マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  [No.114] 1巡目―春の陣4:春風は距離を縮めさせる その2。 投稿者:巳佑   投稿日:2010/11/18(Thu) 19:34:45   48clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

白いご飯が炊かれている香り。
色々な香辛料が奏でる香ばしい香り。
真白なお皿に料理が描かれて。
銀色スプーンが踊り始める。
「うん、よく出来てるじゃない!」
「とても……おいしい……です……」
「ねぇ……しずくちゃん。そんなにタバスコかけて大丈夫なの?」
「か、辛いモノ……大好きなんです」
「しずくちゃんは辛党だったのね……」
「あ、甘いのも好き……ですよ」
「う〜ん! にゃかにゃかぐまいぜぇい!」
「こらっ 健太! 行儀悪いで!」
「……せめて、手で口に隠してとかしなさいよ」
「おかわりっ!」
「あら、早いわね日暮山君?」
「おんどれはカレーが好きやったんかんか?」
「……だれかさんのせいで、昼飯を食いそびれたからなっ」
「なっ!? ウチのせいかいな!? おんどれがあないなことするからやろ!!」
「なぁ、治斗! このまま大食い勝負とかやろうぜい!!」
バンガロー広場の近くにあり、カマドなどが設置されてある調理広場。
夕日も間もなく沈みそうになる時間帯。
オレンジ色の光を浴びながら、
各班、カレーのひと時を過ごしていた。


[宿泊会一日目:夜]
タマムシの森には宿泊客の為の広場がいくつか存在する。
少人数で泊まる用のキャンプ場と
そして大人数で泊まる用のバンガロー広場。
タマムシ高校の皆は後者の方を利用していた。
一クラス一バンガロー。
バンガロー内は一階に居間や風呂場、洗面所、
そして寝室が二部屋あり、
二階に寝室が二部屋ある構造であった。
ちなみに一部屋五人でもさほど狭くないほどの部屋で、
二段ベッドが二つと普通のベッドが一つ設置されている。

ホーホーの鳴き声がタマムシの森の中に響き渡る夜中八時。
とあるバンガローでビンゴ大会のレクリエーションが終わった後のこと。
「そういえばさぁ、治斗。オマエってどこの部活に入るのかって決めてる?」
「いや、まだ決めてねぇというか。とりあえずは入らない予定かな」
二階の寝室で治斗と健太が並んで座りながら会話をしていた。
ただ健太はイラストを描きながらで、隣にはドーブルもイラストを描いている。
「オレはもちろんイラスト部!! 仮入部の時から恋に落ちた! って感じ?」
「ブルッ!!」
熱い声を器用に手に乗せながら健太と健太は筆を進めている。
「…………いや、お前の場合は最初っからだろ。どう考えてみても」
治斗はぼんやりと空を仰ぐかのように顔を上に向けていた。
疲れが溜まったせいかもしれない。
9割方、灯夢の本気のみぞ打ちのせいに違いなかった。
ロコンの本気のみぞ打ちを受けた人間なんて恐らく治斗だけかもしれない。
「よし、治斗! オレとドーブルと一緒にイラストで青春しないか!?」
「ブルブルッ」
「だが断っとく」
楽しそうなのは楽しそうなのだが、
トラブル満載に疲労感のオマケが付いてきそうな気がした治斗であった。
「んだよっ。つれねなぁっていうか治斗は帰宅部に決定?」
「まぁ、そうなるかな。それに学生の本分は勉強ってな」
「ぬぬぬ。治斗がそこまで真面目だとは思わなかったぜ」
本気の驚きの横顔を治斗に見せながら健太の筆は止まらなかった。
どうやら下書きが終わったようでカラーペンを取り出し、彩色作業に手をつけるようだった。
「まぁ、でもこれでテストのときは安心だよな! よろしくな治斗!!」
「……勝手に人を頼りにするなよっ」
「リクエストイラストに応えてやっからさ!!」
「ブルブルッ!!」
健太とドーブルが声で治斗に迫りゆくのと
何かが開いた音が鳴ったのはほぼ一緒だった。
「先生が次、男子も入っていいって」
「……お風呂……気持ちよかった……ですよ……」
「なんや、健太。おんどれココでも絵を描いてたんか?」
それぞれのパジャマに身を通した、鈴子、しずく、灯夢が順に部屋に入って来た。
暖かい湯を浴びてきたのであろう、女子三人の顔が少々赤く火照って(ほてって)いた。
その熱も手伝って少し色気が出てきているような雰囲気があったのだが……。
健太とドーブルは視線がイラストの方向に、
治斗は想像以上の疲れで
気がつかなかったのであった。

