が立ってきたぞ。

外からヤミカラスが「アホ〜、アホ〜」と鳴いているのが聞こえてくる。
……タイミングがタイミングだけに
俺のことをバカにしたかのような感じを受けた。
確かに、灯夢のことを考えていて、
右手のシャープペンシルの動きが止まっていたことはバカかもしれない。

でも……なんか、アイツのことが気になって仕方ないんだよな。
灯夢ってさ、ときどき暴走気味なところがあるからさ、
灯夢にとっては余計なお世話かもしれないけど、
ちょっと不安に思ってしまうこともある。
俺以外のヤツに正体がばれるんじゃないだろうか……とか。
っていうか、俺にはもうばれているというわけだけど大丈夫なのか?
………………。
万が一にも口を滑らせた次の日は朝日を拝めないかもしれないな……。
色々な人に、ばれすぎて試練に失格……なんてこと……。
呪われたくないから、それだけはカンベンしたい。マジで。

まぁ、なんだ。
要は、アイツのことが、
なんか……ほっとけなくなったというか、なんというか。
初日にはそんなこと思わなかったのにな…………なんか変だな。
今では、そうだな……うん、無事に三年間アイツと暮らしていければいいか。

そう、灯夢の一撃で俺が死なないように……な。
冗談抜きで。


「ちょっと、お茶でも飲もうかな」
数学ではなく、プライベートな考え事で疲れてしまった俺がいた。
俺はいったんシャープペンシルを置いて、
カーテンが開かれた窓から空を見上げた。
六月下旬の梅雨時期まっただ中である空は見事に重い雲によって、
灰色の世界に上書きされていた。


「…………アイツ、カサ、持っていったかな」


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