マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  [No.67] 0巡目―3:結局は突然に。  投稿者:巳佑   投稿日:2010/10/21(Thu) 19:45:26   51clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「あらまぁ、それはそれは大家さんが失礼しちゃいましたねぇ。
 えっ? あ、私は大家さんの代理をしている者ですぅ。 
 改めて、楓里幸(かえでさとさち)と申しますぅ。
 大家さんですかぁ? すいません、あのお方は少しばかり放浪癖がありますからぁ。
 いつ帰って来るか分かりませんのぉ。
 まぁ、でも、少々狭い場所かもしれませんが二人で住んでもよろしいのではぁ?
 折角の高校生活ですものぉ。こういうのもなかなか体験できるものではありませんよぉ?」
身長は170前半だった。
髪は茶髪で太ももまでウェーブをかけながら垂れていた。 
そして昔懐かしい、かっぽう着を羽織っていた。
『楓荘』の大家代理、楓里幸は終始、和やかな微笑みを見せていた。

「……だ、駄目や。なんかあのホワンホワンに力を奪われた感覚や」
「あの人を責めることはできないよな……」
楓山幸の独特なペースに見事にはまった治斗とロコンは
苦情の『く』の字も漢字の『苦』に変換するどころか出すことも叶わず、元の部屋に戻っていた。
気がつけば空はいつの間にか夕日が沈みそうになっており、
まだいささか冷たいが、それでも春の香りが伝わってくる風が部屋の中に入り込んで来る。
それが合図かのようにロコンは元の姿に戻っていった。
「……しゃあないな、ウチも野良生活はできへんし。おんどれを外にほっぽっておくのも嫌やしな」 
「俺も……それと多分お前も今から新しい部屋を探すのは無理だろ?」
「当たり前やろ。おんどれを外に出して何かあって、
 それでいきなり試練を不合格にされられたらウチ、絶対におんどれに呪いをかけたるからな」
齢997歳のロコンもとい狐の呪いなんかマトモじゃない。
まだ、治斗にとってロコンの言ったことは正直に判断するとなれば半信半疑だ。
しかし、迷信を馬鹿にしたヤツが怖い目に会うというのもある……とこれは治斗の母からの受け入りなのだが。
思わず息を飲み込んだ音が鳴ってしまう。
「そないに怖がらんといてもええやないか。……それとも怖がり屋だったかいな?」

馬鹿にされて頭に血が上ってしまうのに年の差なんか関係なかった。
「俺はそこまで怖がりじゃねぇ! というかその姿でそんなことを言っているヤツに説得力なんかないと思うぞ!」
「なっ! お、おんどれ……今、ウチ以外のロコンにもケンカを売ったやな!?」
「997歳かなんだかよく分からないけど、ぶっちゃけ子供にしか見えねぇよ!」
「た、たわけたことをぬかす口はコイツかーー!!??」
一触即発の空気が――。

「ごめんなさいねぇ、失礼しますよぉ」

『しめりけ』という特性を持った天然で不発に終わった。

「先程のこちらの不手際の償いになるかどうかは分かりませんがぁ、
美味しいラッキーのタマゴ産クッキーを持って参りましたのぉ。
ぜひぃ…………あらぁ? 可愛らしいロコンですわねぇ。治斗さんのポケモンですかぁ?
毛並みもいいしぃ、よく育てられている感じがしますよぉ。
触ってもよろしいでしょうかぁ? 
……もふもふ……もふもふ……。
…………暖かくて気持ちいいですねぇ。
あらぁ? もうこんな時間でしたのぉ? 
それでは私、『ミミロップの休日』を見に行きますのでぇ、
あっ、ちなみにコレぇ、私の今一番おススメのドラマですぅ。それではぁ、失礼しましたぁ」

楓山幸が帰った後、
天然水が打ったかのように場の空気が静かになった。
そしてソレは見事に治斗とロコンの間のピリピリ感をも
綺麗さっぱりに洗い流していた。

「……まぁ、ともかくや。ここはいっちょ共同生活する他ないやろ」
「そうだな。それしかないってことだよな」
「言うとくけど、ウチの住処の押し入れに入ったらしょうちせんへんで?」
「分かった分かった」
とりあえず落ち着いた治斗とロコンのお腹から気の抜いた音が鳴り響いた。
同時にお互いの顔を見た二人は思わず笑ってしまっていた。
「んあっ一番大事なこと訊いとくのを忘れておったわ」
「何?」
「おんどれ、名前、何て言うんや」
そういえば物事が唐突すぎてお互い、基本中の基本のことを訊きそびれていたのであった。

「治斗、日暮山治斗だ」
「ウチは灯夢(ひむ)っちゅうんや。よろしゅうな」
「……名前あったんだ」
「当たり前やろ! 皆が皆ロコンやと混乱するやろ?」
「確かにそうだな」

日は沈み、空は漆黒の服に衣替えをした。
街外れの為か星と月が綺麗に浮かばれているように映った。
明後日からいよいよ高校生活が始まる。

「そういえば、お前って人間のメシ食えるのか?」
「全然平気やで。なんや作ってくれるんか?」
「……というよりお前は作れるのか?」
「ウチは食べるのが専門やからな!」
「要するに作れないってことか。こりゃあ料理担当は俺になりそうだな」
「なんや!? 食べることっちゅうのは偉大なんやで!? 大事なんやで!?」
「ともかく、そこに茶菓子を置いといたから、ソレをつまんで待ってろっ」
「……もう食ってしもうたけど?」
「早っ!」

明後日からいよいよ高校生活が始まる。
ただでは終わらない不思議な高校生活が――。

「食後のデザートっちゅうもんにみたらし団子はあらへんか?」
「ねぇよ」
「なんやと!?」


始まる。


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