マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  [No.72] 1巡目―春の陣1:それは春一番の如く  投稿者:巳佑   投稿日:2010/10/22(Fri) 19:14:43   45clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

[私立タマムシ高校]
タマムシシティにある当学校は
一学年六クラス、一クラス二十人の少人数形式を取らせてもらっています。
授業は一年生、二年生では共通の科目を取り扱い、
三年生では通常授業に加えて理系クラスと文系クラスに分かれて授業を行うカリキュラムとなっております。
なお、このタマムシシティにはタマムシ大学がありますが、
本学は付属校ではありませんので、
エスカレーター式で自動的に上がることはないということを承知して下されば助かります。
また、本学は体育祭や文化祭などの行事もありまして
生徒の自主性を尊重して――。

誰もいない、とある部屋の一室の机に無造作に置かれてある一冊の本。
どこからか春一番からのすきま風が部屋の中に入って来て、
本のページを勝手にめくっていた。
静かな音と共にどうやら校長先生のインタビューらしきページが顔をだした。
そのページの顔写真に映っていたのは灰色の長い髪を綺麗に垂直に垂らした女性だった。


春風は背中を押すかのように吹いていて走ると心地がよくなる。
しかし、今はその春風にもっと手を貸してもらいたいというのが二人の心情であろう。
いや……厳密に言うと一人と一匹なのだが。
「やっべー! 早くしないと遅刻するって!!」
「んなこと言われなくても、分ってるわ!」
「ったく! お前が三度寝なんかするからっ!」
「おんどれこそ! 二度寝なんかしよるのがいけないやろ!!」
全力疾走しながら口で火花を飛ばし合うという器用なことをしていた二人は
ともかく我先と徒競争でもしあうかのように先へと急ぐ。
この桜並木の道を通り抜ければタマムシ高校はもうすぐであった。
今日はタマムシ高校の入学式。
一人の少年、日暮山治斗と
一人の少女、しかし正体はロコンの灯夢の全力疾走の姿に、
見たところ散歩中の一人のおばさんとポチエナは思わず振り向いて口を開けていた。

「……まさか、ここまで疲れるもんやとは思わなかったで」
「俺も中学の頃に受けたことはあったけど、あれほどじゃなかったな」
上履きに履き替えた治斗と灯夢は指定された自分たちのクラスに向かって歩き始めていた。
二人とも、その両手に大量の部活勧誘の紙を抱えながら。
なんとか時間ギリギリに正門に入った二人を待っていたのは部活勧誘の波で、
それを泳ぎ切るにも体力を使った二人であった。
疲労に疲労を重ねながら灯夢は呟く。
「これが俗に言うVIP待遇っちゅうもんなんかな」
「……そんな言葉、知ってたんだ」
「あんなぁ……おんどれ。ウチが何歳かって知っとるはずやろ! 経験が違うんや! け・い・け・ん・が!!」
肩で息をしているときのその行動はポケモンの技で言うと『じばく』と読む。
「そんなにせき込んで大丈夫か?」
「くっそう……。今度からは元の姿で登校してやろか。『でんこうせっか』で学校まで一発やで」
「『でんこうせっか』って、あれは相手にぶつかる技だろ?」
「おんどれは頭が固いんや! ええか? ポケモンの技はバトルだけやないということ、知っとき!」
確かに考えてみれば、例えばヒトカゲなどの『ひのこ』もたいまつをつけたりするのに役立ちそうだし、
『アロマセラピー』という技でリラックス出来たり……とポケモンの技は人間の生活にとても役立ちそうである。
「昔、二ドラン♀とデートでもしようとしたんかいな。
 二ドラン♂が待ち合わせに遅刻しそうになっとるところを見かけたことがあるんよ。
 そのときのアイツもバリバリ『でんこうせっか』を使ってたで」
そしてソレはポケモン自身の生活にも役立てていたようである。
ダラダラと話をしている内に治斗と灯夢は自分たちのクラスへと到着した。
流石にもうすぐ時間ということもあって殆どの人がクラスの中にいた。
「……まさか、お前と一緒のクラスとはな」
「おんどれ……。まぁ、ウチも同じこと考えてたから怒らんけど、いい加減にその呆れ顔を止めんと殴るで?」
「結局は怒るじゃねぇか」
「一言多いんや! おんどれは!!」
怒りの形相の灯夢が持っていたクラス発表と題された紙にはしっかりと。
2番  天姫(あまひめ)灯夢
15番 日暮山治斗
二人の名が1−Fの枠の中に刻まれていた。
ちなみにクラスの人たちが一斉に灯夢のことを見たのは言うまでもない。

