マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  [No.930] 怪しいパッチ:8 投稿者:リング   投稿日:2012/03/26(Mon) 22:33:01   51clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

-8-

「クオゥ♪」
 珍しい、スタリがご機嫌そうに鳴き声を上げたぞ。
 ふむ、それにしてもこれは良い奴隷を手に入れたぞぉ。スタリのやつはこの家にいる時、いつも埃がつかないように尻尾を立てていたが、今は床に尻尾を置いているではないか。キュウコンの尻尾は恐ろしく長い上に太いからあれで支えるのは結構疲れるのだろうな。食事の時くらいは尻尾を寝かせたいのだろう。
 しかし、今までは床が汚れているから嫌だっようで尻尾を立てていたと……ふむ、思えばスタリは作業室と自分の部屋以外で尻尾を寝かせていたためしがなかったような気がするな。思えば酷な事をしていたなぁ。とは言え、その長い尻尾をモップ代わりに掃除してくれればいいのに、スタリの奴もケチンボだ。

 それに、スタリは何を食べても美味しそうにしているが、今のように嬉しそうな声を出す事は外食した時に限るからな。意外に美味しいラマッコロクルの料理には、私も舌鼓を打ちたい気分だ。
「よぅ、ラマッコロクルよ。いつの間にかもうすぐ夜と言う時間帯になってしまったが、遅くまでご苦労。これからもよろしく頼むが……そのためにはまずせねばならぬことがあるな」
 ほら、ラマッコロクルよ。何故そこで嫌そうな顔をする? 私はこういうことを言うたびに無理難題や理不尽な要求を突きつけるほど外道では無いぞ。確か、酒は床下収納にある。杯さかずきは……食パン用の平丸皿で代用するか。
 ふむ、まだ疑い深い目で君は私を見ているな? 今日の私の印象はさしずめ最低ランクと言ったところか。まぁ、私は確かに優しい性質たちでは無いのだから仕方がない。
「さて、あまり上等な酒では無いが……カムイノミ*7でもしようではないか。さぁ、ラマッコロクルよ。存分に飲むといい。トウモロコシで作った結構強い酒だが、少量ゆえに水割りは無しだ」
 それまで、私のすることを黙って見守っていたようだが、ラマッコロクルはようやく以って私のしようとした事を理解したらしい。

「あ、はい……有り難く……いただきます」
「はは、なぜ謙譲語を使う? 私は昔、6年の仕事で会社に300億……一人当たり60億の利益を上げたが、お前は1年間に1人でどれだけの経済効果を生み出しているのだ? 街の活性化に役立っているお前と比べれば、私が生み出す金など微々たるものだよ。
 金だけで人の価値は測れんが、私の価値なんて金を産むくらいしかないものでな。お前が謙譲語を使ってしまうと、私は自分の事を蛆虫かゴミムシと呼ばねばならない事になってしまうではないか。それは勘弁して欲しい」
 なんだ、ラマッコロクルは照れてしまったぞ。はにかんだ顔も少し可愛いな。湖の近くの売店などで縫いぐるみが売れる理由や、三クラゲ愛好家がいるのも分かる気がするぞぉ。

「味は、悪くないです……ありがとうございます」
 ふむ、結局丁寧語や謙譲語をやめようという気にはならぬのだな? まぁ、私も元から自分の事を蛆虫と自称するつもりはなかったがな。
「クゥ!」
 おや、これは珍しい。スタリがお座りの姿勢をして私の体に頬擦りをしてくるとはな。私が寝酒を飲むときには全く酒に興味を示さないくせに、どういった風の吹き回しなのか。
「なんだ、スタリ。お前も飲みたいのか? だが、杯に注いだものを飲めるのは神カムイだけなのでな。まだ11年しか生きていないお前には89年ほど早いぞ。この杯代わりの平丸皿で飲むのはあと90年ほど生きてからだな。そういうわけで、お前には違う皿で飲ませてやろう」
「クゥ!」
 そういって食器を床に置いたら……ふむ、ペロリと私の腕を舐めるとは、貴様もしやご機嫌だな? ご丁寧に尻尾も9本全部振られている。全く、このキュウコンは酒の味が分かるのであろうか?
 いや、明らかに嫌な臭いを嗅いだ時にするフレーメン反応をしているな。なんだ、やっぱり酒はダメなのではないか。しかし、それならば何故スタリはこの酒を飲んだのか……ふむ、脳内で論じるまでもないな。ラマッコロクルの影響なのは間違いなかろう。

「クオゥ!」
「あ、はい……構いませんよ」
 ほう、これは面白い。スタリは私のみならずラマッコロクルの頬も舐めたではないか。あれは、スタリが気を許した相手にしかしない行動か……ふむ、私はまともにスタリに構ってやれなかったからな。さしずめラマッコロクルという仲間が出来て嬉しいと言ったところか。
 キュウコンは群れを形成しないポケモンだと思っていたが、意外なこともあるものよ。なんにせよ、仲が良いのは結構なことだ。しかし、ラマッコロクルは律儀にも私の分かる言葉で喋るだけに、スタリがなんと言ったのか気になるところだな。

「さて、食事は終わったが……ラマッコロクルには勿論皿洗いを頼もうぞ。私はまた作業室にこもるから、何か用があったらいつでも尋ねに来い。スタリは、暖房のほうはもういいから洗濯物を乾かしておいてくれ。
 洗濯物を乾かし終わったら、後で肉の缶詰を宛がおう」
 ふむ、しかし……いくら恩返しに来たからといって、これではあまりにスタリとラマッコロクルとの待遇に差がありすぎるか。よし、注文の品を買うのは面倒だが先行投資と思って聞いて置こう。
「さて、ラマッコロクルよ。お前は何かスーパーで買える食べ物で好物はあるか? これからも私に仕えてくれると言うのならば、お前にも何かを宛がってやらねばならないからな」
 おや、目を見開いたり出来ない代わりに口をあんぐり開けて驚いたぞぉ。だから、『私は優しくないし人並み以下ではあるがきちんと人情のようなものは持ち合わせている』と何度言ったらわかると言うのか。
 人並み以下でも人情を持ち合わせてさえ入れば、この程度の質問をしたところで違和感はなかろうというのに。全く、知識しか持ち合わせていないというのは悲しいことだな。

「え、えっと……それでは、私は……ホイコーローなどが好きですが……」
「何故そんな微妙なものを私に頼む? そこは普通、チョコレートや金平糖辺りが妥当であろうに」
「すみません。なら、ドゥルセ・デ・レチェ……というか、ミルクジャムで……甘くて大好物なんです」
 なんだ、謝る所では無いというのに。変わったやつだな。そして、ドゥルセ・デ・レチェミルクジャムか……そんなものこの近くに売っていただろうか?
「まぁ、いいか……インスタントのホイコーローを大量に買い付けて、床下収納に保管して置いてやろうぞ。よろしくな、新しい家族よ」
 私が差し出した手を、ラマッコロクルは中々とろうとしなかった。ふむ、照れ屋と言うか警戒心が強いと言うか、なんというか。なんにせよじれったいやつであることには変わりがないな。

「どうした、手の平に画びょうはついていないぞ? 安心して握ると良い」
 やっと緊張がほぐれたのか、おずおずとラマッコロクルは私の手に二本の尻尾を絡めた。ほう、行き倒れて冷たくなったとき以来触っていなかったが、これは中々暖かいではないか。
 ふむ、きちんとベッドで眠る時は、ラマッコロクルの腹を枕にするのも悪く無さそうだ。


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