ここで、とある疑問に思う人がいるかもしれないから答えておくと。
「ええか? 体を癒してくれるお風呂や温泉とかだったらな
 炎タイプのポケモンも喜んで入るもんやで?
 まぁ、ウチみたいに、け・い・け・ん・があれば水タイプなんて楽勝や!!」
以上、治斗と灯夢の共同生活一日目にて、
ロコンである灯夢の一主張である。
ロコンの姿で後ろ足で立って、
前足を組んで胸を反らせて、
高笑いしながら。

「よっしゃあー!! やっとできたぜ!」
「ブルッ!」
健太とドーブルが白い紙を掲げながら歓喜をあげた。
クリエーターにとって作品を完成させるというのは何物にも変えられない喜びなのかもしれない。
その声につられて他の四人が一人と一匹のイラストを覗き込んだ。
ドーブルが描いたのは
セクシーなポーズと書いて『メロメロ』と読むような、可愛らしいミミロップ。
健太が描いたのは
雪のような白い肌に水色の髪の毛、
それと獣耳と比較的に太くて先端がくるっと丸まっている尻尾を持った、
可愛い小さな女の子。
イラストを覗いていた四人が疑問符を打ったのは後者の方であった。
「この……可愛らしい女の子は一体ダレ?」
鈴子の素の疑問に健太が驚きの声を上げた。
「えっ!? 分かんないのか!?」
その視線を受けた鈴子は押されるようにしずくに。
しずくが灯夢に。
灯夢が治斗に。
視線がバトンのように回ったが誰一人、分かる者はいなかった。
「こ・れ・は! パチリスを擬人化してみたイラストだぜ!」
右指でブイサインを決めながら健太は種明かしをした。
何故だろうか。
健太の後ろから、めでたいようなBGMが流れてきたような気がした。
「擬人化って……動物とかを人に例えてみるヤツのこと?」
「そういうこと!!」
言われてみれば、元がパチリスな感じがしてもおかしくなくなってきた。
パチリスの背中にあるトゲトゲを表すかのように、
紙の中で笑っている女の子の髪はところどころはねていた。
「う〜ん、やっぱり擬人化って面白いよな。
 その人に『コレ何の擬人化でしょうか?』的に問題を出している気分でさ!」
「ブルッブルッ!」
健太とドーブルがお互いを見合って、
何かを発見したかのような顔を見せ合っていた。
この一人と一匹は根っからのイラストっ子であった。
そして
その絆の疾走に置いてけぼりにされた雰囲気を見せる治斗たちであった。

クラス全員、
お風呂を浴びて
歯磨きもしっかりして
それぞれの寝室に戻っていた。
就寝時間もとっくのとうに過ぎ……。
「なぁ、オレ思ったんだけどさ。人からポケモンを想像してみるのって面白くねぇ?」
「……それって『お前はポケモンに例えたらコレだ』ってこと?」
「そうそう! それそれ!」
部屋の中が真っ暗に上塗りされた空間の中で声だけが通っていた。
一つの二段ベッドでは上が健太、下が治斗。
もう一つの二段ベッドでは上が灯夢、下がしずく。
そして一人用のベッドに鈴子が布団を体にかぶせていた。
しずくの方はもう寝付いているようだが、
他の四人は宿泊会の独特な雰囲気に目が冴えてしまったのか、
まだ起きていた。
「このオレから見て……そうだなぁ……」
「おんどれが決めるんかい!」
「もうちょっと声のトーンを落とせって、ばれるだろ?」
「……まぁ、日生川君のセンスに任せてみましょ」
闇夜の中を行き交う言葉が止まって十数秒後……。
健太の頭の上から光った電球が飛び出て来た。

「まず、鈴子はチャ−レムかな。
 格闘タイプが似合うと思って想像してみたら、チャ−レムになった。」
「……結構、フィーリングなのね」 

「しずくは……ラティアスかなぁ。
 あの赤色のツインテールでピンッと来た」
「……ラティアスって、絵本とかに出て来る、あのポケモンの事か?」
「おっ、治斗も持ってるのか。『こころのしずくの手紙』」
「……懐かしいな、ソレ」
「あっ アタシも持っているかも」
「まぁ、ともかく。アレに出てくるポケモンってことだ」


