マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  [No.918] 怪しいパッチ:2 投稿者:リング   投稿日:2012/03/20(Tue) 23:19:21   58clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「やあ、ジョーイさん。見ろ、すごい物を拾ったぞ」
 ここに来るのも久しぶりだ。フィラリアのワクチンやらダニ防止用の首輪やらで年に数回は来ているが、やはりスタリはこの匂いが嫌いなのか九本の尻尾がすべて縮こまっている。トレーナーのポケモンにとっては、注射や検診を行う施設としてよりも、軽傷を治療装置によって回復したり宿泊施設だったりという印象が高いのであろうから、むしろポケモンは怪我を治そうと入りたがるのだと言う。
 スタリもそういうふうになってくれれば楽なのだがな。そう上手くは行かないか。だが、尻尾が丸まっているのはロコンの頃の尻尾の形を思い出して若干かわいらしくて味がある。たまにはこういうのもよいかもしれない。
 私は、この整然とした雰囲気や、生き物が行き交う場所でありながら、生き物の匂いよりも薬品の匂いに埋め尽くされた矛盾にエクスタシーを感じるのだが、ポケモンにはやはり注射を打たれる恐怖というのが染み付いているものなのだな。
 さて、受付のジョーイさんは患畜を見て面食らったぞ。全く、こんなものメノクラゲかメロンパンと同じようなものだと思って軽く受け流せばよいものを。

「ちょ、このポケモン……」
「野性だぞ。私とて、この子を捕まえるほど畏れ多くはない」
 無粋な質問攻めは、あらかじめ今のように突き放すことで障壁を張っておこう。なぁに、私はただこのポケモンをダシにヒッチハイクの理由を見つけたかっただけなのだから聞いても何も出てくるわけがない。

「院長、大変です」
 おや、ジョーイさんは慌てて駆けて行ってしまったよ。
 さて、私はどうするか……何かをジョーイさんに聞かれようとも答えることなど何もないのだから何処かへ行ったって構わんだろう。『待っていて下さい』とでもあらかじめ言われていれば別だがな。
 お、そういえば……ここのポケモンセンターはただの超獣病院ではなく、旅するトレーナ用の宿泊施設もあるはずだ。ならば、食事を出す施設も内部にあって然りと言うものだろう。ふむ、ビタミンを取るあてが出来たぞぉ。いや、どうせ昨日からロクに寝ていないのだ。今日はここに止まると言うのも悪くない。
 これで、荒れた肌もビタミンCと睡眠で元通りになるとよいのだが……ふむ、四十路を過ぎたこの年ではたかが1日ではお肌の回復など到底無理であろう。せめてもの抵抗として食後にビタミンCの豊富なお菓子でも食べて、それをを補給しておこう。
 さて、さすがに食堂で血のにおいを振りまいていたら料理が台無しになって顰蹙ひんしゅくを買いそうだ。その前にトイレで手を洗っておくべきかな。

「さて、行こうかスタリ。血の匂いを洗い流さねばならんのでな……」
 しかし、スタリの奴はあのポケモンの血を美味しそうに舐めていたな。いつ喰ってしまうのかと冷や冷やしてしまったぞ。こんなシンオウの最北端に位置するこの地域で冷や冷やさせるのは凍死してしまいそうだから、願わくば自重して欲しいものだ。
 まぁ、そこは賢いスタリの事、傷口を舐めることであの子の傷口を綺麗にしてあげたのだと考えてあげることにしてやろう。
 それに人間の唾液にはモルヒネの数倍の力を持つ鎮痛作用のある物質が含まれているとも言うしな。キュウコンの唾液にもそれが含まれているのならば、なんともロマンがあるではないか。

 さて、血の匂いは粗方とれたかな? しかし、コートが汚れてしまったな……これは後で干しておかねばなるまい。
 兎に角、胃袋は悲鳴をあげている……腹の底から鳴り響く断末魔のような『グゥゥゥ〜〜ッ』という音は、私の胃袋が出したというのには信じられない音だ。
 そろそろ実に29時間の断食。ふむ、もう21時を過ぎたか……食堂が閉まっていたら売店にでも行って何かを食おうかな。食堂は……現在位置がここだから、ふむ……あちらか。

「あの、すみません……この子を拾ったのは何処ですか?」
 おっと、行こうと思ったらジョーイさんか。何だ、何のようなのだか?
 私はここに飯を食べに来たのだ。邪魔をするなと言いたいところだが……歩きながら相手をしてやろう。
「道端だ。まっすぐな車道を歩いていたら偶然森へと続く血の跡を見つけたのでな。ほら、何と言ったかな……あの道路。すまない、私は生活感がない物でね、道路の名前などいちいち覚えてはいられないのだよ。
 しかし、だ……以前この街へ来た時は夕日を背に帰っていた。と、言う事はこの街から東へ延びる道路で、且つ道路の脇は森林。それでいて……外はまだ雪など降っていない、つまり血の跡が残っている。
 そこから推理したまえ。それに、私があの子を見つけた場所など怪我の具合とは無関係だと思うがな。なんにせよ、そんなものはあの子本人から聞けばよいだろう。密猟者には気をつけろ」
「いや、あの……ちょっと待ってもらえますか」
 ふむ、歩きながらメモを取るのは苦手かな? だが、今言った内容など有って無いようなものなのだから、別にメモするほどの事でもない。
 おや、なんだかダジャレのようになってしまったではないか。

「ふむ、そのセリフはそのまま君達に返そう。私は今猛烈に空腹なのだ。事情聴取ならばあとからでも出来るだろう?
 そもそも、その子の事は……現代では実行するに少々気が引けるヒッチハイクのダシに使うために拾っただけなのでな……利害が一致していたのだよ。だがしかし、この街にヒッチハイクで来てしまった以上、もう用済みなのだ。あのポケモンに付き合ってやる義理など無い。
 まぁ、義理は持ち合わせていないが、人並み以下ではあるが人情は持ち合わせている。事情聴取をすればあのポケモンの回復力や生存率が高まると言うのならば、考えてやらんでもないがな、そんな都合のよい事は起こらぬのだろう?」

「え、いや……はい。そうですね」
 認めたか。そこで認めないで『いえ、数倍生存率が高まりますので付き合ってください』とか言うような奴だったら面白いというのに、普通すぎてつまらない奴だな。
「とにかく、事情聴取をしたいなら食堂まで付き合え。食事が私の前に届くまでは付き合ってやろう。だが、食事が届いたらそちらに専念させてもらうぞ」
 私は息を吸って、断言する。
「なぜなら、私の腹は悲鳴をあげているのだからな」


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