ご近所の間の付き合いがあるように、
学校では隣席付き合いというものが存在するとかしないとか。
「よ! ギリギリだったなオマエ。
 ああ、オレ、日生川健太(ひなせがわ けんた)って言うんだ、ヨロシクな!
 ん? あぁ、これ? 可愛いイラストだろ? オレが描いたんだよ。すげぇだろ?
 ところでさぁ、オマエってアニメとか漫画好きか?」
「まぁ、どちらかと言えば好きってほうかな……」
くりくり頭に赤色のふちをした眼鏡。
背は治斗よりもいささか小さいといったところ。
治斗の隣に座っていたのはどうやらオタク系の少年だった。
可愛い女の子を描いていた手を止め治斗の方に顔を向けた。
ちなみにイラストはデッサンとかもしっかりとしているようでうまかった。
治斗に興味があるというのを体現するかのように興奮した顔を浮かべていた。
「なぁなぁ! さっきの女の子ってさぁ」
健太の声音が嬉々とした色を帯びている。
初対面の相手にここまで積極的というのも珍しいが何故だか悪くはない気がすると治斗は思った。
少なくとも初対面の相手に対して怒声を浴びせてくる奴に比べれば。

どこからか可愛い音色を奏でたクシャミが聴こえた。

「大丈夫? 風邪でも引いた?」
「あの……良かったら……こ、これを使って……ください」
「すまへんな。おおきに。…………ふぅ、誰かがウチの噂でもしよったか?」
「そりゃあ、クラスの入り口であんな声を上げたら誰だってウワサするでしょうよ」
「しゃあないやろ! 全部アイツが悪いんやからな!」
「お……落ち着いて……ください」
「…………」
「あ、あの……わ、わたしの顔に何か付いてますか?」
「んや。なんでもあらへんよ……」 
ここで灯夢の言葉が一旦途切れてしまう。
そういえばこの二人とは初対面だったということに気がついて名前を知らないことにも気がついた。
その様子を察したのか一人の少女が名乗り出た。
肩までかかった黒い髪でおでこは見事にオープンされている。
眼の色は若干、茶色に染まっていて。
身長は160センチ後半だった。
「アタシの名前は朝嶋鈴子(あさじま すずこ)ヨロシクね」
そして、もう一人の子も誘われるように挨拶をする。
朱色の髪でツインテールになっている。
黄色のまなざしが恥ずかしそうに揺れていた。
背は160センチ前半ぐらいだった。
「わ、わたしは……光沢しずく(みつざわ しずく)……と言います。よ、よろしくお願いします」
「ウチは天姫灯夢っちゅうんや。よろしゅう頼むわ」
とりあえず自己紹介も終わったようなので、話の続きでもすることにした。
まだお互い会ったばかりで何を話せばいいか分からないというものもあるのだが、
鈴子はネタが思いついたかのように口元をニヤニヤとあげながら灯夢のことを覗いた。
「な、なんや?」
「ねぇ、さっきの男の子って――」

この後、鈴子がどんな質問をしたのかはご想像にお任せする。
ただその後
「んなワケあるかぁー!! このたわけぇー!!」
灯夢の全否定の怒声が教室中にこだました。

その言葉が合図になったかのように
窓の外の木に止まっていたポッポ達が一斉に空へと飛び出していく。
その慌ただしい羽音は、まるでこれからの治斗たちの高校生活を表しているかのようであった。


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