「治斗はコクーンな。
 なんていうか、あの時、こくんとしかうなずけなかったからかな」
「お前にもみぞ打ちを食らわしてやろうか……?」


「そんで、灯夢は…………」


ちょっとした間の後。


「……なぜかロコンが一番しっくり来たんだよな、これが」


どこからか可愛いくしゃみが聞こえて来た。


人のセンスを馬鹿にすることはできない。 
そう治斗は冷や汗を垂らしながら思わず生つばを飲み込んだのであった。


[宿泊会二日目:朝]
朝日が昇り始めた頃と同時に
タマムシの森にポッポやスバメのさえずり声が聞こえ始めてきた。
そして、その朝日の木漏れ日を受けながら一匹のポケモンが歩いていた。
赤茶色の頭に三つの巻き毛。
赤茶色の六つの尻尾。
そして、頭の巻き毛のところに刺さってある白銀色のかんざし。
狐ポケモン――ロコンこと灯夢は川辺に着くなり、
水浴びを始めていた。
「ぷっはぁ! くぅ〜! やっぱ朝の冷たい水は体に染みるやな」
ひとしきり浴び終えると灯夢は川から上がって体中を震わせた。
六本の尻尾が、水しぶきが、無差別に飛び跳ねを描いていく。
「……ふぅ〜。気持ち良かったで、ほんまに」
とりあえず適当に座り心地がよさそうなところに腰を下ろした。
暖かい日差しを受けながら、灯夢は大きなあくびを一つ。
間の抜けた音が空へと――。

「……誰かそこにおるんか?」

灯夢が振り向いて草の茂みのほうへと目をやった。
やがて観念したかのように茂みが揺れて出てきたのは一人の少年。
「……なんで、分かったんだよっ」
「ふんっ。ポケモンの察知能力をなめてもらうと困るで」
「なぁ……とりあえずさ、隣、座っていいか?」
「好きにしろや」
一応、灯夢からの許しを得た一人の少年――治斗はゆっくりと……。
「ウチの尻尾踏んだら、承知せぇへんで」
これではおちおち、
ゆっくりと座れない感じを受けながらも治斗は灯夢の隣に座った。
朝日に川岸に、少年にロコン。
一見すると一緒に散歩していて、ちょっと休憩を取っている、
ポケモンとそのトレーナーに見えなくもなかった。
ほのぼのとした雰囲気が漂っているのも気のせいではないと思われる。
「それよりもお前、こんなところにいたんだな。 なにしてたんだ?」
「見てたんやろ? ウチは目を覚ましに水浴びしに来たんや。
 それよりも…………覗き見(のぞきみ)なんかしよって、このエッチ!」
「…………色気なんか、あったけ?」
「おんどれはウチにケンカを売りに来たんかいな!?」
前言撤回。
どこからどう見ても平和には見えない情景であった。
「まったく! おんどれはウチを馬鹿にばかりしよって!
 昨日なんかは空手チョップなんか、かましてくるしな!?」
昨日のみぞの痛みを思い出した治斗も思わず口が飛んだ。
「あのなぁ、自分はポケモンです! って、そんなこと、あの場で言ってたら、
 混乱以外、何も考えられないだろ!!」
「誰にモノ言ってんや、おんどれは!? ウチはロコンやで!?」
「俺以外に正体をばらしたら、面倒なことになるって思ったことはないのかよっ!?」
治斗の声が森の中にこだまして消えていった後、
ポッポたちが羽ばたいた音が空に消えていった。

そして空から降ってきたのは――。

「……………………」 
「……………………」

沈黙だった。

しかし、言葉が出なくとも灯夢の顔が何かを無意識に書き始めた。
よく見てみると頬(ほお)が少しばかり赤くなってきており、
額(ひたい)から汗が数粒、流れて来ているようであった。
「う、ウチは間違ったことなんか……な〜んにも言ってないで?」
明らかに灯夢の視線は治斗ではない方向に泳いでいた。
「……お前って、分かりやすいヤツだよな」
人間はソレを『火に油を注ぐ』と読む。
「おんどれは、少し、だまれぇぇぇ!!!」
ポケモンはソレを『だいばくはつ』と読む。


とあるバンガローにある一つの部屋。
「あっ、帰ってきたきたっ。もう、起きたら二人ともいなくなってるし、心配……」
「なんや、健太としずくっちはまだ起きてなかったんかいな」
「…………若干、もう一名、眠っているようだけど?」
「コイツは適当に放って置いてや。……ったく、ここまで運ぶのに苦労したで」
「……灯夢ちゃんって力持ちだったのね……」
「ウチは……ロコンやからな……」

ちょっとした間。

「あははは!! 灯夢ちゃん、ロコンでもちょっと無理があるんじゃない?」

昨夜の健太の言葉を思い出して、笑い始める鈴子。

「あっ、ごめん。アタシ、ちょっとトイレに行ってくるわ」
鈴子が部屋から出るのを見送った灯夢はとりあえず、

治斗をぶん投げた。

そして重く響く音が
健太としずくの目覚まし時計代わりとなったのは言うまでもない。


学校としては無事に宿泊会は終わりを迎え、
帰りのバスの中では行きのときの凝り(こり)固まったような空気は
見事に溶けていて、お互いの距離が縮んだようであった。

ちなみに、治斗はその日の晩ご飯まで食事が通らなかったという。

そして、灯夢の方は晩ご飯まで治斗には口を開かなかったという。
ほっぺたを膨らませながら。


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